Volume 26, No.3 Pages 261 - 264
2. ビームライン/BEAMLINES
回折・散乱に関わる共用ビームラインの再編に向けて
The Current Status of the Reorganization of the Public Beamlines Related to Diffraction and Scattering
[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN SPring-8 Center
- Abstract
- 2022年度からの供用が予定されている回折・散乱を中心とした共用ビームラインの再編の現状を報告する。基盤的な分析を行うProduction装置群について、最新技術による計測の高性能化に加え、試料準備から解析に至る自動化や遠隔利用に取り組んでいる。既存および将来の潜在的な利用者の研究や開発のアクティビティの向上や産業利用・学術利用の融合を進めた産学連携の促進も目指している。また、ex-situ構造解析の重要性を認識した上で、材料・製品開発というアウトプットにつながる、オペランド構造解析のニーズへの対応を進めている。新規整備、またはBLの移設を伴う大幅な高性能化を実施する装置について概要を紹介する。
1. はじめに
2018年度に行われた文部科学省によるSPring-8/SACLAの中間評価を受け、高輝度光科学研究センター(JASRI)・理化学研究所(理研)では、ビームライン(BL)の再編計画を立案し、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)からのフィードバックを頂きながら実施にあたっている[1][1] SPring-8/SACLA利用者情報 25 (2020) 259-261.。共用BLの大規模再編の第1弾として、2020年度から2021年度にかけて、HAXPES装置の集約と高性能化(BL09XU)、核共鳴散乱利用基盤の高性能化と非弾性X線散乱との連携強化(BL35XU)、高エネルギーX線イメージング計測基盤の拡充(BL20B2)を行った。これらはほぼ計画通りに実施され、2021B期からの利用再開に向けて順調に立ち上げが進んでいる。
本稿では、2022年度からの利用が予定されている、回折・散乱を中心とした共用BLの再編計画(ここでは第2弾と呼ぶ)について、狙いや最近の取り組みなどについて報告する。本計画は、所内ワーキンググループによって取り纏めが行われた。この骨子は、2021年3月6日のSPRUC第3回BLsアップグレード検討ワークショップにおいてSPRUCに提示され[2][2] SPring-8/SACLA利用者情報 26 (2021) 152-158.、複数のSPRUC研究会からフィードバックを頂いた。これらも踏まえながら、最終仕様をほぼ決定し、実際の整備に着手するところである。
2. 再編の狙い
これまで、共用BLにおける装置の新設や更新は、個々の外部資金と連動するかたちが一般的であった。従って、その時々の利用のトレンドは個別には反映されるものの、全体としてみた時の最適なポートフォリオの検討は必ずしも十分ではなかった。また、産業利用については、2000年代より、産業利用に特化した3本の共用BLを設置してその振興にあたり、大きな発展をみた。一方で、最近では産業と学術の利用の融合が進んでおり、独立した産業BLを維持するデメリット(例:リソースの細分化)も目立つようになってきた。
これらの分析は、回折・散乱関連のBLについてもそのまま当てはまり、今回の再編計画の検討の際にも十分に考慮しながら、基本的な方針が立案された。第1に、基盤的な分析を行うとともに、幅広い成果を目指し、各手法を高精度・ハイスループット化を目指すProduction装置群について、俯瞰的なポートフォリオを作成しながら、個々の装置の高性能化を行うこととした。既存の利用者のみならず将来の潜在的な利用者のベネフィットも考慮している。技術的には、最新技術を投入した計測の高性能化を図るとともに、自動化(ビーム照射時のみならず、試料の準備から計測、解析に至る一連の流れを対象)、遠隔利用にも十分に対応する。第2に、産業利用・学術利用の融合を進め、産学連携を促進する。このために、従来の産業利用BLの境界条件を一旦取り払って、大きなリソースの中で検討を行った。
また、今回の再編では、材料・製品開発というアウトプットにつながることを重視した。材料・製品開発は、材料の探索、要素・素子の試作、製品試作、製品化という一連のサイクルで実施されるが、各フェーズにおいて放射光を利用した分析・解析の役割はますます重要になってきている。これまで広く使われているex-situ構造解析により、基本的な結晶構造や機能・物性がそれぞれ調べられてきた。現在、これらに加えて、オペランド構造解析や材料製造過程での構造解析のニーズが非常に高まっている。これらへの対応を進める。
3. 高性能化
図1に、再編後の装置群の見取り図を示す。参考のために、現行の再編前の装置との対応も示した。これらの装置群を利用して、物質・材料の新規開発の基盤となる、バルク・薄膜・粉末の結晶構造や局所原子配列をex-situだけでなくオペランド計測を駆使して解明し、高機能材料の開発に貢献する。特に、新規製作またはBLの移転を伴う大幅な高性能化を実施する装置として、i)高分解能粉末・PDF構造解析装置(仮称)、ii)自動単結晶構造解析装置(仮称)、iii)回折計測汎用フレーム(仮称)、iv)6軸回折計があり、それぞれの概要を以下に記載する。
図1 再編前後の装置の対応図。実線:新規整備またはBLの移設を伴う大規模な高性能化。破線:装置の移設を伴わない高性能化。
3.1 高分解能粉末・PDF構造解析装置(仮称)
従来より、粉末X線回折には専ら偏向磁石光源が利用されてきた(代表例:BL02B2)。本装置は、アンジュレータBLに新たに装置を設置し、高輝度X線の特徴を活かしたサブミリ秒オーダーの構造変化を捉える。従来観察できなかった合成過程や、材料の動作時での計測を可能とする。さらに、局所的な乱れを含む粉末結晶性材料を対象とした局所原子配列構造の評価・解析も行う。高Q領域(45 Å-1)に至るまで高い角度分解能で計測するため、約70 keVまでの高エネルギーX線の利用を想定し、CdTeの2次元検出器を選択した。BL02B2で利用している検出器と比べると、量子効率が30 keVで約4倍、70 keVで約15倍になる。さらに、利用者の測定要望に応じて短いカメラ長への自動変更や、検出器の非対称配置などにも柔軟に対応できるような装置構成をとる。また、十分広い試料周辺空間を確保する。試料環境の例として、低温/高温ガス吹付装置を利用することにより90−1100 Kまでの温度制御、クライオスタット(> 5 K)、電気炉(< 1800 K)など温度制御装置があり、試料交換はもとより、すべての機器の退避、交換は自動で行える機構を採用する。本装置は、BL13XUの実験ハッチEH3に設置予定であり、2022B期からの利用開始を計画している。
3.2 自動単結晶構造解析装置(仮称)
材料開発の初期段階の分子構造決定や、最終段階のデバイス製品内部の微細構造を解明するため、自動単結晶構造解析装置を整備する。特に、ガス雰囲気・温度制御装置を整備することにより、in-situ測定を可能にし、生産プロセスの向上に貢献する。技術的には、マイクロメータサイズの試料の精密自動構造解析、試料自動交換システム、CITIUS検出器を活用した高ダイナミックレンジ・高フレームレート測定という特徴を持つ。また、主軸が鉛直軸と平行なデザインを採用し、回転に伴う試料位置の偏心をキャンセルさせる方法を開発中である。将来的には、ナノ集光X線も利用できるようにする。アンジュレータビームラインBL15XU(2021年10月から理研BLに転換)に装置を設置し、2023年度からの供用を目指している。
3.3 回折計測汎用フレーム(仮称)
オペランド計測や製造プロセスを模擬した環境などの試料環境を搭載して計測できるフレームを提供する。従来の4軸、あるいは6軸といった多軸回折計を採用する場合、試料空間の制限や回転中心の一致精度の向上が難しい。そこで、試料ゴニオメータとしてはヘキサポッドを利用し、X線検出器はロボットアームに搭載することで、このような課題を克服することを検討している。BL13XU EH2への導入を予定している。
なお、現在のところ、BL13XU EH2は、利用者が計測装置一式を持ち込んで使う、所謂オープンハッチ的な使い方が専ら行われているが、今回の再編に伴い、他のBLに別途オープンハッチを整備するよう準備を進めている。
3.4 6軸回折計
産業利用ビームラインBL46XUに設置されている多軸X線回折装置について、2021B期終了後にBL13XU EH1に移設予定である。従来の一般的なX線回折・散乱測定のみならず、微小角入射X線回折や反射率測定による薄膜・表面・界面の構造評価、X線回折による残留歪み測定が可能となる。試料周辺機器の高性能化も実施する。2022A期の6月頃から装置利用の再開を予定している。
なお、BL46XUは、BL09XUに続く第2のHAXPES専用BLとして、現在高性能化の検討を進めている。
4. おわりに
今回は、回折・散乱に関連した新規の装置や、BLの移転を伴う装置を中心に紹介したが、既存のBLで継続して利用される装置についても着実な高性能化を実施している。また、小角散乱、高圧関連、先端イメージング、高エネルギー利用、3DXRDなどについても今後検討を行う。
最後に、本計画を契機に、産業ユーザーと学術ユーザーによる、同一のBL・装置の利用が開始される。これに関連して、利用制度の見直しも実施している。これについては、機会を改めて報告を行う。
参考文献
[1] SPring-8/SACLA利用者情報 25 (2020) 259-261.
[2] SPring-8/SACLA利用者情報 26 (2021) 152-158.
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