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Volume 25, No.4 Pages 278 - 283

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

(SPRUC 2020 Young Scientist Award受賞 研究報告)
The Development and Use of Unique X-ray Optics for Free Electron Lasers

大坂 泰斗 OSAKA Taito

(国)理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center

Abstract
 超高ピーク輝度、ほぼ完全な空間コヒーレンス、約10 fsの超短パルス幅という、これまでのX線光源にはない特性をもつX線自由電子レーザー(XFEL)の登場により、X線計測技術は飛躍的な進歩を遂げている。本研究では、新たなXFEL計測技術の開拓を目的とし、X線ビームスプリッタやダメージフリーなチャネルカット結晶、ギャップ幅が約100 μmのマイクロチャネルカット結晶といった新奇結晶光学素子を開発し、分割遅延光学系によるピコ秒間隔のダブルパルスXFELや反射型セルフシード法による高強度狭帯域XFELの発生を実現した。両技術を複合的に活用することで、高強度なダブルパルスXFELが発生でき、原子スケールの自発的な揺らぎの緩和時間や、XFEL照射によって生じる電子状態や結晶構造等の変化を、数フェムト秒から最大数百ピコ秒に渡って計測できると期待される。
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SACLA

 

1. 序論
 1895年のRöntgenによるX線の発見[1][1] W. C. Röntgen: Nature 53 (1896) 274-276.以降、物質に対する高い透過性やÅオーダーの到達可能空間分解能、元素選択性といった稀有な特性をもつX線計測技術は、学術、産業界を問わずあらゆる科学分野において不可欠なツールとなっている。X線計測技術の発展には、光源性能の向上もさることながら、光学素子の高度化も欠かせない要素である。数ある光学素子の中でも、高い3次元秩序を有する“結晶”を利用した素子は、X線の単色度や発散角、ビームサイズの制御等が可能であり、X線に対して最も利用されている光学素子の1つである。結晶素子はÅオーダーの間隔となる格子面を基準とするBragg反射を利用しており、数十度オーダーでX線の軌道変化が可能だという他の素子にはない特徴も有する。現在では、劇的な半導体製造技術の進歩に伴い、極めて完全性の高い単結晶インゴットが容易に入手でき、高精度の加工が可能なシリコン結晶素子が世界中のX線計測装置や放射光施設で利用されている。
 2009年に米国のスタンフォード国立加速器研究所において世界で初めて発振の確認されたX線自由電子レーザー(X-ray Free-Electron Laser, XFEL)[2,3][2] P. Emma et al.: Nat. Photon. 4 (2010) 641-647.
[3] T. Ishikawa et al.: Nat. Photon. 6 (2012) 540-544.
の登場により、X線計測技術に数々のブレークスルーがもたらされた。例えば、室温におけるタンパク質の無損傷構造解析[4][4] M. Suga et al.: Nature 517 (2015) 99-103.や、光学レーザー照射等の外場印加を発端とするダイナミクスのフェムト秒分解計測[5][5] K. H. Kim et al.: Nature 518 (2015) 385-389.、非線形光学効果を利用した高感度化学状態計測[6][6] K. Tamasaku et al.: Phys. Rev. Lett. 121 (2018) 083901.等が挙げられる。しかしながら、XFELを利用することで計測が可能になると期待されているものの、物質内で生じている原子スケールの“自発的な揺らぎ”の計測は未だ実現していない。また、自己増幅自然放射(Self-Amplified Spontaneous Emission, SASE)というXFELの発振原理上、XFELのバンド幅は数十eV程度と広く、分光計測等に求められるエネルギー分解能を達成するためには、多くのX線光子を犠牲にして結晶分光器により単色化する必要がある。
 先駆的な結晶素子を開発、駆使することで、ダブルパルスXFELを利用した原子スケールの揺らぎ計測や、高強度かつ狭帯域なXFELを利用した高度な分光計測等、新たなXFEL計測技術を開拓することが本研究の目的である。本稿では、ダブルパルスXFEL発生のための分割遅延光学系(Split-and-Delay Optics, SDO)と、高強度かつ狭帯域なXFEL発生のための反射型セルフシード技術とに関して紹介する。

 

 

2. X線分割遅延光学系
 SDOは1つのXFELパルスをビームスプリッタにより2つのブランチに分割し、それぞれ異なる光路を通して再びビームマージャで結合させることで、到達時間差を有するダブルパルスXFELを発生させる光学系である。各ブランチの光路長差を可変とすることで、パルス間の時間差を精密に制御することができる。また、結晶素子を利用することでX線光路を大きく変えることができ、比較的小さなスペースでナノ秒に迫る大きな時間差を生成できる。従って、他手法では計測の困難なフェムト秒からピコ秒オーダーの揺らぎ計測を実現し得る光学系であり、世界中のXFEL施設で開発が進められている。
 X線領域で機能するSDOはRosekerらによって最初に提案、試験された[7][7] W. Roseker et al.: Nat. Commun. 9 (2018) 1704.。しかし、彼らの光学系では独立した8つもの結晶素子を利用しており、アライメント手順が煩雑で多大な調整時間を要する、また光路長調整機構を簡略化するために90°反射のみで構成されており、利用可能なX線波長が制限される等の問題があり、実用化には至らなかった。
 本研究で開発したSDOは、2010年に理化学研究所の矢橋氏によって提案された光学配置(図1)に基づいている。本光学系のポイントは、一方を光路長可変、他方を光路長固定とした完全に独立した2つのブランチに分割させている点にある(Rosekerらの光学系では、1つのステージ動作で両方の光路長が変わる構成となっていた)。更に光路長固定ブランチをチャネルカット結晶素子により構築している。チャネルカット結晶とは結晶ブロックに溝を切り、その内面でX線を複数回反射させる素子である。1つの結晶ブロックから切り出されているため、各反射の基準面である格子面の平行性が担保されており、ナノラジアンレベルの出射角度安定性が達成される。これにより安定性の劇的な向上とアライメント手順の簡略化、それによるX線波長(反射角)の自由度を達成した。この光学配置は他国のSDOにも踏襲されている[8,9][8] D. Zhu et al.: Proc. SPIE 10237 (2017) 102370R.
[9] W. Lu et al.: Rev. Sci. Instrum. 89 (2018) 063121.

 

図1 開発した分割遅延光学系の光学配置(文献16のFig.1を修正して掲載)。

 

 

 本光学系実現の鍵となる素子は、X線ビームスプリッタとチャネルカット結晶であり、それぞれXFELの整った波面を乱してはならないという厳しい要求が課せられる。SDO開発当初、前者として薄結晶を利用した振幅分割素子の開発が盛んに行われていた(後述するように、現在では波面分割素子が主流となっている)。しかし、数μmという厚さの結晶を歪みなく製作することは極めて困難であり、SDO開発において最大の障壁となっていた。後者は古くから利用されている素子ではあるものの、結晶内面の高精度研磨が難しく、残存した研磨痕や溶液エッチングによって荒れた表面によりX線波面が著しく乱されるという問題があった。
 本研究では、筆者が所属していた大阪大学山内研究室で独自開発された、Plasma Chemical Vaporization Machining(PCVM)[10][10] Y. Mori, K. Yamauchi, K. Yamamura and Y. Sano: Rev. Sci. Instrum. 71 (2000) 4627.という加工技術を利用して、各結晶素子の開発を試みた。本手法は大気圧雰囲気化で発生させたプラズマを利用したエッチング手法であり、(1)中性ラジカルと被加工物表面原子との結合、気化によって材料除去が進行するためダメージフリーである、(2)大気圧であるためラジカル密度が高く、低圧プラズマ手法と比べ高い加工能率が得られる、また、(3)プラズマ発生領域が局在化でき、高い空間分解能が得られる、そして、(4)反応性の高いフッ素ラジカルを利用することで結晶面に関わらず等方的な加工が可能である等の特徴を有する。更に理由は定かではないが、(5)シリコンに対して高精度研磨面並の表面粗さを達成できる(64 × 48 μm2の観察視野内で0.13 nm RMSの表面粗さを達成している)[11][11] T. Osaka et al.: Key Eng. Mater. 523-524 (2012) 40-45.。これらの特徴は結晶素子作製において最適であり、本研究を遂行する上で重要な加工技術である。
 筆者らはPCVMを利用することで、ビームスプリッタとして機能する極薄シリコン結晶素子の開発を行った。X線の侵入深さ以下の結晶を利用することで、単色なX線を反射光と透過光とに振幅分割することが可能である。ただし素子全面を薄くすると容易に歪むため、厚いフレーム領域の中心部のみ薄くした窓型構造を採用し、PCVMによりダメージレスかつ均一に薄化を行った。そして中心部の厚みを約6 μmとしたシリコン結晶を作製し、Si(440)や(511)反射を利用することで分割比1:1の振幅分割を達成した[12][12] T. Osaka et al.: Opt. Express 21 (2013) 2823-2831.。本素子は国際共同研究を行っていたRosekerらに提供しており、世界初のXFELにおけるSDO利用実験[7][7] W. Roseker et al.: Nat. Commun. 9 (2018) 1704.に貢献した。SACLAにおいて開発したSDOではXFELの利用効率を優先し、反射バンド幅の広いSi(220)反射を利用している。この場合、1:1の振幅分割を達成するためには約2 μm厚の結晶が必要となる。残念ながらこの厚みの達成には至っておらず、代替策として約10 μm厚の結晶を利用した、Bragg反射光とBragg条件を満たさない透過光とへのビーム分割法を採用した。
 次に、チャネルカット結晶の高品質化を試みた。結晶内面に対してPCVM加工を施すことで、前加工段階で生じた内面のダメージが全て除去され、波面の乱れのないX線反射光を得ることに成功した[13][13] T. Hirano et al.: Rev. Sci. Instrum. 87 (2016) 063118.。本技術はSACLAで利用されている他のチャネルカット結晶にも適用されており、SACLAにおけるポンプ・プローブ計測の高度化に貢献している[14][14] T. Katayama et al.: J. Synchrotron Rad. 26 (2019) 333-338.
 開発した結晶素子を利用することでSDOを構築し、SPring-8 BL29XUにおいて試験を行った。各素子のアライメント手順を最適化することで、100 nmにまで集光したダブルビームを空間的に重複させることに成功した[15][15] T. Osaka et al.: Opt. Express 24 (2016) 9187-9201.。引き続きSACLAにおいても試験を行ったが、僅かに残存した薄結晶ビームスプリッタの歪みによりXFEL波面の曲率半径が変わり、光軸方向の集光位置が分割パルス間で一致しない、またX線照射による不純物の堆積により、ビームスプリッタの格子面が経時的に歪む等の問題に直面した[16][16] 大坂泰斗:放射光 30 (2017) 145-151.。そこで新たに波面分割結晶素子への転換を試みた。本素子は高精度に加工されたエッジを有しており、エッジ部をXFEL光軸上に挿入することで、結晶に照射された反射光と結晶に当たらない透過光とに分割する(図2a)。厚い結晶を利用できることから格子面歪みによる波面の乱れが抑えられ、集光点を一致させることに成功した[17][17] T. Hirano et al.: J. Synchrotron Rad. 25 (2018) 20-25.。また空間的に分割しているため同じ色のダブルパルスXFELを生成できる。この性質によって各ブランチのXFEL同士を振幅干渉させることが可能となり、ダブルパルス間の時間差を変えながら干渉縞の明暗度を計測することで、XFELのコヒーレンス時間の直接計測に成功した(図2b)[18][18] T. Osaka et al.: IUCrJ 4 (2017) 728-733.。これは初めてSDOによる時間差依存性を評価したものであり、SDOの実現可能性を世界に先駆けて示した成果である。また、干渉縞の明暗度は時間差ゼロで最大となり、コヒーレンス時間である数fsの間だけ干渉縞を形成する。従って、パルス間の時間差を数fsという極めて高い精度で決定でき、SDOの実用化に向けた重要なマイルストーンとなった。現在では、より安定性の高い光学配置、光路長調整機構を有したSDOをSACLA BL3の光学ハッチに常設し、ユーザー実験に利用されている。

 

図2 (a) 波面分割結晶素子の概略図。紫、赤、青はそれぞれ入射光、反射光、透過光の形状を示している(文献19のFig.1を修正して掲載)。(b) 干渉縞明暗度の分割パルス間時間差依存性。黒点線が平均スペクトルからの予想曲線、赤線がショット毎のスペクトルを考慮した際の予想曲線を示している。(c) 時間差ゼロと、(d) 時間差 >> コヒーレンス時間での干渉パターン。スケールバーは100 μm(文献19のFig.3を修正して掲載)。

 

 

3. 反射型セルフシード
 一般的に利用されているXFELの発振原理であるSASEでは、長いアンジュレータ中を電子ビームが蛇行しながら通過する際、電子ビームとそこから発生したX線との間でエネルギーの授受を繰り返し、最終的に電子ビーム内にX線の波長周期の密度の粗密が生じる(マイクロバンチ化)。これにより各電子から発生したX線が強め合い、レーザー増幅が達成される。SASE型XFELの種光はアンジュレータ区間の序盤で発生した放射光であり、電子ビームの統計的な乱雑さを反映してバンド幅が広く、多モードのスペクトル構造をもつ。すなわち増幅後のXFELのバンド幅も広く、多モード発振となる。従って、種光に単色なX線を利用できれば、増幅後のXFELも単色になることは容易に想像できる。
 極端紫外や軟X線領域(波長数nm~数十nm)のFELでは、高次高調波レーザー等の外部光源をアンジュレータに導入することで、単色なXFELの発生に成功している。しかし、本研究でターゲットとしている硬X線領域(波長Åオーダー)では、適切な外部光源が存在しない。そこで提案された手法が、アンジュレータを2セクションに分割し、セクション間に分光器を設置することで、単色化したX線を種光として後段のアンジュレータセクション中でXFEL増幅させる“セルフシード”法[19][19] J. Feldhaus, E. L. Saldin, J. R. Schneider, E. A. Schneidmiller and M. V. Yurkov: Opt. Commun. 140 (1997) 341-352.である。本技術を実現するための最大の障壁は、いかにして単色化したX線と電子ビームとを時空間的に重複させるか、というものである。分光器でX線を単色化する際、X線を必ず迂回させる必要がある。一般的な二結晶分光器では、迂回による遅延時間は数psオーダーとなる。一方で、8 GeVクラスの電子ビームを迂回させることは容易ではなく、SACLAの有する高出力電磁石シケインでも最大で約300 fsにとどまる。
 この課題を解決したのが、Geloniらによって提案された“wake場”を利用した分光器である[20][20] G. Geloni, V. Kocharyan and E. Saldin: DESY (2011) 11-162.。利用する素子は約100 μm厚のダイヤモンド結晶である。この素子でSASE XFELを反射した際、ごく僅かなスペクトル領域のみ反射され、残りの大部分は透過する(色分割のビームスプリッタと同じ原理である)。この時、透過光の時間構造に数十fsの間隔で周期的なピークが現れる(wake場)。このwake場は前方Bragg反射[21][21] R. R. Lindberg and Yu. V. Shvyd’ko: Phys. Rev. ST Accel. Beams 15 (2012) 050706.と呼ばれる現象により生じており、単色性が高いことが予測されている。つまり、数十fsだけ遅れた単色なX線を生成でき、wake場のピークと電子ビームとを重ねることで、セルフシード増幅が達成されることがLCLSにおいて実証された[22][22] J. Amann et al.: Nat. Photon. 6 (2012) 693-698.。この“透過型”セルフシード技術はSACLAを除く世界中のXFEL施設で採用されている。
 SACLAにおいても透過型セルフシードを試みており、兆候は確認できたものの、有意なスペクトル強度の増大は達成できていない。その最大の理由として、wake場よりも3桁近く強いSASE透過光がセルフシード増幅を妨げていると考えた。SACLAの電子ビームには、強く圧縮されたメインピークと圧縮の弱いテールとの2成分があることが確認されている[23][23] I. Inoue et al.: Phys. Rev. Accel. Beams 21 (2018) 080704.。このテールからもメインピークから2~3桁弱い(がwake場よりも強い)X線が数十fs遅れて生じており、wake場がこのテール成分に埋もれ、種光として機能しなかった可能性がある。そこで筆者らは初心に立ち返り、Bragg反射に寄与しない成分を完全に除外できる、二結晶分光器による反射型セルフシードの実現を試みた。
 前述した通り、一般的な二結晶分光器では光学遅延が数psと大き過ぎ、電子ビームと単色化したX線とを重ね合わせることができない。また、独立した2つの結晶により構成すると、調整機構が複雑となり、調整の煩雑化や安定性という別の問題も生じてくる。そこで、ギャップ幅が約100 μmという小型のチャネルカット結晶(マイクロチャネルカット結晶、図3)分光器を設計、試作した。Si(111)反射を利用するマイクロチャネルカット結晶で生じる光学遅延は10 keVにおいて約120 fsと十分小さく、電子ビームと重ね合わせることが可能である。また、二結晶分光器により得られる単色X線強度は、一般的に利用されるwake場の第1、第2ピークよりも数倍以上強く、高効率な増幅が可能となる。しかし、入射側ブレードのエッジ近傍を利用するため、反射型分光器とは言え強い透過成分が残存する。この透過光を除去するために、ビームストップを入射側ブレード直下流に固定可能な専用の結晶ホルダを開発し、SACLAにおいて単色なX線のみ通ることを確認した[24][24] T. Osaka et al.: J. Synchrotron Rad. 26 (2019) 1496-1502.。そしてこの単色X線を種光として増幅させることで、バンド幅が10 keVにおいて約3 eVのXFELの発生に成功し、スペクトル強度をSASEと比較して約6倍にまで向上した(図4)[25][25] I. Inoue et al.: Nat. Photon. 13 (2019) 319-322.

 

図3 (a) マイクロチャネルカット結晶の寸法。(b) 専用ホルダに固定したマイクロチャネルカット結晶の写真。(c) X線照射領域の拡大写真。黄色実線は10 keVにおけるX線光路を示している。スケールバーは100 μm(文献25のFig.1を修正して掲載)。

 

図4 SASE(青)とセルフシードXFEL(赤)との平均スペクトルの比較(文献26のFig.2を修正して掲載)。

 

 

 現在では、大阪大学山内研究室との共同研究により、マイクロチャネルカット結晶に対してもPCVM加工を実現し、高品質化を達成している。これにより単色性の高い種光を生成可能な高次結晶面のマイクロチャネルカット結晶分光器も利用可能となり、Si(220)反射を利用して約0.6 eVというバンド幅のXFEL発生を達成している[26][26] S. Matsumura et al.: Opt. Express 28 (2020) 25706-25715.。このバンド幅はSDOの反射バンド幅とほぼ同等であり、SDOにより得られるダブルパルスXFELの強度を約10倍にまで高めることができている。

 

 

4. まとめと将来展望
 本研究では、大阪大学山内研究室の独自技術であるPCVMを応用することで、他手法では作製困難な新奇高品質結晶素子の開発を進め、SDOによるダブルパルスXFEL発生、反射型セルフシード法による高強度狭帯域XFEL発生を実現した。これらを複合的に利用することでSDOにより生成したダブルパルスXFELの強度を1桁近く向上させることができ、純水のO–Oボンドの自発的な揺らぎの緩和時間計測[27][27] Y. Shinohara et al.: Nat. Commun. (2020). Accepted.や、ジルコニウムのX線2光子吸収現象を利用した強度自己相関法によるXFELのパルス幅直接計測[28][28] T. Osaka et al.: (2020) in review.に成功している。また、マイクロチャネルカット結晶分光器は反射型セルフシードのみならず、高強度なSASE XFELと単色XFELとの2色ダブルパルスXFEL発生というユニークな運転モードも可能とする[29][29] I. Inoue, T. Osaka, T. Hara and M. Yabashi: J. Synchrotron Rad. 27 (2020) 1720-1724.。これによりX線領域の誘導放出分光計測等、新たな非線形分光計測法が可能となり、XFEL計測技術の発展に大きく寄与すると期待する。
 筆者は本稿で紹介したプロジェクト以外にも、次世代放射光施設での超高安定耐高熱負荷のチャネルカット結晶分光器の開発や、フルコヒーレントX線光源と期待される共振器型XFEL[30][30] K.-J. Kim, Yu. Shvyd'ko and S. Reiche: Phys. Rev. Lett. 100 (2008) 244802.の実現に不可欠なダイヤモンド結晶素子の開発にも取り組んでいる。このように、光学素子の役割は光源性能を最大限発揮することに加え、光源性能そのものを向上させることも担う時代となっており、その重要性を増している。より高度な光学素子の研究開発を継続的に続け、X線計測の更なる発展に貢献する所存である。

 

 

謝辞
 本稿で紹介した研究成果は、大阪大学の山内和人氏、佐野泰久氏、松山智至氏(現名古屋大学)、平野嵩氏(現日立製作所)、森岡祐貴氏(現トヨタ自動車)、松村正太郎氏、中野勝太氏、理化学研究所の矢橋牧名氏、玉作賢治氏、香村芳樹氏、井上伊知郎氏、山田純平氏、田中均氏、原徹氏、田中隆次氏、渡川和晃氏、稲垣隆宏氏、金城良太氏、後藤俊治氏、福井達氏、石川哲也氏、JASRIの登野健介氏、富樫格氏、犬伏雄一氏、大橋治彦氏、木村洋昭氏(現QST)、山鹿光裕氏、米国LCLSのJerome B. Hastings氏、Aymeric Robert氏、Yiping Feng氏、Diling Zhu氏、Takahiro Sato氏らを始めとする多くの研究者との共同研究や有益な議論に依っている。この場をお借りして感謝申し上げる。また、本研究は日本学術振興会の特別研究員奨励費(DC1)(科研番号:13J00898)、若手研究(科研番号:16H06358、18K18307、19K20604)、理化学研究所の基礎科学特別研究員奨励費の助成を受けた。実験はSPring-8(理研課題番号:20110029、20120028、20130033、20140013、20150075、20160021、20170003、20180061、20190074、20200067)ならびに、SACLA(2018A8040、2018B8023、2019A8048)において行われた。

 

 

 

参考文献
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大坂 泰斗 OSAKA Taito
(国)理化学研究所 放射光科学研究センター
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