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Volume 25, No.4 Pages 355 - 357

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

初のオンライン研修会を試みて
The First Attempt of Online Experimental Workshops

大坂 恵一 OSAKA Keiichi、梶原 堅太郎 KAJIWARA Kentaro、本間 徹生 HONMA Tetsuo

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

1. オンライン研修会を行った経緯
 JASRI産業利用推進室は、初めて放射光を利用するユーザー、あるいは新たな実験技術に挑戦したいユーザーを対象に、「測定実習研修会」(以下、研修会)を開催している。研修会は、講義と実習を通して、装置の特徴やその利用に際しての留意点を理解していただき、今後の実験計画の立案に資することを目的として催されている。例年、産業利用推進室がサポートする各種実験技術について概ね年2回程度実施されており、新規ユーザー開拓のための重要な催しである。一方でユーザーにとっても、現場スタッフとざっくばらんに議論を交わしながら、敷居が高いと思われがちな放射光実験に気軽に触れていただける機会だと考えている。しかしながら、2020年春先からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のために来所ユーザーの実験が停止され、研修会も通常通りの開催は困難となる恐れがあった。そこで急遽、オンライン会議システムを利用した研修会実施の可能性を模索した。
 2020A期には7月に4件の研修会が予定されていた。実施順に、小角X線散乱(7/9、BL19B2)、XAFS(7/16、BL14B2)、X線イメージング(7/16、BL28B2)および粉末回折(7/17、BL19B2)の4件である。SPring-8が立地する兵庫県は4/7に政府の緊急事態宣言が発せられ、4/11からSPring-8の来所ユーザー利用が停止となったが、研修会の予定自体は前年度にすでに検討されており、さしあたりは当初の予定通り実施する方向で調整された。ゴールデンウィーク明けに4件の研修会の実施要綱がウェブ公開されたものの、緊急事態宣言が全国に拡大されたことによって、放射線従事者登録の滞りも懸念された(特に研修会参加者には新規登録者が多い)。その後、5月中旬以降は徐々に宣言解除が進んだが、人的移動には大きな制約があった。そのような状況で、オンライン会議システムを利用した擬似対面式の研修会を事務局と検討しはじめたのは5月下旬であった。6/1には、Microsoftが提供するTeamsを利用して、ビームラインの装置制御端末と施設外で在宅勤務する職員のネット環境を接続して、画面共有機能やウェブカメラで実験をユーザーに体験してもらうための最初のテストを行った。Teamsを選択したのは、短期間で環境を導入しやすかったことと、参加者の所属先で導入が比較的進んでいる環境であることが理由となっている。その後、6月中旬以降は通常のユーザー実験が可能になったが、実質的には7月まで遠方からのユーザーの移動は難しかった状況を顧みれば、オンライン導入はギリギリのタイミングでの決断だったかもしれない。なお、実際の研修会は、来所可能なユーザーは現地参加、不可能なユーザーはオンライン参加、という「ハイブリッド形式」で実施した。

 

 

2. オンライン研修会の実施結果
 以下では、オンライン会議システムを導入した研修会について、時系列で紹介する。
 7月上旬には来所可能なユーザーも少しずつ増え、7/9実施の小角X線散乱研修会(BL19B2)は幸いにも全4グループが現地参加し、オンライン会議システムは利用しなかった。ただし、参加人数が9名と多く、「密」とされる条件になる可能性もあった。そのため、午前中に行う講義と、実習時や待機時の席の配置に気を遣うことになり、想定したのとは別の意味で準備することが増えた。また、平常時であれば行うはずのビームライン全体の現地説明やデモ測定は、密になることを懸念して実施しなかった(代替として動画等で紹介した)。
 7/16に並行して実施した2件の研修会はいずれも初のハイブリッド形式となった。XAFS研修会(BL14B2)は、3グループ5名の参加者のうち、1グループ2名が現地参加、2グループ3名がオンライン参加であった。午前中の講義は画面共有で実施し、午後の実習は、画面共有機能で装置や実験の説明をするスタッフと、ウェブカメラを操作するスタッフとの共同で情報を提供した(写真参照)。スタッフ側からみると、ハイブリッド形式では、オンライン参加者に対する説明が優先となってしまい、現地参加者とのコミュニケーションが若干疎かになってしまうことがあった。一方でユーザー側では、十分に質問ができなかった、という意見があったことが事後のアンケートの結果から判明した。いずれの点も、スタッフおよび参加者がこの形式にお互い不慣れなことが原因だと感じられた。

 

写真 XAFS研修会(7/16、BL14B2)におけるオンライン会議システムを利用した実習の様子。

 

 

 XAFS研修会と同日に実施されたX線イメージング研修会(BL28B2)では、4グループのうち、2グループが現地参加、1グループが全員オンライン参加、そしてもう1グループは現地参加とオンライン参加の「ハイブリッド参加」となった。ハイブリット参加の形態は、実験者の密を避けつつ、多くのメンバー間でリアルタイムに情報共有できる点で、今後も研修会に限らず様々な場面で見受けられることになりそうだ。実習に使用したウェブカメラに関しては、オンライン参加者に見てもらいたいものを的確に撮影するのに苦慮した。特に、装置を制御する端末と装置自体が離れているような状況で、現地を見たことがないユーザーにその距離感や雰囲気を伝えることは難しく、カメラの配置やカメラワークの改善が必要であると感じられた。
 7/17の粉末回折研修会(BL19B2)は、2グループのうち1グループがオンライン参加となった。当該グループの実習用持込試料は、同実験で実施している測定代行で利用している搬送用バッグで現地まで輸送した。講義および実習ともに画面共有機能を利用して情報を提供したが、BL19B2は周囲の装置が発生する音がマイクに拾われやすく、参加者は音声が聞きにくかったかもしれない。また、実験装置の大部分が自動化されていることもあって、測定が一旦始まってしまうと、データが出てくるまでは間延びしてしまう雰囲気があった。初対面でも、現地参加であれば何かしら議論して間をつなぐこともできるが、オンラインで同じことをするのは難しく、様々な面で経験不足を痛感した。

 

 

3. 改善すべき点、推し進めるべき点
 以上のように、2020年7月に実施した研修会は、情勢に翻弄されながら手探り状態でなんとかくぐり抜けた印象があり、本来研修会が果たすべき目的を十分達成できたかどうか、今後検証する必要がある。以下では、今回の研修会を通して、改善すべき点、そして、実施してみて改めてわかった明るい展望を示したい。
 現場スタッフとして気になるのが、放射光施設の利用経験がないオンライン参加者に、「実験した」という実感を提供できたかどうか、という点である。データが容易に収集できることは伝わったと思うが、(窓がない空間や真空ポンプの音なども含めた)実験現場特有の空気感を伝えることは難しく、ユーザーにとっては単なる依頼測定のように感じてしまう可能性がある。今後、新規ユーザーとして課題申請していただくようになるためには、さらに別の努力が必要になると考えている。また、オンライン会議システムの「ミュート」「カメラオフ」機能についても、今後その利用のしかたを検討したい。必要に応じて使い分けることは重要であるが、会話が一方通行になりがちであったり、表情が見えないことで円滑なコミュニケーションを取りづらかったりする(これだと電話で事が足りることになる)。現地参加者と同様な環境を、オンライン参加者にも提供できるようにしなければならないと考えている。さらに、利用できるオンライン会議システムの種類を増やしていくことも、参加者の対象範囲を広げていくために必要である。
 一方で、今回の研修会実施を通して、メリットとして捉えても差し支えない点も多いと感じた。まず、SPring-8を利用する際の大きな障壁である「僻地」問題は完全に解消できる。同時に、参加グループ数や人数の上限を緩和することが可能となり、1回の研修会でより多くの新規ユーザー開拓につなげる事ができるであろう。また、研修会で利用したオンライン会議システムが、普段のユーザー実験サポートにも十分活用できることがわかったことは、最大の功績だったかもしれない。例えば、実験中のトラブル対応の際、従来の電話(音声)のみのやりとりでは難しいことが、カメラで対面したり、装置操作端末の画面を共有したりすることで、ユーザーだけでなくスタッフの安心感にもつながる。特に、画面共有は、装置の遠隔操作こそできないものの、いわゆるリモートデスクトップを導入するのに匹敵する効果をもたらすであろう。さらに、オンライン会議システムの機能を積極的に活用しやすくするために、ウェブカメラやマイクスピーカーの整備を進め、測定インターフェイスへ改良を施すきっかけにもなる。すなわち、オンライン研修会対策が、ユーザー実験サポート全体の質を底上げすることになると感じている。
 以上のように、改善すべき点は多々あるが、参加者からは概ね好評を得ており、今後も、現地参加とオンライン参加を併用したハイブリッド形式の研修会を開催していく予定である。
 最後に、準備不足で不十分な環境しか提供できない中で、オンライン研修会に参加していただいた研修会参加者様に感謝申し上げます。合わせて、オンライン研修会という突然の提案に速やかに対応していただき、環境を構築していただいた研修会事務局に感謝申し上げます。

 

 

 

大坂 恵一 OSAKA Keiichi
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0924
e-mail : k-osaka@spring8.or.jp

 

梶原 堅太郎 KAJIWARA Kentaro
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0924
e-mail : kajiwara@spring8.or.jp

 

本間 徹生 HONMA Tetsuo
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0924
e-mail : honma@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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