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Volume 25, No.4 Pages 293 - 297

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPring-8シンポジウム2020報告
SPring-8 Symposium 2020 Report

西堀 英治 NISHIBORI Eiji[1]、横谷 尚睦 YOKOYA Takayoshi[2]

[1]SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/筑波大学 数理物質系 Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba、[2]岡山大学 異分野基礎科学研究所 Research Institute for Interdisciplinary Science, Okayama University

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SPring-8 SACLA

 

はじめに
 去る9月18日に、SPring-8シンポジウム2020が、SPring-8ユーザー協同体(以下、SPRUC)、高輝度光科学研究センター(以下、JASRI)、理化学研究所(以下、理研)の三者の主催により開催されました。第9回目となった本年度のシンポジウムは、2020年4月より新型コロナウイルス感染症対策としてSPring-8が約2か月間利用停止になったことなどを受け、「ポスト・コロナ時代のSPring-8利用」と題し、オンラインで通常2日開催を1日開催として実施されました。1日開催となった理由は、土日にネットワーク回線が弱い自宅からの接続者が増えることに配慮したためです。講演者がSPring-8普及棟大講堂に集まり講演する形をとりました(写真1)。質問はチャットを経由して受け取り、座長が講演者に伝えるようにしました。開催方式の検討と当日の運営についてはSPRUC庶務幹事の奈良先端科学技術大学院大学松下智裕教授に尽力いただきました。

 

写真1 当日のSPring-8普及棟大講堂

 

 

セッションI オープニングセッション
 オープニングセッションでは、木村昭夫SPRUC会長(写真2)より開会の挨拶がありました。続いて理研の石川哲也放射光科学研究センター長(写真3)からは、コロナ禍のなか、SACLAからの入射について問題点はあるものの定常化のめどがついたことや加速されたDX(デジタルトランスフォーメーション)によりWeb会議が日常になり、今後の多地点接続型共同実験、自動計測、遠隔操作、加速器やBLの自動調整などへの期待や、それらによるユーザーの質的変化や利用者の敷居の低下とコアユーザーに対する人材育成が期待されるなど、SPring-8がアフターコロナの社会変革の担い手となることを期待するという趣旨の挨拶がありました。次に、JASRIの雨宮慶幸理事長(写真4)より、コロナ禍でテンポが落ちていることを逆手にとり、新しいことを考える機会ととらえることが重要であり、継続する必要があるものがあるが、それとは別にSPring-8の将来計画に向けて、施設、ユーザー間の情報交換が重要であるとの発言がありました。加えて、ダーウィンの言葉を引用しつつ変化に対応することが重要との挨拶がありました。最後に、文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室の河原卓室長(写真5)から挨拶をいただきました。文科省として研究環境をサポートし実験の自動化を大きく推進する契機と捉えているという旨の発言がありました。

 

写真2 SPRUC 木村会長 写真3 理研 石川センター長
写真4 JASRI 雨宮理事長 写真5 文部科学省 河原室長

 

 

セッションII SPRUC総会・YSA受賞講演、授賞式
 SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)総会、Young Scientist Award(YSA)授賞式、受賞講演が行われました。総会では、まず、木村会長による所信表明があり、続けて、行事、予算、研究会での活動状況についての報告があり、最後に今後のSPRUCの活動予定が示されました。続いて、SPRUC 2020 YSA授賞式が行われました。冒頭、尾嶋正治選考委員長より、6名の応募があり、計2名を受賞者としたこととそれぞれの受賞理由の紹介がありました。今回も高いレベルの競争となり、本賞の特徴である利用法や解析手法の開発、あるいはSPring-8/SACLAの特徴を活用し測定対象の分野にとって顕著な成果があった2名に決定したという説明もありました。その後、木村会長より、普及棟にて理研の大坂泰斗氏に賞状と盾が授与されました。もう1名University of BayreuthのLongjian Xie氏は、海外在住のためオンライン参加となり、オンラインにて賞状の内容を読み上げました。後日、賞状と盾はLongjian Xie氏のもとへ郵送されます。授賞式の後、大坂氏とXie氏による受賞講演が行われました(写真6)。

 

写真6 授賞式・受賞講演と受賞者

 

 

セッションIII SPring-8この1年
 セッションIIIでは、「SPring-8この1年」と題して、理研とJASRIから、理研放射光科学研究センター物理・化学系ビームライン基盤グループ矢橋牧名グループディレクター(GD)、JASRI放射光利用研究基盤センター櫻井吉晴副センター長、JASRI放射光利用研究基盤センター坂田修身副センター長、JASRI光源基盤部門渡部貴宏副部門長による講演が行われました。矢橋GD(写真7)からは、「SPring-8/SACLAの近況」と題した講演が行われました。ユーザー利用停止は4月から6月半ばであったが、施設の運転は問題なくでき、DXによる自動化、遠隔化の「新しい実験様式」の準備を推進したとの話がありました。放射光を知らない利用者の参入バリアを下げながら新たな連携を構築するとの発言もありました。省エネと高品質の入射ビームを実現するSACLA入射のスタディが進み2021年には完全移行を予定しているとのことでした。BLの再編と高度化については、現在のSPring-8は「あったらいいね」から「なくてはならない」へと進化する途上にあり既存ユーザーの満足度を高めながら潜在ユーザーにいかに訴求していくかを考えているとの発言がありました。まとめとして、DXを加速し、なくてはならない施設にするために、「BL」と「仕組み」の再編を開始したこと、今後、我が国の大型基盤施設群の中でのSPring-8とSACLAの位置づけを考慮しつつSPring-8-IIに向けて進めていくとの話がありました。

 

写真7 理研 矢橋GD

 

 

 櫻井副センター長(写真8)からは、「最近の研究成果と動向」と題した講演が行われました。まず、SPring-8共用BLに関する様々な統計が紹介された後、この1年間での主な成果が紹介されました。引用数の多い環境エネルギー分野の論文が海外ユーザーによるものが多いことなどが紹介されました。最近の動向として、超伝導の国際競争や、磁石、3次元X線回折顕微鏡、タンパク質の自動および遠隔測定、SACLAの鉄鋼材料の成果などが紹介されました。さらに、BL36XUを中心とした産学連携の新しいNEDOのプロジェクトが採択されたとの報告がありました。

 

写真8 JASRI 櫻井副センター長

 

 

 坂田副センター長(写真9)からは「今後のビームライン再編についての現状」と題した講演が行われました。粉末回折・全散乱SWG、汎用回折SWG、小角散乱SWGの現状報告など施設内のワーキングループの紹介と活動内容が報告されました。学術と産業の双方が使い易くなるよう産業利用推進室と共用BL担当者が一緒に検討しているとのことでした。現時点の資産、技術を統合・発展させて高度化させること、IDの限られたリソース数から装置や手法の「相乗り」BL案を提案するのもやむなしとの報告がありました。粉末回折、単結晶、小角散乱などおもに回折に関するBLについて現状と検討状況の詳細が述べられた後、分光・イメージングは相乗りの解消が必要とのことでした。また、学術と産業の両ユーザーの研究・開発により貢献するという任務があり、手法毎のグループやBLとリンクしたグループなどの垣根を越えた連携が重要であるとのことでした。

 

写真9 JASRI 坂田副センター長

 

 

 渡部副部門長(写真10)からは「次世代放射光源開発に向けた世界の動向とSPring-8-II」と題した講演が行われました。リング型の次世代光源の説明ののち、ESRF-EBSについての紹介がありました。SPring-8-IIはHybrid 5-bendラティスを採用するという説明がありました。また、これまでにもSPring-8-IIに向けたR&Dは様々な形で行われているという話がありました。新3 GeV光源は軟X線領域を主としているが、そこには、SPring-8-IIに向けたR&Dが活用されており、次世代放射光源を包括的に捉えた開発が行われてきたとのことでした。講演後の全体討論では、ESRF-EBSについて短期間に立ち上がった理由について矢橋氏、渡部氏の見解が示されました。

 

写真10 JASRI 渡部副部門長

 

 

セッションIV パネルディスカッション
 セッションIVでは、今回で4回目となり、SPring-8シンポジウムの名物となりつつある「パネルディスカッション」が行われました。木村会長を司会とし、パネリストとして、SPring-8施設側から雨宮慶幸氏(JASRI)、石川哲也氏(理研)、熊坂崇氏(JASRI)、初井宇記氏(理研)、ユーザー側から関山明氏(大阪大学)、中川敦史氏(大阪大学)、西原克浩氏(日本製鉄株式会社)、西堀英治氏(筑波大学)が紹介されました。当パネルディスカッションの目的は、「ポスト・コロナにおけるSPring-8利用」です。前半に、熊坂氏(写真11)、初井氏(写真12)、中川氏(写真13)、西堀氏(写真14)よりそれぞれ10分間の講演が行われ、情報と論点が提供されました。熊坂氏はPX(タンパク質結晶構造解析)-BLの自動測定と遠隔測定の現状について報告しました。10年前から行われており高度化が進んでいるとのことでした。初井氏は、リモート実験の海外施設の動向、SPring-8とSACLAでの事例について紹介がありました。様々なリモート形態があるためSPRUCから要望を出してほしいとのことでした。中川氏はコロナの状況を時系列で確認した後、PXのオンサイト実験、全自動測定、リモート測定についてメリット、デメリットを説明されました。西堀氏は、ウィズコロナ状況でのSPring-8実験の経験を述べ、現場での実験の重要性について発表しました。続けて、関山氏(写真15)より、準備したスライドを用いてSPring-8で行ってみたリモート実験の試みについての紹介がありました。産業界から参加の西原氏(写真16)からは、産業界からの意見を取り纏めたスライドを使った報告がありました。産業界での問題として、リモートや実験代行ではBLスタッフとのコミュニケーション不足が問題になるとの発言がありました。熊坂氏からPXの自動測定でも、事前の打ち合わせが重要で、しっかり打ち合わせて条件を決定しているのとの話がありました。また、初井氏からは試料やデータフォーマットの共通化やネットワークのセキュリティ対策などの説明がありました。最後にモデレータの木村会長が、生物系では、リモート実験は10年前から行われている、物性系でもリモートの要素を取り入れていく必要があると全体をまとめられました。生物系リモート実験で見つかっている問題点として、ユーザーとBLスタッフとのコミュニケーションがあげられ、事前、実験中のみならず実験後のコミュニケーションも重要であることが示され、セッションは終了しました。

 

写真11 JASRI 熊坂氏 写真12 理研 初井氏 写真13 阪大 中川氏
写真14 筑波大 西堀氏 写真15 阪大 関山氏 写真16 日本製鉄株式会社
    西原氏

 

 

セッションV クロージング
 クロージングセッションでは、主催機関を代表してSPRUC木村会長より閉会の挨拶がありました。速報として参加者数が391名と多数であったことの報告、および実行委員を始めとした関係者、参加者へのお礼の言葉がありました。

 

 会議のプログラムの詳細とアブストラクトは下記Webページにて公開されています。
http://www.spring8.or.jp/ja/science/meetings/2020/sp8sympo2020/

 

 

SPring-8シンポジウム2020プログラム
9月18日(金) <オンライン開催>
セッションI オープニング

座長:西堀 英治(SPring-8シンポジウム2020実行委員長、筑波大学)

10:30-10:35 開会挨拶
木村 昭夫(SPRUC会長、広島大学教授)
10:35-10:50 挨拶
石川 哲也(理化学研究所 放射光科学研究センター センター長)
雨宮 慶幸(高輝度光科学研究センター 理事長)
  来賓挨拶
河原 卓(文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室 室長)

 

セッションII SPRUC総会・YSA受賞講演、授賞式
司会:横谷 尚睦(SPRUC幹事、岡山大学)

11:00-11:20 SPRUC活動報告、2019年度決算
2020年度予算報告等
11:20-11:30 SPRUC 2020 Young Scientist Award授賞式
11:30-12:00 Young Scientist Award受賞講演1
X線自由電子レーザーのための新規結晶光学素子の開発と応用

大坂 泰斗(理化学研究所)
Young Scientist Award受賞講演2
Development of X ray transparent cell in large volume press towards silicate melt viscosity measurement in lower mantle conditions

Longjian Xie(University of Bayreut)

 

セッションIII SPring-8この1年
座長:木村 昭夫(SPRUC会長、広島大学)

13:30-13:55 SPring-8/SACLAの近況
矢橋 牧名(理化学研究所)
13:55-14:10 最近の研究成果と動向
櫻井 吉晴(高輝度光科学研究センター)
14:10-14:35 今後のビームライン再編についての現状
坂田 修身(高輝度光科学研究センター)
14:35-14:55 次世代放射光源開発に向けた世界の動向とSPring-8-II
渡部 貴宏(高輝度光科学研究センター)
14:55-15:00 全体討論

 

セッションIV パネルディスカッション
司会(モデレーター):木村 昭夫(SPRUC会長、広島大学)

15:00-15:40 前半講演
  講演者:熊坂 崇(高輝度光科学研究センター/施設)
      初井 宇記(理化学研究所/施設)
      中川 敦史(大阪大学/ユーザー)
      西堀 英治(筑波大学/ユーザー)
15:40-17:00 後半パネルディスカッション
パネリスト:雨宮 慶幸(高輝度光科学研究センター/施設)
      石川 哲也(理化学研究所/施設)
      熊坂 崇(高輝度光科学研究センター/施設)
      初井 宇記(理化学研究所/施設)
      関山 明(大阪大学/ユーザー)
      中川 敦史(大阪大学/ユーザー)
      西原 克浩(日本製鉄株式会社/ユーザー)
      西堀 英治(筑波大学/ユーザー)

 

セッションV クロージング
座長:田中 義人(SPring-8シンポジウム2020PG委員長、兵庫県立大学)

17:00-17:20 閉会挨拶
木村 昭夫(SPRUC会長、広島大学)

 

 

 

西堀 英治 NISHIBORI Eiji
筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター
〒305-8571 茨城県つくば市天王台1-1-1
TEL : 029-853-6118
e-mail : nishibori.eiji.ga@u.tsukuba.ac.jp

 

横谷 尚睦 YOKOYA Takayoshi
岡山大学 異分野基礎科学研究所
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3丁目1-1
TEL : 086-251-7897
e-mail : yokoya@cc.okayama-u.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794