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Volume 25, No.1 Pages 6 - 11

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

SPring-8を拠点とした新学術領域研究「3D活性サイト科学」報告
Report of the JSPS Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas “3D Active-Site Science” which had a base in SPring-8

大門 寛 DAIMON Hiroshi[1]、林 好一 HAYASHI Koichi[2]、松下 智裕 MATSUSHITA Tomohiro[3]

[1]新学術領域研究「3D活性サイト科学」領域代表/(公財)豊田理化学研究所 Toyota Physical and Chemical Research Institute、[2]名古屋工業大学 大学院工学研究科 Department of Physical Science and Engineering, Nagoya Institute of Technology、[3]奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学領域 Division of Materials Science, Nara Institute of Science and Technology (NAIST)

Abstract
 科研費新学術領域「3D活性サイト科学」は、孤立原子周辺の立体原子配列をホログラフィーの手法で解明して局所物性科学の創出と応用を目指したプロジェクトである。平成26年度(2014年度)に開始され、5年後の2019年3月に多くの成果を得て無事に終了した。SPring-8、PF、J-PARCという大型施設を利用するという特徴的な新学術領域であった。5年間の領域メンバーの努力により、無機物質から触媒、有機物質、タンパク質まで、300近い試料の活性サイトの測定を行い、当初の目的は達成された。予想できないような構造も実験的に得られ、その表記法も確立し、新しい機能を生み出す活性サイトも提案されるなど、領域の目指す新しい学理「局所機能構造科学」が生まれつつある。領域終了後も領域内で培われた共同研究が続いており、本領域の分野は今後も益々発展していくと思われる。
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SPring-8

 

1. 領域の目的
 機能材料の中で機能発現に重要な役割を担っている局所構造を「活性サイト」と呼ぶ。活性サイトは並進対称性を持たないためにX線回折などで構造解析ができず、正確な局所構造も分からず、統一的に理解する学理も存在していなかった。しかしながら、高度な先端材料分野における熾烈な国際競争を勝ち抜くには、ドーパント・界面構造・ナノ構造体などの活性サイトの正確な3D構造評価に基づく物質デザインが必要不可欠である。これらの局所構造を選択的に狙い、3次元原子配列を正確に決定できる3D原子イメージング技術が最近日本で次々に開発され、この分野では日本が世界をリードして独走状態になっている[1][1] H. Daimon: Jpn. J. Appl. Phys. 59 (2020) 010504.。この機運を捉え、組織的に推進する科研費新学術領域研究「3D活性サイト科学」[2][2] http://www.en.3d-activesite.jp/
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-AREA-2604/
を立ち上げた。
 本領域の3D原子イメージング技術は、①光電子ホログラフィーと蛍光X線ホログラフィー:着目原子から放射される光電子と蛍光X線の角度分布(ホログラム)を利用してその原子周りの3D原子配列を直視するホログラフィー、②表面・界面ホログラフィー:基板からの回折X線を利用して表面・界面の原子配列を再生するホログラフィー、③ナノ構造体イメージング:電子回折パターンに位相回復法を適用してナノ構造の原子配列を再生する手法、である。これらの手法を駆使して、触媒、太陽電池、スピントロニクス材料、タンパク質分子など、極めて幅広い試料対象において、新学術研究として組織的に集中的に取り組んで「活性サイト」を解明し、それらがどのように周辺原子と協調して3次元的に機能発現しているのかを理解する新たな学理「局所機能構造科学」を創出し、新規デバイス創成の道筋を切り拓くことが目的であった。

 

 

2. 組織とその役割
 当領域の研究者数は、計画研究代表者・分担者・連携研究員を合わせて95名、公募研究者を加えると120名程の大きなプロジェクトであった。公募班の数も、予想を超えた応募数のために前後期とも計画募集数より増加した(平成27−28年度期で15件(計画より+4件)、平成29−30年度期で16件(計画より+2件))。
 領域全体として、次のような組織構成で推進した。実績のある無機物質からチャレンジングなバイオ試料までを試料班(A01:計画研究代表者 福村知昭、野村琴広、山田容子、佐々木裕次)が用意し、手法班(A02:林好一、木下豊彦、若林裕助、郷原一寿)が適切な3D原子イメージング技術によって活性サイト構造を解明し、理論班(A03:森川良忠、小林伸彦、鷹野優、松下智裕)が第一原理計算を駆使して活性サイトの機能解明を行う。得られた知見を統合し、新たな革新材料に対する提言を、応用班(A04:筒井一生)を中心に行う。計画研究では応用班が手薄だったため、公募班で重点的に補った。
 総括班は、これら計画班と公募班が連携して領域としての成果が出せるように統括するとともに、共通の大型装置の建設と整備を行った。奈良先端科学技術大学院大学とSPring-8に領域の拠点室(図1)を設けて円滑な利用を図った。2年次からは国際活動支援班を設け、海外研究者との交流や海外施設利用も含む共同研究も推進して、海外において主導的な役割を果たせるようにした。産業界とも連携して学術領域としての成果を国内外の学界・産業界へ発信することにより、日本の科学技術の大幅な向上・強化を行う世界拠点を形成することとした。

 

図1 新学術領域研究「3D活性サイト科学」SPring-8拠点室の開所式(2015年3月2日)。前列右から、来賓の野田健治 JASRI常務理事、土肥義治 JASRI理事長、石川哲也 理研放射光科学総合研究センター長、大門寛 奈良先端科学技術大学院大学教授、篭島靖 兵庫県ナノテクセンター長、高田昌樹 JASRI利用研究促進部門長、坂田修身 物質・材料研究機構 技術開発・共用部門 高輝度放射光ステーション長(役職は2015年当時)。

 

 

3. 共用プラットフォームの整備
 研究を効率的に進めるため、SPring-8において、領域研究共用で利用する装置を整備した。導入した装置は、領域内研究者による利用の後、期間終了後はSPring-8のユーザーにも開放されている。光電子ホログラフィーG(グループ)では、既存設備も含めて合計6種類の2次元表示型の光電子アナライザーの整備を行った。ほとんどは既製品でなく、本領域で開発したものである。嫌気性サンプルを含む多様な測定に対応するため、グローブボックスや超高真空スーツケース(スイスフェロバック社)(図2)などの設備を導入した。また、低温測定用のクライオスタットなども導入した。蛍光X線ホログラフィーGでは、SPring-8において新規の装置を開発した。また、X線カメラ(Quantum Detectors社)も整備することにより、測定時間を格段に短縮することが可能となった。また、マイクロビームを用いた数μm程度の微小領域測定にも有用である。また、円筒状グラファイト分光結晶など、海外での実験を行うための整備も行った。

 

図2 SPring-8の光電子ホログラフィー装置DIANAに取り付けたUHVスーツケース。

 

 

4. 課題目標とその達成度
 領域発足当時に、次の4つの課題目標を設定した。

①1つの試料に対して複数の3D原子イメージング手法を適用し、より望ましい3D局所構造をデザインする指針を与える。

②困難なソフト及びバイオ系マテリアルの計測と、高速時分割計測を実践する。

③活性サイト原子構造データベースを構築する。

④公募研究を含め、タンパク質分子、有機太陽電池、触媒、スピントロニクス材料などの多くの機能材料に対して計測を行い、新しい材料創製に向けた知見を提供する。

 上記の4つの研究項目の達成度は以下の通りである。

①トポロジカル絶縁体や超伝導グラファイト層間化合物にターゲットを絞り、光電子・蛍光ホログラフィー、電子顕微鏡による多面測定を行い、詳細な構造決定を行うことができた。As高濃度ドープSi及びZnSnAs2系強磁性半導体については、機能改善に繋がる具体的改善案を提案することができた。

②タンパク質や有機分子などは測定系の工夫により、放射線損傷を抑えて活性サイトを世界で初めてイメージングすることに成功した。触媒反応時XAFS、ポンププローブによるシリセンの時分割光電子回折、XFELによるガス分子の光電子回折などで、時分割の研究が大きく進んだ。

③光電子・蛍光X線ホログラフィー解析プラットフォーム「3D_AIR_IMAGE」を開発し、Webで公開した[3][3] https://ja.osdn.net/projects/tmcoca/releases/p14436。ダウンロード数は世界中から1,800回以上ある。ホログラムのデータベースもその中で公開している。表面・界面ホログラフィーについても自動解析ソフトウェアを開発し、応用が進められている。

④領域内において合計300以上の試料を3D原子イメージングによって観測し、多くの新たな知見を材料開発者に提供できた。また、富士電機との界面不活性化処理の共同研究や、日亜化学工業とのInGaN量子井戸層におけるInの超格子構造の共同研究など、産学連携についても成果があった。

 

 

5. 代表的な研究成果
 非常に多くの研究成果が得られた[4][4] H. Daimon, K. Hayashi, T. Kinoshita and K. Tsutsui: Jpn. J. Appl. Phys. 79-80 (2019-2020), STAP Reviews, "Frontier of active-site science: new insights on material functions".
(https://iopscience.iop.org/journal/1347-4065/page/Frontier_of_active_site_science)
が、ここでは無機物質とバイオ物質の2つの典型例を紹介する。

●「高濃度AsドープSiにおけるサイト選択解析と活性化向上のための共ドープ法の提案」(A04筒井G、A02木下G、A03森川G、A03松下G)[5][5] K. Tsutsui, T. Matsushita, K. Natori, T. Muro, Y. Morikawa et al.: Nano Lett. 17 (2017) 7533-7538.

 高濃度ドーピング技術の確立はシリコンデバイスの微細化・高効率化のために欠かせない課題である。高濃度AsドープSiに対し、Asの光電子スペクトルの3成分(図3の赤、緑、青)それぞれの光電子ホログラムを選別して測定することに成功した。解析の結果、赤は置換サイトで活性であった。緑と青は電気測定との対応からも不活性サイトと結論付けられた。緑は、理論と組み合わせた精密構造解析の結果、空孔(V)周辺にAsが集まるAsnV型と呼ぶクラスター構造を有していることが分かった。特筆すべきは、不活性Asサイトの構造が解明され、これを活性化させるための具体的な方策(Bとの共ドープ)が第一原理計算を駆使して提案された[6][6] K. Tsutsui and Y. Morikawa: Jpn. J. Appl. Phys. 59 (2020) 010503. (doi: 10.7567/1347-4065/ab603e)ことである。シリコンデバイス微細化に向けた明確な指針を得ることができた。これは、本領域の大目標に合致した大きな前進であり、応用班がその提案をプロセスに取り入れ実践している。

 

図3 高濃度AsドープSi中のAsの3成分の光電子ホログラフィー解析[5][5] K. Tsutsui, T. Matsushita, K. Natori, T. Muro, Y. Morikawa et al.: Nano Lett. 17 (2017) 7533-7538.

 

 

●「サイト選択蛍光X線ホログラフィーの開発と生体分子活性サイトのイメージング」(A01佐々木G、A02林G、A03鷹野G、A03松下G、公募 梅名G)

 有機分子やたんぱく質分子などのソフトマテリアルはX線照射による損傷が激しいため難易度が高く、多くのメンバーの連携と工夫が必要であった。合計4名の分担者の補強を行い、放射光ビームタイムも合計100日以上確保して実験を進めた。液体窒素吹き付け装置や、試料ホルダーからの散乱を避けるための透過型回転ステージを組み込むことによって、安定して測定できるシステムを開発し、ヘモグロビンのヘムの原子像再生を達成できた[7][7] A. Sato-Tomita, N. Shibayama, N. Happo, K. Kimura, T. Okabe et al.: Rev. Sci. Instrum. 87 (2016) 063707.(図4(a))。さらに、光化学系II(PSII)のたんぱく質における金属含有活性サイトについて、価数選択蛍光X線ホログラフィーを適用し、その活性サイトであるMn4CaO4クラスター(図4(b))におけるMn3+及びMn4+の立体配位の評価を進めている[8][8] A. K. R. Ang et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 59 (2020) 010505.

 

図4 (a) ヘモグロビンのヘムの蛍光X線ホログラフィー解析[7][7] A. Sato-Tomita, N. Shibayama, N. Happo, K. Kimura, T. Okabe et al.: Rev. Sci. Instrum. 87 (2016) 063707.と、(b) 光化学系II(PSII)の活性サイトの価数選択蛍光X線ホログラフィー[8][8] A. K. R. Ang et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 59 (2020) 010505.

 

 

6. 「局所機能構造科学」学理の構築
 ドーパントが入るサイトについては、これまで実験できなかったため、実験的根拠なしにもっともらしいサイトが想像されてきた。しかしながら、本領域の研究の結果、予測は不可能で、実験をしなければ分からないことが多いことが示された。熱電材料であるBドープMg2Siでは、観測の結果、理論的な予測に反し、BがSiサイトではなくMgサイトに入ることが明らかになった。また、酸化物高温強磁性半導体で観測された亜酸化ナノ構造体や、理論的に高活性を予測されたSi中のAs-Bナノ構造体などは、実験結果を基にして理論解析することで初めて得られた構造である。このように、高機能材料の開発には、本学理の構築が必須であることが示された。
 さらに、本学理では特性の改変や向上に関する指針を出すことができることが示された。具体的な成果として、①Si中の不活性Asサイトを活性化する具体的な方針が得られた、②触媒合成においては、表面上に固定したRh錯体からなるモデル触媒表面の構造解析を基にPd錯体と有機強塩基DABCOをシリカ表面上に固定した高効率の触媒開発に成功した、③室温強磁性半導体であるMnドープZnSnAs2のドープ金属の種類を変えることによって、より高いキュリー温度の強磁性半導体が作製できることが示された、などがある。
 無機・触媒・有機・生体材料には様々な性格の異なる「活性サイト」があるが、「一様な環境中に生じたナノメートルオーダーの局所的な分子構造・電子構造の時間変化(ゆらぎ)や構造変化(ずれ)」が活性を生じるという統一的な見解を見出すことができた。この議論を基に、活性サイトの表記法として活性中心と取り巻く環境を用いたものを提案した[1][1] H. Daimon: Jpn. J. Appl. Phys. 59 (2020) 010504.。また、「活性サイト原子構造データベース」及び解析ソフトウェア[3][3] https://ja.osdn.net/projects/tmcoca/releases/p14436を公開して活性サイトの学理の共有化を図っている。
 この学理の日本語と英語の教科書「機能構造科学入門-3D活性サイトと物質デザイン」(丸善、2016年7月)と、“3D Local Structure and Functionality Design of Materials”(World Scientific Pub. Co. Inc.、2019年1月)(図5)を発刊した。また、欧文誌の特集号も3つ発刊した(Z. Phys. Chem.[9][9] Z. Phys. Chem (2015). ISSN (Online) 2196-7156 (Print) 0942-9352. (doi: 10.1515/zpch-2015-0671)J. Phys. Soc. Jpn.[10][10] J. Phys. Soc. Jpn. 87 (2018), Special Topics: Advances in Local Structure Science by Three-Dimensional Atomic Images.JJAP-STAP[4][4] H. Daimon, K. Hayashi, T. Kinoshita and K. Tsutsui: Jpn. J. Appl. Phys. 79-80 (2019-2020), STAP Reviews, "Frontier of active-site science: new insights on material functions".
(https://iopscience.iop.org/journal/1347-4065/page/Frontier_of_active_site_science)
)。

 

図5 「機能構造科学入門-3D活性サイトと物質デザイン」及びその英語版。

 

 

7. 国際展開
 「3D活性サイト科学」を世界的に普及させることを目的とし、国際シンポジウム・ワークショップを計4回行った(図6-9)。外国人研究者に多く参加してもらうために、これらの国際会議は全て海外で行ったことが特徴である。これらは、多くの国際共同研究や「3D活性サイト科学」の海外拠点の足掛かりになった。

 

図6 2015年4月、ドイツ・ボン。

 

図7 2016年6月、スイス・チューリッヒ。

 

図8 2017年10月、スウェーデン・ルンド。

 

図9 2019年2月、イギリス・ロンドン。

 

 

8. 若手研究者育成
 毎年初夏に、1泊2日で春の学校を開催し、若手研究者や学生を対象に本領域の基盤技術について講義とチュートリアルを実施した(図10)。国際的に活躍できる若手の育成のため、成果報告会のポスター発表では、合計20名の若手研究者や学生にポスター賞を授与し、国際会議の旅費を支援した。また博士後期課程の学生を、海外研究所に短期滞在させ、共同研究を推進させた。また、コンピューテーショナル・マテリアルズ・デザイン(CMD)ワークショップでは200名近い参加者に講義した。アウトリーチは、JST主催のサイエンスアゴラなどに毎年領域として参加し、小学生を中心とする多くの参加者に結晶の科学の面白さと奥深さを伝えた。

 

図10 2015年度奈良春日野国際フォーラムにおいて開催された春の学校。

 

 

 本領域に参画した若手研究者(39歳以下)の昇進は、教授への昇任1名(40歳以上は11名)、准教授昇任5名(40歳以上は6名)、講師3名、助教着任9名、ポスドク着任13名(研究員からの異動を含む)と目覚ましく、また公的研究機関内での研究員の昇任も3名に上った。また、海外拠点である放射光施設スウェーデンMAX-IVでは、光電子ホログラフィーを習得した博士後期課程学生が採用されてビームラインスタッフとして活躍している。
 領域での研究の成果により、延べ94名の若手研究者や学生が表彰された。文部科学大臣表彰若手科学者賞2件、日本化学会進歩賞1件、触媒学会優秀論文賞1件、触媒学会奨励賞1件、東京工業大学挑戦的研究賞1件、大阪大学総長奨励賞1件、第6回ヤマト科学賞1件、学生も含めた学会での口頭発表賞19件、ポスター賞33件、J. Appl. Phys.誌、Appl. Phys. Lett.誌などの一流国際誌のEditor's pickなどの論文賞7件、各大学での卒業研究や大学院終了時の発表会での最優秀賞など23件、と若手の活躍が際立っている。

 

 

9. 総括班評価者による評価
 学術界からは東京大学名誉教授・東北大学WPI-AIMR元事務部門長の塚田捷先生、分子科学研究所所長の川合眞紀先生、茨城大学特命研究員(元東北大学教授、元JAEA研究主幹)の新村信雄先生、産業界からは日本シエンタオミクロン社長の大岩烈様に総括班評価者となっていただき、領域の報告会や総括班会議に参加していただいて、助言と評価をいただいた。
 評価では、「粒子線ホログラフィー法を用いる画期的な局所構造計測手法を構築し、それを実現する実験方法と解析手法を確立することに成功したこと、大きなインパクトのある多数の成果を挙げることに成功した。3D活性サイトという新概念によって新規な応用研究を創始させる多くの可能性を開いた。発足当時は、それぞれの専門を束ねただけで心配したが、数年後には有機的に研究が展開された。毎年の海外での研究会も、国際的な認知度を高める上で大変有効だった。本領域の活動は、今後益々強化されてしかるべきなので、SPring-8やJ-PARCなどの施設で半恒久的なサポートを期待したい。タンパク質結晶ホログラフィーにおいて、他の手法では大変困難な、金属タンパク質の活性金属の周りの構造が見えた意義は大きい。中性子ホログラフィーにおいて、即発ガンマ線(NPG)を利用してNPGを放出する原子の周囲の原子構造まで決められる全く新しい手法を開発した歴史的意義は大変高く、専用のビームラインを準備すべきくらいの価値ある成果である。このプロジェクトを成功へと導いたのは企画コンセプトである。班と班との連携の成果がプロジェクトを成功へと導いた。また、当初から目指してきた“新しい局所物性学の新領域”も「機能構造科学入門-3D活性サイトと物質デザイン」の刊行によって開拓された。」などと好評価のお言葉をいただいた。

 

 

10. おわりに
 領域メンバーが100名以上という大規模な研究組織であるため、構成員の意識を領域の意識と一元化することに苦心した。当初は、計画研究代表者・総括班の各担当の長から3ヵ月に1回の報告書の提出を義務付け、総括班会議で議論を頻繁に行った。但し、3ヵ月の報告書については負担にならぬようにという指摘が中間評価にあり、十分役割を果たしたと判断したため4年目以降は中止した。相互理解を深めるためのサイトビジットについても合計9回行い、領域代表者立ち合いの下、グループ個別に連携研究の強化についてきめ細かく話し合いを行った。
 大型放射光実験施設における実験については、安定したビームタイムの確保が課題であった。総括班内の大型施設コーディネートが主導して、SPring-8の長期利用課題とPFのS課題を獲得し、またSPring-8の成果公開優先利用課題も総括班予算で年間10日程取得した。一般課題については、公募班も含め過去5年間にSPring-8に292件の申請を行い、221件が採択された。SPring-8全体の平均的な採択率6割程度を大きく上回っており、提案書作成の指導が奏功した結果と言える。
 このような多くの努力によって、多くの活性サイトの構造が解明され、新しい学理が構築された。若手の育成や国際的な認知度も上がり、装置的にもソフト的にも使いやすいプラットフォームが構築できて、新しい領域の創成に成功したものと考えている。これは、5年間にわたる構成員の献身的な努力とSPring-8、PF、J-PARCなどの施設及びビームラインスタッフのご協力と、総括班評価者と学術調査官の適切な助言の賜物であり、この場をお借りして皆様のご尽力ご協力に深く感謝申し上げる。「3D活性サイト科学」という新学術のプロジェクトは終了したが、そこで培われた共同研究は今も続いているため、ここで開拓された手法や学理は今後も益々発展し、文字通りの新しい学術領域に育っていくものと確信しているし、期待している。

 

 

 

参考文献
[1] H. Daimon: Jpn. J. Appl. Phys. 59 (2020) 010504.
[2] http://www.en.3d-activesite.jp/
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-AREA-2604/
[3] https://ja.osdn.net/projects/tmcoca/releases/p14436
[4] H. Daimon, K. Hayashi, T. Kinoshita and K. Tsutsui: Jpn. J. Appl. Phys. 79-80 (2019-2020), STAP Reviews, "Frontier of active-site science: new insights on material functions".
(https://iopscience.iop.org/journal/1347-4065/page/Frontier_of_active_site_science)
[5] K. Tsutsui, T. Matsushita, K. Natori, T. Muro, Y. Morikawa et al.: Nano Lett. 17 (2017) 7533-7538.
[6] K. Tsutsui and Y. Morikawa: Jpn. J. Appl. Phys. 59 (2020) 010503. (doi: 10.7567/1347-4065/ab603e)
[7] A. Sato-Tomita, N. Shibayama, N. Happo, K. Kimura, T. Okabe et al.: Rev. Sci. Instrum. 87 (2016) 063707.
[8] A. K. R. Ang et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 59 (2020) 010505.
[9] Z. Phys. Chem (2015). ISSN (Online) 2196-7156 (Print) 0942-9352. (doi: 10.1515/zpch-2015-0671)
[10] J. Phys. Soc. Jpn. 87 (2018), Special Topics: Advances in Local Structure Science by Three-Dimensional Atomic Images.

 

 

 

大門 寛 DAIMON Hiroshi
(公財)豊田理化学研究所
〒480-1192 愛知県長久手市横道41番地1
TEL : 0561-57-9517
e-mail : daimon@toyotariken.jp

 

林 好一 HAYASHI Koichi
名古屋工業大学 大学院工学研究科
〒466-8555 愛知県名古屋市昭和区御器所町
TEL : 052-735-5308
e-mail : hayashi.koichi@nitech.ac.jp

 

松下 智裕 MATSUSHITA Tomohiro
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学領域
〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916-5
TEL : 0743-72-6020
e-mail : t-matusita@ms.naist.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794