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Volume 25, No.1 Pages 25 - 28

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第17回加速器と大規模物理実験制御システムに関する国際会議(ICALEPCS2019)報告
Report on ICALEPCS2019 (The 17th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems)

清道 明男 KIYOMICHI Akio

(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門 Light Source Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 ICALEPCS2019(17th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems)が、2019年10月7日から11日まで、米国ニューヨーク・ブルックリンにて開催された(図1)。ICALEPCSは加速器施設と大規模物理実験の制御システムに関する国際会議である。隔年開催でヨーロッパ、アメリカ、アジア(含むオセアニア)地域を巡回しており、今回は米国のBrookhaven National Laboratory(BNL)主催で行われた。

 

図1 会場となったNY Marriott at The Brooklyn Bridge。ホテル前の道を歩くと、数々の映画の舞台となったブルックリン橋にたどり着く。

 

 

 本会議には507名の参加があり、素粒子原子核物理学実験や放射光、中性子源の加速器施設からの参加のみならず、大強度レーザー、核融合、電波天文台、重力波といった大規模実験から参加があった。SPring-8/SACLAからは5名(理研:福井、JASRI:増田、杉本、松本、清道)が出席した。その他、日本からは理研RIBF、KEK、J-PARCといった施設や京都大、広島大などの参加があった。

 

 

2. 会期前ワークショップ
 会議に先立って10月5、6日の2日間は特定の話題について集中して議論するためのワークショップが開催された。テーマはEPICS、TANGO、Jupyter、FPGA、PLC、Motion Control、Machine Learning、Sardana、Timing、MicroTCA、Cyber Security、Containerと全部で12件あり320名の参加があった。SPring-8/SACLAからの参加者も分担してワークショップに参加したので、幾つか紹介する。
・Data Science and Machine Learning
 今回のワークショップの中では最も盛況で、他のテーマの3倍の部屋を使用して立ち見がでるほどであった。最近の機械学習の流行が垣間見られる。画像認識を題材としたチュートリアルの開講と各施設の利用事例の紹介があった。利用事例ではBeam Steeringの調整(BNL)やCollimatorアライメント(CERN)に機械学習を適用することで、調整時間の短縮に繋がる可能性が示された。各国で大型の予算が付けられている様子であり、様々な試行が行われている。
・MicroTCA
 高速シリアルインターフェースを持つモジュール型プラットフォームの1つであるMicroTCAは、加速器・物理実験向けの拡張規格(4番目の拡張規格で、通称MTCA.4)を策定していることから多くの加速器施設で採用されている。ワークショップではDESY、CERN、ESS、KEKといった施設での利用状況が報告された。加速器コンポーネントにおいて、主に高速・広帯域処理が必要なLow Level RF(LLRF)、ビーム位置モニタ(BPM)、タイミング系機器で使用され、利用可能なモジュールの種類も増えた。拡張規格の話題ではRFバックプレーンを追加したMTCA.4.1が策定されたことに加えて、PCI Express(PCIe)の次世代規格に対応したより広帯域のサポートやスロットの電力増強を行った次世代拡張規格(MTCA.4.x)の策定計画について報告があった。
・Cyber Security
 加速器や大規模実験の制御システムのセキュリティについて知見を共有することがワークショップの開催趣旨である。ネットワークの分離が重要であるが、Internet of Things(IoT)の普及によりネットワーク接続デバイスが増え単純に分離できなくなってきている。セキュリティにより一層の注意が必要になった。BNLやLLNLなどの米国DoE研究所はNIST SP800シリーズ(セキュリティ規格)準拠が要求され、欧州でもGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)があり、各施設の対応状況が報告された。また、最近の侵入事例としてLLNLで起きたセキュリティ事案の発生とその対応について紹介があった。

 

 

3. 本会議
 ICALEPCS2019会議は以下に示す14のプログラムトラックで構成され、全部で119の口頭発表と249のポスター発表が行われた。図2に集合写真を示す。
General
• Project Status Reports
• Control System Upgrades
• Device Control and Integrating Diverse Systems
• Experiment Control
Hardware
• Hardware Technology
• Timing and Synchronization
• Control System Infrastructure
Software
• Software Technology Evolution
• User Interfaces, User Perspective, and User Experience(UX)
• Data Management
• Data Analytics
Subsystems
• Systems Engineering, Collaborations, Project Management
• Functional Safety Systems for Machine Protection, Personnel Safety
• Feedback Control and Process Tuning

 

図2 本会議の集合写真

 

 

 SPring-8/SACLAからは4件の口頭発表(福井、杉本、松本、清道)と3件のポスター発表(増田、岡田、石井)があった。会議の内容は多岐にわたるため、ここではハードウェア、ソフトウェアに大別して報告する。会議のWebサイト[1][1] https://icalepcs2019.bnl.govには発表資料が公開されているので、さらに詳しい内容を知りたい方はそちらを参照していただきたい。
・制御ハードウェア関連
 加速器制御のハードウェアプラットフォームは、高速・広帯域が必要な機器はMicroTCA、遅くてもよいものはEtherCATやPLCを採用するといった棲み分けが進んでいる。全体としてPLCの利用が多く、PLCにEPICSを載せて制御系を作った、という発表が多かった。PLCのロジック開発はラダー言語ではなくOpen PLCでStructured Text言語を使用して開発環境の共通化を進めている。EtherCATの発表も増えており、その殆どはPLCベースであった。
 高速・広帯域が必要な機器はMicroTCAの採用が増えている。ワークショップでも報告があったLLRF、BPM、タイミングといった機器に加えてMachine Protection System(MPS)での使用例や、新規開発モジュールの発表があった。Hardware Technologyのトラックにおいて、福井がSACLAの低エミッタンス電子ビームをSPring-8蓄積リングへ入射するアップグレード計画でのMTCA.4モジュール開発について報告し、ポスターでは石井のEtherCATを使用した制御システムの報告を行った。Device Controlのトラックでは清道がSACLA-SPring-8蓄積リングビームトランスポートラインにおけるBPM読み出し系更新や新規のGigEカメラシステムの導入などのモニター制御系構築について報告した。
 Timing and Synchronizationトラックでは加速器や実験におけるタイミングと同期の課題に焦点を当てている。加速器のタイミングシステムはMicro Research Finland(MRF)社製のタイミングモジュールがSuperKEKBを始めとした多くの施設で使われている。会期前ワークショップのなかでもMRFユーザワークショップが開催されており、各施設での利用や開発モジュールの報告があった。元々PCIeやVMEをサポートしていたが、MTCA.4ベースのイベントジェネレータを開発したことが報告された。これにより既に開発済のイベントレシーバーと合わせて、MicroTCAシステムでMRFが利用可能となった。
 ネットワークを介したタイミングシステムの発表もあり、CERNが進めているWhite Rabbitを用いたトリガ信号分配や、現在IEEEで規格の制定が進んでいる“Time-sensitive Networking(TSN)”を利用したトリガ信号分配の開発についての発表があった。後者はドイツのメーカーHITが、策定前のTSNに代えてPTP(Precision Time Protocol)を用いた試験でPPS(Pulse Per Second)信号出力のジッター±25 nsを達成したことを報告した。
 ソフトウェアにおける“Open Source”の考え方をハードウェアに広げた“Open Hardware”があり、CERNを中心にコラボレーションで進められている。各種I/Oボードを始めとするハードウェアの開発に必要なデータを全て公開する取り組みで、成果の代表例がWhite Rabbitである。増田がポスターで発表したタイミング分配システムもWhite Rabbitを利用したものである。他にも、長く運用している施設の古い機器の更新や低コストでシステムを組む目的で、VMEやCompactPCI-Serialプラットフォーム用の高速I/OモジュールをOpen Hardwareで開発する事例も報告された。
・制御ソフトウェア関連
 制御システムはハードウェアを組み合わせれば動くものではなく、ソフトウェアによる橋渡しを行う制御フレームワークが重要な役割を担っている。SPring-8/SACLAで開発・運用しているMADOCAおよびその発展系も制御フレームワークの1つである。Control System Upgradesのトラックで杉本がSACLA/SPring-8および新3 GeV放射光計画の制御システムのステータス報告を行い、ポスターでは岡田のオンデマンド振り分け用データベースシステムについて報告した。
 大規模施設において採用が多い制御フレームワークは、米国Argonne National Laboratoryを中心に開発されたEPICSと、欧州のESRF、ELETTRAなどの施設が協力して開発しているTANGOであるが、これらは会期前ワークショップでそれぞれUser Meetingを開いた。本会議では米国開催ということもあるためか、EPICSの利用を前提とした開発・整備の発表が多かった。例えばPLCにEPICSのIOCを載せて制御システムを構築する、といった報告が多くあったが、各施設において似たようなツールをバラバラに開発して制御フレームワークとしての統一感が欠ける印象であった。
 前回のICALEPCS2017でData Analysisのトラックが新設されたが、今回は主に機械学習の話題が増加しており、特に加速器の調整時間の短縮に繋がることを期待して進められている。ワークショップも盛況であったが、試行してみたという発表が多く必ずしも機械学習である必要性が感じられないものも散見された。まだ実用には至っておらず様々な試行を行っている段階であるが、今後の発展が期待される。
 Data Managementでは所外からの実験データアクセスを行いたいユーザの要望に応える形での取り組みが議論された。主に放射光施設・中性子施設での需要が高い。SPring-8の例では松本が実験データ転送システムBENTENについて発表した。欧州では施設間でコラボレーションを結成して、自前のクラウドを用いたオープンサイエンス基盤を構築している。また、J-PARCではアマゾンのAWS Cloudを用いた遠隔モニタリング・データアクセス環境を構築した。J-PARCは原子力施設であるJAEAの敷地にあるため、外部から施設内計算機への直接アクセスの制約が厳しい。そこで、外部のクラウド環境を積極的に活用したとのことである。
 ソフトの開発環境をハードウェアに左右されないよう固定化する目的や、様々なソフトウェアを効率的に稼働させるために、仮想化技術(Virtual Machine、Container)を使用した例が数多くあった。

 

 

4. BNLツアー
 会議の最終日にはBNLの施設見学が行われた。ブルックリンから東へ65マイル(100 km)、片道2時間のバスの旅であった。ここでは相対論的重イオン衝突型加速器RHIC、加速器部門(Collider-Accelerator Department: C-AD)、そして放射光施設のNSLS−IIを見学した。
 RHICではSTAR実験の制御室及び検出器を見学した。RHICは稼働から20年で、STAR実験は200 GeV金金衝突および500 GeV偏極陽子陽子衝突の実験を行っている。原子核同士を衝突させることで、ビックバン直後の宇宙に存在していたとされるクォークグルオンプラズマ(QGP)の存在やその物性の解明に向けた研究を進めている。その検出器は図3にもあるとおり巨大なものである。実験開始から20年ということもあり、制御機器はVMEとNIMを中心とした構成で、一部に新しい機器が混在していた。制御室にはWindows 2000が稼働している古いPCもあった。

 

図3 RHIC-STAR実験検出器(左)とC-AD中央制御室(右)。筆者は約20年前にSTARと双璧をなすRHIC-PHENIX実験で博士課程の研究を進めており、BNLは懐かしいものであった。

 

 

 加速器群は、陽子はLINACから、重イオンはTandemまたはEBISから、BoosterとAGSを経由してRHICに入射する。C-ADの中央制御室では稼働から40年になるTandemから最新のEBISまで6つの加速器を一括して制御している。中央制御室は数年前に大幅な改修が行われており、整然としていた。
 NSLS-IIは2014年から稼働している新しい放射光施設で、C-ADとは独立に運転している。図4に写真を示す。ビームラインは約60のうち28ラインが運用を開始しており、そのうちCoherent Hard X-rayのビームラインを見学した。リング内の移動用に自転車が用意されているなど、SPring-8のビームラインと似ている部分が多々見受けられた。また、管理区域外には議論できるスペースなどが十分広く取られている。加速器制御室はコンパクトにまとまっており、少人数でのオペレーションも行いやすい様子であった。

 

図4 NSLS-IIのビームライン(左)と加速器の中央制御室(右)。

 

 

5. おわりに
 次回2021年はSSRF主催で中国・上海において開催予定である。そして次々回2023年は南アフリカ・ケープタウンでの開催が発表された。アフリカ大陸でのICALEPCS会議は初の開催とのことである。
 会議が終了して、帰国便は10月12日に出発の予定であったが、ちょうど日本に台風19号が直撃した日であり、成田・羽田に向かう便は全て欠航、日本からの参加者の多くが影響を受けた。我々も多くが成田か羽田経由伊丹行きの復路で、しかも当日未明に欠航が決まったことからJFK空港でチケット変更の列に並ぶこと10時間。その後、翌朝まで空港のターミナルで過ごし20時間かけて中国経由で関空に到着と、なかなか厳しい帰路であった。空港ターミナルでの一晩のサバイバルは24時間営業のドーナツ屋やフリーの充電スポットの存在、そしてKEKや広島大の仲間がいたことが救いであった。

 

 

 

参考文献
[1] https://icalepcs2019.bnl.gov

 

 

 

清道 明男 KIYOMICHI Akio
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : kiyomichi@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794