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Volume 24, No.4 Pages 414 - 415

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第6回大型実験施設とスーパーコンピュータとの連携利用シンポジウム報告
Report on the 6th Symposium for Cooperative Use of Quantum Beam Facilities and Super Computer

筒井 智嗣 TSUTSUI Satoshi

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 2019年9月17日に東京・秋葉原UDXにおいて、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)及び一般財団法人高度情報科学技術研究機構(RIST)の主催のもとで、「大型実験施設とスーパーコンピュータとの連携利用シンポジウム―物質構造の階層性とフォノン物性の理解―」が開催された。本シンポジウムは、大型実験施設であるSPring-8/SACLA及びJ-PARC、スーパーコンピュータである「京」などの登録機関である上記の3機関で、実験による実証と計算によるシミュレーションの連携利用による新たな利用成果の創出を目的に開催され、今回が6回目となる。今回は、物質の機能発現に関して階層性をテーマとして、下記のプログラムで最先端の研究に関する講演及びパネル・ディスカッションを行った。

・開会挨拶

横溝 英明(CROSS)
雨宮 慶幸(JASRI)

・各施設の紹介

矢橋 牧名(理化学研究所)
金谷 利治(J-PARCセンター)
奥田 基(RIST)

・中性子・X線非弾性散乱実験とデータ駆動科学によるフォノン研究

有馬 孝尚(東京大学)

・放射光・中性子散乱を利用した誘電体の構造・ダイナミクス研究 ― バルク、境界、単一粒子

大和田 謙二(量子科学技術研究開発機構)

・構造材料研究における量子ビームの利用

乾 晴行(京都大学)

・企業におけるスパコン活用と、誘電体材料BaTiO3への取り組み事例紹介

中田 浩弥(京セラ株式会社)

・アルミネート系化合物における新規機能性誘電体の開発

谷口 博基(名古屋大学)

・大規模計算による光電磁場・電子・フォノンの第一原理シミュレーション

矢花 一浩(筑波大学)

・パネル・ディスカッション

「物質機能発現の理解のための成熟した連携利用に向けて」

・閉会挨拶

関 昌弘(RIST)

 

図1 シンポジウム会場の様子

 

 

2. 会議報告
 第1セッションでは、物質構造の階層性を強く意識した放射光X線及び中性子の利用法に関する2件の講演が行われた。1件目の東京大学の有馬孝尚教授による講演では、現在、物質機能の理解として移行運動量とエネルギー空間の4次元空間で議論されているフォノン計測を、将来は実空間と実時間の4次元空間を加えた8次元の計測による物質の機能発現の理解に向けての概念の提唱がなされ、データ駆動科学を利用した実際の計測データとデータ駆動科学の結果予測の比較について現在進行中の研究事例の紹介がなされた。2件目の量子科学技術研究開発機構の大和田謙二氏による講演では、リラクサーと呼ばれる誘電体を中心に物質の階層性を意識した計測と機能発現に関する研究事例が示された。
 第2セッションでは、材料特性や材料設計という観点から2件の講演が行われた。1件目の京都大学の乾晴行教授による講演では、構造材料における塑性変形の理解に向けたプラストンと呼ばれる新しい概念に基づく学理構築に関する研究やハイエントロピー合金と呼ばれる新しい高強度・高靭性材料の研究の最前線に関する研究紹介が行われた。2件目の京セラ株式会社の中田浩弥氏の講演では、チタン酸バリウムの研究例を中心に大型計算機を用いた材料設計に関するソフト開発や動力学解析等を利用した分析に関する研究事例が示された。
 第3セッションでは、光応答・フォノン物性の観点から2件の講演が行われた。1件目の名古屋大学の谷口博基准教授による講演では、物質合成の立場から放射光及び中性子を利用したゼオライト型化合物におけるフォノン物性や、高い誘電性をもつフォトキャパシターを目指した物質の光応答に関する研究事例が示された。2件目の筑波大学の矢花一浩教授による講演では、フォノン計算に関する研究事例の紹介であったが、フォノンでよく議論されるエネルギー分散ではなく、光の時間応答という立場から計算機シミュレーションに基づくフォノンに関する研究事例が示された。
 最後のセッションでは、「物質機能発現の理解のための成熟した連携利用に向けて」と題し、第1セッションの講演者である有馬氏がモデレータを務め、各セッションの講演者である大和田、乾、中田、谷口、矢花の各氏がパネラーとして、パネル・ディスカッションを行った。議論は、
1) 物質創製・分析の立場から量子ビーム・大型計算機の利用に向けて
2) 実験と理論の橋渡しとして
3) プロジェクト研究を進める研究代表として
という3つのテーマでパネラーの各氏から意見をいただき、聴衆からも質問やコメントを受ける形で進めた。施設側を含めてインフラを提供する側の意見としてはどこまでコストをかけ、どのような支援体系を整えるべきかを模索している状況が述べられ、ユーザー側からは利用したい装置や担当者へのアクセスの仕方を含めた利用のための窓口がわかりにくい点が指摘され、双方とも相互利用や新規利用について模索する活発な議論が行われた。

 

 

3. おわりに
 本シンポジウムでは、さまざまな観点から大型実験施設やスーパーコンピュータを利用して物質の機能発現について第一線でご活躍の先生方にご講演をいただいた。各先生方にはパネラーとしてもご発言いただいてパネル・ディスカッションでの活発な議論が展開され、有意義なシンポジウムとなった。前回の熱電材料に比べて少し抽象的なテーマ設定となったものの、参加総数は102名であり、アンケートの結果から9割以上の参加者が満足できるシンポジウムとなったことは本企画に関わったものとしてうれしい限りである。このシンポジウムの企画を通じて、大型施設やスーパーコンピュータの連携利用が発展し、各施設の連携利用によるより多くの成果が創出されることを期待したい。

 

 

 

筒井 智嗣 TSUTSUI Satoshi
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802
e-mail : satoshi@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794