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Volume 24, No.2 Pages 128 - 134

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPRUC第1回BLsアップグレード検討ワークショップ報告
Brief Report of SPRUC 1st Workshop on BLs Upgrade

田中 義人 TANAKA Yoshihito

SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo

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SPring-8 SACLA

 

1. 概要
 SPRUC第1回BLsアップグレード検討ワークショップが、2019年3月25日から26日の2日間、SPring-8普及棟にて開催された。年度末にも関わらず192名の参加者(SPRUC会員85名、施設者104名、招待者・文部科学省3名)で普及棟大講堂が埋めつくされた。以下、プログラムの順番に沿って本ワークショップの様子を報告する。

 

写真1 会場の様子

 

 

2. 初日
 初日は午後から始まった。まず主催者側として、水木純一郎SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長、石川哲也理化学研究所放射光科学研究センター(RSC)センター長、土肥義治高輝度光科学研究センター(JASRI)理事長の挨拶に引き続き、ご来賓の文部科学省研究開発基盤課量子研究推進室の大榊直樹室長補佐から挨拶をいただいた。

 

2.1 SPring-8の現状と展望
 総合セッション1では、まず、「会長からのメッセージ」として、水木会長よりSPRUCの活動方針と具体的なSPring-8アップグレードに向けた取り組み、すなわち、三者懇談やワークショップ等で施設と協働してビームライン(BL)のスクラップ&ビルドやその仕組みについて議論していくことが示された。引き続き、藤原明比古氏(SPRUC庶務幹事)より、「ワークショップ開催に至る経緯と論点の整理」と題して、SPring-8の沿革と施設を取り巻く状況と、それに対応したSPRUCの活動状況が示された。特に、ここ数年のアップグレードに対する取り組みとして、2017年SPring-8シンポジウムでSPring-8の目指す将来、2018年SPring-8シンポジウムでは、動き出した「将来への取り組み」について、岡山大学で開催予定の2019年SPring-8シンポジウムでは、さらに議論を深化させる流れの説明があった。取り巻く環境の重要な2項目として、(1)3 GeV級光源の建設が推進されること、(2)SPring-8の中間評価があったことが挙げられ、本ワークショップでは、施設者側より中間評価やそれに対する取り組み、方針案等についての情報を提供していただくことを目的とする旨が示された。
 これを受けて施設側から、矢橋牧名氏(理研)および田中良太郎氏(JASRI)より、中間評価の概要とそれに対する検討例が示された。矢橋氏からは、中間評価の中でも特にSPring-8に関する今後の重点的な課題および推進方策について、(1)SPring-8、SACLAの政策的位置づけと発展の方向性(2)研究成果の最大化(3)産学官共用(4)人材育成の4点について、ソフトウエア面を中心に説明がなされた。(1)については、海外の6-8 GeV施設のアップグレードや建設の様子(APS-U、ESRF-EBS、PETRA IV、HEPS、USSR-4)と比較しながら、SPring-8のアップグレードについては、ユピキタス・ナノ多次元相関解析、顕微と時分割解析、30-100 keVの高エネルギー領域を意識したものになり、高度化の位置づけとしては、老朽化してきた施設を更新して、運転コストを削減することであること、また、この高度化については、議論が必要な部分と、今すぐにでも始められることに分類でき、前者は加速器を含む全体の高度化で、2024年度以降に1年間くらいのシャットダウンで行われる内容、後者はBLの高度化で、将来へのステップとしてメリットの先取りを行うという位置づけで行うとの話があった。(2)の研究成果の最大化について、専用ビームラインや大口利用者の目的としては、本来ビームタイムをストックすることではなく、使いたい時に使えることが重要であるため、利用料を投入することによって使用できるフロー形態を検討中とのこと。課金制度の検討例として、現在行われている成果専有を対象とした出口での課金に加えて、入口、すなわち、課題選定の段階での課金制度の整備が示された。(3)産学官共用については、SPRUCとSPring-8利用推進協議会の統合と、利用者への利便性を図るべきとのことであった。(4)の人材育成については、施設の高度化やビームラインの改廃等の計画に関連させて、その機会に人材育成するのが効果的であろうとのことであった。SPring-8の多様性をもってして全体として一つに見えるようにするために、集中と分散のバランスが重要とまとめられた。
 また、JASRIとして田中氏より、共用ビームライン改廃の際に必要な評価指標について検討されていることが報告された。この指標について、論文数、課題数に加えて利用料収入、シフト数を解析したところ、これら2つについてはある程度の相関があったとのことである。また利用制度として、先端的技術課題、産業利用のための試行実験課題を行えるよう、2019Aより、それぞれ「先進技術活用による産業応用課題」、「産業利用準備課題」が設けられたことが報告された。人材育成については、人材を生むのは大学で、育成をJASRI等が担うという考えのもとに、連携大学院協定等を積極的に結んでいく方向性が示された。
 引き続き行われた自由討論では、人材育成や産官学連携について、クロスアポイントメント活用の可能性やコーディネーターの重要性、産業利用における評価指標についての困難さについて指摘があった。また、利用料における入口での課金制度について検討されている内容についての質問があった。

 

2.2 ハードウエアの高度化と拓かれる科学
 集合写真撮影と小休憩をはさんで、総合セッション2として、「ハードウエアの高度化と拓かれる科学」と題して、SPring-8のハードウエアを中心とした報告が行われた。まずは、後藤俊治氏(JASRI)より、加速器・光源の高度化計画についてその検討状況の報告があった。加速器は6 GeVで、100 pmrad程度のエミッタンスをもつ5BAのMBAリングが検討されているとのことである。特に低エミッタンスだけ追求するのではなく、安定性、信頼性も売りにしたいとのこと。これらの性能のバランスについては、ESRFのアップグレードの様子を見ながら検討を進めていくとのことである。また、2020年度にはSACLAの加速器からの電子ビームの直接入射を本格運用する予定で進められていることが報告された。光源は、6 GeVに対応させて、従来32 mmであった周期を22 mmに短周期化して長さも4.5 mから3.6 mに変更して実試験を開始したとのことである。光源サイズが、318 µm(H) × 4.9 µm(V)から28 µm(H) × 5.6 µm(V)になることにより、輝度が向上し、スペクトルのプロファイルも変化する。これに対応して、より安定な結晶分光器としてチャンネルカット分光器、ピンクビームを利用できるための多層膜分光器、プリズム型分光器を検討中とのことである。多層膜の分光器については、例えば、Mn/Siであれば、バンド幅1%、W/Cのものは約3.5%が得られるとのことである。会場からは、「ESRFの様子を見ながら」という意味についての質問や、実際の高エネルギーにおけるフラックスについての質問があった。
 続いて櫻井吉晴氏(JASRI)より、ビームライン・エンドステーションの高度化計画についての進め方についての説明があった。対象は共用ビームラインであるが、理研や専用ビームラインに比べてID-BLの割合が小さいのが特徴で問題でもあるようだ。ビームラインを(1)汎用的、(2)先端的、(3)革新的の3つに分類・再定義して検討していることが報告された。例えば、HAXPESについては集約を、非弾性X線散乱については、共用・理研・専用ビームラインの連携による利用機会の拡大を図ることが考えられている。また、SPring-8は産業連携の場として重要であり、実材料電池にCT-XAFSを適用するなど、材料の内部破壊初期過程の研究等を意識していきたいとのこと。高度化の方向性としては、高エネルギーX線利用強化、高フラックス化、自動化、コヒーレンス利用を軸に進めていきたいとのことであった。会場からは、構造と機能との相関を明らかにするPhysicsの重要性が再確認できたとのコメントや、材科分野において、高エネルギーX線利用が今でも必要か、すなわち、ミクロンの解像度でひずみが観測できているのかなど、現状についての質問があった。また、産業利用報告会へのアカデミアの参加が少ないのは何故かなど、産学連携についての難しさのポイントについての質問やコメントがあった。
 次に、初井宇記氏(理研)より、SPring-8発の検出器とその展開についての話があった。次世代光源に対して求められる検出器性能は、高速で高いダイナミックレンジ(高いS/N)をもち、高精細(ピクセル数)でかつ高光子エネルギーも対象とできるものとのこと。SPring-8では、MPCCD、SOPHIAS、間接型ビームモニター、CITIUSが開発・運用されているが、ここでは、特にCITIUSを中心に紹介された。CITIUSは積分型の検出器で、高速(17 kHz)かつ、高いダイナミックレンジ(>30 Mcounts/s/pixel)をもち、サイズ70 µmの20 Mのピクセルにより、32 cm四方の面積をカバーするという高性能なものである。2020年秋ごろより段階的にコミッショニングが行われる計画のようである。エネルギー分解計測もできるなど、実に魅力的だが、一方で、その膨大なデータ量の処理系に対する対策が必至とのことである。生データを吸い上げるのではなく、前置回路による演算モードを利用することによってデータ量を軽減させるなど、対応策が考えられているようである。会場からは、高エネルギーに対する開発についてのコメントを求める質問があった。
 SPRUCの産業利用者からのインプットとして、岸本浩通氏(住友ゴム工業)より、会社内の構造も例にして、問題点や改善点などについての話があった。企業内での本当のニーズは分析部門にあり、開発部門では、個々に分析が行われているが、必ずしも分析が専門ではないため、放射光利用へのハードルは高いと思われるとのことである。施設への要望と並行して、企業側も変わるべき時代になっているのではというコメントであった。すなわち、これからは自前の装置で計測を行うだけではなく、公共の世界最先端の装置で計測することの重要性を指摘された。ポイントとして、トライアルユース等の施策、ビームラインの横断的利用、共同研究の体制構築による産業成果の創出、人材育成における産業界と施設の連携の重要性が示された。共同研究・人材育成については、J-PARCでの例が示された。また、SPRUCとSPring-8利用推進協議会が一緒になることを検討してはどうかという意見があった。
 最後に藤原明比古氏より、研究会からのアンケート結果の概要とそのポイントについて説明があった。アンケートの回答に対し、加速器に関するものとしては、バンチモード、フラックス、8 GeVの可能性などのキーワードが、光学系については、ピンクビームとモノクロビームなどエネルギー分解能に関するもの、基盤については、自動化、極限計測、検出器、データの扱いに関するもの、その他、スタッフ・コーディネーション、研究交流施設についての内容があったとのことである。また、ビームラインの再定義として、汎用・先端・挑戦の3つが考えられているが、汎用であっても先端ビームラインでなくてはならないので、この定義についても十分に相互理解される必要があるとのコメントがあった。

 

 

3. 意見交換会とランプセッション
 意見交換会として、70名以上がSPring-8の食堂に集った(写真2)。高尾正敏氏(SPRUC企画委員長)の司会で、顧問の月原冨武先生(兵庫県立大)、福山秀敏先生(東京理科大)の挨拶で始まった会は、フランクに情報交換をする場となった。

 

写真2 意見交換会

 

 

 再び会場を普及棟に戻し、19時過ぎより始まったランプセッションでは、型破りな自由な雰囲気でのフリーディスカッションが行われた。夜にも関わらず、昼間のセッションとほぼ同じくらいの人数で会場は埋めつくされていて、その関心の高さに驚いた。高尾企画委員長司会のもと、8名の方(原田氏/東大物性研、西原氏/新日鉄住金、河野氏/愛媛大、関山氏/阪大、林氏/豊田中研、和達氏/東大物性研(現兵庫県立大)、田尻氏/JASRI、池本氏/JASRI)のプレゼンテーションと、それに対する質問や意見が終了時間21時間際まで交わされた。施設では、その取扱いの特徴により、軟X線、テンダーX線、硬X線用とビームラインを分類するが、物性科学等の学問分野にとっては、そのような区別に意味はないという発言もあり、当然のこととは思うが、アップグレードやBLポートフォリオを検討しているこの時期に再認識するという意味では大変重要で印象的であった。ここではデリケートな意見交換も多々あり、記録はしにくいが、産業利用についてのコーディネーションの難しさ、人材不足の要因、具体的な分野についてのビームライン再編についての意見、施設の姿勢について等、ランプセッションならではの(?)率直でかつ激しい内容が交わされ、本音が垣間見えた貴重なセッションであった。

 

 

4. 2日目
4.1 計測手法ごとのアップグレード展望
 2日目の午前中は、坂田修身氏(SPRUC副会長)の独特で切れのある司会のもと、施設での計測手法ごとの検討状況報告と意見交換が行われた。まず、櫻井氏により、BL検討会についての説明があり、BLポートフォリオ、スクラップ&ビルドのたたき台を作成し、中期的なBL高度化を検討したとのことである。ただし、検討対象のビームラインとしては、「汎用・先端」ビームラインで、「挑戦」は除外したとのこと。また、検討分野としては、分光、イメージング・SAXS、回折・散乱の3つであり、それ以外の分野は今回対象外とのことであった。ここでも坂田副会長より、「それ以外」の分野の方からのインプットも重要とのことで、施設に対する要望等意見が促された。
 鈴木基寛氏(JASRI)より、分光BLについての検討状況が示された。分光関連のビームラインとしては、X線分光実験、XAFS、HAXPESの3つに分類できるが、今回は、XAFSとHAXPESに絞って検討を行ったとのことである。Real system(汚い系)、Real process(一過性)、Real condition(in situ、オペランド)を扱えるものが先端ビームラインと考えているとのこと。現在、共用のXAFS-BLとしては、汎用XAFS-BLが3本、先端XAFS-BLが2本あるが、これを再編成して、汎用1本、先端3.5本にすることを検討したとのことである。汎用BLはベンディング(BM)-BLを想定し、高スループットで複合解析ができるBLである。一方、先端BLの1つ目は、QXAFSやDXAFSが行えて、高い時間分解能での計測が可能なBLであり、BL36XUがモデルである。テーパーアンジュレータを光源とし、ピンクビームを扱えるのが特徴である。需要も考えて、さらに1本をイメージングBLとの相乗りで設定を考える。2つ目は、顕微分光もできるBLで、現在のBL37XUに対応する。走査型、投影型、結像型全てが想定されている。もう1本は高エネルギー分解能で発光、吸収分光測定が行えるBLであり、現在のBL39XUがそのモデルである。磁気分光を主な対象とし、4d遷移金属をカバーする3-20 keVの範囲の光子エネルギーが利用できるようにする。一方、HAXPESについての調査では、SPring-8全体で関連BLは8本もあるものの、全てが相乗りであり、利用率は高いがリソースが分散しているという特徴をもつことが判った。共用ビームラインとしては現在BL09XUとBL47XUがある。アップグレードの方向性として、1本目は、学術利用を指向したHAXPES-BLで、実験ステーション3つから成り、ステーションの3つ目は、ユーザー持ち込み装置用とする。2本目は、産業利用に特化したHAXPES-BLで、試料環境を重視し、エネルギー範囲も3-20 keVを網羅するBLとすることが検討されている。また、SPring-8が高エネルギーX線利用を特徴とする意味で、新たに検討されている手法として、高エネルギーラマン散乱によるXAFSが紹介された。新規の計測法として、詳細検討の余地はあるものの、たいへん魅力的でインパクトのある提案であった。質疑応答では、テーパーアンジュレータのもつスペクトルの空間分布の問題(PETRA III)や、複数の波長の同時利用(SOLEIL)についてコメントや要望があったり、テンダー領域の話が多いのではという指摘があったりと、とても活発であった。また、HAXPESでは溶液を対象とした計測では、膜を薄くする必要があり、解決策として、アナライザー開発の必要性に加えて、高エネルギービームの利用を検討してもよいのではとの意見もあった。産業界からも微細領域を大面積で観測したいので、大いに期待しているとのコメントがあった。
 続いて、上杉健太朗氏(JASRI)により、イメージング実験の現状と今後についての分析・検討状況の報告があった。現状では、BL20XU、BL20B2、BL28B2、BL47XU、BL29XUで種々の測定法との組み合わせで各々のBLで行われているとのこと。空間分解能は、100 nmから50 µm、時間分解能は1 msから1 min、FZPを用いたナノCTでのエネルギー範囲は6-30 keV、検出器の分解能で行うマイクロCTでは7-60 keVで行われている。最近の動向としては、CT測定での動的観測が増加傾向にあり、材料系の研究が増加しているとのこと。100 keV、200 keVの高エネルギーCTもニーズがあるようだ。また最近では、タイコグラフィーによる大面積イメージングやKB集光によるサブミクロンでのXAFSなども行われるようになったとのこと、さらには、縦横集光を駆使して、位相差分と吸収を同時に取得できる手法の紹介もあった。引き続き、増永啓康氏(JASRI)より小角散乱分野のBLの現状と今後についての報告がなされた。小角散乱は、物質・材料系、生命科学系に関わらず広く用いられており、SPring-8でも約12本のBLで実施されている。20年前は、均一系を対象とした精密構造評価が中心だったが、10年ほど前から、検出器性能の向上で複雑系を対象とした計測が盛んに行われるようになった。海外と比較すると、コヒーレンスを活かした計測、すなわち、コヒーレント系の小角散乱で、特に溶液に特化した実験において遅れをとっている印象があるとのこと。SPring-8としては、装置を持ち込める大きなハッチを用意して、30 keV以上のエネルギーで高フラックスビームを用いた計測や、XPCSを現状の秒オーダーの計測から、マイクロ秒の計測を推進したいとのことである。必要なBLとして、先端ID-BL2本、汎用BM-BL2本、中広角用BL1本を適当として検討が進められているようだ。質疑応答でも、材料の破壊過程に必要な分解能についての質問や、60-100 keVの高エネルギーX線での電池のイメージングの可能性などについて活発な質問があった。イメージングについては、特に高エネルギーX線を利用した材料科学への応用が強く期待されている印象をもった。
 このセッションの最後に今井康彦氏(JASRI)により、回折・散乱BLの検討状況の報告がなされた。利用ニーズ・測定手法項目としては、時間分解、空間分解、試料環境、高スループットが挙げられるとのこと。現状では関連BLは23本あり、単結晶回折、粉末回折、高圧環境、PDF解析、時分割、トポグラフィー等が行われている。アップグレード案と利用モデルとして、BL02B1とBL40XUの特徴、すなわち高エネルギーと高フラックスを併せ持つアンジュレータビームラインにて、8-60 keVの範囲で、自動化も取り入れて高時間分解能で微小単結晶の解析を対象とするBLを検討中とのこと。また、粉末構造解析のBLでもキャピラリへの試料詰めの工程を自動化すること、大容量プレス高圧計測白色BLを高エネルギーアンジュレータBLに移行すること、全散乱PDF解析を、高エネルギー単色X線の計測とピンクビームで行えるようにして、非晶質の迅速解析を目指す計画が検討されているようだ。質疑応答では、多くの研究会から意見が出された。高圧BLやオペランド測定では、大きな作動距離をもつ集光系が必要であることが指摘された。核共鳴散乱については、バンチ構造について配慮して欲しいとの要望があったが、これに対し、施設からは、輝度とのトレードオフで時間構造は設定可能とのことであった。APSではバンチモードが選べないとの情報から、むしろ差別化してSPring-8ではセベラルバンチが設定できることも重視されているようだ。また、将来的な利用として、高エネルギーでの偏光利用やtwo-colorによる複合測定などについての要望もあった。

 

4.2 放射光科学とインフォマティクス
 午後は、放射光科学とインフォマティクスと題したセッションが行われた。まず、水木SPRUC会長から、「放射光科学におけるインフォマティクスへの期待」と題して、SPRUCとしても現在分野融合で行っている課題に加えて、マテリアルズインフォマティクス、すなわち、物性理論、放射光実験、計算科学、情報科学の融合できる分野も検討したいとのことであった。スパースモデリングやベイズ的機械学習によって、高次元データの背後に潜むルールや法則が抽出できる、すなわち、データマイニングに期待したいとのこと、さらには、これらインフォマティクスを介して、XFELとも融合できるのではとの話があった。
 招待講演として、石井信氏(京都大学)による「計測と情報科学の融合による新しいサイエンスの展望」と題した講演があった。講演では、最初に統計的画像処理について、順光学と逆光学を例に統計的推定とは何かということの説明、ならびに、ベイズ超画像、ベイズCTの紹介があった。また深層学習と微分同相変形法が統合した手法が、ヒトの核磁気共鳴図でのセグメンテーションに活用されている例が紹介された。マテリアルズインフォマティクスにおけるベイズ計測については、スペクトル分解を例に、ベイズ的モデル選択を行うことにより、ピーク数を推定しながら決定していく過程が示された。最後に、機械学習等は内挿型であり、外挿型の研究はまだこれからであること、攻撃型(機械学習、AI)と防御型(統計科学)の研究者がバランスよく推し進めていくことが望ましいと締めくくられた。なお、計測科学、自然科学と、情報科学、手法科学との融合によるインフォマティクスの世界に関わるのには決死の覚悟が必要のようだ。
 続いて、実際にインフォマティクスにチャレンジされている水牧仁一朗氏(JASRI)による「データ駆動科学を活用した放射光計測データの解釈」と題した講演が行われた。情報科学と融合することによって、間接測定される物理量の精度評価や、理論研究へのフィードバックを行うことが目標とのことである。X線光電子分光スペクトルの解析を例に、ハミルトニアンを自動選択して、物理量パラメータを自動チューニングさせることにより、有効な模型を知ることができる過程の説明と、これにより、ハミルトニアンを選択でき、物理量を誤差付きで評価できたとの報告があった。計算科学、データ科学、理論、実験のそれぞれの特徴や役割、すなわち、演繹的、帰納的、仮定・推論、検証を意識して、研究を推進することの重要性に触れられた。
 このセッション最後は、城地保昌氏(JASRI/理研)により、「DAQインフラの整備と展望」と題してSPring-8におけるデータの取り扱いについての計画や見通しについての話があった。開発中の検出器CITIUSを例にとって、これから取り扱うデータ量が膨大になっていくことが示された。ある意味先行して実施されているSACLAでのデータの取り扱い方、すなわち、ネットワークはDAQ-LAN、DAQ-USER-LAN、HPC-LANで構成され、計算機システム上のAPIにてHDF5形式でデータの受け渡しができるようになっていること、また、SACLAでのデータ量は6 Gbpsに相当するものであり、データ管理期限を3年とするなど、現在の運用方法が紹介された。これらを鑑みて、SPring-8でのデータ管理方法についても、ユーザーが生データを個々に持ち帰る現行方法には限界があるため、施設としてデータを管理し、利活用できるインフラを整備する方向で進めることを検討されているようだ。そのために、ネットワーク基盤、データ収集基盤、管理基盤、解析基盤を構築し、ユーザーが個別のアプリケーションソフトで解析も可能な環境の構築が検討・準備されている。既にSPring-8内でデータ中継点や解析インフラの整備に向けた試験が行われているとのことである。今後、データポリシーの策定に向けても情報が開示されていく予定のようだ。
 最後のラップアップセッションでは、本間穂高氏(SPRUC副会長)の司会のもと、SPRUC顧問の先生方よりコメントをいただいた。松井先生からは、もう一度、SPring-8シンポジウムの機会に大学と企業・産業界との交流を深めるような企画をしてはどうかとの提案があった。月原先生からは、若手研究者の育成についての状況と原因についてのコメントをいただいた。福山先生からは、何のためのアップグレードかを考え、問題点を浮き彫りにし、それを克服するためのBL検討会を行うことの重要性と、放射光に限らず情報交換をするプラットホームが大切であるとのコメントをいただいた。最後に、水木会長より、今後ともアップグレード計画については、ユーザーも施設と一緒に考えていきたいとのこと。今後のより一層の協力を求められ、本ワークショップはお開きとなった。

 

 

5. おわりに
 今回のワークショップは、施設からの情報を提供していただく機会という位置づけで行われ、かなり多くの情報を受け取ることができた。年度末の忙しい中、施設側の準備に心より感謝したい。アップグレードの方向性については、低エミッタンスよりも、高エネルギーX線利用の方に印象づけられた感がある。また、具体性のある検討状況や準備内容についても開示していただけた。今後SPRUCとしても施設と密に情報交換をしながら、将来の良きアップグレードに貢献できるよう、知恵を絞って要望や意見を出していこうという雰囲気が感じられた。次のSPring-8シンポジウムに繋がることを期待しつつ。

 

写真3 集合写真

 

 

プログラム

3月25日(月)
13:00-13:15 開会式(主催者挨拶、文科省からの来賓ご挨拶)
【総合セッション1】SPring-8の現状と展望(司会:田中行事幹事)
13:15-13:50 <今後に向けたSPRUCの役割>
1. 会長からのメッセージ(水木会長)
2. 経緯と論点整理(SP8シンポ2018PDモデレータ 藤原庶務幹事)
13:50-14:20 <SPring-8施設の現状と課題>
1. SPring-8中間評価の概要(理研 矢橋牧名・JASRI 田中良太郎)
14:20-14:45 <BL再定義、アップグレードにむけた施設と利用者の相互理解>
1. SPRUC、SPring-8の状況を踏まえた自由討論
14:45-15:00 休憩
【総合セッション2】ハードウエアの高度化と拓かれる科学(司会:藤原庶務幹事)
15:00-17:00 <SPring-8のハードウエアとサイエンス>
1. 加速器・光源の高度化計画(JASRI 後藤俊治)
2. ビームライン・エンドステーションの高度化計画(JASRI 櫻井吉晴)
3. SPring-8発の検出器とその展開(理研 初井宇記)
4. SPRUCの産業利用者からのインプット(住友ゴム工業 岸本浩通)
5. 研究会からのアンケート結果の概要と自由討論
17:00-17:30 チェックイン・休憩
17:30-19:00 <意見交換会(有料)>(食堂)
【ランプセッション】フリーディスカッション(司会:高尾企画委員長)
19:15-21:00 1. 産業界や専用施設からの自由な発言など

 

3月26日(火)
【計測手法ごとのアップグレード展望】(司会:坂田副会長)
09:00-10:00 <分光>
1. 施設での検討状況(JASRI 鈴木基寛)
2. 自由討論(研究会からの提案含)
10:00-11:00 <イメージング・SAXS>
1. 施設での検討状況(JASRI 上杉健太朗・増永啓康)
2. 自由討論(研究会からの提案含)
11:00-12:00 <回折・散乱>
1. 施設での検討状況(JASRI 今井康彦)
2. 自由討論(研究会からの提案含)
12:00-13:00 昼食休憩
【放射光科学とインフォマティクス】(司会:原田利用幹事)
13:00-13:10 放射光科学におけるインフォマティクスへの期待(水木会長)
13:10-14:00 招待講演:計測と情報科学の融合による新しいサイエンスの展望(京都大学 石井信)
14:00-14:30 データ駆動科学を活用した放射光計測データの解釈(JASRI 水牧仁一朗)
14:30-14:55 DAQインフラの整備と展望(JASRI/理研 城地保昌)
【ラップアップ】(司会:本間副会長)
14:55-15:10 1. 顧問からのコメント
2. まとめと研究会への依頼(水木会長)

 

 

 

田中 義人 TANAKA Yoshihito
兵庫県立大学 大学院物質理学研究科
〒678-1297 兵庫県赤穂郡上郡町光都3-2-1
TEL : 0791-58-0139
e-mail : tanaka@sci.u-hyogo.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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