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Volume 24, No.2 Pages 228 - 232

4. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS

欧州放射光施設訪問(Diamond Light Source・ESRF・MAX IV・SOLEIL)
Visiting Report on Synchrotron Radiation Facilities in Europe

小金澤 智之 KOGANEZAWA Tomoyuki[1]、仙波 泰徳 SENBA Yasunori[2]

[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門 Light Source Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 2019年2月中旬から3月上旬にかけて、欧州放射光施設4ヵ所(Diamond Light Source、ESRF、MAX IV、SOLEIL)を訪問する機会を得た。各施設の受入れ担当者には筆者らの見学希望(光学系の計測ラボ、超高分解能軟X線ビームライン、ナノ集光ビームライン、産業利用の状況、X線回折・散乱ビームラインなど)を事前に伝え、訪問スケジュールをアレンジしていただいた。本稿では今回見学させていただいた施設やビームラインについて報告する。

 

 

2. Diamond Light Source
 Diamond Light Source[1][1] https://www.diamond.ac.uk/Home.html(以下、Diamond)は、イギリス・ロンドンの西80 km程にあり、ロンドン・ヒースロー空港から電車とバスを乗り継ぎ、2時間程度の距離である。Diamondはハーウェル・サイエンス・アンド・イノベーション・キャンパス[2][2] https://www.harwellcampus.com/内にあり、このキャンパスにはISIS中性子施設や欧州宇宙機構、企業研究所など約240の組織があるリサーチコンプレックスとなっている。またオックスフォード大学からも近い。
 Diamondは、Daresbury研究所の第2世代光源SRSの後継機として建設された第3世代の3 GeV光源(周長562 m)で2007年に利用が開始されている。建設は現在Phase IIIまで進められており、コミッショニング中のものを含めてビームライン数は33本で全て共用である。電子エネルギー変更(3 → 3.5 GeV)を伴うラティスのMBA(Multi-Bend Achromat)化による第4世代光源へのアップグレード計画を検討中である。
 訪問に際しては、SPring-8のビームライン担当のご経験のある井上勝晶博士と荒木暢博士に受入れをお願いし、以下の訪問スケジュールを組んでいただいた。

○2/18(Mon) PM

・施設全体見学

・Discussion with Drs. K. Inoue and T. Araki

○2/19(Tue) AM

・I07 (Surface and Interface Diffraction)

Dr. F. Carla

・I08 (Scanning X-ray Microscopy)

Dr. T. Araki

・B21 (Solution State SAXS)

Dr. K. Inoue

○2/19(Tue) PM

・I12 (Joint Engineering, Environmental and Processing (JEEP))

Dr. T. Connolly

・I14 (Hard X-Ray Nanoprobe)

Dr. J. Parker

・B16 (Test Beamline)

Dr. J. Sutter

・Discussion with Dr. K. Inoue

 

 今回訪問した他施設にも共通しているが、液体窒素供給ラインが整備されているため光学素子冷却用の液体窒素冷凍機はなく、また輸送系の真空はイオンポンプで維持されているためターボ分子ポンプやバックポンプは停止しており、実験ホール内はSPring-8と比べて非常に“静か”だった。また、各ビームラインに関連するものは全てキャビンと呼ばれる小部屋に収納されており、実験ホール内で目に入るのはそのキャビンと遮蔽ハッチ、いくつかの装置だけで非常にシンプルで整理整頓されていた。ユーザーは各ビームラインにあるキャビン内で実験を行い制御ラックなども専用のキャビンに収納されており、SPring-8のようなデスクや椅子、制御PCやラックなどは目に入らない。遮蔽ハッチが必要とされない軟X線ビームラインでも同様で、光学コンポーネントや実験装置など全てキャビンに収納されていた。ハッチやキャビンで実験ホールから隔離することにより、それぞれ必要とされる温度管理や清浄度、静粛性を実現しているようだ。いくつかの実験ハッチやキャビンでは土足禁止とすることで清浄度の保持にも努めていた。また、長尺のナノ集光ビームライン(別棟)では温度や湿度変動の低減、吸音を目的として実験ハッチがコンクリート製であった。また床を厚いコンクリートとすることで振動低減が図られていた。それぞれのビームラインで、必要とされる環境(振動レベルや清浄度、温度安定性など)を満足するよう対策されている印象であった。
 Diamondでは5台のクライオ電子顕微鏡が共用装置として導入されており、英国全体でも約60台(各大学へ配備)の導入が計画されているとのことで、国を挙げて構造生物学に注力している様子が窺えた。
 産業利用はIndustrial Liaisonが担当しており、Beamtime Only、Remote Access、Mail-in Data Collection、Full Service、Collaborationとサービスの種類は豊富である。これまで日本を含めた17ヵ国約135社の利用があり、その内約75%が製薬会社(タンパク質構造解析)である。

 

図1 DiamondのI08のキャビン内風景。正面の扉の向こうがエンドステーション、右が実験ホールへの扉。

 

 

3. ESRF
 ESRF(European Synchrotron Radiation Facility)[3][3] https://www.esrf.eu/は、フランス南東部に位置するグルノーブル郊外にある。リヨン・サンテグジュペリ国際空港からグルノーブル駅までバスで約1時間、グルノーブル駅からESRFまではトラムで10分程度の距離である。雪化粧した岩山とイザール川に囲まれた風光明媚な場所である。ESRFはEuropean Photon & Neutron Science Campus[4][4] http://www.epn-campus.eu/内にあり、キャンパスにはESRFのほかにEMBL(European Molecular Biology Laboratory)、ILL(Institut Laue-Langevin)などの研究所がある。
 ESRFは1994年に利用が開始された初めての第3世代6 GeV光源(周長844 m)である。2018年12月より低エミッタンス(150 pm・rad)光源ESRF-EBS(Extremely Brilliant Source)へ向けたアップグレードが行われており、2019年12月には加速器のコミッショニングが、2020年にはユーザー利用が開始される予定である。
 訪問に際してはX-ray OpticsグループのグループリーダーであるRaymond Barrett博士に受入れをお願いし、以下の訪問スケジュールを組んでいただいた。

○2/21(Thu) AM

・X-ray Optics Group Labs (Multilayer Lab, Crystal Lab, Crystal Analyzer Lab) + BM05

Dr. R. Barrett

○2/21(Thu) PM

・Seminar (Senba, Koganezawa)

・General Discussion

・ID32 (Soft X-ray Spectroscopy)

Dr. K. Kummer

・ID01 (Microdiffraction Imaging)

Dr. S. Leake

・ID02 (Time-Resolved Ultra Small-Angle X-ray Scattering)

Dr. N. Theyencheri

・ID10 (Soft Interfaces and Coherent Scattering Beamline)

Dr. O. Konovalov

○2/22(Fri) AM

・X-ray Optics Group Labs (Mirror and Metrology Lab)

Dr. A. Vivo

・Discussion with C. Pazos (Business Development Office, Marketing Officer)

・ID16B (Nano-Analysis Beamline)

Dr. J. Segura

 

 現在まさにEBSへ向けたダークタイム中で、蓄積リングの撤去作業は予定通り進んでおり訪問時には全32セル中6セルを残すのみであった。全部門のテクニシャンが招集されてこの作業に当たっているそうだ。ビームラインサイエンティストはこのダークタイム中には装置の改修のほか他施設での実験、サバティカルを行っているそうだ。もちろん実験ホールにユーザーの姿はなかったが、拡張ホールにはインストールを待つ磁石列がずらりと並び壮観な眺めであった。この拡張ホールにはEBS化の後に新設ビームラインが2本建設される予定である。
 EBSに合わせて建設されたナノ分析ビームラインは実験ハッチが別の建物となる長尺ビームラインで敷地の端ぎりぎりに立地しており、すぐ隣を高速道路が通っていた。車の振動など、高周波数成分に対しては床の分厚いコンクリートや石架台の採用などで対応し、低周波数成分(ESRFは川の中州にあり水位の変位による影響もあるとのこと)に関しては、高精度傾斜計を用いたフィードバックで対応するそうだ。
 産業利用はBusiness Development Officeが担当している。この部署にはScientific StaffとAdministration以外にMarketingを担当しているスタッフと学生がおり、彼らは研究者や技術者ではなく、大学でMarketingを専門としていたそうである。ミーティングやワークショップなどの企画や学会や展示会でのブース、企業訪問などを担当している。

 

図2 ESRFの拡張ホール内でインストールを待つアライメント済み磁石列。

 

 

4. MAX IV
 MAX IV[5][5] https://www.maxiv.lu.se/は、スウェーデン南部に位置するルンド市郊外にある。アクセスは隣国デンマーク王国のコペンハーゲン空港からが良く、コペンハーゲン空港からルンド市駅までは電車で約40分、駅からMAX IVまではバスで15分程度の距離である。近くにはルンド大学、Ideon Science Park[6][6] https://ideon.se/(ルンド大学と市で運営されているサイエンスパーク、約400の企業)、建設中のESS(European Spallation Source、中性子施設)がある。またMAX IVとESSを中心とするScience Village Scandinavia[7][7] https://sciencevillage.com/en/建設が進行中で、2023年に完成予定である。訪問時にはルンド駅からESSまでのトラムも建設中であり、おそらくこの先数年で研究都市として様変わりするのであろう。MAX IVはルンド大学内のMAX IV Laboratoryという位置づけで、スタッフは大学の職員である。
 MAX IVはMAX LaboratoryのMAX IIIの後継機として建設された世界初の第4世代リングであり、2016年に利用が開始された。Linac、1.5 GeVリング(R1)、3 GeVリング(R3)からなり、7BA(Seven Bend Achromat)の3 GeVリング(周長528 m)では低エミッタンス330 pm・radが達成されている。
 訪問に際してはSPring-8にも在籍されていた徳島高博士に受入れをお願いし、以下の訪問スケジュールを組んでいただいた。

○2/25(Mon) AM

・Seminar (Senba, Koganezawa)

・Round tour of MAX IV

Dr. T. Tokushima

○2/25(Mon) PM

・Meetings with Industrial Relations Office

・Veritas (RIXS, open port branch)

Dr. C. Sathe

○2/26(Tue) AM

・Bloch (high resolution photoelectron spectroscopy)

Dr. B. Thiagarajan

・NanoMAX (hard X-ray nanoprobe)

Dr. S. Kalbfleisch

・収納部など見学

Dr. T. Tokushima

 

 2つのリングR1、R3ともに偏向磁石ビームラインはなく全て挿入光源ビームラインで、R1では5本がコミッショニング中、R3では3本が供用開始され2本がコミッショニング中、建設中が5本という状況であった。訪問時の蓄積電流は250 mA(設計値500 mA)で30分ごとにTop-up入射されていた。ビームライン、加速器ともに立上げ、調整が予定より遅れている模様である。
 MAX IVは粘土質の地盤の上に建設されているが、施設全体が一体の厚いコンクリート上に建設されており、あたかも海に浮かぶ船内のように光源、光学系、実験装置の相対的な位置が変わらない。さらに、MAX IVの外観のイラストや航空写真で目を引く施設周辺に放射状にデザインされた築山も単なる飾りではなく周辺から伝わってくる振動を拡散してくれる振動対策の一つとのことである。また、実験ホールの床は全周にわたりSACLA加速器の床と同様の研磨されたコンクリートとなっている。これは振動対策およびエアパッドによる容易な機器移動のためである。実験ホールの空調吹き出し口は温度ムラや局所的な風を防ぐために布製ダクトを採用している。さらには、様々な機器を収納する制御ラックにそれぞれ水冷のクーラーが装備されており、実験ホール内に可能な限り放熱させないよう考えられていた。こういった振動対策や恒温化には施設全体で共通に取り組まれているようだ。
 産業利用関係ではIndustrial Relations OfficeのDr. M. Larsson(Head of Industrial Relations)とDr. S. Maric(Industrial Relations Officer)と議論する時間をいただいた。現在のところIndustrial Relations Officeのスタッフはこの2人であり、まだ稼働中のビームラインも少ないことから活動を模索中のようであった。スウェーデンでは林業・製鉄業・製薬・食品の企業が多く、これらの企業が使いに来てくれるのはどういう分析手法を提供すれば良いか?と質問を受けた。製鉄業や食品分野はSPring-8でも分野拡大を図ってきた業種であり今後も情報交換を図っていきたい。稼働ビームラインが増加し、周辺が研究都市として整備されれば自ずと産業利用が増加することが予想できる。

 

図3 MAX IV実験ホールの研磨されたコンクリート床と天井の布製空調吹き出しダクト。

 

 

5. SOLEIL
 SOLEIL[8][8] https://www.synchrotron-soleil.fr/enは、フランス・パリの南西約20 kmに位置し、パリ中心部から電車とバスで約50分の距離である。SOLEILはフランス国立科学研究センター(CNRS)とフランス原子力庁(CEA)により設立されたPublic Company、“Synchrotron SOLEIL”により運営されており、職員数は約350人である。
 SOLEILはDiamondとほぼ同時期に建設された第3世代2.75 GeV光源(周長354 m)で2008年に利用が開始された。ビームラインは全て共用で、現在は29本(新設4本を含む)が利用されている。MBA化による第4世代光源へのアップグレード計画も検討されている。
 訪問に際してはResearch Director-Life SciencesであるAndrew Thompson博士に受入れをお願いし、以下の訪問スケジュールを組んでいただいた。

○2/28(Thu) AM

・Optics Lab

Dr. F. Polack

・Metrology

Dr. P. Da Silva

・Pleiades

Dr. J. Bozek

・Nanoscopium

Dr. A. Somogyi

○2/28(Thu) PM

・Sirius

Dr. P. Fontaine

・Diffabs

Dr. D. Thiaudiere

・Discussion with Dr. A. Thompson and Dr. H. Chevreau (Industrial Liaison)

 

 当初は2日間の訪問を希望していたが、訪問希望期間がスクールホリデー期間中の週末であったため、対応していただける職員が限られるということで1日の訪問となった。施設訪問の際には、祝日やスクールホリデーに注意が必要である(フランスのスクールホリデーは国内を3つのゾーンに分けて日程が少しずつずれている)。
 前身のSuper-ACO(LURE)からの流れだと思われるが、VUV/SX領域の分光ビームラインが全体の約1/3を占めている。他施設と比べて若干低い電子エネルギーがVUV/SXとHXのどちらもカバーすることを可能としている。より高エネルギーのHXを利用したい場合は同じフランス国内にESRFが利用可能なため、エネルギーによるすみわけもできている。全てのビームラインは共用で、ユーザータイムの配分はAcademic use:65%、In-house & Maintenance:20%、Industry use:10%、Rapid Access:5%と一律に決められている。内部枠やユーザーがつかなかった時間に関してはビームラインサイエンティストが差配することができるそうだ。
 産業利用はIndustrial Relations Officeが担当している。前述した各ビームラインIndustry use枠10%の上限は、タンパク質構造解析ビームラインの2本を含め、約半数のビームラインで上限近くまで達しており企業利用は順調に増加しているようである。また有料のオプションであるが測定だけでなく、データ処理・解析・報告書作成などのサービスも提供している。

 

図4 採光用の窓で明るいSOLEILの実験ホール。遮蔽ハッチとキャビンが並んでいる。

 

 

6. おわりに
 今回訪問した欧州放射光施設4ヵ所について特に印象に残ったことを紹介させていただいた。紙面の都合上紹介できなかったことも多いがお許しいただきたい。今回の訪問は平成30年度「研究活動強化・事業推進経費」で実施されました。このような貴重な機会を与えていただきました関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
 訪問にあたってはDiamondの井上勝晶博士と荒木暢博士、ESRFのRaymond Barrett博士、MAX IVの徳島高博士、SOLEILのAndrew Thompson博士に各施設の見学をアレンジしていただきました。ご多忙の中でご対応いただき感謝いたします。

 

 

 

参考文献
[1] https://www.diamond.ac.uk/Home.html
[2] https://www.harwellcampus.com/
[3] https://www.esrf.eu/
[4] http://www.epn-campus.eu/
[5] https://www.maxiv.lu.se/
[6] https://ideon.se/
[7] https://sciencevillage.com/en/
[8] https://www.synchrotron-soleil.fr/en

 

 

 

小金澤 智之 KOGANEZAWA Tomoyuki
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用推進室
旧:(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0802 ext 3377
e-mail : koganeza@spring8.or.jp

 

仙波 泰徳 SENBA Yasunori
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : ysenba@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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