Volume 24, No.2 Page 173
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2014年度指定パートナーユーザー事後評価報告 – 2 –
Post-Project Review of Partner Users Designated in FY2014 -2-
パートナーユーザー制度は、SPring-8の共同利用ビームラインの更なる高度化および優れた成果の創出を推進するために、2014年度より運用しています。パートナーユーザー(以下「PU」という)は、公募・審査を経て指定されます。
PUの事後評価は、PU審査委員会において、あらかじめ提出されたPU活動終了報告書に基づいたPUによる発表と質疑応答により行われます。事後評価の着目点は、PUとしての(1)目標達成度、(2)活動成果(装置整備・高度化への協力、科学技術的価値および波及効果、ユーザー開拓および支援、情報発信)です。今回は、2014年度指定のPU1名(指定期間:2014年4月1日から2018年3月31日まで)について、事後評価(2018年12月4日開催)を行いました。
以下にPU審査委員会がとりまとめた評価結果等を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」にPUによる紹介記事を掲載しています。
1. 白土 優(大阪大学)
(1)実施内容
研究テーマ:スピントロニクスデバイスを基盤としたナノ計測技術の開発と物質・材料研究への展開
高度化:軟X線ナノビームラインの整備と先導的活用
利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援
(2)ビームライン:BL25SU
(3)評価コメント
本PU申請テーマは、軟X線ナノビームの生成、それを利用したXMCD計測技術の開発、スピントロニクス材料への応用を目標としたもの、すなわち磁性材料を対象とした物性や構造を局所的にとらえて可視化する技術を確立し、それをスピントロニクス分野に新展開をもたらすものであった。これらを通して、BL25SUを広く材料科学・物質科学に適用可能な計測プラットフォームとして整備することも目標とした。また、BLコミッショニングから発足したPUであり、そのためBL建設、立ち上げに多大の寄与があったことを初めに評価しておく。
軟X線ナノビームを利用した計測システムの開発としては、測定試料の高精度ポジショニングシステムの構築、磁場、電場などの外場印加下や低温下、温度変化に対応できるスキャニング技術を伴ったXMCD測定技術、50 nm径のナノビーム化とその利用技術の構築などである。これらの技術開発は、ほぼ満足のいく程度にまで完成した。これらは、本PUがBL担当者と緊密な協力関係を構築していったことが成果に結びついたものと評価できる。
開発された計測技術を利用した研究成果として、垂直交換バイアス機構解明、電気磁気効果として電界誘起反強磁性ドメイン反転の観測とその可視化、電界誘起反強磁性磁壁ダイナミックスの観測、ビットパターンメディア反転時分布の観測などが特出される。しかし、申請書の中で元素選択スピンダイナミックスの観測が計画されていたが、このテーマに関しては未達成である。ドメイン反転移動の観測に成功はしているが、これは時分割測定ではなく、申請者の今後の研究発展の中で上記ダイナミックス測定技術の開発と、それを利用した元素選択スピンダイナミックス観測の成功を期待したい。
本PUによって開発された測定技術は、外部ユーザーにも開放されており、新しいユーザー開拓にも十分な成果が見られる。
これらのことから、本PUは十分な成果を創出したと高く評価される。