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Volume 24, No.2 Page 146

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告4 −分光分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – Spectroscopy –

溝川 貴司 MIZOKAWA Takashi

SPring-8利用研究課題審査委員会 分光分科会主査/早稲田大学 先進理工学部 School of Advanced Science and Engineering, Waseda University

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SPring-8

 

 平成29および30年度のSPring-8利用研究課題審査委員会(PRC)におきまして、分光分科会のS3の主査を務めさせていただきました。任期中には2017B、2018A、2018B、2019Aの各期にS1とS3の合同で分科会が開催され、一般課題のシフト配分の作業に従事いたしました。S1は光電子分光物性、赤外物性、光化学、S3は磁気円二色性(MCD)という分類になっておりますが、特に軟X線ビームラインでは光電子分光とMCDの課題が混在しますので、S1とS3が合同で作業することは必須です。分光分科会ではS1分科主査の横谷尚睦先生(岡山大学)、委員の関山明先生(大阪大学)、松田巌先生(東京大学物性研究所)、為則雄祐先生(JASRI)、池本夕佳先生(JASRI)には大変お世話になりまして、この場をお借りして深く御礼申し上げます。また、各分科会での議論を受けて、全ての分科の主査が集って開催されるPRCでは、他分科の課題申請の動向や問題点について拝聴することができて大変勉強になりました。
 分光分科では、硬X線光電子分光の申請課題に対して配分可能なシフト数が大幅に不足する状況が慢性的に続いております。また、軟X線領域では、スピン物性・トポロジカル物性研究の隆盛によって角度分解光電子分光およびXMCDの課題数が増加しており、BL25SUのビームタイム獲得競争が激化しています。さらに2019A期では、BL43IRの赤外分光でも優れた課題にビームタイムが配分できないという状況でした。競争が激しすぎる場合、採択されれば着実な研究成果が期待できる平均的な課題が排除されてしまい、論文数の減少につながる恐れがあります。一方で、激しい競争下でも採択され得る挑戦的な課題は、必ずしも成果が論文の形で発表されるに至らない場合もあるのではないかと思います。
 最先端の放射光を駆使した研究によって革新的な材料が開発され、環境問題の解決や経済発展に寄与することになれば、目に見える素晴らしい成果となります。一方で、すぐには目に見えないのですが、放射光施設の教育面での役割も大変重要です。研究者を目指す大学院生にとっての教育効果のみならず、研究者を目指しているわけではない学部生や大学院生にとりましても、シフトを組んで共同で測定を進め、計画通りに進まない場合にはチームで議論して善後策を探るという経験は貴重ですし、成長する糧になります。しかも、実験室では不可能な高度な計測を行って卒論や修論を書く機会が得られるわけです。教育機関である大学に籍を置く教員にとって、学生と共に放射光施設で実験を行う機会は大変貴重です。
 高度化したビームラインを整備する一方で、標準的な測定のための汎用的なビームラインも維持していただければ、過度な競争を緩和しながら住み分けができるのではないかと感じております。例えば、硬X線光電子分光であれば、エネルギー可変で位置分解測定を備えた高度なビームラインに加えて標準的なビームラインが並行して稼働していれば、着実な課題や教育的効果もある課題を後者で吸収できないかと思う次第です。様々な課題はあるのですが、具体的な解決策を提言することができないまま、2年間が過ぎてしまいました。最後に、お忙しいところ課題の評点をつけてくださったレフェリーの先生方、膨大なデータを整理して分かり易い資料をご準備くださった利用推進部のスタッフの皆様に深く感謝申し上げます。

 

 

 

溝川 貴司 MIZOKAWA Takashi
早稲田大学 先進理工学部
〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1
TEL : 03-5286-3230
e-mail : mizokawa@waseda.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794