Volume 23, No.2 Page 147
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2014年度指定パートナーユーザー事後評価報告
Post-Project Review of Partner Users Designated in FY2014
パートナーユーザー制度は、SPring-8の共同利用ビームラインの更なる高度化および優れた成果の創出を推進するために、2014年度より運用しています。パートナーユーザー(以下「PU」という)は、公募・審査を経て指定(指定期間は最大5年間)されます。
パートナーユーザーの事後評価は、PU審査委員会において、あらかじめ提出されたパートナーユーザー活動終了報告書に基づいたパートナーユーザーによる発表と質疑応答により行われます。事後評価の着目点は、パートナーユーザーとしての(1)目標達成度、(2)活動成果(装置整備・高度化への協力、科学技術的価値および波及効果、ユーザー開拓および支援、情報発信)です。今回は、2014年度指定のパートナーユーザー1名(指定期間:2014年4月1日から2017年3月31日まで)について、事後評価(2017年11月28日開催)を行いました。
以下にPU審査委員会がとりまとめた評価結果等を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」にパートナーユーザーによる紹介記事を掲載しています。
1. 廣瀬 敬(東京工業大学)
(1)実施内容
研究テーマ:極細X線ビームを使った超高圧高温下の物性測定
高度化:安定高温高圧実験ステーション整備と先導的活用
利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援
(2)ビームライン:BL10XU
(3)評価コメント
本パートナーユーザー課題は、地球科学などの研究分野に必要不可欠な超高圧高温下での物性測定を実現するための技術開発、安定な実験ステーションの整備とその先導的活用を目指したものである。
本課題の高度化に関しては、ビームラインの高度化計画に沿って、本パートナーユーザーが実施してきた高度化を発展させた。第一に、従来の1/6となる1.0 µmという半値幅と高い平行性を両立するX線集光光学系を確立した。これにより、温度・圧力勾配の大きいダイヤモンドセル内の超高温高圧環境において、高い温度・圧力精度、低バックグラウンドで、質の高いX線回折プロファイルを測定することを可能とした。第二に、老朽化したCCD検出器に代わり、高速自動連続測定が可能なフラットパネル検出器の導入と整備を行った。第三に、レーザー加熱システムにおいて、色収差が補正されるレンズの設計・導入を行い、信頼度の高い温度測定を可能とした。
本課題の利用実験に関しては、高度化で整備した計測システムを活用する事で、(1)内核物質の結晶構造の決定、(2)内核-外核境界における軽元素の分別、(3)鉄および鉄合金の融解曲線の決定とコア温度の推定、(4)鉄合金の状態方程式の決定、(5)液体鉄の状態方程式の決定、(6)高圧下における熱伝導測定、など地球科学においてインパクトの高い成果を創出した。これら成果の創出には、内部抵抗加熱式セルの開発など新たな技術開発も含まれている。
本課題の利用支援においては、地球科学分野にとどまらず、物性物理分野の研究課題も含め68課題の支援を行った。また、高度化された装置、システムは、当該ビームラインの基盤設備であり、当該ビームラインのユーザーのほとんどが直接的、間接的に本課題の高度化の恩恵を受けている。
以上のように、本パートナーユーザーは、1年の延長期間を含む3年間の指定期間に、3項目の高度化を実施し、主に地球科学の6項目で特筆すべき成果を創出するだけでなく、68課題の支援を行うと共に基盤整備を行った。これらは、パートナーユーザーに期待される高度化等への協力、利用実験の実施、利用支援の全てにおいて高いアクティビティーであったことを示すもので、高く評価されるものである。