ページトップへ戻る

Volume 23, No.1 Pages 76 - 80

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

「専用ビームライン 中間評価と再契約等」について
Interim Review Results of Contract Beamlines and Renewal of Agreements

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

Download PDF (406.79 KB)
SPring-8

 

 SPring-8に設置されている専用ビームラインは、登録施設利用促進機関であるJASRIの専用施設審査委員会において、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき中間評価、次期計画審査等を実施し、その結果はSPring-8選定委員会で審議されます。平成30年2月に開催しましたSPring-8選定委員会において、下記の3件について、専用施設審査委員会(平成29年10月開催)での評価・審査結果等を審議しましたので報告します。

 

 

再提出次期計画の確認
・兵庫県IDビームライン(BL24XU)
 (設置者:兵庫県)

中間評価
・レーザー電子光ビームライン(BL33LEP)
 (設置者:国立大学法人大阪大学核物理研究センター)

利用状況等評価/次期計画審査
・サンビームBM・IDビームライン(BL16B2・16XU)
 (設置者:産業用専用ビームライン建設利用共同体)

 

 

 上記のうち、兵庫県IDビームライン(BL24XU)の再提出次期計画の確認については、前回の専用施設審査委員会(平成29年6月開催)の次期計画の審査結果(SPring-8/SACLA利用者情報 Vol.22, No.3 Pages 291-293参照)において、利用成果の創出促進について、具体的な施策や目標設定が不明瞭であり、高度化計画についても技術的検討が不足している点等の指摘があり、再提出を求めたものです。再提出された次期計画書では、計画の実効性や成果創出について、過去の実績より向上が見込まれる計画となったことから承認されました。
 レーザー電子光ビームライン(BL33LEP)の中間評価については、稼働から17年が経過した3期目での中間評価であり、結果は、今後3年間のビームラインの運用を「継続」することは承認されましたが、成果の早期公開と安全面での改善を求めることとなりました。
(詳細は以下、「レーザー電子光ビームライン(BL33LEP)専用施設中間評価報告書」をご参照ください。)
 サンビームBM・IDビームライン(BL16B2・16XU)は、稼働から18年が経過しており、設置者より第3期に向けて再契約の意思表示があったことから、利用状況の評価と提出された次期計画の審査を実施しました。結果は、再契約は承認するものの、利用成果については、実施課題がほとんど成果非専有課題であったにも関わらず、論文発表数などは産業用の共用ビームラインと比較しても期待された水準に達していない。次期計画における2019年以降の中期的な計画について具体性に乏しい等の指摘があったことから、これら指摘に対する具体的な改善策や中期的な計画について再提示を求めることとし、次回の中間評価は3年後を目処に実施することが適切であると判断されました。
(詳細は以下、「サンビームBM・IDビームライン(BL16B2・16XU)契約期間満了に伴う利用状況等評価・次期計画審査報告書」をご参照ください。)

 

 

レーザー電子光ビームライン(BL33LEP)専用施設中間評価報告書

 

 レーザー電子光ビームライン(BL33LEP)は、国立大学法人大阪大学核物理研究センター(RCNP)が、SPring-8に設置した1本目のレーザー電子光利用のための専用ビームラインである。このLEPS実験施設は、GeV領域の高エネルギーガンマ線を、逆コンプトン散乱法により生成する極めてユニークな施設として2000年より実験を開始し、第1期(10年)、第2期(6年)を経て、現在、第3期(6年)に入っている。その研究の目的は、物質の基本粒子であるバリオン及びメソンの構造とそれらの間に働く力を、その構成要素であるクォークのレベルで理解することである。
 一方、これと並行して更なるビーム強度の増強と検出器アクセプタンスの改善を目指して、新しいビームライン(BL31LEP)と大立体角電磁カロリメーター(BGOegg)の建設もLEPS2プロジェクトとして進められ、2013年にビームラインと装置が完成し、翌年から物理実験が開始されている。また、大型ソレノイド・スペクトロメーターも建設中である。
 専用施設審査委員会は、この2つの専用ビームラインの運営に責任を持つ、国立大学法人大阪大学核物理研究センターおよび国立大学法人東北大学電子光理学研究センターから本委員会に提出された「レーザー電子光ビームライン(BL33LEP)第3期中間報告書」と、平成29年10月24日に開催された委員会での報告および討議に基づき、第3期後半3年間の当該ビームラインの設置と運用について、下記のような提言を付けた上で、「継続」することが妥当であると判断した。
 以下に、各項目に関する評価結果と提言を記す。

 

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 入射ガンマ線ビームの性能向上に向けて、1)深紫外の波長266 nmのレーザーを整備することにより、従前のエネルギー上限2.4 GeVを2.9 GeVまでに高エネルギー領域に拡張したこと、及び、2)パルスレーザーと蓄積電子ビームのバンチ周期の同期化による強度増強の技術開発などが着実な成果をあげていることは高く評価できる。特に前者は、2015~2016年に本格的に利用されるようになり、これを使ってφ中間子生成に関し新たな知見が得られつつある。ガンマ線の発生源となるレーザーと電子ビームとのマッチングの調整は、計測精度を左右する基盤的なものであり、引き続きシステムの性能向上について取り組むべきであろう。
 Θ+探索のS/N向上を目指してスタートカウンターの広立体角化の改良と、利用実験への適用が進められ、既に新しい条件での実験データを取得して解析中であることは評価できる。
 偏極HD標的の開発には遅れが見られる。2015年には水素の偏極度44%で緩和時間が約8ヶ月を達成したものの、まだ完成には至っていない。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 全般的な安全面での対応に関しては、安全管理責任者およびレーザー管理責任者を置き、連絡体制を整備するなど、組織として従来よりも真剣に取り組み、改善がみられる状況にある。しかしながら、軽微な事故・トラブルが2件発生したことは遺憾であり、安全教育、管理体制の強化などを含め、安全管理には十分留意願いたい。この問題は、専用施設側の安全管理基準が、SPring-8側が考える安全管理基準と大きく乖離していることから生じているとも考えられ、当該施設安全管理関係者との共通認識の確立が必要と考える。その上で、安全について以下のように提案する。
-専用施設安全管理担当者とSPring-8側が共有できる管理基準を確立すること。
-専用施設は、教員や学生への放射線・レーザー以外の安全教育を定期的に実施すること。
-専用施設は、当該施設および関連施設の安全衛生パトロールを年1、2回実施すること。
また、整理整頓、実験環境の改善に関して、
-可燃物・不要物品の撤去、
-転倒・打撲等による負傷の原因への対策(床上のケーブルなど)、
-過電流や漏電を起こさない適切な電源利用(壁コンセントの適切使用など)、
などを指摘する。当該専用施設は教育機関でもあり、実験に参加する学生への安全教育の観点からも適正化を図っていただきたい。
 本専用施設は大阪大学核物理研究センターのみならず、東北大学電子光理学研究センターなど複数の組織により共同で実験がなされているので、BL31LEPも併せ、その管理、責任体制をより明確にし、常に施設者SPring-8側と連携し運用に努めていただきたい。

 

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 この3年間での研究成果として、φ中間子の閾値近傍での陽子からの光生成反応機構としてポメロン効果が大きいという実験的示唆が得られたことが挙げられる。重陽子標的、ヘリウム4標的からのφ中間子生成反応の解析も進んでおり興味深い。φ中間子生成とΛ(1520)ハイペロン共鳴生成との干渉効果の研究も行われたが、確定した結論を導くには至っていない。この他、各種ハイペロン共鳴の光生成反応の研究やK-pp束縛状態の探索などが行われた。
 Θ+の探索において、スタートカウンターの改良により重陽子標的内陽子からの寄与を除去する改善が行われた。データ取得はすでに終了し、データ解析の段階にある。速やかにLEPSでの測定の最終まとめとして結果を公表すべきである。加えて、LEPS2の大型ソレノイド・スペクトロメーターを早期に完成させ、LEPSスペクトロメーターと相補的な大散乱角領域でのΘ+生成の測定結果を、時機を失することなく取得することが喫緊かつ主要な課題と考える。
 LEPS2を建設しながらLEPSの実験を継続するということもあり、従来より、成果とりまとめに時間を要しているように見受けられる。これまで得られた実験結果に関しては、確実にデータ解析を進め、研究成果として公表されることを期待する。また、新しい測定器の開発・製作についても積極的な成果発表を考えて欲しい。

 

4. 「今後の計画」に対する評価
 当初計画では、LEPS2でのBGOeggを利用する実験を終了させ、LEPSへ移設して実験を続ける計画であったが、移設の予算的目処が立っておらず、BGOegg移設は困難な状況である。
 そのような状況の中で、中間評価後の残り3年間に関して、偏極HD標的を用いた測定を中心として進めることが提案されている。この方針は妥当だと考えられるものの、偏極HD標的に関しては当初計画よりも実用化が遅れており、その完成時期と最終性能には、まだ不安が残る。3年間という限られた期間での具体的実行計画は、より綿密に立案し実施することが望まれる。実験テーマについても、核子中でのss成分の研究など、φ中間子やハイペロン共鳴の生成反応におけるスピン観測量の測定を活かして、確実な成果の出る実験テーマについて更に検討し、時期的にも焦点を絞ってテーマを設定すべきである。

以 上

 

 

サンビームBM・IDビームライン(BL16B2・16XU)契約期間満了に伴う
利用状況等評価・次期計画審査報告書

 

 設置者である産業用専用ビームライン建設利用共同体から提出された利用状況等報告書、次期計画書及び口頭による報告発表にもとづき、ビームラインとステーションの構成と性能、施設運用及び利用体制、利用成果、及び次期計画について、10月24日に開催した第26回専用施設審査委員会で評価・審査を行った。その結果、第2期の施設運用は順調であり、機器整備は計画通りに進んでいるが、利用成果の公開が必ずしも十分とは言えず、提案された次期計画では利用成果創出の実現に懸念がある。また、前回の評価で指摘した利用成果についての情報発信の強化の取り組みには特段の進捗が見られていない。より一層の取り組みが必要である。加えて、産業利用を標榜するビームラインとして成果専有課題、成果非専有課題を適切に判断したうえで実施することが必要である。このため、これら成果公開と情報発信の在り方、及び運用体制の改善と中期的な機器整備に関する具体的な計画の提示を求めることとし、3年後を目処に中間評価を行うことを勧告することとする。
 以下、項目毎の評価・審査結果の詳細を記載する。

 

〇ビームラインとステーションの構成と性能
 サンビームは相互に隣り合って設置された挿入光源のBL16XUと偏向電磁石光源のBL16B2から成り、多様な放射光利用実験を同じエリアで実施することが可能で放射光の産業利用を能率よく行うことができる極めて優れた構成になっている。
 挿入光源のBL16XUは、第2期の開始とともに二結晶分光器を液体窒素循環間接冷却式に更新することで更なる高輝度化を実現している。また、ダイヤモンド位相子やSiチャネルカットモノクロメーターを設置するなど、共用ビームラインなどの他ビームラインで実績ある設備を積極的に導入している。BL16XUの実験ハッチでは第1期より稼働しているマイクロビーム形成装置や蛍光X線分析装置に加えて、第2期においてはX線回折装置の更新や硬X線光電子分光装置(HAXPES装置)を新規導入し順調に稼働している。
 偏向電磁石光源のBL16B2では、第1期から引き続き設置されているXAFS装置をイメージング実験と共用して使用するために架台が更新されている。またBL16XUと同様に回折装置の更新も実施されている。第1期に他ビームラインに先駆けてXAFS用に導入されたガス設備をBL16XUでの回折実験に使用できるように改造するなど、既存設備の効果的な利用に向けての機器整備は評価に値する。この他、試料加熱装置や光子検出型ピクセル検出器の導入など共用ビームライン等での実績を踏まえて設備・機器の更新や新規導入を積極的に行ってきた実績は十分な評価に値する。BL16XU、BL16B2が保有する設備・機器はいずれも標準的なもので新奇性が高いものではないが、産業利用を対象としたビームラインで成果を挙げるべく、「世界最高の各種汎用測定」を念頭に着実に機器整備を行ってきたことは評価に値する。今後は、さらに一歩踏み出して、SPring-8の産業利用の牽引役を内外に自負できるよう、他ビームラインに導入され得るサンビーム発祥の技術例が提示されることを期待する。

 

〇施設運用及び利用体制
 第1期以来、サンビームに参画する13社が皆平等な立場でビームラインの運営を行っている。業種の異なる13社が共同して運営する世界的にも稀な利用体制であるが、安全衛生、利用計画及び装置ごとにサブグループを設置する等の工夫で共同運営が円滑に行われている。特に、安全衛生への取り組みは他ビームラインへの模範になり得るほどに充実していることは高く評価できる。これまでに参画企業の一部入れ替えがあったものの20年にわたり一貫した方針でビームラインを運営してきたことは驚嘆に値する。この運営体制のもとに13社が相互に協力することで、単独の企業で実施することが難しい高額な機器・設備の導入や新規技術の修得が可能になっていることから、ビームライン全体の技術水準向上に大きく貢献したものと認められる。また、緊急利用枠を設定するなど、中間評価時に指摘があったビームタイムの有効活用に向けての努力も認められる。以上のように現在の運営体制には大きな利点があり成果創出促進への努力が行われているものの、新規技術の迅速な導入とそれによる成果創出の促進とは相容れない可能性があることも懸念される。このため、ビームタイム利用方法の更なる検討を継続的に行うことも必要と考えられる。

 

〇利用成果
 白色LED用半導体材料、高出力高周波デバイス半導体材料、天然ガス火力発電用ガスタービンのNi基合金、鋼板表面の金属酸化物層、自動車用燃料電池、排気ガス浄化触媒、タングステンリサイクル、冷蔵庫高機能化等、サンビームに参画する各社の事業との関係が深い技術分野で一定の成果を挙げている。これらは産業分野における放射光利用技術の有用性がうまく示されたサンビームに相応しい成果事例であり、いずれの事例も高く評価できる。しかし、優れた成果であるにもかかわらずサンビームにおける産業利用の成果として広く認知されているとは言い難い。利用成果の幅広い認知に向けての一層の努力が必要と考えられる。
 サンビーム年報・成果集の刊行や論文誌掲載促進による利用成果公開への努力が認められる。特に、論文誌掲載促進への取り組みは一定の成果を挙げつつあることは評価に値するが、ほとんど全ての課題が成果非専有で実施されていることを考慮すると期待される水準には達していない。論文誌掲載による成果公開促進に向けて更なる取り組みが必要である。
 参画企業間の協力・協働に加えて大学等、第3者の研究機関との連携は利用技術や利用分野の幅を広げるために有効な取り組みと思われるが、残念ながら第3者連携によって得られた具体的成果が認められない。この取り組みは非競争領域でのオープンイノベーションの具体例でもあることから妥当な活動と考えられるが、その一方で競争領域での活動状況が明確になっていない。企業活動の競争領域を対象とした課題は成果専有で実施されるものと一般的に認識されるにもかかわらず、成果専有課題が殆ど実施されていないことは利用成果の公開に対する姿勢や運用方法が不適切との懸念を強く抱かせるものである。適切な成果公開が行われているのであれば、参画企業の事業活動との関連が深い競争領域での課題が一切行われていないことを意味するため、産業利用を標榜するビームラインとしては研究課題のテーマ設定に適切さを欠くことにならざるを得ない。成果専有課題、成果非専有課題の適切な実施が強く求められる。

 

〇次期計画
 次期計画においては、サンビーム共同体以外の組織や他ビームラインとの技術的交流の促進、サンビーム年報・成果集の内容の充実、掲載論文増加への取り組みが提案されている。いずれも成果創出促進に一定の効果があることが期待できるが、これらは皆、これまでの活動の延長線上にあるため、大きな成果をもたらすことを期待することが難しい。利用成果創出促進に本格的に取り組むのであれば、過去20年にわたって実施してきた各社平等の費用負担とビームタイム配分の運用方針の適否検討も含め思い切った運用体制の見直しが必要なのかも知れない。成果創出の促進に向けて運営体制、運営方針の最適化に向けた検討を今後も継続的に行うことが必要と考えられる。なお、掲載論文増への取り組みは一定の成果を挙げつつあるが十分な水準ではない。1ビームラインあたり年間平均で20報程度の論文が掲載されていることを考慮した、より一層の努力が求められる。また、前回の中間評価でも指摘した通り、産業分野での放射光利用の有用性の認知度を高める活動も強く期待されるため、一般社会を対象とした情報発信へのより一層の取り組みを期待する。
 成果専有課題で実施されると思われる事業競争領域での利用についての方針が次期計画で具体的に示されていないことは適切とは言えない。産業分野での放射光利用の成果創出促進のためには成果専有課題の実施も大いに有効と考えられるため、成果専有課題の適切な実施が強く求められる。
 なお、2018年度にスパイラルスリットやグローブボックスなど複数の新規設備・機器導入が提案されているが、予算計画も含めて十分な検討が行われているものと認められる。その一方で2019年以降の整備計画は具体性に乏しいため、中期的な機器整備に関する具体的な計画の提示を求めたい。

 

 以上のように、成果公開と情報発信の在り方、及び運用体制と中期的な計画については、懸念もあることから、再契約は承認するものの、これらの改善策や中期的な計画については再提示を求めることとし、次回の中間評価は3年後を目処に実施することが適切であると本委員会は判断する。

以 上

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794