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Volume 23, No.1 Pages 84 - 90

4. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS

ヨーロッパ高輝度放射光施設訪問
Visiting Report on High Brilliant Synchrotron Radiation Facilities in Europe

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部(兼)利用研究促進部門 User Administration / Research & Utilization Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 2016年から2017年にかけて、ヨーロッパの数ヵ所の放射光施設を訪問する機会を得た。我が国の放射光施設、さらにSPring-8の今後を考える上でいろいろと参考になった。せっかくの機会なので、個人的な感想を交えながら状況を紹介させていただく。
 2014年度より科学研究費補助金の新学術領域で、奈良先端科学技術大学院大学の大門寛教授を領域代表とした「3D活性サイト科学」が進行している[1][1] http://www.3d-activesite.jp/home。筆者は計画研究のうち、光電子ホログラフィー班の研究代表として参画しており、2015年度からは、3D活性サイト科学の海外拠点・国際ネットワーク構築のための国際共同研究加速基金の支援も得ている。領域で推進している光電子ホログラフィーや蛍光X線ホログラフィーは、日本が優位に立っている分野であり、新しい可能性を秘めている。若手研究者の交流や国際共同研究の推進などが推奨される中、ヨーロッパの中でもっとも新しい放射光施設である、スウェーデン、LUNDにあるMAX IV[2][2] https://www.maxiv.lu.se/を拠点として、共同研究を進めるために、領域では2017年の10月2~3日にかけて、LUND大学で合同研究会を開催した。幸い、筆者と旧知の間柄である、MAX IVのQuitmann所長を始め、先方のスタッフには多くの協力をいただき、2016年から進めた会議の準備期間中も、3月に開催されたユーザーミーティングへの出席を含め、合計3回ほど施設訪問の機会を得た。
 一方、合同研究会の2週間後に、同じLUND大学で、日本−スウェーデンの交流を目指すMiraiプロジェクト[3][3] http://www.mirai.nu/about-mirai/(日本学術振興会、およびスウェーデンのカウンターパートにあたるThe Swedish Foundation for International Cooperation in Research and Higher Education, STINTが支援)のセミナーが開催されることになり、両国を代表する放射光、中性子の大型研究施設である、SPring-8、J-PARC、MAX IV、ESS(The European Spallation Source)[4][4] https://europeanspallationsource.se/を用いた共同研究、研究交流の議論をしたいとのことで、筆者も参加する機会を得た。
 これらの会議の間の時間を利用し、さらには2016年の合同研究の準備のための訪欧の機会を利用して、MAX IV以外のヨーロッパの放射光施設を訪問した。訪れたのは、SOLARIS[5][5] http://www.synchrotron.uj.edu.pl/en_GB/(ポーランド)、ALBA[6][6] https://www.cells.es/en(スペイン)、ESRF[7][7] http://www.esrf.eu/、SOLEIL[8][8] https://www.synchrotron-soleil.fr/en/(フランス)、DIAMOND[9][9] http://www.diamond.ac.uk/Home.html(イギリス)である。

 

 

2. MAX IV
 MAX IVは、1 nmradを下回る低エミッタンスリングからの高輝度放射光を利用すべくデザインされた、世界でも最先端の放射光施設である。将来のFEL利用も見据えた入射LINAC、比較的低エネルギーの放射光利用を目指す1.5 GeVリングと3 GeVリングで構成されている。初代のMAXが、1986年6月に運転を開始し、その30年後にMAX IVの開所式が行われたことになる。その最初のユーザーミーティングが3月に開催され出席した。ビームラインでの一部ユーザー利用が開始されてから初めての会議であり、300名ほどの参加者が出席していた。また、産業利用を目指したワークショップなど、いくつかのサテライト会議も平行して開催されていた。
 MAX IVの加速器そのものの立ち上がりは、真空の問題やビームの不安定性はあるものの、3 GeVリングの方は最大で200 mAの蓄積に成功し、トップアップ運転での160 mAの24時間運転も可能になってきたとのことであった。また、数mA程度の運転時ではあるものの、エミッタンス340 pm・radを達成している。5つの挿入光源も導入されたとのことである。シングルバンチ運転も最大で8.5 mA蓄積可能で、定常的には2.8 mAとのことであった。1.5 GeVリングでも、最大150 mA、トップアップ運転では135 mAを実現したとのことである。将来的には現在の7ベンドアクロマートから19ベンドのラティスも視野に入れており、その際には16 pm・radのエミッタンスを目指すようである。真空の問題、ビームの不安定性を解消するための改造が2017年の10~11月に行われ、現在はそのコミッショニング、調整運転が進行しているようである。
 ビームラインの方では、NanoMAXとBiOMAXの2本の硬X線ビームラインが稼働しており、すでに最初のユーザーがデータを報告していた。すでに外部ユーザーの課題を受け入れている。軟X線ビームラインでは、共鳴非弾性X線散乱(RIXS)と、準大気圧下での光電子分光ビームラインの立ち上げが先行しており、光電子分光のビームラインでの課題も受付が始まった。RIXSビームラインは、第2分光器として回転する10 mのアーム長の物を備えており、高分解能を狙っている。専用ラインの運営方針も固まってきたようで、50%は共用に解放が義務付けられているとのことである。すでに建設の決まっている1本に加え、もう1本デンマークのビームラインの建設が計画されているようである。その他、フィンランドやエストニアなども専用ライン建設を行っている。建物の中には他の施設で見られる大型のクレーンはなく、各ビームラインにローカルなクレーンやチェーンブロックが設置されているだけである。大型装置の移動にはエアーベアリングを使うとのことである。

 

図1 MAX IVの3 GeVリングに建設されているRIXSビームライン。

 

 

 今後年間3,000名のユーザーを受け入れ、500本の論文を創出し、100名近い博士取得者を輩出したいとの目標が示されていた。また、線型加速器を用いたXFELの開発も進行している。現在、14本のビームライン建設が予算化されているが、その後22本まではいろいろ計画の議論が始まっている。一時絶望視されていた赤外ビームラインも1.5 GeVリングでの建設計画が出てきていた。現在、ユーザー団体が赤外ビームライン建設のための署名活動を展開している。硬X線光電子分光(HAXPES)も今後の計画には入っている。
 ユーザーオフィスは少人数で悪戦苦闘している様子であり、いろいろな研究者が実際の協力をして業務が実施されている。9月には最初に21部屋のゲストハウスができる予定とのことである。
 近接して建設の進んでいる中性子施設(ESS)の報告もあり、2020年に加速器が完成、23年に最初のユーザー利用、25年に完成、というスケジュールである。またESSでは、比較的長いパルス幅での安定的な中性子ビーム供給への期待が示された。中性子の発生源として日本のJ-PARCの水銀とは異なり、タングステンの利用が計画されており、トラブルの少ない運用の観点からも期待が示された。ビームラインの長さを大きくとることができ、Time of Flightの分解能が良くなるため、長いパルス幅での測定も可能で、その分冷却システムの信頼性も上がるとのことである。
 産業利用産学共同のためのスタッフが、1名ではあるが活動を始め、企業とともにワークショップを行っていた。いろいろ手探りのようではあるが、コーディネーター的な役割をする企業も立ち上がり、ワークショップに参加していた。
 MAX IVの特徴は、LUND大学との強い連携である。スタッフがLUND大学の教官を兼ねているケースが多くあり、特に、大学内のナノテクセンターであるNanoLUNDと呼ばれるグループと、MAX IVの放射光部隊は相互に兼務を持っている。ESSとMAX IVの間に建設される産学連係拠点であるスカンジナビア村に近々移動予定であるとのことである。走査型トンネル顕微鏡(STM)やレーザー、マイクロファブリケーションの装置や様々なグレードのクリーンルームを持っており、移動後はより強力に研究が進むことが期待され、最終的にMAX IVやESSへの測定に持ち込んで結果を得たいとのことであった。これらの拠点を集めることで、研究が活性化することが期待されていて印象深かった。

 

 

3. SOLARIS
 SOLARISは、ポーランドのクラコフ市郊外に建設された大学所属の放射光施設である。大学に所属するPawel Korecki教授にいろいろご説明をいただいた。この大学の卒業生の中で有名なのはコペルニクスで、また第2次大戦中にはユダヤ人を保護したシンドラーのホーロー工場が近くにあることでも有名である。MAX IVの1.5 GeVリングと全く同じデザインでの建設が進んでおり、こちらはすでに200 mAの蓄積電流を達成している。2本のビームラインを含む建設費が50億円程度とのことである。MAX IVの研究者も何名か手伝いに来ており作業が進んでいた。先行ビームライン2本はすでに建設がほぼ完了しており、それぞれ、8~100 eVでの角度分解光電子分光装置と、1,000 eV以下(ただし、偏向電磁石からの光)での光電子顕微鏡を行うことになっているビームラインである。3本目のビームラインで、挿入光源を利用した1,000 eV程度までをカバーするビームラインが計画されているものの、まだ予算化されておらず、また、電子ビームの入射もライナックの建設費不足かフルエネルギー入射ができず(現状600 MeV)、苦戦している。財政状況が厳しい中での運用を余儀なくされており、その分諸外国との協力を待ち望んでいる雰囲気であった。

 

図2 SOLARISの実験フロア。右奥の2本のビームラインだけが建設されている。

 

 

4. ALBA
 ALBAは、まだ建設後間もない施設であるが、外からはスペインらしい洒落たデザインの建物が目を引いた。Caterina Biscari所長、科学部門のディレクターMiguel Aranda氏、ユーザーオフィスの代表者Inmaculada Ramos氏に対応いただき、ALBAの運営や現状について話を伺い、SPring-8の現状もお話しすることで情報交換を行った。ALBAの運営は、スペイン政府とカタルーニャ州政府が半分ずつ予算を持つことで運営されている。ちょうどカタルーニャ独立の選挙の最中であり、不確定要素を抱えながらも説明をしていただいた。諸外国の予算も少し入っているらしいが、どちらも政府の予算に組み入れられた後、配分されているとのことである。現在、放射光施設の建設計画があるイランがその対象の一つであり、イランのユーザーを特別枠で受け入れているとのことであった。ユーザーはSPring-8の10分の1以下の年間1,400名程度であり、8本のビームラインが動いており、3本がコミッショニング中である。1本は放射線の問題で、まだ調整ができていないとのことであった。年間6,000時間の運転を実施しており、200 mAでのトップアップ運転が行われている。産業利用の割合は1%程度であるが、産学連係という観点では25%程度になるということである。200名程度の施設スタッフがおり、ユーザーオフィスは3名、ビームラインと実験の面倒を見るグループが65名、加速器が30名、コンピュータ部門50名、エンジニア部門35名、事務15名とのことである。5週間おきに短いシャットダウン期間がある代わりに、冬以外は長期シャットダウンがない。年間140本程度の論文が報告されている。タンパク構造解析利用は年1回の受付で、その中から7割強のビームタイムを割り付けておき、残りは随時ビームタイムを配分するなどフレキシブルな対応を行っているとのことである。ユーザーミーティングは2年に1回で、2017年はマドリードで開催された。密閉サンプルといえどもRIは受け付けないなど、いろいろ国柄の違いも印象深かった。ユーザーポータルサイトは非常に良く作られており、SPring-8も参考にすべきことが多々あると感じた。ヨーロッパの中で、ユーザーオフィスのネットワークができており、そのノウハウの良いとこ取りをした結果できあがったシステムのようである。当然ユーザーオフィスがやるべき仕事は上述の3名ではできず、研究系、技術系スタッフがその部分を補っている。
 施設見学もさせていただいたが、実験室の雰囲気はSLSを参考にしたとのことでそっくりであった。分光器もSLS同様、BESSYの技術が導入されていた。

 

図3 ALBAの正門。全てのスタッフやユーザーはこの右側の守衛所の中から施設内に立ち入る。

 

 

5. ESRF
 ESRFでは、軟X線分光分野で旧知のNick Brooks氏にホストをお願いし、いろいろ見学や議論の時間をとっていただいた。研究部門のdirectorであるJean Susini氏、加速器部門長のPantaleo Raimondi氏や、ユーザーオフィスの長であるJoanne Mccarthy氏などが情報交換に応じてくれた。ESRFには、11年前に訪問したことがあったが、upgrade計画のPhase Iが終わったところで、同じ施設とは思えないぐらい様変わりをしていた。特に軟X線のビームラインに関しては、高エネルギーリングでありながら、非常に高い評価を受けており、Extensionホールに新たなビームラインが建設されていた。世界最高性能のRIXSのデータが出始めたことは去年の国際会議で承知していたが、実際にその巨大な分光器が動いている様子を見ると圧巻であった。新たなビームラインでは、様々な評価装置を備えたX線磁気円二色性(XMCD)装置が稼働しており、これも実験スペースが大きく物をいっており、高いアクティビティを誇っている。軟X線ビームライン1本以外は全て硬X線のビームラインである。非常に厳しい議論を経た後に計画がまとめられ、椅子取りゲームの要領で順次評価を進め、移設(というよりは完全なupgrade)が進められていったようである。訪問のちょうど3日前には赤外分光ステーションが閉鎖され、またstanding waveを利用した表面構造解析ビームラインもすでに淘汰されていた。このあおりを受け、HAXPESのアクティビティもすでになくなっている。ヨーロッパには数多くの2~3 GeVクラスの高輝度リングがあり、さらに高いエネルギー領域ではPETRA IIIが稼働している。この条件を加味した計画になっているようである。来年後半から2年近くにわたる加速器改造のupgradeが予定されており、すでに一つのアーク部分の組立調整がExtensionホールのビームライン未建設エリアで進行していた。7ベンドアクロマートのうちの4つの偏向磁石にはSmCoの永久磁石方式が採用されている。同じ物を2018年末までに32組建設予定で、組立調整を行うためマンパワーなどのやりくりに苦労している。2019年には、ビームラインや測定部門のテクニカルスタッフは全て加速器建設に投入されることになっており、その間研究系スタッフはサバティカルのようなスタイルで他の施設の研究スタッフと共同研究を行うとのことである。最初のコミッショニング期間は放射線レベルも上がるものと想定されており、通常は管理区域ではない実験フロアは、スタッフといえども立入禁止になるとのことである。リングの内周より内側の空間に、建物をいくつか建設し、組み上がった部分をそちらで建設までに保管しておく予定である。こうしたupgradeの様子を目の当たりにすると、SPring-8や日本(特に軟X線領域)の立ち後れを実感した。

 

図4 ESRFで進んでいる次期計画加速器の1/32周分の調整の様子。

 

 

 ESRFのアクティビティが高く、論文出版数も多いことは良く知られている。いろいろ議論をしてみたが、特別なことをしている様子はなく、ユーザー性善説に立ってはいても、論文を書かないと研究者としての将来はないという文化がしっかり定着していることが一番大きそうである。ただし、課題審査は、過去のアクティビティなども加味し、しかも1回の実験で論文が出るための十分な時間を配分するための配慮をしているとのことで、そこは参考にすることを考えるべきではないかと思った。また、専用ビームラインに関しては、参加の各国主導でいくつか建設されているが、共用への提供枠は30%、ユーザー支援は専用ラインのスタッフによるとのことである。興味深かったのは、フランス所有の専用ラインについては、共用供出分以外の審査はSOLEILの審査と共通に行っているとのことであった。
 タンパク構造解析ビームラインでは、自由電子レーザーでトレンドとなっている連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)の技術を導入しようという試みがあり、SPring-8で実現しているチョッパーシステムについても興味を持っているようである。

 

 

6. SOLEIL
 SOLEILでは、Scientific directorのAmina Taleb-Ibrahimi氏、ユーザーオフィスのFrederique Fraissard氏、ユーザーポータルサイトの担当のコンピュータ情報部門のIdrissou Chad氏、産業利用コーディネーターのPhilippe Deblay氏とCeline Lory氏、時間分解分光のMathieu Silly氏、加速器部門ヘッドの長岡氏らと情報交換を行った。
 SOLEILはフランス独自のコミュニティと考え方に基づいて運営されていると強く感じた。LureにあったACOやSuper ACOのユーザーが依然コミュニティの中で強い影響力を持っているとともに、ユーザーの新陳代謝も一定割合で起こっている。原子分子の研究者たちは、日本同様、FELに研究の中心を移しているが、コヒーレンスが邪魔な分光実験も多く、またパルスよりもCW利用が重要なテーマも多い。また、近隣にESRFやPETRA IIIといった高性能の硬X線光源がある。このような状況で、2.75 GeVという微妙なエネルギー設定に落ち着いたようである。実際赤外ビームラインの他、直入射分光器によるVUVビームラインも1本ずつ存在して低エネルギー領域の光科学をカバーしている。顕微分光や角度分解光電子分光などの軟X線領域の分光ビームラインが主力であるが、硬X線ビームラインの運用も順調である。ESRFのビームラインに比べると圧倒されるような物はなかったが、オペランド測定や時間分解測定などいろいろな工夫で特徴ある実験装置が数多く備えられていた。現在建設中も含めて29本のビームラインが存在し、その他加速器診断ビームラインがある。42本の建設スペースがあるものの、現在の29本まででこれ以上は建設しない、ということである。次のターゲットは加速器も含めたupgradeや、ビームラインの再配置で、ESRFを意識した物を考え出している。稼働開始から10年あまりの比較的若い施設であるが、世界のMBA(Multi-Bend Achromat)リングの潮流には乗り遅れられないということで、加速器部門はいろいろな検討を始めている。DBA(Double-Bend Achromat)加速器としては最先端ではあったものの、もはや世の中の進歩を無視できないということで、急ピッチでの検討を始めたということである。MBAにする代わりに強い影響力を持つ低エネルギーユーザーをどうするのか、特有の問題を抱えており、それをどう解決するかスタッフが知恵を絞っている状況である。

 

図5 SOLEILの加速器収納部。レーザーとの同期実験が盛んな施設であるため、収納部の天井にレーザーの移送パイプや反射鏡が設置されている。

 

 

 産業利用もSPring-8に比べると少ないものの、順調に実施されているようである。主に製薬会社や中小企業を相手にしているようであるが、ロレアル、シャネルやランコムなど、フランスの有名化粧品会社も利用しているようである。
 ユーザーオフィスは、ポータルサイトの運営改造を除くと4名で動いている。うち2名が19本ずつのビームラインの面倒を見ているとのことである。ヨーロッパの施設のユーザーオフィスの会議の話がここでも出て、今後情報交換などを引き続いて行っていくことになった。できれば、今後の会議に参加してくれればありがたいというお誘いもいただいた。成果専有利用では、我々も参考にすべき点があり、特にユーザーに対する支援を行った際には時間だけでなく人件費、解析や解釈まで行った際にはさらなる請求を行っているとのことである。

 

 

7. DIAMOND
 DIAMONDでは、かつてESRFでHAXPESを行っていたJörg Zegenhagen氏にホストをお願いした。ユーザーオフィスのCarina Lobley氏やXFEL HUBのAllen Orville氏、ユーザー対応責任者のAndy Dent氏、加速器のRiccardo Bartolini氏、生命科学担当のMartin Walsh氏、産業利用担当のElizabeth Shotton氏、施設内にオックスフォード大学の拠点を作っているAngus Kirklanndo氏などの他、多くのビームラインサイエンティストとdiscussionを行った。DIAMONDは、国の予算で建設された施設ではあるが、完全に民営化されており、産業利用や大学からの収入も多く、他の放射光施設に比べてかなり特徴ある運営をしているようである。ユーザーへの旅費や宿泊費もサポートされ、スタッフの数も600名を超える。ビームラインあたりにするとSPring-8の倍近くのスタッフを抱えている。一方ユーザーオフィスは4名で運営されている。ただし、論文登録、図書管理、イベントや広報、ユーザーポータルサイトは別のグループが運営を協力して行っており、これらを合わせると13名ほどになる。年間1,500課題の審査が行われ、約半数の課題が採択される。専用ビームラインは存在せず、全てのビームラインはDIAMONDのスタッフによって支援が行われている。ただし、マンチェスター大学やオックスフォード大学は、ビームラインや装置の建設に関与しており、そのために優先的なビームタイムの配分枠を確保している。成果専有課題の数は多く、製薬会社が大きな割合を占めている。利用料は1シフトあたり5,000ポンドであるが、解析や解釈のサポートを必要とする場合は7,000ポンドほどに単価が上がる。約2億円程度の成果専有の収入があるとのことである。成果の登録を促進する特別な方法や罰則はないが、課題採択時に過去の論文発表実績を念入りにレビューする方式がとられているのは他のヨーロッパの施設と同様である。SOLEILでも同じ話を伺ったが、成果登録の催促に自動発信メールはあまり有効ではないため、個人個人が催促メールを送る努力をしているようである。また、他の施設とは異なり、ORCIDに登録しており、課題番号を施設が登録することで、論文がpublishされたことをORCIDが探知するとすぐにLibraryに通知が来て登録される仕組みになっている。ここも、ヨーロッパ各施設のユーザーオフィスの合同ミーティングに参加している(ちなみにWay for Lightは情報提供や宣伝には有効だが、各施設で選定の仕組みが異なるため実際にはあまりをワークしておらず、その問題も議論の対象になっているようである)。ゲストハウスは123部屋で全てシングルルームである。

 

図6 Zegenhagen氏と光電子分光ステーション。

 

 

 オックスフォード大学は施設内に拠点を持っており、長尺ビームラインにナノフォーカスのビームラインと6台の電子顕微鏡を併設している。オックスフォード大学は4名、DIAMONDは2名のスタッフがほぼ同じようなDutyとSkillを持ってユーザーサポートに当たるようにしているということで、SPring-8の専用施設とは違う運営の仕方が興味深かった。また、イギリスはFEL施設が存在しないが、そのためにOrville氏が世界中のFEL施設にイギリスの研究者を導くためのHUBの役割を果たしており、研究者たちの課題が採択されて、諸外国の研究施設へ出かけていくための予算もDIAMONDが負担しているとのことで非常に興味深かった。彼らはSFXの構造解析装置をさらに発展させて放射光施設、あるいは放射光とFELとの同時照射実験のようなことも考えている。
 実験装置はESRFのビームライン同様圧倒される物が多く危機感を抱いた。RIXSは世界最長アームの分光器が稼働を始め、すでにESRFと並んで世界最高の30 mVの分解能を達成している。角度分解光電子分光も順調に稼働しており、他の施設同様日本に比べるとサンプルをin situで準備するための装置や、側室の充実している様子に目を奪われた。ナノビームを用いた角度分解光電子分光もまもなく稼働を始める。
 DIAMONDもSOLEIL同様稼働を始めて10年あまりの若い施設であるが、ここも世界の潮流であるMBAラティスによる低エミッタンスリング(70 pmrad)の検討を始めている。産業利用のこともあるので、目指す性能のバランスは議論になると思われる。DIAMONDでは、直線部の数を倍に増やす4 BA × 2(= 8 BA)のラティスを検討している。
 ヨーロッパではオープンデータの話が進んでいるとのことでその話も伺おうとしたが、DIAMONDではESRFほどには議論が進んでいないようである。データのストレージは行ってきており、メタデータも含めて公開することは難しくないが、議論には時間がかかるであろうとのことであった。むしろ、類似手法の測定制御ソフトウェアの共通化、解析ソフトの開発、ユーザーポータルサイトの維持やupgradeを30名近いチームで組織的に運営しているのが印象に残った。

 

 

8. おわりに
 以上、最近完成した、あるいは改造が進んでいるヨーロッパの放射光施設について、私見を交えながら紹介させていただいた。先方のスタッフには忙しい中貴重な時間を割いて対応していただき、感謝を申し上げたい。また、日本の若い研究者も是非、世界の情勢を自分の目で確かめて、今後の研究活動に役立てていただきたい。

 

 

 

参考Webサイト
[1] http://www.3d-activesite.jp/home
[2] https://www.maxiv.lu.se/
[3] http://www.mirai.nu/about-mirai/
[4] https://europeanspallationsource.se/
[5] http://www.synchrotron.uj.edu.pl/en_GB/
[6] https://www.cells.es/en
[7] http://www.esrf.eu/
[8] https://www.synchrotron-soleil.fr/en/
[9] http://www.diamond.ac.uk/Home.html

 

 

 

木下 豊彦 KINOSHITA Toyohiko
(公財)高輝度光科学研究センター
利用推進部(兼)利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0961
e-mail : toyohiko@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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