Volume 23, No.1 Pages 43 - 44
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
2014B期 採択長期利用課題の事後評価について – 1 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2014B -1-
2014B期に採択された長期利用課題について、2017A期に3年間の実施期間が終了したことを受け、第62回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2017年12月12日および15日開催)による事後評価が行われました。
事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
なお、2014B期に採択された長期利用課題3課題のうち残り1課題の評価結果は次号以降に掲載する予定です。
課題名 | クリーン・高効率次世代エンジン開発へのX線光学技法の適用:超高速燃料噴霧の形成メカニズム解明及び理論モデル構築 |
実験責任者(所属) | 文 石洙(産業技術総合研究所) |
採択時課題番号 | 2014B0111 |
ビームライン | BL40XU |
利用期間/配分総シフト | 2014B~2017A/216シフト |
[評価結果]
本課題は、自動車エンジン内における燃料噴霧の形成メカニズムを解明することによるエンジンの高効率化・クリーン化の推進に向け、エンジン燃焼室内への燃料噴射の超高速噴霧流のX線による可視化技術を確立し、噴霧形成過程の物理的な理解と次世代エンジンの高度数値解析に資するユニバーサルな噴霧モデルを構築することを目的としている。
申請者らはBL40XUにおいてX線チョッパーとX線位相コントラスト法を用いた高速・高空間分解能イメージング技術を確立し、複数回露光した画像の自己相関から噴霧ダイナミクスを解析する手法も開発した。SPring-8の放射光の特徴を活用したこれらの技術を用いて系統的な実験を行い、燃料の噴霧軸の相対速度は特性距離と強い相関があること、燃料の微粒子化が完了する微粒子化長さにおける相対速度は燃料や噴射条件によらず0.72であることを見出した。これらの知見に基づいて構築された新規の噴霧構造モデルは高い実用性を有することも示されていることから、産学官の緊密な連携と適切な役割分担によって遂行された長期利用課題から優れた成果が得られたと判断できる。
論文誌を通じた情報発信も行われているが、社会的にも高い波及効果が期待できる成果であるため、非専門家も対象にした一層の情報発信をお願いしたい。また、内燃機関開発に有用なデータが多数得られていることが期待されるため、この分野の技術開発を促進するために一次データの公開についても積極的に検討していただきたい。
[成果リスト]
(査読付き論文)
[1] SPring-8 publication ID = 29996
A. Sou et al.: "X-Ray Visualization of Cavitation in Nozzles with Various Sizes" Proceedings of ICLASS 2015 (2015).
[2] SPring-8 publication ID = 33555
K. Komada and S. Moon: "Transient Needle Motion of an Outwardly Opening GDI Injector and its Effects on Initial Spray Formation" Fuel 181 (2016) 964-972.
[3] SPring-8 publication ID = 33556
T. Li et al.: "A Comprehensive Study on the Factors Affecting Near-Nozzle Spray Dynamics of Multi-Hole GDI Injectors" Fuel 190 (2017) 292-302.
[4] SPring-8 publication ID = 33557
S. Moon et al.: "Governing Parameters and Dynamics of Turbulent Spray Atomization from Modern GDI Injectors" Energy 127 (2017) 89-100.
[5] SPring-8 publication ID = 34864
J. Jeon and S. Moon: "Ambient Density Effects on Initial Flow Breakup and Droplet Size Distribution of Hollow-Cone Sprays from Outwardly-Opening GDI Injector" Fuel 211 (2018) 572-581.
課題名 | メガバール超高圧物質科学の展開 |
実験責任者(所属) | 清水 克哉(大阪大学) |
採択時課題番号 | 2014B0112 |
ビームライン | BL10XU |
利用期間/配分総シフト | 2014B~2017A/204シフト |
[評価結果]
本研究は、メガバール(100万気圧)を超える圧力領域の物質科学を新展開させると同時に、これまで為し得なかった物質創造の研究推進に不可欠な超高圧下の構造科学の推進を目的とする課題である。研究項目としては、(A)水素をはじめとしたシンプルなシステムの超高圧物性、(B)超高圧合成による機能性物質のフロンティア、(C)革新的な高圧実験技術および理論計算手法の開拓を掲げていた。すべての研究項目に対して目標が達成されているわけではないが、液体水素の金属相を電気抵抗によるその場観測により検出するとともに、200 Kの超伝導転移温度が報告された硫化水素超伝導体の電気抵抗と結晶構造の同時測定から高温超伝導体の結晶構造を明らかにするなど顕著な成果を上げており、目標を概ね達成したとみなすことができる。
液体水素の研究過程で得た材料選択の知見や開発した封止技術が硫化水素高温超伝導体の構造決定につながったことは、長期にわたり着実な実験技術の積み重ねの可能な長期利用課題の強みがうまく活用された例であろう。未踏の圧力領域における物性測定の実現は物質科学の最前線である。その拠点としてのSPring-8の重要性を示し、加えて、インパクトファクターの高い雑誌への掲載やプレス発表によりSPring-8からの情報発信にも貢献した。長期利用課題として成功したと判断される。
[成果リスト]
(査読付き論文)
[1] SPring-8 publication ID = 30509
K. Ohta et al.: "Phase Boundary of Hot Dense Fluid Hydrogen" Scientific Reports 5 (2015) 16560.
[2] SPring-8 publication ID = 34831
M. Sakata et al.: "Structural Phase Transition of Potassium under High-Pressure and Low-Temperature Condition" Journal of Physics: Conference Series 950 (2017) 042020.
[3] SPring-8 publication ID = 34889
M. Einaga et al.: "Crystal Structure of the Superconducting Phase of Sulfur Hydride" Nature Physics 12 (2016) 835-838.
[4] SPring-8 publication ID = 34890
M. Einaga et al.: "Two-Year Progress in Experimental Investigation on High-Temperature Superconductivity of Sulfur Hydride" Japanese Journal of Applied Physics 56 (2017) 05FA13.
[5] SPring-8 publication ID = 34892
T. Ishikawa et al.: "Superconducting H5S2 Phase in Sulfur-Hydrogen System under High-Pressure" Scientific Reports 6 (2016) 23160.
[6] SPring-8 publication ID = 34941
K. Shimizu: "Superconductivity from Insulating Elements under High Pressure" Physica C 514 (2015) 46-49.