Volume 23, No.1 Pages 39 - 42
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)への第3回科学技術助言委員会の提言内容
The 3rd JASRI Advisory Committee on Science and Technology
(概要)
財団JASRIの役割は、SPring-8とSACLAの共用施設を理研とともに効率的に運転・高度化し、登録機関として共用ビームライン利用者の公正な選定と効果的な支援を行い、利用研究成果を最大化することにある。とくに、利用者の方々が学術的にも産業的にもインパクトのある研究成果を創出されるよう効果的な支援と技術開発を実行することがJASRIの重要な使命である。
利用支援業務(研究開発、技術支援、情報支援等)の最適化のため、その業務の実施状況、技術開発の現状と将来計画を報告して有識者の助言を受けることを目的に、2015年、科学技術助言委員会(委員長:雨宮慶幸東京大学教授)が設置された。これまでの2015年9月の第1回委員会、2016年8月の第2回委員会に引き続き、下記の有識者18人により構成される第3回委員会が、2017年9月14日から15日の2日間にわたり、SPring-8キャンパスにて開催された。
第3回委員会では、始めに、土肥義治理事長からJASRIの現状と課題、田中良太郎常務理事から研究系の取り組みについて説明があった後、光源基盤部門(後藤俊治部門長)から施設の現状について報告があった。
ついで、利用支援業務に関して、利用研究促進部門(櫻井吉晴部門長)、産業利用推進室(廣沢一郎室長)、タンパク質結晶解析推進室(熊坂崇室長)、XFEL利用研究推進室(矢橋牧名室長)、情報処理推進室(松下智裕室長)、そして利用推進部(木下豊彦部長)から、これまでの委員会からの助言への対応の他、各部門・室の活動の方向性、課題等について発表があった。なお、前述の光源基盤部門及び情報処理推進室は、従来の加速器部門、制御・情報部門、光源・光学系部門の3部署を改組し、2017年4月に新たに組織された部署である。
このたび、委員会の雨宮委員長より理事長あてに下記の助言を頂いたので、その提言内容を本誌に公表して、利用者各位に報告する次第である。
(第3回科学技術助言委員会 委員名簿 2017年9月)
(委員長)
雨宮 慶幸 東京大学大学院 特任教授
(副委員長)
下村 理 高エネルギー加速器研究機構 名誉教授
石川 哲也 理化学研究所 放射光科学総合研究センター センター長
岩田 忠久 東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授
上田 潔 東北大学 多元物質科学研究所 教授
佐々木 園 京都工芸繊維大学 繊維学系 教授
佐野 雄二 内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) プログラム・マネージャー
高尾 正敏 元 大阪大学 特任教授/パナソニック(株)
高原 淳 九州大学 先導物質化学研究所 教授
月原 冨武 兵庫県立大学 特任教授/大阪大学 名誉教授
中川 敦史 大阪大学 蛋白質研究所 教授
中瀬古広三郎 住友ゴム工業(株) 技監
沼子 千弥 千葉大学 大学院理学研究院 准教授
濱 広幸 東北大学 電子光理学研究センター センター長・教授
平井 康晴 佐賀県地域産業支援センター 九州シンクロトロン光研究センター 所長
古川 和朗 高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 加速器第5研究系 研究主幹・教授
古屋 和彦 富士フイルム(株) 嘱託
松原英一郎 京都大学 大学院工学研究科 教授
第3回JASRIへの科学技術に関する助言
第3回科学技術助言委員会
2017年11月10日
1. はじめに
SPring-8とSACLAにおける利用支援(技術支援と研究開発)を担うJASRIが、SPring-8/SACLAの利用研究(基礎・応用)成果の最大化のために、引き続き、効率的にその役割を果たすための助言を行うことを目的として、昨年度の第2回に続き、第3回科学技術助言委員会を2017年9月14日、15日の2日間にわたって開催した。
今回はJASRIの将来を見据えつつ、より安定的な経営基盤の上でSPring-8及びSACLAの利用促進業務が実施されることが放射光科学・技術を推進する上で重要であるという考えのもとで、各研究部門・室における個々の科学技術に係る助言に留まらず、JASRI全体としての運営方針についても重点を置き助言の取り纏めを行った。
2. JASRIの活動報告に関する助言
市場化テスト(総務省)の指摘に基づいて行われた基本収入、受託業務及び職員数の推移、研究・事務組織体制や人事制度の見直しに関しての説明があった。いずれの推移も右肩下がりではあるが、それにも関わらず、JASRIの果たすべき役割の重要さは、日本の放射光科学・技術を推進する上で今まで以上に増していることを自覚した運営・経営が強く期待されている。
そのためには、設置者である理研とこれまで以上の綿密な連携・協力関係を築いて、人的・物的・情報資源の最大活用を行う運営が必要である。このことは、近い将来に理研がSPring-8-II計画を実現させるための必要条件でもある。SPring-8-II計画をタイムリーに実現できるか否かが、日本が世界の放射光科学・技術を今後も牽引することができるか否かの試金石になると考える。ESRF、APS等の世界の放射光施設の動向及び国内の他の放射光施設の動向も勘案して、理研と共に将来の放射光科学のRoadmapを描く姿勢・気概を現場の研究者、職員と共有する運営・経営を強く期待する。JASRIのビジョンを内外に示すことにより、JASRIスタッフが誇りを持って仕事をできる環境作りが必要である。
成果についてはTOP1%論文数の着実な増加は評価できるが、産業利用などで求められるように、SPring-8独自の評価軸を模索することも必要である。利用研究成果の最大化のためには、理研、SPRUCとの密接な連携を取って、共用ビームライン、専用ビームライン、理研ビームラインを含めたSPring-8のビームライン全体のポートフォリオ*を作りビームライン全体の最適化を図る時期に来ている。
現場(グループリーダー:GL、チームリーダー:TL)とのヒアリングの結果は、部門長、室長と議論して、今後の展開に繋げてほしい。ヒアリングによって執行部と現場の情報共有がどの程度深まったのか、また、現場の志気の高揚にどの程度プラスになったかが、見えてこなかった。現場にやる気を起こさせる魅力あるリーダー像とは何か、考える必要がある。
*本書では、共用ビームライン、専用ビームライン、理研ビームラインの全体について「様々な視点から俯瞰・分析・戦略作成ができる一覧表群・マップ群」の意味
3. 利用促進①に関する助言
3-1 利用研究促進部門
TL会議、GL会議の定期的な開催による現場での情報共有への努力が行われている。
外部資金獲得額・論文発表数が増加していることは評価できるが、約50名の内部スタッフの論文数が年間20−30報であることについては議論が必要である。
オープンサイエンスに関して、ワーキンググループで検討が行われた結果、BL20XUをパイロットケースとしている。ただ、オープンデータ、オープンアクセスについては研究分野で大きく異なるので、SPRUCを含めたSPring-8+SACLA全体としての基本的概念をまず確立しておくことが肝要で、さもなければ分野ごとに異なるシステムになることが危惧される。
X線検出器、大容量データ処理・解析技術、解析platform構築は、SPRUC、理研と協議をして開発や導入(=購入)に関するより明確な方向性を出すことが必要である。同時に、SPring-8とSACLAとの間での情報共有を行いながら進めることが必要である。
極低エミッタンス、高エネルギーX線光源を最大限に活用する方針の基に高性能化が行われていることは評価できる。
高エネルギーX線を用いた広いQ領域のPDF測定・解析は異常散乱効果を利用した元素識別と相まって、非晶質材料の原子レベルの構造解析に大きな威力を持つ手法であり、推進すべき方向性である。ただし、これらの手法は長年取り組まれてきた手法であるので、SPring-8ならではの特徴や、SPring-8-II計画で実現される特徴も踏まえ、これまでにない新しいPDF解析技術が開発されることを強く期待する。
中尺ビームラインとガウス型FZPを組み合わせて実現した高エネルギーnanoCTの開発は高く評価できる。研究成果を外部に積極的に広報すれば、潜在ユーザーが多数いるので、多くの新たなユーザーが使いにくるであろう。また、構造材料の場合、材料組織制御と破壊との関係などに注力したアピールが有効であると考える。
3-2 産業利用推進室
瞬冷凍の氷のイメージングなど、食品等の新規分野での利用開拓が実を結びつつある。
産業利用の観点でSPring-8全体のポートフォリオを視野に入れた推進が必要である。また、企業のニーズを吸い上げるための情報収集の努力が引き続き必要である。分析会社の参画は産業利用に関するビジョンを共有した上で、進めるべきである。
産業利用の評価軸は、尖った技術と標準技術で分けて考えることも一例であり、また、リピート率も一つの指標ではあろうが、SPring-8での実績を基に議論してほしい。
4. 利用促進②に関する助言
4-1 タンパク質結晶解析推進室
タンパク質結晶解析推進室では理研ビームライン、阪大ビームライン、NSRRCと連携して共用ビームラインを運用しているため、課題数及び成果が増加する傾向にあり、評価できる。
AMED・創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(2017年~2021年)をきっかけとした時空間階層構造解析の積極的な推進は重要であり、それに伴った中期計画が明確化されている。
SPring-8とSACLAが連携してSPring-8-II計画を視野に入れつつ微小結晶測定技術の開発(SSX)、高エネルギーX線(20~35 keV)を用いた測定システムの高性能化、キャピラリーレス調温調湿下試料測定環境の整備、試料交換ロボットの高速化、自動測定基盤の開発などが行われている。また、BM-BLの高強度化なども含めて、短期的課題、中期的(構造的)課題を明確に認識した運営がなされている。前回の助言に対応するべく、新規ユーザー取り込み、ユーザーとの共同研究が積極的に実施されている。
今後は更に、CryoEMなど他の技術の進展を見据えながら、スタティックだけではなくダイナミックな構造解析への挑戦を一層進めて行くべきである。また、同一結晶による回折(構造)と分光(ダイナミクス)の同時測定などのユーザーの意見を取り入れた高度化も進めて頂きたい。
4-2 XFEL利用研究推進室
ミッションを明確にして、理研との連携を密にした運営・開発がなされており、論文成果も順調に増加している。物質科学、高エネルギー密度科学に対する実験プラットフォームの構築に取り組んでおり、ピンクビームの利用、ハーモニックセパレータ等の新しい概念のテストが開始されている。
SCSS試験加速器の移設によるBL1(軟X線FEL)の高度化、BL2とBL3の振り分け運転に関わるコヒーレント放射(CSR)の問題点を克服するための新しいラティスの導入が行われ、2017B期から本格的な共用が始まっている。時間分解SFXプラットフォームや高感度X線検出器(MPCCD phaseIII)が導入された。バクテリオロドプシンの動的構造を可視化することに成功している。また、産業利用の振興にも注力している。今後は光励起以外の過渡現象もできるようになることが必要となる。
マテリアルにおけるSACLAの強みは、フェムト秒光レーザー励起に伴う電子励起効果を熱的効果と区別して、構造ダイナミクスを精密に見積もることができることであるので、このような物質のターゲットを見つけ出す努力が必要である。
マテリアルにおける一般的な課題は、
①ポンププローブ手法を用いた測定においては、フェムト秒光レーザー以外のXFELの時間分解能に見合う時間分解能で、外場のトリガーの時間的始点と、絶対値の時間変化を読み取れる技術の確立
②不可逆的過程の測定(repetition rate)の実現
であろう。
SACLAで培った時分割測定技術や検出器開発などの要素技術開発は、その結果のみならずそのプロセスがSPring-8-II計画にマッチした測定系を構築する上で重要であり、どのように繋げていくかについて引き続き検討して頂きたい。
4-3 情報処理推進室
近年の情報処理技術(高速NW、人工知能、クラウド、ビッグデータ)の発展を意識した施設の整備を行う必要がある、という認識の下、開発が行われている。具体的には、DARUMA(汎用データ取得用ソフトウェア群)、データリポジトリと遠隔制御の開発、ユーザー認証システムの強化、UIサイトの強化、セキュリティの強化に取り組んでおり、そのタイムテーブルも含めて活動の方向性は、妥当であると評価できる。施設の基本インフラであることから、施設からの恒常的な支援が必要である。
4-4 利用推進部
昨年度の32名体制から本年度は20名体制になり、合理化された体制で業務に取り組んでいる。新しい体制下で、昨年の助言(次期UIシステムの取り組み、SPring-8評価基準、普及啓発活動)への対応に取り組んでいる。特に、普及啓発活動に関しては、研究会合、研修会・講習会、スクール、展示ブース等の開催、SPring-8利用推進協議会関連イベントの開催、SPRUCとの連携による普及啓発活動に取り組んでいる。
また、SPring-8の評価基準については、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)などと引き続き検討を続けてもらいたい。
5. まとめ
JASRIが果たすべき役割は、SPring-8-II計画も含め、日本全体の放射光科学・技術の推進に寄与することであることを充分に理解し、JASRIの経営陣とスタッフが一丸となり、将来を見据えた研究開発、利用支援をより一層進めて頂きたい。
最後に、本委員会の助言を契機に、JASRIが理研、ユーザーとともに将来の放射光科学について議論・検討することで、SPring-8及びSACLAからの利用研究成果を最大化するとともに、今後のSPring-8-II計画の実現に期待する。