Volume 23, No.1 Pages 35 - 38
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第16回加速器と大規模物理実験制御システムに関する国際会議(ICALEPCS2017)報告
Report on ICALEPCS2017 (The16th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems)
[1](公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門 Light Source Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 情報処理推進室 Information-technology Promotion Division, JASRI
ICALEPCS2017(16th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems)が、2017年10月9日から13日まで、スペインのバルセロナで開催された。ICALEPCSはその名前の通り加速器と大規模物理実験の制御システムに関する国際会議である。隔年でヨーロッパ、アメリカ、アジア(含むオセアニア)地域を巡回して開催されていて、今回はALBA Synchrotron主催で開催された。素粒子物理学実験施設を始め、放射光、中性子源、核融合、電波望遠鏡などの施設から607名の参加があった。会議は以下に示す14のプログラムトラックで構成され、プレナリー、パラレルの両セッションを合わせて全部で111の口頭発表が行われた。前回のICALEPCSから新たに14番目のData Analyticsのトラックが追加されたことを言及しておく。
1. Experiment Control
2. Functional Safety and Machine Protection
3. Software Technology Evolution
4. User Interfaces and User eXperience (UX)
5. Project Status Reports
6. Control Systems Upgrades
7. Data Management and Processing
8. Integrating Diverse Systems
9. IT Infrastructure for Control Systems
10.Feedback Control and Process Tuning
11.Hardware Technology
12.Timing and Synchronization
13.Systems Engineering, Collaborations and Project Management
14.Data Analytics
図1 会場となったカタロニアコングレスセンター
また会議に先立ち、10月8日、9日の両日に制御に関係する特定の話題について深く議論するための場としてプレワークショップが開催された。HDF5 data format、Control System Cyber-security、Motion Controlなど10件のプレワークショップに延べ560名の参加があった。
会議の内容は多岐にわたり、かつ専門的であるため、ここでは放射光実験と放射光施設に関わる話題を中心に報告する。既にICALEPCS2017のWebサイト[1][1] http://icalepcs2017.orgに発表資料やプロシーディングスが公開されているので、ご興味がおありの方はそちらを参照していただきたい。なお、SPring-8/SACLAからは4件の口頭発表(理研:福井、JASRI:岡田、松本、増田)、1件のミニオーラル付きポスター発表(JASRI:松本)および3件のポスター発表(JASRI:細田、石井、清道)が行われ、会議には5名(理研:福井、JASRI:松下、岡田、松本、増田)が参加した。
今回のICALEPCSにおけるキーワードを挙げると、“Collaboration”、“Open Source”、“Open Hardware”であったと思う。制御の世界では、以前より施設間での“Collaboration”による制御システムの開発が積極的に行われているが、その傾向が益々強まっているように感じられた。口頭発表の多くがCollaborationによって進めているプロジェクトを含んでいたり、あるいはその成果物を活用したものであった。
“Collaboration”によって進められているプロジェクトの代表例がTANGO[2][2] http://www.tango-controls.orgとEPICS[3][3] http://www.aps.anl.gov/epicsである。これらはSPring-8で使用されているMADOCA[4][4] 古川行人 他:SPring-8/SACLA利用者情報 19 (2014) 392-395.同様、大規模な制御システムにおいて複雑な通信レイヤを隠蔽し、ソフトウェア同士あるいはソフトウェア~ハードウェア間の橋渡しを行う“制御フレームワーク”と呼ばれるソフトウェアである。9月に初めてのユーザー実験がスタートしたという報告があったEuropean XFELのように独自の制御フレームワークを利用している施設もあるが(ただしEPICSへの接続は可能)、加速器施設や電波望遠鏡、核融合施設など、その多くでTANGOやEPICSを活用している。特にTANGOのプロジェクトの広がりが際立っていた。これはその中心地であるヨーロッパが開催地だったことも一因と思われるが、それ以上に公開資料の整備やメンテナンス、サポートなどに人員を割くマネージメントの一貫性によるところが大きいと感じた。近年は産業利用への展開も広がっている。著者の一人(岡田)が、よく使われる制御のパターンを共通化して開発の手間を省こうというSardana[5][5] http://sardana-controls.org/en/latestと名付けられたTANGOベースの制御パッケージのプレワークショップに参加したが、もともとALBA所内のプロジェクトだったものを、コミュニティに広げていくためには始めのハードルを越えるのに相応の努力がいるのだとワークショップ主催者が述べていた。
実験制御においても、多くはTANGOやEPICSを活用しており、それらとリンクが取れるようなソフトウェア構成となっている発表が多く見られた。第4世代放射光光源として2016年6月に始動したMAX IVやESRFの次期計画であるEBSでもTANGOが制御フレームワークとして活用されている。このような次世代の放射光施設では、簡易にプログラム構築が可能なPythonスクリプトの活用とともに、Webベースでの制御へと移行が進んでいるのが印象的であった。実験ステーション向けの汎用ツールもspecを発展させたBLISSや、2次元検出器用フレームワーク(areaDetector[6][6] http://cars.uchicago.edu/software/epics/areaDetector.html、LIMA[7][7] http://lima.blissgarden.org)などの開発が進んでいた。
実験データ蓄積のためのデータフォーマットとしては、階層構造をもつデータを管理できるHDF5が多くの施設で活用されていた。大容量データを効率的に扱うための各種技術要素開発やデータ解析ツールの整備が進展し、最近ではクラウドでの利用も実現できるようになってきている。
また実験制御については、筆者の一人(松本)がMADOCAを用いたX線実験のデータ収集および制御フレームワークであるDARUMAについて発表を行っている。DARUMAは現在、SPring-8での幾つかの実験ステーションに導入することで放射光実験の支援を進めているが、今後、他の放射光施設とも連携し、HDF5などの標準技術の活用や、様々な汎用ツールと連携していくことが重要になると感じた。
“Collaboration”によって進められるプロジェクトはこれまではソフトウェアが中心であり、それらは“Open Source”として公開され誰でも利用することができる。この考え方をハードウェアにまで広げたのが“Open Hardware”である。各種I/Oボードを始めとするハードウェアの開発に必要な各種データをすべて公開するという取り組みであり、10年ほど前からOpen Hardware Repository[8][8] https://www.ohwr.orgとしてCERNを中心に“Collaboration”によって進められていた。今回その成果物を利用した事例が多く報告されており、その取り組みがようやく実を結んできたと言える。Open Hardwareの流れを作ったCERNのJavier Serranoが、今回ICALECSのLifetime Achievement Awardを受賞したのはその象徴であろう。
“Open Hardware”の成果の代表例がWhite Rabbit[9][9] https://www.ohwr.org/projects/white-rabbitで、これはネットワークを介してサブナノ秒以下の高精度で時刻同期が行える技術である。White Rabbitをタイミングシステムとして採用していたり(CERN、GSIなど)、あるいは採用を予定している発表(Square Kilometer Array(SKA)、Cherenkov Telescope Array(CTA)、Extreme Light Infrastructure(ELI)など)が幾つか見られた。SuperKEKB、ESS、SwissFELなど市販品のMicro Research Finlandのタイミングシステムを採用している施設も幾つかあったことを追記しておく。
中でもEBSのタイミングシステムとしてWhite Rabbitを採用するという発表はインパクトがあった。White Rabbitを用いて加速器のRF信号をEthernetで伝送(RF over Ethernet)するとのことであった。柔軟性や拡張性に優れ、加速器だけでなくビームラインへも加速器由来のタイミング信号が正確なタイムスタンプとともに配布できることがWhite Rabbitの採用理由であるとのことであった。
ALBAとMAX IVとのCollaborationで、“Open Hardware”を活用したElectrometerの開発の発表があった。ハードウェア、ゲートウェア、およびソフトウェアの各種インターフェースをopen standardで設計していて、入力レンジは1 mAから100 pAまで、0.5 Hzから3,200 Hzのローパスフィルタでフィルタリングしている。同一入力レンジで比較すると、Keithley 6517Bよりもノイズ電流密度が最大で32 dB優れているという報告があった。タッチパネルを用いたローカル制御、Webアクセスによる簡単な監視や制御も可能で使い勝手も良さそうである。データにはタイムスタンプが付けられる。
今回新設のData Analyticsのトラックにおいて、機械学習を利用した加速器機器の異常検知の紹介があった。数千点に及ぶモニターセンサーからの時系列データを人の目で監視するのは不可能なので、機械学習のアルゴリズムを適用して、普段と違う動き、仲間と違う動きを捉える。データの分散処理のインフラを整えた上での分析である。今どきのビッグデータ解析の潮流で、次回以降このトラックは伸びてくるかもしれない。
会議の最終日にはALBA Synchrotronの施設見学が行われた。ALBAは外観の美しい写真が印象的であったが、実際に建屋内部に入っても外観同様に非常に美しい施設であった。周長270 mの加速器トンネル内部を半周ほどと、ビームライン実験ステーションを2本ほど見学することができた。ビームラインは現在8本が稼働中ということで実験ホールには所々にまだ広いスペースがあり、天井から外光が積極的に取り入れられていることもあって明るく開放的に感じられた。
図2 ALBA Synchrotronの実験ホール
バルセロナがあるカタルーニャ州では、10月1日にスペインからのカタルーニャ州独立の是非を問う住民投票が行われたばかりで、ある程度の混乱があるのではないかと心配していた。カタルーニャ州の旗を振りながら車やバイクに乗っている人々や、マンションの窓からカターニャ州の旗を出して大騒ぎをしている人々の姿をまま見ることはあったが、心配していたような大きな混乱はなかった。地下鉄などの案内にはスペイン語とともにカタルーニャ語による表記があり、今回の独立運動の背景の一端を感じることができた。
次回2019年のICALEPCSはBNL主催でNew Yorkにおいて、また2021年のICALEPCSはSSRF主催で上海において開催される予定である。
参考文献
[1] http://icalepcs2017.org
[2] http://www.tango-controls.org
[3] http://www.aps.anl.gov/epics
[4] 古川行人 他:SPring-8/SACLA利用者情報 19 (2014) 392-395.
[5] http://sardana-controls.org/en/latest
[6] http://cars.uchicago.edu/software/epics/areaDetector.html
[7] http://lima.blissgarden.org
[8] https://www.ohwr.org
[9] https://www.ohwr.org/projects/white-rabbit
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : masuda@spring8.or.jp
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