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Volume 23, No.1 Pages 27 - 31

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

24th International Congress on X-ray Optics and Microanalysis(ICXOM24)報告
Conference Report on 24th International Congress on X-ray Optics and Microanalysis (ICXOM24)

今井 康彦 IMAI Yasuhiko

(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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SPring-8

 

 24th International Congress on X-ray Optics and Microanalysis(ICXOM24)という国際会議が、2017年9月26日から29日にかけて4日間の日程でイタリアのトリエステにおいて開催された。ICXOMは1956年に第1回がケンブリッジ・イギリスで開催され、3年もしくは2年毎(現在では2年毎)に開催されてきた歴史のある会議である。当初は電子線やX線を使った顕微測定を行っていた研究者間の情報交換の場として始まった会議であるが、最近ではほぼX線だけになり、中でも放射光X線を利用した研究の発表が主流となっている。実験室系の装置開発などもwelcomeとされており、実際に今回の会議でもX線発生装置を使った発表も何割かを占めていた。会議の開催時期は9月で、ここ10年では、京都・日本(19th, 2007年)、カールスルーエ・ドイツ(20th, 2009年)、カンピナス・ブラジル(21st, 2011年)、ハンブルグ・ドイツ(22nd, 2013年)、ニューヨーク・アメリカ(23rd, 2015年)と続いてきた。ICXOMの歴史に関しては、ICXOM20のProceedingsに、“A brief history of 50 years of ICXOM”という記事がある[1][1] K. Janssens: AIP Conf. Proc. 1221 (2010) 1-6.。トリエステには、1993年から運転を行っている、2/2.4 GeVの第3世代放射光施設Elettraと自由電子レーザー施設FERMIがあり、会議のホストとなっていた。これらの施設については、見学ツアーが行われたので、後で簡単に述べる。

 

図1 会場前で撮影された集合写真[2][2] Alessandra Gianoncelli: private communication.

 

 

 本会議に先立ってチュートリアルとサテライトワークショップMacro X-ray fluorescence(MA-XRF)scanningがそれぞれ1日ずつ開催された。チュートリアルは、本会議の会場からバスで20分程の距離にあるInternational Centre for Theoretical Physics(ICTP)において、蛍光X線分析の基礎となるX線物理、大容量(数10 GB)のスペクトルデータをPyMCAなどのソフトウェアを使って解析する方法のレクチャーなどが行われた。ワークショップMA-XRFでは、本会議と同じ会場The Congress Center Triesteにおいて、放射光と共に実験室のX線発生装置を使った絵画の絵具や文化財の評価に関する研究発表が行われた。装置メーカーから専用の測定装置が市販されており、貴重な絵画などを美術館から持ち出さなくても分析できるようになっている。ワークショップには文化財の分野からの研究者が多く参加していた。また、ワークショップの参加者145名の内、女性の割合が3~4割あり、発表者ではほぼ半数が女性であった。分野に依るのかもしれないが、男女比の偏りが少ない点は日本との違いを感じた。

 

 ICXOM24本会議には、24ヵ国から210名の参加者があり、78件の口頭発表(内12件が招待講演、30件が若手研究者もしくは博士課程の学生による発表)、86件のポスター発表が行われた。ワークショップと合わせた参加者数は270名で、これは主催者想定の倍近い人数だったようである。過去に筆者が参加した2009年のICXOM20では150名(23ヵ国)の参加者数であった。会議のプログラムや概要はWebで公開されているので、詳細をお知りになりたい方はそちらを参照していただきたい[3][3] http://www.icxom24.it/Main/Program。ここでは、招待講演を中心に主要な幾つかの講演をピックアップして報告する。
 オープニングには、イタリアの放射光施設ElettraのDirector and PresidentのAlfonso Franciosi氏の登壇が予定されていたが、関係当局との重要な予算関係の会議が入ったとのことで、代理の方からICXOMの歴史やElettra、自由電子レーザー施設FERMIの紹介などが行われた。引き続いて、Nature CommunicationsのAssociate Editorの一人Zachary Lapin氏より編集のプロセスやTipsについての話があった。同氏はこの雑誌へのX線イメージング関係の論文を増やすことを目的としてこの会議に参加されていた。現在は70名のEditorがおり、2016年には31,000件の投稿があったこと、blind peer review optionなどの紹介が行われた。

 

図2 会場の様子[4]https://www.elettra.trieste.it/comunicazione/events/icxom24.html

 

 

 本会議初日は、午前にX線顕微鏡のセッションが2つ、午後に検出器と装置関係のセッションが2つあった。2日目と3日目は、2つの会場を使ったパラレルセッションが計11枠、4日目最終日はシングルセッションが2つというスケジュールであった。セッション毎のテーマは以下の通りである。
・X-ray Microscopy
・Detectors
・Tomography
・Tomography and materials science
・Detectors and instrumentation
・X-ray Optics
・Data Analysis for XRF and CT
・Ptychography
・Life science
・Life science and environment
・Optics and FEL
・Optics systems
・Full filed and tomography
・Cultural heritage

 

 最初のX線顕微鏡のセッションは招待講演を含む4件の発表があった。最初は、Burkhard Kaulich氏によるDiamond Light Source(DLS)のI08-SXMにおける走査型X線顕微鏡についての招待講演である。DLSは過去45年でイギリスの単独の施設としては最大の予算投入がなされた施設であり、2016年には1,026課題が実施されている。施設内にはユーザー用に電子顕微鏡施設(ePSIC)が備えられており、バイオ実験用の設備も用意されている。I08ではApple II型の挿入光源からの250~4,400 eVの軟X線が利用できる。近年では制御ソフトウェアとDAQシステムの大規模なアップグレードを行い、効率的な測定が実現された。ステッピングモーターとピエゾモーターをレーザー干渉計によるフィードバックと組み合わせて試料を走査するon-the fly測定が可能となった。また、raster scan中にオンラインでXRFデータのフィッティング結果が表示可能となっており、近いうちにはタイコグラフィーデータのオンライン再構成イメージの表示も可能となるとのことであった。これらのアップグレードは、15名以上のエンジニアと開発者で行われており、ソフトウェア開発に大きな力を入れ、それがきちんと結果に結びついていることが分かった。
 POSTECHのHyunjoon Shin氏からは、Pohang Light Source(PLS)における走査型軟X線顕微鏡についての講演があった。Scanning transmittion X-ray microscope(STXM:発音はスティックセムと聞こえる)で200~1,500 eVの軟X線を使って元素・化学状態・磁気モーメントの分布の測定が行われている。装置はCanadian Light SourceやAdvanced Light Source、UVSORと同じBruker製である。最外殻輪体幅25 nmのゾーンプレートを使って約30 nmの分解能が得られていた(250~850 eV)。また、厚い試料に対しては蛍光X線を利用し、約50 nmの分解能が得られていた。更に、10 nmを切る分解能を目指したタイコグラフィー測定システムも整備済み。実験結果はたくさん出ているがpublishは未だとのことであった。POSTECHからは3名が参加していた。
 Brookhaven National Laboratory(BNL)のYong S. Chu氏からは、NSLS-IIのHard X-ray Nanoprobe(HXN)を使ったナノスケールマルチモーダルイメージングについての講演があった。マルチレイヤーLaueレンズ(MLL)を使って、12 × 13 nm2の集光が実現されており、蛍光・回折・differential phase-contrast(DPS)・タイコグラフィー・x-ray beam induced current(XBIC)を組み合わせた同時測定が可能となっている。BNLにはナノポジショニングを専門とするチームがあり、HXNでは、6 nrad(V)、17 nrad(H)程度の角度安定性が実現されているとのことであった。使っているMLLは市販はされておらず、12 keVでの集光X線(12 × 13 nm2)のフラックスは109 ph/s。wedged MLLを使った8.8 × 6.4 nm2にも成功しており論文投稿済み。20 nmのvoxel sizeでのトモグラフィーも行っているが、測定に30時間かかっており、試料へのダメージがある。ある測定ではX線の強度としては1点あたり6 msで十分だが、DAQが律速となり100 msかかっているとの話もあった。SRI2015の施設見学で見た時には、まだ装置の立上げ中であったが、着実に進んでいるという印象を受けた。
 BNLのJuergen Thieme氏からは、NSLS-IIの5-ID Sub-micron Resolution X-ray Spectroscopy(SRX)beamlineにおける高空間分解能XRFイメージングとスペクトロスコピーについての招待講演があった。このビームラインでは4~25 keVのX線が利用でき、集光位置におけるフラックスは1011~1012 ph/sであり、384素子のMaia検出器が利用できる。このMaia検出器は、エネルギー分解能のある384個の素子からなり、中心にX線を通すための穴が空いている。そのため、試料に近づけて、背面Laue写真撮影のような配置にすることで、広い立体角を見込むことができる。高速信号処理システムのおかげで弾性散乱が検出器に入っても大丈夫なようである。会場から、なぜモノクロを通さないピンクビームを使わないのか?との質問があった。蛍光X線の測定だけであれば、ピンクビームの方が高いフラックスが得られ、ビームの安定性も向上すると期待されるからである。質問への回答は、スペクトロスコピーを考えてビームラインを設計したためピンクビームは使えるようになっていないから、という消極的なものであった。
 検出器と装置関係のセッションでの招待講演は、BNL検出器開発グループのD. Peter Sideons氏からで、放射光用のmonolithic multi-element Ge検出器についてであった。この検出器はドイツのthe Forschungzentrum Julichで開発されたセンサーアレイとBNLで開発したASICsを組み合わせたものであり、配線はワイヤーボンディングである。element数は64から384のものまでが開発済みであり、NSLS-IIとAPSで使われている。センサーは90 Kに冷却されており、122 keVでのエネルギー分解能は770 eVと報告されていた。

 

 2日目はパラレルに合計6つのセッションがあり、夕方のポスターセッションを挟んで、Conference dinnerがあった。
 ESRFのMarco di Michiel氏からは、“Time resolved X-ray diffraction computed tomography for studying real systems under operando conditions”というタイトルの招待講演があった。ESRFのID15Aでは、150 keVまでの高エネルギーX線とPILATUS X CdTe 2Mを使い、触媒や電池などの化学反応中の中間生成物の分布をon-the-fly XRD-CT測定している例が紹介された。速く測るとその分角度刻みが荒くなるため空間分解能が犠牲となるが、データにはなるとのことである。5次元chemical imagingという言葉が印象に残った。
 検出器と装置のセッションでは、Paul Scherrer Institut(PSI)のA. Bergamaschi氏から、“Advances in hybrid pixel detectors for photon science”というタイトルの招待講演があった。XFEL用に開発されている電荷積分型のピクセル検出器JUNGFRAUと、低いフラックス用のエネルギー分解能のある2次元検出器MÖNCHが紹介された。JUNGFRAUは75 × 75 µm2のピクセルサイズ、12 keVにおいて1フレームあたり104のダイナミックレンジ、2 kHzのフレームレートで、EIGERの10倍のフラックスまで使える検出器である。この検出器は、放射光においても、高いフラックスを活かした実験に使えるのではないか、との提案があった。一方、MÖNCHは積分型ではあるが、1光子の分解能をもつ2次元カラー検出器である。シリコンのセンサー、25 × 25 µm2のピクセルサイズ、RMSで120 eVのノイズ、低い方で600 eVの軟X線まで1光子の分解能をもっている。空間分解能は内挿することで、ミクロンレベルまで高めることができるとのことであった。XRFやLaue反射、RIXSでの利用が考えられている。既存の大型放射光施設のアップグレードでピンクビームを使うことを考えると、それなりのエネルギー分解能があり、1光子の感度をもつこのような2次元検出器が必要となることが考えられる。

 

 3日目は、午前中のセッションの後15:00から放射光施設Elettraと自由電子レーザー施設FERMI、アンジュレータ開発製造メーカーKymaの見学ツアーが順に行われた。Kymaは隣国のスロベニアにあるため、必要な人はパスポートをもってくるようにとの指示があった。放射光施設Elettraは市中心部から東へバスで30分弱の距離の山の上にあり、周長259.2 m、エネルギーと蓄積電流2 GeV、300 mA(75%)/2.4 GeV、140 mA(25%)、エミッタンス7/9.7 nm・radで、トップアップ入射で運転されている。見学した日は運転中でユーザー実験が行われていた。ビームラインは軟X線が中心なためか、SPring-8のような大きなハッチは目立たなかった。もちろん、偏向電磁石を光源とする硬X線のビームラインもあり、医学イメージング(マンモグラフィー)なども行われていた。病院の装置では診断が難しい患者さんが年間70名ほど来所して診断を受けている。施設全体がコンパクトで天井が低いためか、測定装置も含めて全体がコンパクトにまとまっているという印象を受けた。一方、自由電子レーザー施設FERMIの実験ホールは天井が高く装置も大きいためインパクトがあった。FERMIはUVから軟X線を出すことができる。また、Seeded FELであるためモノクロの必要がないという特徴がある。見学ではコヒーレント回折イメージングの装置が紹介された。壁に食事の出前メニューが貼られていた(食事をとりに外へ出る時間を惜しんで研究に取り組んでいる、ということであろうか?)。

 

 最終日の4日目は午前中に2つのセッションがあり、ChairのAlessandra Gianoncelli氏によるConcluding remarksで締めくくられた。次回2019年の開催地の発表はなかったが、一部の参加者からは今度はアジア地域で開いて欲しいという声が聞かれた。

 

図3 放射光施設Elettra見学の様子。

 

図4 自由電子レーザー施設FERMI見学の様子。

 

図5 参加者の所属国別の割合。日本からは4名。

 

 

 

参考文献
[1] K. Janssens: AIP Conf. Proc. 1221 (2010) 1-6.
[2] Alessandra Gianoncelli: private communication.
[3] http://www.icxom24.it/Main/Program
[4] https://www.elettra.trieste.it/comunicazione/events/icxom24.html

 

 

 

今井 康彦 IMAI Yasuhiko
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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