Volume 22, No.4 Pages 354 - 356
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第1回SPring-8秋の学校を終えて
The 1st SPring-8 Autumn School
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)企画委員長/筑波大学 数理物質系 SPring-8 Users Community, Project Supervisor / Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba
秋の学校の概要
「第1回SPring-8秋の学校」は、9月18日(月)~9月21日(木)の3泊4日の日程で、北は秋田県から熊本県にわたる日本全国から43名の学部学生、大学院生、企業研究者の参加を得て、中央管理棟上坪講堂およびSPring-8蓄積リング棟を会場として開校されました。SPring-8秋の学校は、次世代の放射光科学に貢献する人材の発掘を目的として、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)と高輝度光科学研究センター(JASRI)が中心となり、大学や関係諸機関と協力して行われました。校長は、SPRUC会長である大阪大学蛋白質研究所の中川敦史先生にお願いしました。事務局はJASRI利用推進部にお願いしました。
SPRUCが主催として加わった「SPring-8秋の学校」は、すでに第17回を迎えている「SPring-8夏の学校」と、1)SPring-8施設の停止期間中に行うため放射線業務従事者資格が不要で参加できること、2)夏の学校で見られる「指定校推薦」の枠や学年などの制限がないこと、などの点で異なっています。今回は、これらの利点を生かして、卒業研究や大学院進学を控えた方々が進路を考える機会として、また、これから利用を考えている大学院生や企業研究者への機会として、講義とグループ講習は、大学3年生が十分に理解できる水準に設定しました。
図1 講義風景
カリキュラムについて
カリキュラムはSPring-8夏の学校に倣い、初日に3講座、2日目に4講座の基礎的な講義を行い、その後の2日間に3テーマのグループ講習が行われました。また、SACLAとSPring-8蓄積リング実験ホールの見学、さらにはSPring-8蓄積リング収納部の見学も行われました。参加者間の交流を深めるため、懇親会も行いました。今年のスケジュールは以下の通りでした。
第1回SPring-8秋の学校 日程表
グループ講習
グループ講習のテーマと担当者(敬称略)は以下の通りです。なお、講習のテーマと担当者はSPRUC研究会より希望を募りました。いくつかのグループ講習は、SPRUC研究会のメンバーより企画され行われました。施設の休止期間中でしたが、現地にて実際の装置やデータを手に取って進めることで効果的な講習になったと思われます。
1. 単結晶構造解析
橋爪大輔(理化学研究所CEMS)
杉本邦久(高輝度光科学研究センター)
2. 放射光粉末X線回折によるその場観測の実際
笠井秀隆(筑波大学)
河口彰吾(高輝度光科学研究センター)
3. タンパク質結晶解析
水島恒裕(兵庫県立大学)
田中良和(東北大学)
4. 小角X線散乱
増永啓康(高輝度光科学研究センター)
5. XAFS
水牧仁一朗(高輝度光科学研究センター)
新田清文(高輝度光科学研究センター)
6. 蛍光X線分析
寺田靖子(高輝度光科学研究センター)
7. 赤外分光分析
池本夕佳(高輝度光科学研究センター)
8. 軟X線分光 ~軟X線分光で視る物質の世界~
松田巌(東京大学)
9. X線イメージング
矢代航(東北大学)
図2 グループ講習風景
謝辞
熱意のこもった講義をしていただいた講師の先生方、2日間にわたる講習を熱心に指導していただいた講習担当の皆様、分かりやすい説明で参加者の興味を引きつけてくださった見学引率者の皆様、特に大人数の参加者にSPring-8蓄積リング収納部の見学を可能にしていただいたJASRI光源基盤部門の方々に感謝致します。また、事務局としてウェブ作成から懇親会・バーベキューのお世話までご努力いただいたJASRI事務局担当者の方々、講師の選定、テーマの決定に協力いただいたSPRUC研究会の方々にも感謝いたします。
筑波大学 数理物質系
〒305-8571 茨城県つくば市天王台1-1-1
TEL : 029-853-6118
e-mail : nishibori.eiji.ga@u.tsukuba.ac.jp
第1回SPring-8秋の学校に参加して
東京大学 工学部物理工学科
平松 信義
僕は計測科学と光技術に関心がある学部3年生です。今回の秋の学校はX線科学と放射光技術について幅広く学ぶために参加しました。秋の学校では放射光科学を概観できるようになっただけでなく、その面白さと最近の国内外の研究の流れを知ることができました。SPring-8のビームラインで行った実習では放射光ユーザーの皆さんがされている研究をいくつか体験することができました。懇親会とバーベキューでは研究者の方々に何度も質問をぶつけることができ、多くのことを教えていただきました。今後の秋(夏)の学校に参加を希望される皆様のために僕が感じたことを少し詳しく書きます。
講義は、オムニバス形式で放射光発生の理論とビームライン技術、実際の研究ではどのように用いられているかなど、合わせて7名の先生方にご説明いただきました。お話は基本的なことから発展的なことまで、予備知識がなくとも理解できるように数式をなるべく使わず、例え話を交えるなど工夫が凝らされていました。講義の後には参加者から活発な質問があり意欲の高さが伺えました。SPring-8建設時代と放射光黎明期についての裏話や、国内外での研究の動向に関して聞くことができたことも僕の印象に残っています。参加者は関心を持った講義に関して後日課題を選択して、手を動かして計算したり、発展的な内容について調べることで理解を深めることができます。2日間の講義では理解できないこともありましたが、講師の皆様のユニークなお話から放射光科学の面白さと重要性に関する知識を得ることができたのは今後の勉強の動機付けになりました。
ビームライン実習は、それぞれのビームラインで行われている実際の研究に関して体験するものでした。僕はX線イメージング、タンパク質の結晶構造解析、軟X線分光の3つの実習に参加しました。タンパク質の結晶構造解析の実習では、原理に関して簡単な説明を受けた後、タンパク質の結晶を実際に作成し、得られている電子密度データからソフトウェアを用いてタンパク質の同定を行いました。放射光を利用してタンパク質の結晶構造解析を行う流れの疑似体験ができ、特に印象に残りました。実習では先生方のお人柄がよく分かって楽しかったです。
講義と実習の合間には、普段なかなか見ることのできない放射光施設内部の見学が複数回にわたって盛り込まれていました。デモ装置に実際触ってみるのは愉快でしたし、実験設備とビームラインの内部は壮観でした。
1日目にあった懇親会と3日目のバーベキューでは、先生方や職員と院生の皆さんなど幅広い年齢の方とお話できる機会がありました。特に先生方との懇親の機会では研究と人生に関する哲学や学生時代の過ごし方に関して貴重なお話を伺うことができました。
図3 懇親会風景
図4 記念写真