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Volume 22, No.3 Pages 291 - 293

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

「専用ビームラインの再契約」について
Renewal of Contract Beamline Agreement

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8の専用ビームラインとして、兵庫県が設置している兵庫県IDビームライン(BL24XU)については、平成29年11月で設置期限が満了することから、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき、再契約の申し出があった。
 これについて、専用施設審査委員会を6月に開催し、利用状況の評価及び次期計画の審査を実施した。またその結果を7月27日に開催したSPring-8選定委員会で審議した結果、次期計画の具体的な目標等の再確認と3年後を目処とした中間評価を実施することとして、再契約が認められました。
 詳細は以下、「兵庫県IDビームラインBL24XU」契約期間満了に伴う利用状況等評価・次期計画審査の結果を報告する。

 

 

「兵庫県IDビームラインBL24XU」契約期間満了に伴う利用状況等評価・次期計画審査報告書

 

 提出された兵庫県IDビームライン(BL24XU)の利用状況等報告書・次期計画書と口頭による報告発表にもとづき、ビームラインとステーションの構成と性能、施設運用及び利用体制、利用成果、及び次期計画の4項目について、6月30日に開催した第25回専用施設審査委員会で評価・審査を行った。その結果、次期計画の方向性、具体性が不十分であり満足な利用成果創出の実現に懸念があるため、次期計画の具体化に向けた再検討が必要と考える。
 そこで、再契約は承認するものの、具体的な目標等を設定した次期計画の再提出と、当該次期計画開始3年後を目処に、兵庫県のもう一方のビームラインである兵庫県BMビームライン(BL08B2)とともに、中間評価を行うことを勧告することとする。
 以下、項目毎の評価・審査結果の詳細を記載する。

 

○ビームラインとステーションの構成と性能
 産業分野での活用推進を目指すBL24XUは、マイクロビームを用いた局所分析技術の整備に重点をおき、従来の3ブランチ実験ハッチA、B、C(C1とC2はタンデム)をAブランチとBブランチとし、ブランチそれぞれに2つの実験ハッチをタンデムに配置するダブルタンデム型に改造を行った。
 AブランチではA1実験ハッチに粉末回折装置とBonse-Hart型超小角X線散乱装置、A2実験ハッチに熱酸化炉をそなえたZ-axis型斜入射回折装置と2.5 × 3.0 µmのビームサイズのマイクロビーム小角X線散乱装置が整備されており、産業分野における多様なニーズに対応できる装置群で構成されている。マイクロビーム小角X線散乱装置は中間評価時よりも格段に小さいビームが利用可能になるなど、それぞれの装置で着実な進歩が認められる。
 Bブランチは、B1ハッチに設置された微小領域X線回折に加えて、B2ハッチに高速X線イメージングや結像型X線CT、集光型マイクロビームによる走査型X線顕微鏡が整備されている。これに加えてB1ハッチにNear Ambient Pressure HAXPES装置の整備に着手したことは、従来から充実した機器整備を行ってきたマイクロビームX線による散乱・回折、イメージングとは異なった新規な取り組みであり注目に値する。
 このようにBL24XUはマイクロビームを軸とし、もうひとつの兵庫県ビームラインであるBL08B2との差別化と棲み分けを実現した、優れた特徴を有するビームラインと考えられる。

 

○施設運用及び利用体制
 SPring-8敷地内に設置された兵庫県立大学放射光ナノテクセンター(平成24年度までは、ひょうご科学技術協会)が、ビームラインの管理・運営、研究支援及び普及活動を行っている。フレキシブルでタイムリーな利用実験に向けてビームタイム割り付けを運転サイクルごとに行うなど専用ビームラインの特徴を活かした運営体制、利用体制になっている。産業界による利用希望も随時受け入れ、技術的に可能な課題は100%の受け入れを実現していることは、産学連携が良好に機能していることを示すものであり評価に値する。ユーザー利用の前に必要なビームライン調整を行い、ユーザーはマシンタイム開始時にすぐに測定に入れるようにしていることはユーザーフレンドリーな特色のある運用である。その一方で、実施課題数に対して公開成果の数が少ないなど、ビームタイム利用効率は改善の余地が大きいと思われる。また、産業界による成果専有課題の数が少ないことについても、これまで実施された課題の研究フェーズを調査するなどにより、今後の利用促進に役立てる分析が必要であろう。ユーザーの受け入れについては、独自の利用システム、利用料収入等を通じて機器整備人件費等に充てる資金を獲得し、自立的な運営を目指していることは高く評価できる。しかし、産業利用促進に向けたビームラインの運営を非正規雇用の研究員や兵庫県立大学の教員が担う現在の運営体制は、適切とは言い難い。兵庫県立大学教員の主務は言うまでもなく研究と教育であることから、産業利用促進に大きな責任を持たせることは困難である。このようにBL24XUは研究・教育と産業利用促進のどちらにも集中することができない体制で運営されている。これを改善するために、例えば正規雇用研究員の採用など、設置主体である兵庫県による体制整備が求められる。
 安全管理面については、スタッフが安全に関わる教育や講習を受講して理解に努め、初心者にはサポートを行うなど、一定レベルの努力が行われていると評価する。しかし、経験の浅い学生が多いだけに、より踏み込んだ安全管理を期待したい。具体的には、装置や薬品等の取扱い、および電気配線の実験者への十分な安全教育と指導、機器・装置や実験環境の安全対策とその確認(定期パトロール等)、機器の操作時やハッチ入室時の防護具着用、緊急時の対応といった面での安全対策を充実させる事が望まれる。

 

○利用成果
 Aブランチでは、希土類シリケート膜の結晶構造評価や、毛髪のマイクロビーム小角X線散乱など、新規に整備した機器を活用した成果が得られている。Bブランチにおいては、多層膜ゾーンプレートや全反射ゾーンプレートの開発などに代表される兵庫県立大学が主体的に実施しているX線集光技術開発に加えて、結像型X線顕微CTによる毛髪内の空隙観察や高速CTによるタイヤ用ゴムの変形挙動観察など、産業界による利用成果も得られている。しかしながら、産業界による研究成果には類似の先行研究事例があるものが少なからず含まれ、質・量ともに期待の水準に達しているとは言い難い。BL24XUが保有する利用技術や利用制度の特徴を活かした産業界による利用成果の一層の創出が望まれる。また、放射光産業利用の促進がビームラインの設置目的であるため、兵庫県立大学以外の利用者の大半が産業界である。このため、学術論文数を増やすことが容易ではないことは理解できるものの、運営する兵庫県立大学のビームタイム利用の割合が比較的多いにも関わらず、学術論文掲載数や博士論文数は期待通りの水準に達しているとは言い難い。この点も一層の努力が必要である。
 兵庫県立大学が運営するビームラインであることから、放射光分野の人材育成機関としての期待も大きい。卒業生等が兵庫県ビームラインの利用者になった2、3の事例があることから、徐々に効果が現れていると思われる。このような放射光利用者の育成とともに、将来の放射光利用技術を支える人材育成にも積極的に取り組むことが期待される。

 

○次期計画
 BL24XU次期計画として、液体窒素冷却Si結晶分光器の導入とそれに伴う輸送部とハッチの改造が挙げられているが、本件は昨年度の専用施設審査委員会で承認されたNAP-HAXPES装置の導入とBハッチの改造と一体となって行われる事項であるため、計画どおり遅滞なく実施していただきたい。
 中長期的な計画として、「構造モデルベース材料設計スキームの構築」と題して、1)構造・機能相関の可視化と、2)構造・機能相関の理解が提案されている。構造・機能の可視化においては、高時間分解能のその場観察、高空間分解能による変化過程の観察、多手法融合によるマルチスケール構造評価が開発項目として挙げられている。いずれの項目もその妥当性に疑いはないが、その場観察の対象となる現象や物質、そのために必要となる時間分解能や空間分解能の値、マルチスケール構造評価が必要な対象が具体的に提案されておらず、これらの点は検討不足と言わざるを得ない。2)構造・機能相関の理解においても同様で、“何を”対象とした構造モデル構築なのか、“何の”機能発現メカニズムの理解なのか明瞭に説明されていない。
 更に、Aブランチにおける高角度域小角散乱一括測定技術開発や、Bブランチでの4D-CT測定やCXDI法開発が計画されているが、それぞれの技術の機能は理解できるものの、その機能を用いて何を明らかにするのかが提案されていない。また、B1ハッチに整備中であるNAP-HAXPESを用いて繊維強化樹脂の表面処理層の非破壊評価が計画されているが、HAXPESの検出深さ限界やチャージアップ、複合材料を形成するそれぞれの素材からの光電子信号の重なりなど、複数の技術的課題が容易に想像できる。しかしながら、これらの技術的課題に関する言及がなかったために、測定の可能性に懸念を感じる。
 以上のように、提案された次期計画は具体性に乏しく、現状では計画の適否について判断することができない。放射光産業利用促進が設置目的のビームラインであることから、対象とする産業分野と解決が必要な産業技術上の課題を明確にした上で、目標とする時間分解能、空間分解能を達成するための技術開発計画の提案が求められる。
 一方、ナノテクセンタースタッフが主導する共同研究の充実と、工学研究科など兵庫県立大学内の他部局による産業界との共同研究の実施が提案されている。これらはいずれも論文発表も含めた利用成果創出促進に有効と考えられるため高く評価できる。これらについても順調な実施に向けて、具体的な行動計画が提案されることを期待する。
 研究や新技術の開発、産業利用において成果を挙げるためには、それぞれに専念できる人員の確保が必須であるが、現在は不十分な体制で運営されている。次期計画では、BL24XUにおける研究と教育、産業利用のそれぞれに専任の独立した責任者がおかれた体制を整備することが求められる。

 

 以上のように、今後の改善が必要な事項が多数あることから再契約は承認するものの、次期計画に向けた具体的な目標、行動計画を再提示の上、次回の中間評価は、当該次期計画開始3年後を目処に実施して、進捗状況の評価と実施計画の審査を行うことが適切であると本委員会は判断する。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794