Volume 22, No.3 Pages 238 - 240
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第8回国際粒子加速器会議(IPAC’17)報告
Report on IPAC’17 (The 8th International Particle Accelerator Conference)
第8回国際粒子加速器会議(International Particle Accelerator Conference, IPAC)が2017年5月14日から19日にかけてデンマークのコペンハーゲンで開催された。主要ホストは放射光源施設のMAX IVと中性子源施設のESS(European Spallation Source、建設中)であるが、両者ともにサイトはスウェーデンにある。開会式では、高等教育、科学、研究を担当するデンマークの大臣とスウェーデンの国務長官などの挨拶もあり、両国の科学技術への支援の様子が伝わった。世界34ヵ国から1,588名が参加し、加速器全般に関する発表・議論が行われた。会議で扱われた内容は幅広く、また専門的でもあるため、ここでは主に放射光と光源加速器に関する話題に絞って報告する。発表スライドやプロシーディングスなどは既にWebで公開されているので、詳細をお知りになりたい方はそちらを参照していただきたい[1][1] 会議のホームページは、https://ipac17.orgであり、プロシーディングスと発表スライドが公開されている。。
図1 会場内の風景
会議初日のプレナリーセッションは、W. Decking(DESY、ドイツ)によるEuropean X-ray Free Electron Laser(XFEL)のコミッショニング報告から始まった。超伝導加速空洞の4 Kへの冷却は2016年12月までに終了し、翌1月より加速器のコミッショニングが開始された。ビーム診断系を使ったエミッタンス測定なども行いながら後段のアンジュレータまでビームを通し、ビームエネルギー6.4 GeV、波長0.9 nmで最初のレーザー発振を5月2日に観測した。今年9月にユーザー運転を開始できるよう調整を進めている。横方向のビームプロファイルに理解できない挙動が見られ、現在調査中とのことであった。2018年には年間2,000時間、2019年には年間4,000時間(フル)のユーザー運転を計画している。FELに関する口頭発表は、Swiss FELについてH.-H. Braun(PSI、スイス)、PAL-XFELについてH.-S. Kang(PAL、韓国)、SACLAについてK. Togawa(理研)などからもあった。Swiss FELは2013年に建設が始まったXFEL施設である。2016年からコミッショニングが開始されたが、12月にビームエネルギー345 MeV、波長24 nmでのレーザー発振を観測した。さらに会議開催中の5月14日には、545 MeV、11.3 nmで、また5月15日には、0.91 GeV、4.1 nmでの発振が観測されたとの報告があった。計画では今年のうちに3 GeVまで加速し、0.4 nmでの発振とユーザー利用を目指すそうである。また消費電力の少ないクライストロンを開発し、さらにはそこから廃エネルギーを回収する冷却設備を構築するなど、エネルギーを効率的に消費する工夫がされている。世界の硬X線FEL施設は、LCLS、SACLA、PAL-XFEL、European XFELにSwiss FELを加えて、これで5つになったと宣言していたが、世の中はFEL施設の成熟期に入ったということであろうか。PAL-XFELからは2016年4月から始まったコミッショニングの状況が報告された。ビームを使ったアンジュレータのアラインメントとアンジュレータ放射のスペクトル解析によるギャップ値の精密調整を行い、2016年10月に波長0.15 nmでのレーザー発振、11月27日には飽和を達成した。また会期中の5月16日には波長0.1 nmでの飽和を観測したとの報告があった。SACLAからの今回の発表は、2016年からユーザー利用が始まったSoft XFELビームライン(SACLA-BL1)の運転経験とビームエネルギー増強によるアップグレードの状況などについての報告であった。現在8~62 nm(20~150 eV)の波長領域において最大60 Hzで運転しているが、エネルギーを1.8 GeVに上げて2~4 nmの波長域を目指す計画である。
リング型光源に関しては、SPring-8を始め世界各施設でMulti-Bend Achromat(MBA)ラティスを採用する極低エミッタンス化の検討が盛んに行われている。今回は、“Towards Diffraction Limited Storage Ring Based Light Sources”と題して、L. Liu(LNLS、ブラジル)によるレビュートークがあった。世界各施設の計画を紹介し、MBAラティスにまつわる問題点などを解説した。またSirius計画を例に取り、ラティス関数の最適化が重要であることなどを述べた。各地で行われているMBAラティスの検討は、ESRFが、“Hybrid MBA”と名付けられたラティスを5年程前に発表してから本格化した感があるが、今回の会議を見る限り、ある程度一段落したようである。もちろん安定領域の狭いリングへの入射の問題など、解決すべき課題は多いのだが、MBAラティスに関して特に目新しい報告はなかったように思う。なお、P. Raimondi(ESRF、フランス)が、“For the invention of the Hybrid Multi Bend Achromat HMBA-lattice ...”という理由で、“The Gersh Budker Prize”を受賞し、その記念講演があったことを書き添えておく。
トピックス的な話として、英国のDiamondが1セル分の磁石配置を局所的にアップグレード用のDouble-DBAラティスに入れ替えてビーム運転をしているとの報告があった。このような改造をするとリングの対称性が崩れるため、安定領域が狭くなることが懸念される。実際に入射効率の低下が見られ、ダイナミックアパーチャーが半分程度という予想以上の減少になったそうである。その他、永久磁石を使った偏向、4極磁石のR&Dや、クライオアンジュレータに関する発表が目立ったように思う。BESSY IIなど3 GeVクラスの施設では、クライオアンジュレータの導入がさかんに検討されている印象を受けた。
高周波システムの制御に関連した話題として、ドイツのDESYが中心となって立ち上げたMicroTCA.4という規格のモジュールに関連する報告があった。この規格は、元々は通信業界の規格であったTelecommunication Computer Architecture(TCA)に、アナログ信号処理モジュールを背面に設置できるように拡張したものである。European XFELではこの規格のモジュールが採用されていて、複数のモジュールで構成された約200台のユニットで、合計700万点のパラメータを制御しているとの報告があった。また、MicroTCA.4のモジュールの活用を推進するために、メーカーが製作したモジュールのテスト、ユーザーのトレーニングなどを行うMicroTCA Technology Labという組織をDESY敷地内に立ち上げたそうである。SPring-8の蓄積リングにおいても、老朽化したアナログ回路ベースの高周波制御システムを、MicroTCAモジュールをベースにしたシステムに移行する準備を進めており、これらの報告は参考になった。
大電力RF技術では、高電界下の放電現象と、加速管のコンディショニング時間の短縮について、W. Wuensch(CERN、スイス)の発表があった。氏の説明では、パルス的高電界の印加によって加速管表面には電界応力による微細な歪みが発生し、この歪みの発生頻度が放電頻度となる。そして、この歪みが発達し一様に広がると、放電の頻度が低くなる。加速管の製作では、機械加工後の、銅表面に予め機械的歪みが広がっている状態の方が、その後に加わる熱なまし処理による表面が滑らかな状態よりも、歪みの広がりに必要な高電圧印加は短時間で済む。試験結果では、非熱処理の試験空洞のコンディショニングに必要な期間は、熱処理空洞の1/10という結果であった。これが本当であれば、加速器の立ち上げ時間の多くを占める加速管のコンディショニングを、大幅に短縮できることになる。今後の検証が必要であるが、加速管の製作技術に一石を投じたと言える。
ビームモニタ技術では、Coherent Synchrotron Radiation(CSR)によるバンチ長モニタを用い、Micro-bunching Instability(MBI)のビーム電流依存性を、鮮明な二次元プロットで示した発表が、M. Brosi(KIT、ドイツ)からあった。MBIが発生するとバンチ長に変動が起こるが、そのバンチ長の変動を、全バンチ毎、ターン毎に測定し、かつ全データを収集できる高速なバンチ長モニタシステムにより、MBIの挙動や電流閾値の詳細を知ることができることを示した。このようなバンチ毎のバンチ長モニタは、MBIの測定以外でも、常時モニタとしてバンチ長変動などをより詳細に測定できると期待される。
Accelerator on a Chip International Program(ACHIP)という計画を複数の加速器施設が共同で進める枠組みがあり、周期構造を持った誘電体にレーザーを照射し、そこに発生した電場で荷電粒子を加速する方式の検討が進められている。レーザーの分岐や遅延を行うチップ素子の開発や、将来的に3D printingを用いた素子の使用の検討などが報告されていた。加速器の建設費用を抑えるにはサイズを小さく抑えることは1つの選択肢だと思える。将来、成果が上がればradiotherapyや産業界などに展開されるかもしれない。
会議に合わせて実施された施設見学では、ESSとMAX IVを訪問した。MAX IVでは1.5 GeVの蓄積リングが真空の焼きだし運転中で、150 mA程度の蓄積電流でのトップアップ運転、3 GeVの蓄積リングは70 mA程度のdecay modeでの運転を見学の直前に行っていたようである。見学のためにビーム運転を中断したそうで、スケジュールに余裕はないとのことであったが、実験ホールで待機中のユーザー(らしき方々)の冷ややかな視線を背中に受けながら実験ホールを歩いた。3 GeV蓄積リングのトンネルは広々とした通路、コンパクトな磁石ユニット、整然としたケーブリングが印象的であった。ESSは建屋の建設中で、地下の加速器のトンネルが仕上がり上部の建物を建設中であった。
図2 MAX IV見学
今回のIPACへの参加者を国別に見ると、多い順にドイツ、アメリカ、スウェーデン、スイス、中国、イギリス、日本、… となっている。中国と日本からはそれぞれ100名程度の参加者があったが、各国の施設から参加している中国系の研究者も多く、会場では躍進ぶりが目立っていた。中国勢には若手が多く、今後も勢いを増していくことが予想される。次回のIPAC’18は、2018年4月29日から5月4日にカナダのバンクーバーで開催される予定である。
参考文献
[1] 会議のホームページは、https://ipac17.orgであり、プロシーディングスと発表スライドが公開されている。
(公財)高輝度光科学研究センター 光源基盤部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0831
e-mail : soutome@spring8.or.jp
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