Volume 22, No.2 Pages 140 - 142

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告2 −散乱回折分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – Diffraction and Scattering –

藤原 明比古 FUJIWARA Akihiko

SPring-8利用研究課題審査委員会 散乱回折分科会主査/関西学院大学 理工学部 School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University

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SPring-8

 

 散乱回折分科会では、放射光X線の散乱や回折を利用する研究課題の提案に対して課題採択とビームシフトの配分を行っている。本分科会で取り扱う研究分野は多岐にわたり、課題数も多いため、分科にD1からD6の6つの小分科を設置し、それぞれの小分科の審査委員により審査を行っている。本報告では、D1(無機系結晶、有機・分子系結晶)、D2(高圧物性、地球惑星科学)、D3(材料イメージング)、D4(非弾性散乱)、D5(合成高分子)、D6(非晶質、不均一系)の各小分科を担当した審査員に分科概要を分筆していただいた。

 

 D1小分科では、無機系結晶(D1a)や有機・分子系結晶(D1b)を対象として、弾性散乱によって静的・動的構造を明らかにすることを目的とした申請課題を中心に審査している。単結晶構造解析(BL02B1)、および、粉末結晶構造解析(BL02B2)のビームラインへの申請課題をはじめ、BL40XUなど回折・散乱に関係する約15のビームラインへの申請が対象となる。申請課題数は毎回100以上と多い。課題内容は、従来から多く申請されている未知構造決定、構造相転移、構造精密化、電子密度分布解析に加え、外場応答や時分割測定などもあり、実験手法も多岐にわたる。今期は、これまで実験が困難であった微小結晶を対象としたBL40XUへの申請や分子性結晶を扱う課題で、対象分子が巨大化しているためか、蛋白質結晶回折実験用ビームラインへの申請も増加した。また、蛍光X線ホログラフィなど、従来の分科、小分科の区分を超えて検討すべき課題も申請されるようになった。課題数が多く、課題の研究分野が多岐にわたる状況であるため、異なる専門分野でも評価基準が比較できるレフェリー制度を尊重しつつ、小分科会で審査を行った。新規申請や大学院生による申請もあり、利用分野の広がりに寄与している一方で、これらの申請では、実施可能性やビームタイムの算出の検討が十分でない場合も多い。常に最先端研究が実施されるよう、新しい利用研究の開拓、新規利用実験での申請前の十分な検討など、利用者側と施設側の相互努力に期待したい。

 

 D2小分科は、高温高圧(BL04B1)および高圧構造物性(BL10XU)のビームラインで行われる課題を中心に審査している。BL04B1では大容量高圧プレスを使った地球科学分野の実験が行われている。国内からの申請課題は、高圧下で密度測定と超音波速度測定を行うことで弾性定数を決定すること、高温高圧下においてX線回折実験によって格子体積を正確に決定し、状態方程式を決定すること、高温高圧下での変形流動実験を行うことなど、高圧地球科学の課題が卓越していた。また、海外からの申請も増加する傾向にあり、これらは地球科学的な課題のみならず、物質合成、新素材の圧縮特性の測定など材料科学を志向する課題も申請された。
 BL10XUでは、ダイヤモンドアンビルセルとレーザー加熱を組み合わせた高温高圧実験、冷凍機を組み合わせた低温高圧実験、さらに、ラマン散乱、放射光メスバウア分光を組み合わせた複合測定が可能で、高圧力下での多重環境下の複合測定を行えるユニークな放射光実験ビームラインとなっている。このビームラインにおいては、海外からの申請が増加しつつあり、2017A期には50%と非常に多くなり、極めて競争が激しいビームラインになっている。国内からの申請課題は、地球科学の課題と高圧材料物性の課題が同程度であり、高温高圧X線粉末回折による相平衡の解明、格子定数の精密測定による状態方程式の決定、物質の融点の決定と液体やガラスの物性測定などの課題が申請されている。海外からの申請課題のほとんどすべてが高圧材料物性の課題であった。海外からの申請は、目的・意義・方法の記述に不適切なものも認められ、何らかの改善の助言をすることで、採択率が向上できる課題も多い。
 これ以外のD2の申請課題として、ダイナミクス、カイネティクス、イメージングなどに注目する高圧実験が増えていることも最近の傾向と言える。その結果、非弾性散乱測定やイメージングが可能なビームラインへの申請数が増加しており、高圧科学の新たな動向となりつつあることが伺える。

 

 D3小分科(材料イメージング:CT、トポグラフィー等)では、投影および結像イメージング・CT(課題によっては位相コントラスト)などを含めたX線イメージング(BL20B2、BL20XU、BL47XU)やトポグラフィー(BL28B2)の課題申請が主であり、これらイメージング法の高度化を目的としたX線光学系の開発課題も申請がある。概ね視野の大きさで、BL20B2とBL20XU・BL47XUの棲み分けがなされており、高い光子密度やマイクロメータ以下程度の高空間分解能を必要とする場合は、BL20XUかBL47XUのいずれかに限られる。BL47XUは硬X線光電子分光(HAXPES)との共用であり、以前は競争率が高かったが、2015B−2017A期においては必ずしもそうとは言えなくなっている。BL20XUの競争率が高い傾向にあるが、第2希望のBL47XUで採択されることはほとんどなく、申請書の質そのものが採否にとって重要であると言える。研究分野は、物質科学・材料科学が主であるが、この他にもビームライン技術、生命科学、医学利用、地球・惑星科学、宇宙科学、考古学など多岐にわたっている。そのため、放射光利用の必然性だけでなく、専門分野が違う審査員にも申請課題の科学的価値が容易に理解できるような申請書の書き方が重要であろう。また、2015A期から新設された社会・文化利用課題へ応募した方が通りやすいのではないかと思われる申請もあった。海外のユーザーからの申請の採択率がやや低い傾向にあるが、これも多くは事前の相談不足にあると思われる。今後とも、イメージングにおける放射光利用の特性をよく理解し、新しい科学成果を追求した、また新しいイメージング技術の開発やその科学的応用に関する申請がなされることを期待したい。

 

 D4小分科では、非弾性散乱をキーワードとする課題を審査している。関係するビームラインは、BL08W、BL09XU、BL35XUで、それぞれコンプトン散乱法、核共鳴散乱法、高分解能非弾性X線散乱法をベースとするビームライン群である。高エネルギーX線を必要とするコンプトン散乱法のBL08Wは世界的にただ一つのビームラインであり、海外からの申請が多くを占めている。またその対象物質も以前は強相関物質群の電子軌道状態や、極端条件下での物質電子状態研究といった基礎科学を中心としたものであったが、電池材料のイメージングなどの新しい応用分野への広がりも生じてきており今後の展開を期待したい。BL09XUが展開している核共鳴散乱法も第三世代放射光源によって発展してきた手法であるが、近年、磁性材料から生物試料に至る幅の広い応用研究が展開されてきている。2017年度からは生物応用の長期利用課題が2件採択された。一方、硬X線光電子分光(HXPS)の実験もビームラインとして受け入れているため、今後も、本ビームラインの混雑が予想される。BL35XUが展開する高分解能非弾性X線散乱法も第三世代放射光源によって発展してきた手法である。超伝導物質群をはじめとする強相関電子系物質群、液体・ランダム系の格子振動観測、そして地球科学で代表される高圧下での物質群を中心に基礎科学分野で広い応用研究が展開されている。

 

 D5小分科(合成高分子)では、高分子材料(合成高分子、天然高分子、生物関連高分子など)を対象とし、その分子鎖構造、結晶構造、高次構造の広角および小角を用いた構造解析に加え、フィルム、繊維、コンポジット、ゲル、薄膜、射出成型品の動的な構造形成機構に関する研究が申請の大半を占めている。手法としては、広角回折および小角散乱の別々の測定に加え、広角・小角同時測定、マイクロビーム回折、昇温あるいは延伸過程における時分割測定などが中心である。使用ビームラインは、BL40B2、BL45XU、BL40XUの利用がほとんどである。最近では、学術を中心として行われてきた前述の基礎研究に加え、食品中での氷の形成、パーマネント剤が髪に与える影響、光学素子に関する研究など、産業界からの申請も徐々に増え、研究の幅が広がってきている。しかし、学術からの申請に目を向けると、申請および採択されるメンバーが固定化しており、新しい学術メンバー(博士課程の学生を含む、30代以下の若い研究者)にもっと積極的に課題申請を行ってもらいたく、事前相談や書類作成のサポートの必要性を実感している。また、実験対象に目を向けると、従来のポリエチレンやポリエチレンテレフタレートなどの石油合成高分子が大半を占め、若干重箱の隅をつつくような研究が多いと感じている。今後は、新規に化学合成された高分子や生物由来高分子などの新たな高分子材料の合成・反応機構や機能発現の解明を目指した基礎および応用研究に果敢に挑戦してもらいたいと思っている。
 そこでD5小分科では、これまでの審査分野「合成高分子」を「高分子(タンパク質は除く)」と変更することにした。これまでのユーザーに加え、新規ユーザーからの新しいチェレンジングな提案を大いに期待している。その際、結果が出る・出ないにとらわれることなく、審査員は提案内容をよく吟味し、将来性を加味した評価をするよう意識改革を行う必要があるとともに、冒険心あふれる申請を10%程度採択できる余裕の必要性を感じている。そのためには、守りに徹し過ぎず、攻めの姿勢を忘れないことが重要であり、JASRI全体の課題審査に対する考え方も少し変革する時期にきているのではと個人的には考えている。

 

 D6小分科では、非晶質(アモルファス、液体等)と不均一系(表面界面構造、ナノ構造等)に関する申請を審査している。前者はBL04B2、後者はBL13XUを用いる実験が多いが、BL40B2他の様々なビームラインが用いられている。
 小分科への総申請数は、71、62、80、72であり、この2年では変化は少なかった。過去3回の申請数で並べると、BL04B2−BL13XU−BL40B2であったが、2017A期ではBL13XU−BL04B2−BL40B2であった。BL04B2の一部の課題がBL13XUに移ってきて、BL13XUの課題が増えている印象である。
 一層の成果創出につなげるために平均評価点のみを採択の判断材料に用いるのでよいのだろうか、ということが審査委員会で話題に上がった。特に汎用性の高いビームラインへの申請課題は、様々な小分科で審査されるものが混在するため、異なる基準で出された点数に加えて他の判断材料をどうするのか、ということである。結論は出ていないが、今後慎重に検討される項目の一つであろう。たとえばBL13XUは採択率が約38%であり、採否は点数だけで結局判断されている。2017A期の結果では、平均評価点が3−3.2の間にあり、他のビームラインでは採択される点数で評価された10課題が採択されなかった。また、このビームラインに限らず、汎用性の高いビームラインでは採択課題とビームラインの名称との関係性が解離する場合がある。そのようなビームラインについては今後のあり方を含め将来計画の中で議論されてはどうかという提案もあった。
 解析手法に関して2体分布関数(PDF)、ホログラフィ解析を用いる課題申請が増加している。適切な小分科にそのキーワードを追加するかどうかについても審査委員会で話題になった。

 

 分筆いただいた、D2小分科の大谷栄治先生(東北大学)、D3小分科の𡈽山明先生(京都大学)、D4小分科の河田洋先生(高エネルギー加速器研究機構)、D5小分科の岩田忠久先生(東京大学)、D6小分科の坂田修身先生(物質・材料研究機構)に感謝いたします。最後に、分科会委員やレフェリーの先生方、JASRIの関係者に深く感謝いたします。

 

 

 

藤原 明比古 FUJIWARA Akihiko
関西学院大学 理工学部
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SPring-8/SACLA INFORMATION

ISSN 1341-9668 EISSN 2187-4794