Volume 22, No.2 Pages 146 - 147
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告5 −産業利用分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – Industrial Application –
SPring-8利用研究課題審査委員会 産業利用分科会主査/(公財)佐賀県地域産業支援センター 九州シンクロトロン光研究センター Saga Prefectural Regional Industry Support Center, Kyushu Synchrotron Light Research Center
SPring-8利用研究課題審査委員会産業利用分科会は、2015A第2期から2017A第1期までの2年間、主査:平井康晴、委員:松井純爾、木村正雄、渡辺義夫、佐野則道の5名により産業利用分野の研究課題審査を行いました。なお、報告者は主査を2期4年間担当しました。以下に、当分科会の活動経過と気付いた事項を報告します。
当分科会では、成果非専有を前提とする産業利用分野の「一般課題」、「大学院生提案型課題」および領域指定型研究課題の「産業新分野支援課題」(2015A第2期~2017A第1期)の審査を行いました。産業利用分野の課題募集は年4回の利用期(例えば2015A第1期、同第2期、2015B第1期、同第2期)に分けて行われ、他分科が年2回(例えば2015A期、2015B期)であることと比べると、産業界のニーズにより迅速に対応可能となっています。但し、「一般課題」、「大学院生提案型課題」および「産業新分野支援課題」で利用出来るビームラインは、年4回の利用期で異なります。「一般課題」と「大学院生提案型課題」は、第1期(例えば2015A第1期と2015B第1期)では全共用ビームラインおよび一部共用に供する理研ビームラインで募集が行われ、「産業新分野支援課題」は、共用ビームラインのうち産業利用に限定した3本のビームライン(BL14B2、BL19B2、BL46XU)でのみ募集が行われます。また、第2期(例えば2015A第2期と2015B第2期)では、全ての課題は上記3本のビームラインでのみ募集が行われます。そして、利用課題数の実績では、これら3本の産業利用ビームラインでの利用が多数を占めてきました。
また、産業利用の趣旨を活かす観点から「一般課題」への応募には、2015A第1期から民間企業または産業界に準じる機関に所属する方の参加が必要となりました。さらに、「産業新分野支援課題」への応募には、2017A第1期から「一般課題」と同様に民間企業または産業界に準じる機関に所属する方の参加が必要となりました。この措置は一時的に応募課題件数に影響するかもしれませんが、産業利用分科の役割を明確にする上で妥当な変更と言えます。なお、「大学院生提案型課題」は民間企業等の参加を必要としていません。
さて、産業利用分野の応募課題数と採択率の年度推移を追いますと、「一般課題」の応募課題数は減少傾向にあり(2013A期:149課題→2016B期:131課題)、採択率は高くなる傾向にありますが(2013A期:63%→2016B期:67%)、それほど大きな変化は認められません。但し、実験責任者が民間企業に所属する課題の応募件数は年々減少傾向にあります。これは、成果専有課題(測定代行を含む)への移行等が考えられます。また、利用分野の変化は大きく、エレクトロニクス分野の応募課題数は急減しています(2016B第1期:23課題→2017A第1期:15課題)。また、素材・原料分野も同様に減少傾向が見られます。一方で、健康・生活用品分野の応募課題数はほぼ横ばいであり(2016B第1期:12課題→2017A第1期:11課題)、後述の食品加工産業の参入による将来展開の可能性は大きいと考えられます。
次に、「産業新分野支援課題」の応募課題数は2015B期以降減少しています(2014A期:13課題→2015B期:20課題→2016B期:11課題)。また、採択率は年々低くなっていますが(2014A期:77%→2016B期:36%)、これは、課題募集の趣旨に沿わない(「一般課題」で応募すべき)課題が増えているためです。このことは、本来、「産業新分野支援課題」によって新分野が形成され、「一般課題」の募集分野に移行すべきことを考えると、その過渡的状況を反映しているとも考えられます。一方、採択された課題は食品加工分野が多く、新しい利用分野の開拓が進んでいることを示しています。
ところで、課題審査での不採択の理由には、(1)申請内容の検討不足(ビームライン担当者による実験困難の判断、募集の趣旨との不適合等)、(2)実験室タイプの装置での事前検討の推奨等、がありますが、いずれも施設担当者(コーディネーター)に利用相談することで事前に最適解を得ることが可能です。また、実施可能な課題についても、利用相談により実験手順の最適化や試料回りの工夫に関するヒント等を得ることが出来ます。その意味で、これら採択の可能性を高める申請準備段階の利用相談・技術相談を、申請書作成の自然な流れの中で申請者に促すよう、コーディネートシステムの一層の高度化が期待されます。
最後にレフェリーによる課題評価についてお願いを記します。課題は相対評価を行い、評価点は各レベルの課題数が均等になるように配点されるはずです。しかし、場合により各レベルの課題数が均等でなく、分科会での公平な審査に苦慮する結果となりました。ルールに則ったレフェリー評価を是非お願いしたいと思います。なお、2年前の主査報告では、レフェリーコメントの記載励行をお願いしました。その結果、とくに採否の境界上にある課題の審査について、分科会でレフェリーコメントに基づいた多面的な検討が可能となったことを追記致します。
この2年間、課題審査にご尽力いただきました審査委員ならびにサポートいただきました産業利用推進室を含む事務局スタッフの皆様に心より感謝申し上げます。
(公財)佐賀県地域産業支援センター
九州シンクロトロン光研究センター
〒841-0005 佐賀県鳥栖市弥生が丘8-7
TEL : 0942-83-5017
e-mail : hirai@saga-ls.jp