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Volume 22, No.2 Page 90

理事長室から -脱炭素社会のための技術開発とエネルギー選択-
Message from President – Technology Development and Energy Choice for Zero-Emission Society –

土肥 義治 DOI Yoshiharu

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 2015年12月に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)がパリで開催され、各国は国内事情に配慮しながら脱炭素社会をめざすとする内容の協定を採択した。パリ協定は、1997年に京都で開催されたCOP3における京都議定書以来の地球温暖化問題に対処する国際条約である。京都議定書は、先進国のみが温暖化ガス削減義務を負い、先進各国が低炭素社会をめざす条約内容であった。今回のパリ会議では、産業革命以降の気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えるために、先進国も途上国も今世紀後半には二酸化炭素を排出しない脱炭素社会をめざすという長期目標に合意した。この目標の達成には、革新的な技術の開発によって、人為的な温暖化ガスの排出量を実質ゼロまで削減する必要がある。パリ協定に米中を含む55ヵ国以上が批准し、世界の温暖化ガス排出量の55%以上に達して、2016年11月に協定が発効した。
 ここで、2013年における世界とわが国の状況を把握しておきたい。世界の二酸化炭素排出量は年間330億トンであり、排出量は、中国、米国、インド、ロシア、日本、ドイツ、韓国の順である。世界の一次エネルギー消費量は石油換算で127億トンであり、内訳は化石燃料(石油、石炭、天然ガス)87%、原子力4%、再生可能エネルギー(水力含む)9%である。さて、わが国の二酸化炭素排出量は年間13億トンであり、電源・熱配分後の各部門の排出量は産業35%、業務23%、運輸18%、家庭16%、エネルギー転換8%の順である。わが国の一次エネルギー消費量は石油換算で4.3億トンであり、化石燃料の割合は92%にも達し、エネルギー輸入依存度は94%であった。なお、一次エネルギーに占める電力の比率は43%である。
 ところで、地球環境問題解決の基本は、“Think globally, Act locally”である。パリ協定では、各国が国情に応じて温暖化ガス排出削減目標を定め、目標達成のための国内措置をとることを締約国の義務とした。わが国は、2030年目標(2013年比26%削減)と、2050年目標(80%削減)を定めた。2020年までに排出削減のための中長期戦略を提出することになっている。まずは、2030年目標を達成するために、技術開発とともに国内対策を着実に進めることが重要である。脱炭素社会構築のためには、第一にエネルギー効率向上技術の開発を加速するとともに合理的な省エネルギー社会をつくること、第二に化石燃料に依存するエネルギー源を再生可能エネルギー(風力、太陽光、地熱、バイオマス、水力)に転換する経済的なシステム技術を開発してエネルギー自給率を向上させること、第三に発電所や工場から排出される二酸化炭素を回収、貯蔵する炭素集約技術(CCS)を確立することなど、エネルギー供給と需要の両者で革新的技術の開発と社会構造の変革が必要である。
 脱炭素社会に向けたエネルギー源の選択は、各国の自然環境、発展状況、歴史や文化などによって大きく異なる。簡潔に欧州各国の現状を紹介しよう。ドイツ、イタリア、スイス、ベルギーは段階的に原発を閉鎖して、再生可能エネルギー源に転換することを決めている。他方、フランスは総電力の80%を占める原発58基を稼動させている。水力と風力に恵まれないフィンランドは原発の新設と核廃棄物の最終処分場の建設を進めている。風力に恵まれたデンマーク、オランダは風力発電の割合を増やしている。ノルウェーは総電力の90%以上が水力である。スウェーデンは、原発と水力発電を主要電源としている。
 省エネルギー技術の開発とエネルギー源の開発と選択は、わが国の持続的発展に係わる最重要課題であろう。今後とも、SPring-8とSACLAがこの分野の科学と技術の進展に貢献できるよう努力を続けたい。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794