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Volume 22, No.2 Pages 162 - 163

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2017年度に指定されたパートナーユーザーの紹介
A Newly Designated Partner User FY 2017

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 2013年度まで運用していた「パワーユーザー」制度について、2014年度より名称および一部運用を変更し、「パートナーユーザー」(以下「PU」という)として運用を開始しました。2017年度は、2名の応募があり、PU審査委員会による審査の結果、2名が指定されました。指定されたPUおよびPU審査委員会からの審査結果を以下に示します。

 

 

PUの概要

・PUは、2013年度までの「パワーユーザー」の名称および一部運用を変更したもの。

・2014年度以降のPUは、共用ビームラインおよび測定技術を熟知し、放射光科学・技術の学術分野の開拓が期待できる研究者で、
1)ビームライン実験設備の開発および高度化への協力
2)上記高度化等に関連した、先導的な放射光利用の実施および当該利用分野の拡大・推進
3)上記高度化等に関連した利用者支援
のいずれも満たすユーザーを指す。

・PUの指定期間は原則2年間(PU審査委員会が必要と認めた場合には延長可。最長5年間)。

 

[指定期間]
2017年4月1日から2019年3月31日まで(2年間)

 

[指定されたPU]
1. 三村 功次郎(大阪府立大学)

(1)実施内容

 研究テーマ:強相関電子系における量子臨界現象解明のための共鳴硬X線光電子分光および共鳴発光分光の複合計測技術の構築

 高度化:共鳴硬X線光電子分光計測技術の基盤開発
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL09XU

(3)審査コメント
 本課題は元素選択的かつバルク敏感であることから、広範な物質系の電子状態研究の強力な実験手法となっている硬X線光電子分光法を、内殻吸収端近傍で励起エネルギーを掃引することにより、光電子放出過程に対する共鳴効果を観測できる共鳴硬X線光電子分光に進化させることを目標としたものである。また、主たる研究目標としては希土類化合物の価数揺動現象の鍵となるd-fクーロン斥力の直接観測を目指している。
 共鳴硬X線光電子分光法の確立は、本課題の研究対象物質である希土類化合物に止まらず、より広範な物質系の物性研究に新しい展開をもたらす契機となりうる。この点から、新規ユーザーを含む多くの研究グループへの利用拡大を前提とした課題推進が求められる。具体的には、ユーザー獲得計画の策定、理論計算を含む解析ソフトの整備、著名雑誌への速やかでインパクトの高い成果発表などによって、本課題はパートナーユーザー課題としての意義を格段に高めるものとなる。
 以上により、本申請はパートナーユーザーとして遂行されるにふさわしいものと判断し、採択とする。


2. 廣瀬 敬(東京工業大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:超高圧高温ダイヤモンドセル実験の新展開
 高度化:極限環境下におけるX線回折複合計測技術の高度化
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL10XU

(3)審査コメント
 申請者グループは、長年にわたりBL10XUにおける超高圧高温環境下での物質構造解析の技術開発に取り組み、世界をリードする技術を構築するとともに、地球科学の分野で継続的に目覚ましい成果を挙げている。申請者グループによるパートナーユーザーとしてのSPring-8の地球科学分野への貢献は非常に大きく、本委員会としても、これまでの活動に深く感謝するものである。
 新規に提案された課題「超高圧高温ダイヤモンドセル実験の新展開」は、1)超高圧高温環境下での試料の密度や電気伝導度、熱伝導率を精度よく測定するための高解像度3次元X線イメージングシステムの構築、2)レーザー加熱光学系の継続的な改良、3)超高温高圧環境下でのX線吸収分光(XAFS)測定法開発が挙げられ、いずれも同分野の利用技術の発展と成果創出を大きく期待できる。1)高解像度3次元X線イメージングシステムの開発については、X線画像検出器の導入により20 nmの空間分解能のラミノグラフィー装置を構築し、2017B期より一般のユーザーにも開放することが計画されている。新しい装置の導入と立ち上げを2017A期で完了する計画であるが、既に必要な機器調達の目途もある上、これまでの申請者グループの実績から判断すると計画どおりに進捗するものと期待している。2)レーザー加熱光学系の継続的な改良は、地球科学分野における最先端の技術を維持するために必須の項目であるため、2017A期以降も継続的な技術開発が実施されることを期待している。3)超高温高圧環境下でのX線吸収分光(XAFS)測定法開発は、超高温高圧下での試料の化学状態に関する知見を得ることを目的とした意欲的な提案であり、同技術の構築は地球科学にとどまらず、物質科学等、幅広い他分野への波及が大きく期待される。この技術の構築には、現有のBL10XUの挿入光源で得られるX線よりも更に低エネルギーのX線が必要になるため、挿入光源の更新が計画されている。挿入光源の更新はBL10XUの全利用者に影響を与える事項であるが、高圧力学会会合等を通じて他利用者への説明と意見聴取が行われていることから、大きな不利益を被る既存利用者がいることへの懸念はないが、今後も継続的にBL10XU利用者への周知を行っていただきたい。XAFS測定装置開発は2018A期、新挿入光源を利用したXAFS測定は2018B期に実施する計画となっているが、他の共用ビームラインを利用するなどして早い段階から事前の技術検討を実施されることをお勧めしたい。
 以上のように、本課題は地球科学のみならず物質科学全般に対して大きな貢献が期待できることから、パートナーユーザーとして指定することに何の懸念もない。なお、2017A期は、希望があったビームタイム42シフトのうち、本人が課題申請書の中で“極限環境下におけるX線回折複合計測技術の高度化との関連が希薄”と記載している8シフトを除いた34シフトが適切なビームタイムと考える。

 

 

以 上

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794