Volume 22, No.2 Pages 148 - 149
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SPring-8利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告6 −社会・文化利用分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – Social Interest –
SPring-8利用研究課題審査委員会 社会・文化利用分科会主査/(公財)特殊無機材料研究所 Advanced Institute of Materials Science
社会・文化利用分科会は、環境、安全、文化財、考古・遺物、宇宙、食品等々の社会生活や文化活動に直結する分野の課題をSPring-8を用いて科学的に解明するミッションを負って、2015A期からスタートし、2017A期を以って、最初の2.5年間の任務を終えました。
初めに、社会・文化利用分科会に特化した課題審査のプロセスについて簡単に紹介しておきます。スタートしたばかりの社会・文化利用を促進するために、この最初の2.5年間は重点領域に指定されて、共用ビームライン23本の全ユーザータイムの4%、そして個々のビームラインについては夫々8%を上限として、ビームタイムの優先的配分を受けました。さらに、課題審査に際しては、相対評価が行われている他の分科会と異なり、社会・文化利用分科会の性格上、申請課題分野を専門とする複数のレフェリーによる絶対評価が重視されました。
さて、下記の表にこの最初の2.5年間における各期の申請課題数ならびに採択課題数をまとめて示します。
期 | 申請課題数 | 採択課題数 |
2015A | 16 | 14 (1) |
2015B | 24 | 21 (3) |
2016A | 21 | 20 (1) |
2016B | 24 | 23 (2) |
2017A | 22 | 22 (3) |
表中の採択課題数の( )は、一般課題として採択された課題数です。社会・文化利用分科会に申請された全課題の内、[社会の範疇に属する課題数]/[文化の範疇に属する課題数]の割合は、2015A期ではほぼ1/1、2015B期では1/2、2016A~2017Aの3期では1/5となり、文化利用課題の著しい増加傾向が認められます。社会利用課題の主な分野は、大気・土壌、食品、健康、法科学等であり、福島第一原発由来の放射能汚染に関する課題が注目されました。文化利用課題では、化石・隕石、陶磁器、ガラス、鉄製品、絵画、漆、木材、繊維、染料等が多く見受けられました。マイクロCTイメージングによる化石や隕石の内部組織観察に関する課題の申請が2016A期以降に急増し、20~25%に達しました。化石や隕石が社会・文化利用分科会で審査する課題であるか否かは議論のあるところですが、SPring-8の特性を活用した社会的関心の高い研究領域であることは間違いありません。
審査委員会において言及された問題点やコメントのいくつかを以下に列記します。
・一般課題としては不採択であるが、重点領域指定による特別枠の設定により採択された課題が40~50%を占めました。このことは、SPring-8における社会・文化利用を活性化するという重点領域指定の狙いが大いに効果を発揮していることを物語っています。しかし、このような優遇措置を永久に続けることは難しいので、社会・文化利用分科会の申請課題が一般課題と同等程度までレベルアップする方策を積極的に講じなければなりません。文化財分析技術ワークショップや関連する研究会の開催は極めて有効な方策の一つと考えられます。
・社会・文化利用分科会の性格上、申請課題が複数ビームラインにまたがり、申請者がSPring-8にless-familiarであるケースが少なくありません。したがって、最適なビームラインの選択や安全対策のためにも、事前にビームライン担当者と詳しく相談・打合せを済ませておくことを課題申請に際しての必要条件とするのは如何でしょうか?
・測定試料としてSPring-8に持ち込まれる文化財の中には、この世に一つしか存在しない、あるいは国宝・重要文化財に指定されているものがあり得るでしょう。貴重な試料が盗難や破損に遭遇した場合の対処の仕方、実験中の安全な保管等について予め検討をしておく必要があるのではないでしょうか?
・SPring-8が公的機関である以上、趣味的なマニアックな課題の申請は避けられるべきでしょうが、研究の自由を制限することは許されません。課題の申請ならびに審査に際して、広い社会的関心と趣味的なマニアックの間の線引きを如何様に決着させるかは、ユーザーならびにレフェリー双方にとって慎重に考察しなければならないテーマです。同様なことは、成果の評価に関しても言えるでしょう。
いくつかのヨーロッパの放射光施設では、文化財や考古遺物の長期間にわたる系統的かつ組織的測定が展開されており、定期的に関連する国際会議も開催されています。人類の歴史的遺産を引き継ぎ、深めて、そして次世代に渡していくために、SPring-8こそがこの役目を担い、かつ先導する意義は極めて大きいと考えます。社会・文化利用分科会における研究活動がますます盛んになることを願って止みません。
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