ページトップへ戻る

Volume 21, No.4 Pages 273 - 279

1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

大型施設連携利用に向けて -研究報告(1)-
量子ビームと計算機シミュレーションの連携活用による先進タイヤの開発
The Advanced Tire Developed by the Complementary Use of Quantum Beam and Computer Simulation

岸本 浩通 KISHIMOTO Hiroyuki

住友ゴム工業株式会社 研究開発本部 Research & Development HQ., Sumitomo Rubber Industries, Ltd.

Abstract
 地球環境への配慮から低燃費タイヤの開発が求められている。しかし、低燃費性能と安全に大きく関わるグリップ性能は相反関係にあり、これら性能を高次元で両立させる技術の開発は極めて難しい課題である。さらに、世界的な自動車需要の増加に伴い重要となるのがゴムの高強度化や耐摩耗性能向上などの省資源化の技術となる。これら性能は相反関係にあるが、自動車分野における持続可能な発展を支えるには全ての性能を同時に向上させた先進タイヤの開発が必要となる。その鍵となるのが、ゴム中に形成された時空間階層構造を統合的に理解し、コントロールすることである。我々は、量子ビームと計算機シミュレーションを連携活用し、低燃費性能とグリップ性能を維持しながら耐摩耗性を200%に向上させたタイヤの開発に成功した。
Download PDF (3.48 MB)
SPring-8

 

1. はじめに
 地球環境への国際的な関心と安全意識が高まる中、タイヤに求められる性能は多様化と高度化の一途をたどっている。タイヤが自動車の燃費に与える影響は20%もあることから、2050年までに地球温暖化ガス排出量を半減させることが合意された2008年のG8北海道洞爺湖サミットでは、IEA(国際エネルギー機関)により低燃費タイヤの普及に関する提言がなされた。現在においては、先進国だけでなく新興国においても非常に重要視されている。
 タイヤの低燃費性能を向上させるためには、ゴムが変形した際のエネルギーロス(ヒステリシスロス)を低減させる必要があるが、安全性に関わるグリップ性能の向上には逆にエネルギーロスを大きくする必要がある。このように、相反関係にある低燃費性能とグリップ性能を同時に向上させる技術を開発することは非常に難しい課題となる。また、世界的な自動車需要の増加に伴い、持続可能社会形成に向け重要となるのが省資源化の技術となる。ゴム材料は我々の生活に欠かせない重要な材料であるが、世界で生産される新ゴム消費量のうち約80%がタイヤ生産で消費されることからも、省資源化への取り組みは重要になってくると考えられる。タイヤにおいて省資源化を行うにはタイヤの寿命を伸ばす技術、すなわち耐摩耗性能(耐破壊強度)を向上させることが必要となる。しかし、耐摩耗性能も低燃費性能およびグリップ性能と相反関係にある。分かりやすく例えると、よく消える消しゴム(摩擦力が大きい)はよく削れるのと同じことになる。このように、タイヤの三大性能である低燃費性能・グリップ性能・耐摩耗性能の全てを同時に向上させる技術を開発するためには、材料イノベーションが必要となる。
 タイヤ用ゴムは、骨格となるポリマーに補強性を付与するためのフィラー(カーボンブラックやシリカ)、ポリマーを橋架けする架橋剤、シリカとポリマーを結合させるカップリング剤など、数10種類以上の素材から構成された複雑な系となっている。各素材単独の構造と物性が分かっていてもタイヤゴムの特性を理解することはできない。その理由は、ゴムの内部構造は図1に示すように広い空間と時間スケールにおいて複雑な階層構造を形成し、その階層構造によりタイヤゴムとしての性能を発現しているためである。しかし、これまで多くの研究が行われてきたが、十分に理解はされていない。もし、ゴム内部の各階層の特性がどのように連結し、マクロ物性を発現しているのか統合的理解が進めば、タイヤ材料イノベーションに繋がると考えられる。

 

21-4-2016_p273_fig1

図1 タイヤ性能とゴム内部の時空間階層構造モデル。

 

 

 そこで我々は、ゴム内部の時空間階層構造の理解を進め、タイヤゴムの低燃費性能、グリップ性能および耐摩耗性能の全ての性能を向上させる技術を開発するために、SPring-8・J-PARC・「京」の連携活用を行ってきた。その一例を紹介する。

 

 

2. シリカ界面ポリマーとシリカネットワークの構造ダイナミクス
 ゴム中に配合されたフィラーはネットワーク的な階層構造を形成し、ゴムの補強効果と密接に関係していると考えられてきた。我々は、ナノメートルからミクロンスケールにわたりゴム中で形成されたシリカネットワーク構造を解析するために、SPring-8の高輝度X線を活用した2D-USAXS/SAXS(二次元極小角/小角X線散乱法)の技術開発と研究を実施してきた[1-3][1] Y. Shinohara, H. Kishimoto and Y. Amemiya: SPring-8 Research Frontiers 2004 (2005) 88-89.
[2] H. Kishimoto, Y. Shinohara, Y. Suzuki, A. Takeuchi, N. Yagi and Y. Amemiya: J. Synchrotron Rad. 21 (2014) 1-4.
[3] H. Kishimoto, Y. Shinohara, Y. Amemiya, K. Inoue, Y. Suzuki, A. Takeuchi, K. Uesugi and N. Yagi: Rubber Chem. Tech. 81 (2008) 541-551.
。その結果、サブミクロンスケールにおけるシリカ凝集構造がタイヤゴムの低燃費性能に関係していることを発見した。そこで、マルチスケールでの計算機シミュレーションにより分子設計することで新規変性ポリマーの開発を行い、エネルギーロスを約39%低減させた低燃費タイヤ用ゴムの開発に成功した[4][4] http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2011/111212/
 一方、古くからフィラー界面近傍には束縛されたポリマーが存在し、そのフィラー界面ポリマーを介してネットワーク化することでゴムの力学物性を向上させていると考えられてきた。しかし、フィラー界面ポリマーの構造およびダイナミクスは未知なる領域だった。
 我々は、タイヤゴム性能を向上させる技術を開発するために、シリカ界面ポリマーの構造ダイナミクスについてJ-PARC BL02(DNA)および、BL14(AMATERAS)を用いたQENS(中性子準弾性散乱)実験を実施し、さらにシリカネットワークのダイナミクスをSPring-8 BL03XUを用いたXPCS(X線光子相関分光法)実験から研究を行った。
 中性子は軽水素との散乱断面積が大きいため、QENS法はゴム中のポリマーのダイナミクスを調査するのに有力な手法となる。シリカ充填ゴムのQENS測定した一例を図2に示す。我々は、2つの運動モードが存在すると仮定して、2つのLorenz関数の和でフィッティングを行い、ジャンプ拡散理論[5][5] T. Kanaya, K. Kaji and K. Inoue: Macromolecules 24 (1991) 1826-1832.を用いて解析を行った。これら2つの運動モードは、ポリマーの空間的に制限された局在化した運動と、協同的なコンフォメーション遷移に対応すると考えている。今回、ポリマーにSBR(スチレン−ブタジエン共重合体)を用い、シリカ表面処理方法を変えたシリカ充填ゴムについて研究を進めた。遅い時定数の運動モードに関して解析した結果を図3(a)に示す。その結果、シリカ表面を改質することで、シリカ界面ポリマーのダイナミクスが大きく変化することが分かった。これまでシリカ表面処理は、疎水性のポリマー中で親水性のシリカを分散させる役割と、ポリマーとシリカを結合することによる補強性向上を目的に行われてきたが、本研究によりシリカの表面改質方法を変えることでシリカ界面ポリマーのダイナミクス、つまり粘弾性特性をコントロールできることが分かった。また、弾性散乱成分を解析した結果、シリカ表面改質方法によりシリカ界面に束縛されたポリマー成分量も変化することが分かった(図3(b))。

 

21-4-2016_p273_fig2

図2 QENS(中性子準弾性散乱)測定によって得られたシリカ充填ゴムの動的構造因子S(q, ω)、T = 300 K, q = 1.991 Å-1

 

21-4-2016_p273_fig3

図3 QENS解析結果。(a) 緩和速度Γq依存性、(b) シリカ界面での束縛ポリマー量。

 

 

 詳細なシリカ界面ポリマー構造を調査するために、シリコン基板表面の酸化膜層はシリカ表面と同等であるとし、XR(X線反射率測定)および、NR(中性子反射率測定)法を用いて研究を行った。ポリマーはタイヤで汎用的に使用されるSBRを部分重水素化したものを準備し、スピンコート法を用いてシリコン基板上に薄膜を形成させたものを用いた。NR測定した結果を図4に示す。その結果、SBR中のスチレン成分がシリカ表面と強く相互作用し、ゴムの補強性と関係するという新たな発見があった。これにより、シリカ表面とSBRの相互作用をコントロールするにはポリマー骨格中のスチレンの配置制御をすればよいということが分かった。

 

21-4-2016_p273_fig4

図4 NR(中性子反射率)測定によって得られたシリカ界面ポリマー構造。

 

 

 以上の結果により、シリカ表面処理はシリカの分散を向上させるだけでなく、シリカ界面に束縛されたポリマーの粘弾性特性を変え、さらにSBR中のスチレン配置によって相互作用も変化するという重要な知見を得ることに成功した。
 一方、このようなナノスケールで発生するシリカ界面ポリマーの特性がゴムのマクロ物性に影響を与えるためには、シリカがネットワーク化し、連結して機能する必要がある。そこで、先端的小角X線散乱実験法であるXPCS法を用いて、シリカネットワークのダイナミクスについて研究を行った。光学系を最適化し、コヒーレントX線をゴム試料に照射すると図5(a)に示すようなスペックル状の小角X線散乱パターンを得ることができる。このスペックル像のあるピクセルにおけるX線強度の時間相関を調べる方法がXPCS法である。今回、QENSで用いた試料についてSPring-8 BL03XU(FSBL)にてXPCS実験を行った。XPCSの解析は、X線強度の時間相関関数に対し、Compressed Exponential関数にてフィッティングを行うことで緩和時間τを求めた。緩和時間τの散乱ベクトルq依存性を図5(b)に示す。その結果、シリカの表面改質を行うことで、シリカネットワークの運動性を変化させ、ゴムのマクロ物性に大きな影響を与えることが分かった。

 

21-4-2016_p273_fig5

図5 XPCS測定結果。(a) スペックル状の小角X線散乱像、(b) 緩和時間τq依存性。

 

 

 このように、放射光X線と中性子の特徴を上手く活かした連携解析を行うことで、これまで未解明であったシリカ界面での束縛ポリマー、および、シリカネットワークの構造ダイナミクスに関する研究を行うことができた。また、シリカ界面で束縛されたポリマーの粘弾性特性と相互作用をコントロールすることで、ゴムの特性を制御できるという重要な素材開発指針を得ることができた。今回、シリカ系について述べたが、カーボンブラック系についてはSAXS法、SANS(中性子小角散乱)法および、NSE(中性子スピンエコー)法を用いて研究を実施しており参考文献をご覧いただきたい[6][6] N. Jiang, M. K. Endoh, T. Koga, T. Masui, H. Kishimoto, M. Nagao, S. K. Satija and T. Taniguchi: ACS Macro Lett. 4 (2015) 838-842.

 

 

3. 硫黄架橋の不均一構造
 ゴムが変形し、元に戻る性質を付与するために硫黄架橋が用いられる。ゴムに配合される素材のうち、硫黄の配合量は僅か1%程度であるにも関わらずゴム物性に大きな影響を与える。ゴムの架橋点を構成する硫黄原子は、図6に示すように1個から最大8個までの長さ(個数)分布を持っており、1個の硫黄で架橋している場合は、C−S結合の解離エネルギーが大きいため耐熱性能に優れるが、逆にゴムが変形した際に応力が集中しやすいため耐疲労性能が低下するという相反関係にある。逆に複数の硫黄で架橋している場合は耐疲労特性が向上するが、S−S結合の解離エネルギーが小さいため、走行時に発生する熱によってS−S結合が切断され、別のポリマーと再架橋することによってゴムが硬くなるという経時劣化を起こす。しかし、これまでの方法では間接的にモノ結合(C−S−C)、ジ結合(C−SS−C)、ポリ結合(C−Sx−C)に大別するしかできなかったため、実現象と合わない場合もあった。そこで、精密な硫黄架橋長さ分布を解析するために、S K-edge XAFS法(硫黄K殻X線吸収分光)に着目した。これまで、S K-edgeにおけるXANES(X-ray Absorption Near Edge Structure)に関する報告は多数あるが、EXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)に関する報告はほとんどない。我々は、SPring-8 BL27SUを活用しS K-edge XAFS計測法の開発を進めてきた。その結果、図7(a)に示すようにS K-edgeにおけるEXAFS振動を精度よく計測することに成功し、図7(b)に示すような硫黄架橋長さ分布を得ることに成功した。

 

21-4-2016_p273_fig6

図6 ゴム中に形成された硫黄架橋の階層構造モデル。

 

21-4-2016_p273_fig7

図7 硫黄架橋ゴムのS K-edge XAFS測定結果。(a) EXAFS振動、(b) ゴム中の硫黄架橋長さ分布。

 

 

 さらに、図6に示すように架橋不均一構造(硫黄架橋点が空間的に不均一に存在している状態)が存在し、力学物性やゴム変形時に応力集中することで破壊の原因の一つになっていると考えられる。近年、ゴムを溶媒で膨潤させてSANS測定することで、架橋不均一構造のサイズに関する情報が得られるようになってきた[7][7] Y. Ikeda et al.: Macromolecules 42 (2009) 2741-2748.。しかし、ゴムの力学物性や破壊を考える上で重要となるのは、この架橋不均一構造がどの程度の架橋密度になっているのか(どの程度の弾性率を有するのか)推定することである。そこで、我々はSPring-8 BL03XUおよびBL08B2にて、膨潤状態におけるSAXS測定を検討した。通常、ゴムを膨潤させる溶媒としてトルエンなどの良溶媒が選択される。しかし、ゴムとトルエンとの電子密度差が非常に小さいため、架橋不均一構造に関する情報を得ることが困難となる。我々は、良溶媒かつポリマーとの電子密度差が大きな溶媒の検討を進めた。その結果、図8に示すように、SANS測定とほぼ同等のコントラストを有するSAXS実験を可能とした。さらに、架橋不均一構造の架橋密度を調査するために、ゴムに添加する溶媒量を調整し、ゴムのマクロな膨潤率に対し、架橋不均一構造のサイズの関係を調べればよいと考えた。その結果を図9に示す。もし、架橋不均一構造がマトリックス部分の架橋密度と同じであれば、マクロな膨潤率と架橋不均一構造のサイズ変化は同じになるはずである(実際には同じ架橋密度であれば不均一構造が存在しないのでデータとしては得られない)。力学物性的に架橋不均一構造が存在すると考えられる試料を測定したところ傾きが小さいことが分かった。一方、架橋構造が均一化していると考えられる試料では傾きが大きくなることが分かった。この結果より、ゴム中の架橋不均一構造における架橋密度の推定が可能となり、力学物性との関係だけでなく次項で述べる分子シミュレーションモデルを構築する上で重要な指針を得ることに成功した。

 

21-4-2016_p273_fig8

図8 溶媒により膨潤させた硫黄架橋ゴムのSAXS測定結果。(a) トルエン溶媒、(b) 新規検討溶媒。

 

21-4-2016_p273_fig9

図9 ゴム膨潤率とSAXSによって得られた架橋不均一構造サイズΞの関係。

 

 

4. 大規模分子シミュレーションの応用
 前項まで述べた内容は、我々が実施してきた放射光X線と中性子を用いた研究の一例であるが、このようにゴム材料における複雑な時空間階層構造を分解して研究が行えるようになってきた。しかし、実際のゴムはこれらが相互に関係して力学物性を発現している。このような複雑な関係を人間の力で考え、現象を理解することは非常に難しい問題であることは容易に想像できる。そこで、我々は「京」コンピュータを用いた大規模分子シミュレーションに着目した。図10に示すように、放射光X線と中性子解析で得られた情報をモデル化して、ゴム変形時における破壊現象について計算を行った。その結果、図11に示すようにゴム内部のどの材料構造に応力集中し、破壊が生じるのか分子レベルで解析できるようになった。

 

21-4-2016_p273_fig10

図10 大規模分子シミュレーションモデル。

 

21-4-2016_p273_fig11

図11 ゴム破壊現象における大規模分子シミュレーション結果。(a) 全体像、(b) シリカ表面を拡大。

 

 

 さらに、シミュレーションが有用となるのは、実際の実験では分離が不可能な因子を切り分けて解析することが可能となる点にある。例えば、通常のSAXS実験でゴム破壊過程を調べた場合、シリカと破壊で生成した空隙(ボイド)の両方の構造からの散乱が重なるため解釈が難しくなる。一方、図12はシミュレーションで得られた結果からシリカ粒子を除いたポリマー部分のみをフーリエ変換することで、破壊過程におけるX線散乱プロファイル変化について調べた結果であるが、ポリマー部分の破壊はスピノーダル様破壊とバイノーダル様破壊の2種類が存在するなど重要な知見が得られた。

 

21-4-2016_p273_fig12

図12 大規模分子シミュレーションのポリマー部分の構造のフーリエ変換によって得た散乱パターン。

 

 

 このように、大規模分子シミュレーションの結果を詳細に解析することで、ゴム中のどの部分に応力が集中して破壊が生じるのか分かるようになってきた。さらに、シミュレーションを活用することで、具体的にゴムの破壊を抑制するための分子設計が可能となり、効率的な新材料開発やプロセス提案が可能となった。

 

 

5. 高空間分解能4次元X線CT法を活用したゴムの耐破壊特性評価
 新材料を設計・開発しても、本当に耐破壊特性が向上しているのか検証する必要がある。そこで、SPring-8 BL20B2を用いてゴムを変形した際の破壊現象を観察するために高空間分解能4D-CT(4次元CT)法の開発を進めた。その結果、図13に示すように、従来のゴムに対して新規開発したゴムはボイドの発生を抑制させ耐破壊特性が向上していることが鮮明に観察された。

 

21-4-2016_p273_fig13

図13 高空間分解能4D-CT観察結果。(a) 従来ゴム、(b) 新規開発ゴム。

 

 

6. 最後に
 このように、ゴム内部の時空間階層構造を解析し、計算機シミュレーションを連携活用することで、新材料開発技術『ADVANCED 4D NANO DESIGN』を確立し、「低燃費性能とグリップ性能を維持しながら耐摩耗性能を200%に向上させたコンセプトタイヤ」の開発に成功した(図14)。本成果は、東京モーターショー2015にて発表を実施した[8][8] http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2015/151112/

 

21-4-2016_p273_fig14

図14 ADVANCED 4D NANO DESIGN技術により開発した耐摩耗200%に向上させたコンセプトタイヤ。

 

 

 当社は新材料開発を促進するために、量子ビームと計算機シミュレーションの連携活用を進めてきた。実験側の立場から考えると、計算機シミュレーションの利用は分野毎に様々な形態があるであろうし、どの使い方が正しいというものではないと考えられる。非常に精密な物質の計算機シミュレーションを実施し、先端実験施設で狙うべきターゲットと実験デザインを行うことで新しいサイエンスの発見に繋がる場合や、様々な因子が存在し、実験だけでは理解困難な現象を計算機シミュレーションから解明する場合もあると考えられる。後者の場合、必ずしも精密な計算が必要でなく、研究したいターゲットが明確であれば、着目部分や着目した現象が研究できる範囲内であれば、近似的に計算を行い、実験結果の理解促進に繋げることで、新たなイノベーションへと発展する場合もある。実験と計算機シミュレーションのどちらの側面でも同じであるが、本質を見誤り、精密さや正確さだけが重要視され長期研究を余儀なくされるのでは時間ばかりを浪費し、逆に精密さや正確さが重要なのに曖昧な研究をしていては何も解決しないということもある。このような状態では、実験と計算機シミュレーションの間に壁を作ってしまう可能性がある。重要なことは、研究には多様な分野とフェーズが存在することは当然であり、様々なレベルにある研究を単に否定するのではなく、傾聴し相互連携していくことが必要であろう。

 

 

謝辞
 本研究は、以下の多くの方々のご協力により成し得たものです。厚くお礼申し上げます。
 公益財団法人高輝度光科学研究センター 為則 雄祐博士、上杉健太朗博士、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター 中島健次博士、柴田薫博士、菊地龍弥博士、河村聖子博士、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 山田悟史助教、一般財団法人総合科学研究機構 富永大輝博士、山田武博士、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 雨宮慶幸教授、篠原佑也助教、名古屋大学ナショナルコンポジットセンター 増渕雄一教授、国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター、公益財団法人高輝度光科学研究センター、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構、J-PARCセンター、一般財団法人総合科学研究機構、国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究機構、一般財団法人高度情報科学技術研究機構、フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体、兵庫県立大学産学連携・研究推進機構 放射光ナノテクセンター、株式会社JSOL、光・量子融合連携研究開発プログラム(中性子とミュオンの連携による「摩擦」と「潤滑」の本質的理解、量子ビーム連携によるソフトマテリアルのグリーンイノベーション)。

 

 

 

参考文献
[1] Y. Shinohara, H. Kishimoto and Y. Amemiya: SPring-8 Research Frontiers 2004 (2005) 88-89.
[2] H. Kishimoto, Y. Shinohara, Y. Suzuki, A. Takeuchi, N. Yagi and Y. Amemiya: J. Synchrotron Rad. 21 (2014) 1-4.
[3] H. Kishimoto, Y. Shinohara, Y. Amemiya, K. Inoue, Y. Suzuki, A. Takeuchi, K. Uesugi and N. Yagi: Rubber Chem. Tech. 81 (2008) 541-551.
[4] http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2011/111212/
[5] T. Kanaya, K. Kaji and K. Inoue: Macromolecules 24 (1991) 1826-1832.
[6] N. Jiang, M. K. Endoh, T. Koga, T. Masui, H. Kishimoto, M. Nagao, S. K. Satija and T. Taniguchi: ACS Macro Lett. 4 (2015) 838-842.
[7] Y. Ikeda et al.: Macromolecules 42 (2009) 2741-2748.
[8] http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2015/151112/

 

 

 

岸本 浩通 KISHIMOTO Hiroyuki
住友ゴム工業株式会社 研究開発本部
〒651-5198 兵庫県神戸市中央区筒井町2-1-1
TEL : 078-265-5688
e-mail : h-kishimoto.az@srigroup.co.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794