Volume 21, No.4 Pages 318 - 320
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
Mechanical Engineering Design of Synchrotron Radiation Equipment and Instrumentation(MEDSI2016)会議報告
Report on MEDSI2016 (Mechanical Engineering Design of Synchrotron Radiation Equipment and Instrumentation)
1. はじめに
MEDSI(“メディシ”と発音)は、Mechanical Engineering Design of Synchrotron radiation equipment and Instrumentationの略で、加速器やビームラインの装置設計に関わる(主にメカニカル)エンジニアが集い、議論する会議であり、2000年から2年に1回の頻度で開催されている。2006年にはSPring-8がホストを務めた。9回目の今回はALBAが主催母体となり2016年9月12日~16日までスペインのバルセロナで開かれ、SPring-8からは青柳、高橋の2名が参加した。会場はバルセロナの繁華街から少し離れた新市街にある自然科学館(Cosmo Caixa)で、びっくりするほど精巧なアインシュタイン(図1右)とダーウィン(図1左)の人形がインフォメーションデスクで迎えてくれる。外観は煉瓦造りで歴史を感じさせるが、中に入ると一転モダンな造りでアマゾンの森を再現したジャングルやプラネタリウムが楽しめる。交通の便が悪いため、会場とホテル街とはシャトルバスでの移動となった。その他の国内施設からは、KEK/PF(5名)、UVSOR(2名)、東北大学(1名)の参加があった。
図1 会場となったCosmo Caixa入口のインフォメーションデスク。
2. 会議報告
初日のTutorialは、パラレルセッションが午前・午後に各2.5時間ずつ組まれ、筆者は、“Advanced Computational Methods for Vacuum Technology with Application to Synchrotron Radiation Light Sources”と、“Finite Element Analysis in Design of Synchrotron Instrumentation”に参加した。前者はCERNのR. Kersevan氏がまずガス放出、排気速度、コンダクタンス等、gas dynamicsの基礎や光脱離ガス(PSD)について講義を行った後、SynRadやMolFlow+等のシミュレーションコードの説明があった。CADを使ったray tracingから始まり、SynRadでフォトンアブソーバへのフラックスやパワー分布を求めた後、PSDを考慮した圧力分布計算をMolFlow+で行うという一連の作業が紹介された。一方後者はANLのB. Brajuskovic氏がFEA(有限要素法)を機器設計に用いる際に注意すべき点として、特に現実を反映した境界条件の設定と解析結果の評価が重要である(決して結果を鵜呑みにしない)ことを説いていた。特に放射光分野で用いられるFEAコードとして一般的なANSYS社(http://www.ansys.com)がここ数年間で、ユーザーの裾野を拡げるために、3次元CADからモデルを直接取り込んでメッシング(要素分割)をほぼ自動で行い、境界条件の設定もGUIから手軽に行えるWorkbench環境の整備に邁進した。PC性能の向上も相まって一般の装置設計者が気軽にFEAを扱えるようになり、今回の会議でもFEAをメインとした発表が多数行われたが、その中には、不自然で歪な節点解の空間分布を示す結果がいくつか見受けられ、Brajuskovic氏の指摘の重要さを再認識した。なお、その他のTutorialとして、“Optics and Mechanics of Mirror Benders”と、“Accelerator Physics”が企画された。
初日の夕方にはIOC(International Organizing Committee)ミーティングに参加した。SPring-8とは異なり、海外のほとんどの放射光施設ではMechanical Engineering Divisionなる組織が存在し、基本的に加速器からエンドステーション周りまでのエンジニアリングワークを専門的に担当している。IOCメンバーのほとんどもMechanical Engineering Divisionに帰属しており、現在16名で構成されている。元々MEDSIはSRIのような大規模な学会とは一線を画し、少々マニアックなエンジニアやアナリストが活発に議論する参加者100名程度のこぢんまりとしたワークショップ形式であった。ところが2012年にIOC議長が交代した頃から拡大路線に舵を切り、今回の参加者は200名を超える規模となった。また今回からプロシーディングをJoint Accelerator Conference Website(JACoW)から発行することになり、さらにフォーマルなInternational Conferenceに成長している。ミーティングでは、事前に準備されたMEDSIの組織運営のガイドラインの内容について議論し、今後新たな施設からIOCメンバーを招き入れ、21名まで増やすこと等が決まった。
2日目以降のオーラル発表は全てプレナリーセッションで行われた。オーラルのスロット数は42で、セッションタイトルとスロット数の内訳は以下の通りである(括弧内はスロット数を示す)。Precision Mechanics(10)、Facility Design & Upgrades(3)、Calculation, Simulation & FEA Methods(4)、Core Technology Developments(3)、Light Sources(7)、End Stations and Sample Environments(6)、Optics(8)。施設別に見ると、ANL/APSとESRFが各7スロットで、DLSの5スロットとSLAC/LCLSの4スロットを合わせると全スロットの半分を超える。ESRFからはアップグレード計画であるEBS(Extremely Brilliant Source)に関する発表が5件あった。まず、P. Marion氏がプロジェクトの概要とEngineering Challengesについて講演した。EBSはHybrid 7 Bend Achromatラティスで水平エミッタンスを現状の4,000 pmradから140 pmradまで減らす設計になっている。2014年6月にゴーサインが出され、2019年1月~12月に現リングの解体と新リングの建設が行われた後、2019年12月からは蓄積リングのコミッショニングが開始される予定とのことである。アップグレード予算は低コスト化を目指したため、100百万ユーロと現ESRFの年間予算と同額であるとの報告があった。Engineering Challengesとして省スペース化、精度や安定性、Magnets tight tolerances(特にコンバインドマグネット)についての説明があり、磁石架台の振動安定性が現ESRFよりも2.2倍要求される等の説明があった。続いて、F. Thomas氏がEBS用フォトンアブソーバについて発表を行った。設計基準として弾性範囲での使用に限定した点、材料を従来のGlidcop(アルミナ分散強化銅)ではなくCuCr1Zrを全面的に使用した点が注目された。当該材料については、NSLS-IIのS. Sharma氏が別途詳しくオーラル発表した。Glidcopは価格や納期の問題、また他材料との接合が容易でないことからCuCr1Zrをターゲットにしたとのこと。ただし、一旦高温に曝されると強度が極端に低下する欠点を考慮してロー付けや溶接を一切行わず、CuCr1Zrにコンフラットフランジのエッジ加工を施している。講演後に真空気密性についての懸念を質問したが、十分な試験を行い問題ないとの回答であった。この方式によるフォトンアブソーバ関連の研究はポスター発表でもいくつか見られ、台湾のTPSでも使われており、海外施設間同士の密な連携が見られた。
4日目の午後には、同時期にバルセロナで開催されたIBIC16(International Beam Instrumentation Conference)の参加者と合同で開催されたALBAへの施設見学に参加した。20~30名を1グループとして、「制御室」(と言っても窓の外から覗き見する程度)、「マシン収納部」、「実験ホール」、「機械室(Technical Building)」の4箇所で各10分ずつ説明を受けるもので、駆け足での見学となった。ALBAは2012年から共用開始が始まった3 GeVの放射光リングで低エミッタンス化(水平エミッタンス:4.5 nmrad)が図られており(図2)、33本のビームラインの取り出しポートが準備されている。Phase IIIで新たに6本の建設が認められたとの説明があったが現状は8本しか設置されておらず実験ホールはがらんとした印象を受けた。今回珍しく電源や冷却水供給施設のある建屋が見学ルートに入っていることもMEDSIならではと感じた。
図2 ALBAのマシン収納部内。右側が蓄積リングで左側がブースターシンクロトロン。
初日からの3日間は、プレナリーセッション終了後の17:00~18:00までの1時間がポスターセッションに割り当てられた。ポスター会場は企業展示会場(仮設のテント小屋)に併設され、またランチやcoffee breakもこの小屋で提供されるためかなり混雑していた。ポスター発表者は当日の午前10:50までに貼り終える義務があるため、終日ポスターを見られるようになっていた。なお、全ポスターからベストポスター賞(何と賞金1,000ユーロ)とベストヤング(30歳以下)ポスター賞が選ばれた。
図3 ポスター会場、兼企業展示会場。さらにこのテント小屋で昼食やcoffee breakのサービスを受けた。ランチでは2日間かなり美味なお寿司が提供され日本人参加者は大喜びだった。
Social Eventとして2日目にファブラ天文台でWelcome Receptionが、4日目に海洋博物館でGala Dinnerが開催された。いずれも21:00頃から始まり、終わりが23:30過ぎと日本人の感覚では考えられない時間帯であったが、特にファブラ天文台で観た夜景は素晴らしく綺麗だった。
図4 Gala Dinnerの開始前に、お洒落な庭でタパスをおつまみにCava(スペインのスパークリングワイン)で乾杯。
3. おわりに
会議中に次回の開催地を決めるIOCミーティングが開かれ、APS(米国)、MAX IV(スウェーデン)、SOLEIL(フランス)が立候補した結果、SOLEILが主催母体となり2018年10月にパリで開かれることになった。今回の報告は上流側のトピックスに重点を置いた内容となっているが、最近のMEDSIはSRIと同じく参加者や発表の割合が加速器から下流側に移っている傾向にあり、ビームライン側の機器開発に携わっている研究者/エンジニアの方でもMEDSIに興味を持った方がおられれば、是非参加をお願いしたい。
(MEDSIホームページ:https://medsi.lbl.gov/)
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