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Volume 21, No.4 Pages 289 - 292

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

International Conference on X-ray Microscopy(XRM2016)会議報告
Report on the International Conference on X-ray Microscopy (XRM2016)

星野 真人 HOSHINO Masato

(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 今回で13回目の開催となるX線顕微鏡国際会議International Conference on X-Ray Microscopy(XRM2016)が、イギリス・オックスフォードで開催された。X線顕微鏡国際会議の歴史は1983年(ドイツ・ゲッチンゲンにて開催)にまでさかのぼり、1987年から2008年までは3年毎に開催されていたが、それ以降は2年毎の開催となっている。今回の会議場となったのは、University of OxfordのThe Mathematical Instituteという建物で、歴史的な建造物が立ち並ぶオックスフォードの街中において近代的な外観の建物であった(図1上)。会議は、8月15日~19日まで開催され、夏休みシーズンということもあり、町の中心部は大勢の観光客で溢れていたが、学会には多くの研究者が参加しており、メイン会場はほぼ満員という盛況ぶりだった。主催者の発表によると、参加者は380人以上で、発表申し込みアブストラクトの本数は330報に及んだ。オーラル発表は、計22個のセッション(内14個のパラレルセッション)で65件の発表があり、258件のポスター発表が行われた。また、今回のポスター発表では、主に学生発表者を対象(ベストポスター賞の候補者を対象)とした2分間の「Flash Talk」という場が設けられ、ポスター発表に加えて発表内容のハイライトについてオーラルで聴衆の前で発表できる機会が与えられた。最終日の午後には、オックスフォードから車で30分程のところにあるDiamond放射光施設の見学ツアーが行われた。会期中は、イギリスにしては珍しく(?)、ほぼ好天に恵まれており、猛暑に見舞われていた日本に比べて気温25℃程度と非常に過ごしやすかった。また、一般的な学会であれば休憩時間はCoffee Breakとなるが、今回の会議ではイギリスという土地柄、Morning TeaやAfternoon Teaということで、企業展示およびポスター発表会場となっているExhibitionホールにおいて紅茶(もちろんコーヒーも)や菓子類が振舞われた(図1下)。

 

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図1 (上)会議会場となったUniversity of Oxford, The Mathematical Instituteの正面玄関。(中)メイン会場においてConference Summaryを講演中のIan McNulty氏。(下)ExhibitionホールにおけるMorning Teaの様子。

 

 

2. 会議報告
 では本会議報告書の本題として、会議中のオーラル発表を中心に得られた、最近のX線顕微鏡分野の研究動向や最新情報について報告する。
 X線顕微鏡の分野では、放射光光源に限らず、実験室系のX線やレーザー励起X線など様々な光源が使用されている。当然として新しいX線顕微鏡用光源(New source)に関するセッションも設けられており、まずはスウェーデンの次世代放射光施設であるMAX IVの稼動状況について、Lunds UniversitetのYngve Cerenius氏により報告があった。特にX線イメージング・顕微鏡に関係するビームラインに関しては、4種類のビームラインを有することが発表され、それぞれ、①NanoMAX(硬X線ナノプローブを用いた計測:STXM、XRD、XRF、CDIなど)、②MAXPEEM(LEEM、PEEM、XPEEMなど)、③SoftiMAX(軟X線ビームライン:STXM、Ptychography、CDI、Holographyなど)、④DanMAX(in-situ & operando計測用硬X線ビームライン:XRD、absorption-CT、phase-CTなど)と計測種類別に分けられており(各ビームラインの通称にMAXが入っているのは個人的にはどうかと思うが、施設として統一感は出ている気がする)、2016年度から2018年度にかけて、段階的にビームラインをcommissioningしていく計画が紹介された。ビームラインにおける計測技術を見てみると、次世代放射光光源として、光源の空間コヒーレンスを利用した測定技術(ナノ集光やCDI、Ptychographyなど)を前面に押し出しているという印象を受けた。一方で、実験室規模の放射光光源として位置づけられたMunich Compact Light Source(MuCLS)の開発状況について、Technische Universität MünchenのMartin Dierolf氏によって紹介された。“How to shrinkage a synchrotron”というコンセプトのもと、ハイパワーレーザー逆コンプトン散乱を利用した高輝度X線光源として、Luminosityを最適化するための取り組み(衝突頻度の最大化、electron bunch chargeの最大化、レーザーパワーの最大化、光源サイズの最小化)について紹介された。この光源により得られるX線強度は、3 × 1010 photons/sec程度とのことである。用途としては、イメージング、マイクロビーム放射線治療、冠動脈血管造影、位相コントラストによる呼吸時の肺の観察などへの応用ということである。
 X線光源と同じく、顕微鏡として高分解能計測を実現するために不可欠なものがX線用の光学素子であり、その進歩についても重要な議論の対象と言える。X線用の光学素子として、今日では一般的に利用されているFresnel Zone Plate(FZP)の開発に関する発表はほとんど見られなくなってきたので、それ以外の光学素子に関する報告についていくつか紹介したい。まずは全反射ミラー製作技術において世界をリードしている大阪大学の山内和人氏より、同研究室で開発を行っているミラー結像システムの現状や、新たな試みとしてWolter III型のミラーシステムの開発に関する発表があった。大阪大学では、以前よりAdvanced Kirkpatrik-Baez(KB)ミラー光学系において結像型X線顕微鏡の開発を行っているが、最近ではmonolithicのミラーの製作が可能となり、実際に結像実験を行うことで、50 nmのL&Sまで解像できていることが報告された。ただし、Advanced KBミラーにおけるWolter I型の光学系配置だと焦点距離が長くなってしまうため、高倍率光学系を構成しようと思うと、光学系の長さ(試料-検出器間距離)が45 mにもなってしまうという問題があった。高空間分解能イメージングを実現するためには、光学素子が持つ分解能も重要であるが、デジタル画像検出器を用いた計測における試料位置での実効画素サイズという観点からすると、高倍率光学系であることも重要な要素の一つである。これを解消する目的で、Wolter I型光学系からWolter III型光学系配置を採用することで、焦点距離を短くすることができ、コンパクトな光学系において高倍率を達成することが期待されることなどが紹介された。現状では、結像光学系ではなく集光光学系の段階ではあるが、Wolter III型光学系配置での集光を実現しているということである。また、JASRIの湯本博勝氏からもSPring-8におけるミラー開発の現状として、100 nm集光を目的とした楕円体ミラーの開発について報告があった。現状の技術で数10 nmスケールの形状補正を容易に達成できることが紹介され、STXMの集光素子として用いることにより、50 nmのL&Sまで解像できていることが報告された。
 ミラー以外の光学素子としては、近年のXRMでその開発に大きな関心が寄せられていたMultilayer Laue Lens(MLL)の実用的利用として、20 nmの空間分解能での硬X線イメージングの現状について、Brookhaven National LaboratoryのHanfei Yan氏より報告があった。NSLS-IIにおける硬X線ナノプローブを用いたマルチモダリティイメージングとして、バライト粒子のSpectroscopicイメージングや、銅ナノ粒子の細胞毒性メカニズム解明への応用、ナノトポグラフィーへの応用展開への可能性などについて報告があった。
 光源や光学素子などの開発・進歩の状況が報告される一方で、計測ツールとして一般的に認知され、利用展開されているX線顕微鏡の報告も数多く見られた。応用範囲は、Life Science(例えばアルツハイマー病への応用:XRF顕微鏡によるサブppmレベルのCuの検出への適用、Brookhaven National Laboratory, Lisa Miller氏)、Biomedical(低線量かつ高コントラストで3次元空間分解能の改良を目的としたConfocal STXMやFIB-SXMへの展開、Helmholtz Zentrum Berlin, Christoph Pratsch氏)、Art(µ-XRDやµ-XRF, µ-XANESを用いた美術品における色の起源に関する研究への応用、ESRF, Marine Cotte氏)、Material Science(Bragg coherent diffraction imagingを用いて15 nmの空間分解能でのらせん転位測定や転位のオペランドトラッキングなどへの応用、Argonne National Laboratory, Andrew Ulvestad氏)など多岐にわたる。また、従来の2D(投影像)および3D(CT像)計測から、例えば時系列情報を組み込んだ4D(CT+時系列情報)計測といったような、多次元顕微鏡への展開を目的とした計測手法の開発も最近のトレンドとなっている印象を受けた。例えば、Paul Scherrer InstituteのMarianne Liebi氏は、小角散乱とテンソルトモグラフィーを組み合わせたSAXS tensor tomographyの開発について紹介し、マクロな物体の内部微細構造にフォーカスして、ナノスケール構造の配向を3次元で解析できることを示した。等方的な散乱であれば、散乱強度を積算することにより実空間でCT再構成が適用できるが、異方性を持つ微細構造から生じる散乱の場合は、3次元フーリエ空間情報の再構成が必要であることを示し、そのための計測手法(2軸回転法)やその再構成方法についての報告があった。ただし、現状の課題として1計測あたり20時間以上の測定を要することが挙げられ、計測時間の短縮が今後の課題と言える。また、光源のコヒーレンスを利用したスペックルベースのイメージングに関してもいくつか報告され、例えばDiamond Light SourceのHongchang Wang氏は、sand paperによって生じるスペックル像走査と画像相互相関法を用いることにより、試料の配向を反映した暗視野イメージングを比較的簡単に行えることを紹介した。今後、空間コヒーレンスに優れた低エミッタンスビームの利用が増えてくると、このようなスペックルベースの計測も増えてくるのではないかと思われる。
 一方で、時分割計測のような高速イメージングの場合、大容量データの高速読み込みや処理(いわゆるビッグデータ)が重要な検討項目になってくるが、そのための取り組みとして、Paul Scherrer InstituteのChristian Schlepütz氏によりSLSのTOMCATビームラインにおいて開発されたGigaFRoST(Giga Fast Readout System for Tomography)についての報告があった。報告によると、2分間で1 TB分のデータ取得が可能とのことであり、火山の噴火プロセスを模擬した系の時系列測定(3.7 µm/pixelの分解能で1 CT計測あたり5秒の計測を10秒おきに繰り返す)などに利用されているとのことである。また、多色光を併用することにより、30 keV程度のエネルギーにおいて、1 CT計測あたり50 msで行えることが紹介された(時間分解能20 Hz)。この間に、試料は600 rpmで回転しており、亀裂伝播のダイナミクスの定量解析に応用されているとのことである。一方で、不可逆変化のダイナミクスではなく、周期運動をする試料のダイナミックイメージングにおいては、ゲート式CTを用いることで、kHzオーダーの時間分解能でハエの羽ばたきのメカニズムを3次元で解析できていることが紹介された。その他に、Purdue UniversityのKadri-Aditya Mohan氏により、超高速計測に頼らずとも、従来の計測手法に一工夫(画像再構成手法の改良)加えることで、成長過程の金属合金デンドライトの3次元形態の可視化への応用について報告があった。
 今回の会議では、単に一つの計測手法による測定ではなく、マルチモダルイメージングとして、on-the-fly Ptychography(100 nm以下に集光したビームにより1点あたり数10 msの露光時間)とXRFを組み合わせた測定手法の開発に関する発表もいくつか見られた(Northwestern UniversityのJunjing Deng氏やDESY HamburgのKarolina Stachnik氏など)。発表の中では、回折限界放射光リングができれば、1 kHzでのPtychography & XRF測定も可能になるであろうという発表者のコメントも見られた。
 XRMでは、新規デザインの光学素子や計測システムに関する提案・発表も歓迎されており、今回の会議で若手研究者の優秀発表に送られるThe Werner Meyer-Ilse Memorial Awardを受賞したPaul Scherrer InstituteのMatias Kagias氏は、同心円状の微小パターンを2次元平面内に並べた新しい光学素子の提案を行い、シングルショットで試料からの全方位散乱を用いてイメージングすることが可能な計測手法の開発について報告を行った。従来方法では、透過型回折格子などを用いて、格子に直交する方向の散乱のみを検出して小角散乱イメージングに応用できることは知られていたが、今回の発表では光学素子のユニットセルを同心円の回折格子パターンにすることで、試料を面内回転させたり、回折格子の向きを変えたりすることなく、試料の微細構造の配向に依存した散乱イメージングが行えることを実証した。また、試料では入射X線の屈折が生じるので、従来の回折格子干渉計のように干渉縞のシフトが生じる。これは局所的な円形格子の結像面上でのシフトに相当するということであるので、そのシフト量を計測することにより、ある方向の微分位相像を抽出することも可能になるようである。
 他にも、特筆すべき発表はいくつかあったが、本稿のスペースの関係上、省略させていただく。なお筆者は、XRMについてはXRM2010以来の参加であったが、以前のように、“X線顕微鏡で世界最高の空間分解能が達成された”といった主旨の発表件数は少なくなったという印象である。言い換えれば、数10 nm~50 nm程度の空間分解能でのX線顕微イメージングは日常的となってきており、顕微鏡ツールとして応用利用のフェーズに入っているという印象である。しかしながら、回折限界X線イメージングが一般的になるという点についてはまだ課題も多く、今後の各方面における研究・加工技術・計測技術の進歩に期待したい。

 

 

3. おわりに
 会期中には、スペシャルイベントとして、X線顕微鏡の創成期を支えた3人の重鎮(Janos Kirz氏、Günter Schmahl氏、Ronald Burge氏)の長年の功績を称え、Argonne National LaboratoryのChris Jacobsen氏により、The Beetlesの“Hey Jude”の替え歌として3氏の功績がユーモラスに紹介された。その最後のフレーズを記載しておく。
 “Hey all, we see it now. But at first it was not so obvious. Remember to dream of what you might do. Imagination will make it better.”
 なお、次回のXRMは、カナダのSaskatoonで2018年8月19日~24日の日程で行われることがすでに決定している。また、今回の会議では次々回(2020年)のXRMの開催地の決定が行われ、台湾とドイツ・ハンブルグが候補地として立候補し、投票の結果、台湾で開催されることが決定した。台湾での開催は、2005年の姫路、2012年の上海に次いで、アジアでは3回目の開催となる。

 

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図2 XRM2016 Group Photo

 

 

※用語説明
・STXM: Scanning Transmission X-ray Microscope
・XRD: X-ray Diffraction
・XRF: X-ray Fluorescence
・CDI: Coherent Diffraction Imaging
・PEEM: Photo Emission Electron Microscope
・LEEM: Low Energy Electron Microscope
・SAXS: Small Angle X-ray Scattering
・FIB: Focused Ion Beam
・XANES: X-ray Absorption Near Edge Structure

 

 

 

星野 真人  HOSHINO Masato
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0833
e-mail : hoshino@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794