Volume 21, No.4 Pages 285 - 288
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第65回デンバーX線会議(DXC2016)報告
A Report on 65th Annual Conference on Applications of X-ray Analysis (Denver X-ray Conference, DXC2016)
デンバーX線会議(Denver X-ray Conference)が、2016年8月1日~5日の5日間、シカゴ・オヘア空港近くの会場(The Westin O'Hare Hotel)で開催された。前半の2日間はワークショップとポスターセッション、後半の3日間は口頭発表のみのセッションで構成されていた。事前登録の参加者は237名、さらに企業からの参加者は160名、企業展示は45社であった。同会議はX線分析の応用をテーマとし、今回で第65回となる伝統ある会議である。大学等の実験室用装置と放射光を利用した装置の双方をバランスよくカバーし、材料を中心とした幅広い応用が報告されており、放射光利用のポテンシャルユーザー層と材料科学の方向性を探る上で有益な会議であった。放射光利用に関しては、Advanced Photon Source(APS)アップグレードに関連した講演があり、高エネルギーマイクロX線回折とコヒーレントX線回折によるMicroscopyの可能性が示された。また、実験室用装置側からの視点として、放射光利用実験のビームタイムに限りがあることから、放射光を利用した装置を実験室用装置の高性能版と捉えた補完的利用が示されていた。近年、実験室用装置の性能向上が著しい上に、ユーザーニーズを的確に捉えた製品開発が進んでいる。放射光利用において、今後、実験室用装置との相補性や連携を考える必要がある。
以下、開催日程順にワークショップおよびプログラムを紹介し、各々参加したセッションでの発表について報告する。
初日のワークショップは、“Basic to Intermediate XRD I & II”、“Diffraction Contrast Imaging”、“Basic XRF”、“Synergies between Laboratory and Synchrotron X-ray Methods”、“Fundamentals of X-ray Absorption Spectroscopy”、“Rietveld for Beginners - Introduction to Rietveld fitting with GSAS-II”、“Energy Dispersive XRF”、“Trace Analysis”のタイトルで開催された。
以下に、“Diffraction Contrast Imaging”のワークショップについて報告する。
最初に、APSのJ. S. Parkが、“Using Far Field High Energy Diffraction Microscopy to Characterize the State of Polycrystalline Materials”のタイトルで、APS 1-ID-Eステーションにおける高エネルギーX線回折顕微鏡(HEDM: High Energy X-ray Diffraction Microscopy)の研究例を紹介した。測定配置として近接場(試料・検出器間距離:10 mm)と遠距離場(試料・検出器間距離:1 m)の違いを説明した後、遠距離場配置での研究例を紹介した。80.725 keVの入射X線(ビームサイズ:1 mm × 100 µm)を用いたHEDM測定の例として強化銅のマイクロメカニカル解析の例を示した。この研究は、回転ステージ上に置かれた多結晶体試料内で回転軸上にあるマスターグレーンを選び出して、その結晶歪解析を行うものである。また、マグネシウム合金の滑り強度の測定例が示された。それぞれの研究では、解析ツールとしてフリーソフトのFABLEとMIDASが使用されている。現状では粒平均の情報しか得られていないが、将来的には粒内分布の計測へと発展するとのことである。材料科学では多結晶体中の一結晶粒の観察とキャラクタリゼーションがホットトピックスである。引き続き、Los AlamosのR. Pokharelは、J. S. Parkが紹介した研究例を詳細に報告し、さらにUO2多結晶試料の弾性歪と結晶粒サイズの相関とその焼鈍による変化について示した。Xnovo TechnologyのE. Lauridsenは、回折コントラストトモグラフィーの紹介をし、放射光を利用した装置と実験室用装置の両方の結晶粒観察の結果を比較した。実験室用装置でも数100ミクロンの分解能であれば、十分なトモグラフィー像が得られている。
2日目のワークショップは、“Structure Solution I & II”、“Two-dimensional Detectors”、“Micro XRF”、“Quantitative Analysis I & II”、“Amorphous & Disordered Materials I & II”、“Advanced Rietveld - Advanced use of GSAS-II” 、“Sample Preparation of XRF”が開催された。
参加した“Two-dimensional Detectors”について報告する。
OrganizerのT. Blanton以外の3名の講演者はメーカー所属である。S. Speakmanは、0次元検出器が2次元検出器になることによりX線回折パターン測定の効率化が進み、結晶粒状態の研究、特に応力分布の研究が飛躍的に発展したことを強調した。J. Ferraraはフィルム、イメージング・プレート、マルチワイヤ・プロポーショナルカウンター、CCD、そしてハイブリッド・フォトンカウンティング検出器を説明し、自社のフォトンカウンティング検出器(100 µm × 100 µm分解能)の紹介をした。B. HeはX線回折の概要を自社の製品の測定例を示しつつ、応力と多結晶体試料の結晶粒分布の研究例を紹介した。自社製品の性能と測定例を併用しながら2次元X線検出器の基礎を説明するワークショップは検出器ユーザーにとって意義のあるものであった。
3日目の午前は、Plenary Sessionが設けられた。“Imaging at Current and Next Generation Synchrotrons”のセッション名で、APSのB. Tobyが座長を務めた。コンファレンスチェアの挨拶といくつかある賞の受賞者の紹介に続いて、T. Fawcett(International Center for Diffraction Data)が、Debye-Scherer Powder Methodが確立されて100年を迎えることを記念して、“100 Years of Powder Diffraction”のタイトルで講演を行った。レントゲンによるX線の発見に始まり、第1回デンバーX線会議(1941年)以降の進歩として、粉末X線回折による化学分析、フィルムからX線強度の数値化とプロファイル化、位置敏感X線検出器導入による時分割測定の導入、自動パターン指数付けがメインフレームからPCに移行したことなどが紹介された。
続いて、APSアップグレード(APS-U)と関連して、APSにおけるX線イメージングとX線顕微蛍光分析の紹介があった。
F. De Carloは、“X-ray Imaging at the Advanced Photon Source (APS) from Data Intensive to Data Driven: Opportunities with the APS Upgrade”のタイトルで講演した。現在のAPSでは、Parallel Beam Imagingで1 µmの分解能、Transmission X-ray Microscopyで20 nmの分解能をそれぞれ達成しており、APS-Uではその分解能ギャップを埋めるProjection Microscopyを目指すとしている。Parallel Beam Imagingの例として、Alリッチデンドライトの成長過程や疲労亀裂や腐食の観察を紹介した。APS-Uでは、測定時間と視野を犠牲にせず、1 µm以下の分解能を達成することで、材料の階層的なキャラクタリゼーションを目指している。時分割計測としては、現在の24バンチ運転が48バンチ運転になり、さらに検出器の高性能化によりフレームレートの向上が見込まれるとしている。応用例として、XANESとの併用によるAdditive Manufacturing(付加製造)やSelf-Propagating High-Temperature Synthesis(自己伝播高温合成)、脳コネクトーム地図の作成などへの可能性が示された。
S. Vogt(APS)は、“X-ray Fluorescence Microscopy: Advances and Unique Opportunities”のタイトルで講演した。複雑系の階層構造に関連した機能解析として、X線顕微蛍光分析の可能性について言及した。現状のAPSで行われている例として、XANESを用いたn型Si中の金属元素分布、生体内部の金属分布、Cr(III)、Cr(IV)の化学状態計測や、蛍光X線トモグラフィーによるゼブラフィッシュの胚発生期における体内金属分布測定の例を紹介した。APS-Uにより硬X線顕微鏡技術が高速化し、材料科学、ソフトマターを始め多くの分野の重要な研究に利用されるとして締めくくった。また、講演の中で、ビッグデータの取り扱いの重要性が指摘された。
最後は、Hanawalt賞受賞者のM. Leoniによる受賞講演、“Detailed Microstructure Information from Powder Data: A Maze or Amazing?”で午前のセッションを終えた。
3日目の午後は、“High Energy X-ray Microscopy”、“Trace Analysis”、“Biological Application of X-ray Fluorescence Microscopy - Biomedical Applications”、“New Development in XRD & XRF Instrumentation I”、“X-ray Imaging I”の5つのパラレルセッションであった。
参加した“X-ray Imaging I”のセッションについて報告する。
C. Schroer(DESY)は、“High Resolution Microscopy with Coherent X-rays”のタイトルで招待講演をした。ナノ集光を実現する複合屈折レンズを中心に説明し、タイコグラフィーの説明の後、触媒用ナノ粒子の再構成像の例を紹介した。この像では15 nmサイズの描画に成功している。その他の応用例として、ソーラーセルの層状構造の観察とナノエレクトロニクスデバイスの測定例を示した後、共鳴タイコグラフィー法の応用例として金粒子の測定例を示した。最後に、PETRA IIIのアップグレード計画であるPETRA IVプロジェクトを紹介した。本アップグレードによりコヒーレントフラックスが50倍以上に増強し、ナノスケールでのその場3次元顕微鏡が実現する。同プロジェクトは計画の段階であるが、PETRA IVは2026年から利用を開始するとのことである。
4日目は、“Rietveld”、“Industrial Applications of XRF”、“Biological Applications of X-ray Fluorescence Microscopy - Plant/Environmental/Microbial Science”、“New Developments in XRD & XRF Instrumentation II”、“Cultural Heritage”、“Applied Materials I”、“General XRD”、“General XRF”、“Biological Applications of X-ray Fluorescence Microscopy - Related Technique and Methods Development”、“X-ray Imaging II”のオーラルセッションがあった。
“X-ray Imaging II”のセッションでは、K. Janssensが、“Spectroscopic X-ray Imaging for Studying Alterations at and Below the Surface of Fine Art Painting, Stained Glass Windows and Illuminated Manuscripts”のタイトルで招待講演した。絵画「ムンクの叫び」の劣化の原因となる、絵の具に含まれる金属の酸化状態の研究例を始め、ステンドグラスや書物などの分光分析研究例を紹介した。最初は絵画などを放射光施設に持ち込んで観察を行っていたが、測定対象を広げるためにポータブルX線分析装置を開発している。続く、E. A. Willneffは、“Soft X-ray Imaging of Modern and Contemporary Artists' Materials”のタイトルで講演し、絵画修復と保存のために、絵具の材料を同定する研究例を紹介した。SEM、ATR-FTIR、XPS、目視などの既存の方法では難しい金属元素の価数状態の観測を行うために、NSLSでNEXAFSの測定を行っている。これらは社会文化に貢献している例であるが、単に測定で終わるのではなく、修復や保存に結びついている点において一歩進んだ利用を行っている。
最終日は午前のセッションだけであった。“Stress Analysis”、“Applied Materials II”、“Quantitative Analysis”、“X-ray Optics”のセッションがあった。
“X-ray Optics”のセッションでは、S. Hayakawaが、“Spectromicroscopy Instrumentation and Techniques with Synchrotron and Laboratory X-ray Sources”のタイトルで招待講演した。ポリキャピラリー光学系を用いたエネルギー分散型マイクロXAFS(Micro dispersive XAFS)では10 µmの空間分解能を達成している。KBミラーを用いた光学系で1 µmの分解能を達成したマイクロXRF(蛍光分析)でGSR(Gun Shot Residue)や微小なガラス片の分析を紹介し、さらに微小片を探すマッピング法を紹介した。引き続いて、J. Garrevoetは、“Three Dimensional Imaging at the P06 Hard X-ray Micro/Nano-Probe”のタイトルで招待講演し、PETRA IIIにおける研究例を紹介した。リチウムイオンバッテリーの電極で充電速度の違いによるNiの析出やクラックなどのスライス法によるイメージングを示した。また、Confocal XRFの例として、グラファイト負極内への正極材の構成元素であるNiやMnの局所析出のイメージングに成功している。続いて、エネルギー分解ができる2次元ピクセル検出器とマイクロ・シートビームを用いた3次元Full Field XRFの例を紹介し、Rice leaf、Venus fly trap trigger hair、Fluid Catalytic Cracking(FCC)の1ミクロン分解能での観測例やOn-the-flyタイコグラフィーの可能性を示して講演を終えた。
第65回デンバーX線会議は、実験室用装置と放射光装置を相補的に活用することの重要性を認識する上で有意義な会議であった。本文中では述べなかったが、企業展示や企業セミナーで紹介された実験室用装置の中には、軽元素材料に限るがサブミクロン分解能の3次元イメージングが可能なX線顕微鏡装置が商用化している。今回の会議はシカゴで開催されたが、次回の第66回デンバーX線会議は2017年7月31日~8月4日に米国モンタナ州のビッグスカイで開催される。
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