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Volume 21, No.3 Pages 253 - 264

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

「専用ビームライン 中間評価と再契約等」について
Interim Review Results of Contract Beamlines and Renewal of Agreements

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8の専用ビームラインは、国立研究開発法人理化学研究所以外の設置者が、その利用目的に添った計画を立案し、登録施設利用促進機関であるJASRIに設置した専用施設審査委員会およびSPring-8選定委員会において「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき検討評価され、選定されます。
 現在、SPring-8には国内外・産学官の設置者による19本の専用ビームラインが稼働中です。設置が認められた専用ビームラインは、その設置期間の中間期を目処に専用施設審査委員会等において、その使用状況および研究成果等の中間評価が行われ、継続、改善、中止等の判定が行われます。また、設置期間が満了する施設からは再契約の申し出に基づき、次期計画等の審査が行われ、再契約の是非を判断します。

 平成28年7月に開催しましたSPring-8選定委員会において、平成28年3月から6月に開催された専用施設審査委員会で下記の中間評価および次期計画等の審査を実施しました。

 

 

中間評価
・広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)
(設置者:国立研究開発法人 物質・材料研究機構)
・レーザー電子光IIビームライン(BL31LEP)
(設置者:国立大学法人 大阪大学核物理研究センター)
・NSRRC BM・IDビームライン(BL12B2・12XU)
(設置者:台湾NSRRC)
・革新型蓄電池先端科学基礎研究ビームライン(BL28XU)
(設置者:国立大学法人 京都大学)

次期計画
・JAEA重元素科学I・IIビームライン(BL22XU・23SU)
(設置者:国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構)

実行計画
・QST極限量子ダイナミクスI・IIビームライン(BL11XU・14B1)
(設置者:国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構)

 

 

 上記の結果、中間評価を実施した4機関、5本のビームラインについては、ともに引き続きビームラインの運用を「継続」する旨の結果を得ましたので、財団より各設置者へ通知いたしました。
 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)の各2本のビームラインの次期計画および実行計画については、法改正によりJAEAの一部の施設・組織を、QSTに移管することとなり、QSTの発足を待って再審査を行った結果、ともに10年間の「再契約(QSTは新規契約扱い)」が認められましたが、次回の中間評価については3年後を目処に実施するのが妥当であると判断し、財団より両設置者へ通知いたしました。

 ※各専用BLの評価・審査結果は以下に掲載

 

 

広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)中間評価報告書

 

 広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)(以下、本ビームライン)は、国立研究開発法人物質・材料研究機構が、同機構の事業を遂行するために、1)研究開発成果の普及とその活用の促進、2)研究者・技術者の養成およびその資質の向上、さらに、3)物質・材料科学技術に関する基礎研究および基盤的研究開発の支援の一環として設置している。本ビームラインは、同機構の研究者に対して材料解析・評価の観点から研究成果の最大化に貢献するとともに、同機構外への貢献としてはナノテクノロジープラットフォーム事業などの国策事業への参画やビームラインの共用利用を積極的に推進してきた。また、同機構のミッションに沿ったビームライン運用により、青色発光ダイオードや燃料電池関連の材料構造解析などにおいて優れた成果を数多く創出している。専用施設審査委員会(以下、本委員会)は、これらのことを含めて総合的に評価した結果、本ビームラインの設置および運用を継続すべきと判断した。

 以下、国立研究開発法人物質・材料研究機構が本委員会に提出した「広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン(BL15XU)専用施設中間報告書」および添付資料の「成果リスト」と、平成28年3月4日に開催された本委員会での報告および討論に基づいて、評価結果を報告する。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 本ビームラインは、円偏光用磁石列と水平偏光用磁石列の切り替えが可能な全長4.5 mのリボルバー型アンジュレータを光源とし、光学ハッチに二結晶分光器とさらにその下流に切替式高分解能モノクロメータを配置し、2.2 keVから36 keVまでの幅広いエネルギー単色X線の利用を可能にしている。また、硬X線光電子分光測定用に集光ミラーが設置され、試料位置で縦25 µm × 横35 µmのX線集光サイズを達成している。2012年以降、ダイヤモンド単結晶(110)位相子やビーム安定化システムMOSTABを導入し、光学系の高性能化を行ってきた。測定装置としては、高分解能粉末X線回折計、小型半径の粉末X線カメラ、薄膜・ナノ構造解析用多軸回折計、硬X線光電子分光装置を整備し、物質や材料の原子構造解析や電子状態解析に利用してきた。2012年以降、試料自動交換・自動測定型硬X線光電子分光測定装置を新たに導入し、さらに電圧印加実験に対応できるように改良を行い、また高分解能粉末X線回折装置に複数の1次元半導体検出器を導入することで測定効率の向上を図るなど、着実に高性能化を進めており高く評価できる。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 本ビームラインは、国立研究開発法人物質・材料研究機構が設置し、物質・材料科学全体を牽引する国際的な中核機関としての役割を果たすことを目的に、最先端の研究施設として運営されている。同機構は本ビームラインに15名の常駐スタッフを配し、機構内の研究者に対して広報活動や課題申請相談を実施するなど、十分な体制で施設運営を行っていることは高く評価できる。機構内利用の他に、ナノテクノロジープラットフォーム事業や共同利用による機構外の利用者は増加傾向にある。機構内・外とも審査委員会を経て課題選定が行われている。本ビームライン運営の予算については、同機構全体の運営交付金が減っていく状況下で、一定規模の額が確保されていることは、同機構内での本ビームラインの評価が高いことが示唆される。また、安全確保に関しても同機構およびSPring-8のガイドラインに沿って対策が施されおり、高く評価できる。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 機構内利用者の要望を的確に把握し、利用分野を硬X線光電子分光測定とX線回折測定に集約することで、質・量ともに十分な成果を創出している。2012年度から2015年度にかけての研究論文数は160報であり、そのうち103報が機構内利用者による研究である。その他はナノテクノロジープラットフォーム事業、東工大元素戦略拠点事業や機構外との共同研究などの成果であり、機構外利用者においても十分な成果が創出されていることは特筆に値する。研究例として、希薄磁性半導体の価電子構造解析、ナノ粒子触媒の構造および電子構造解析、高圧合成新物質の構造および磁気物性解析、ナローバンドギャップ物質の電子構造研究、イオン性結晶の構造および電子構造研究などがある。このように、研究成果の内容や質および量の点において、本ビームラインの設置目的は十分に達成されており、本委員会は本ビームラインの成果創出状況を高く評価している。

4. 「今後の計画」に対する評価
 国立研究開発法人物質・材料研究機構のミッションと運営方針に沿って、本ビームラインの今後の計画が十分に練られていると判断できる。今後も、高輝度X線回折・散乱測定と硬X線光電子分光測定を主力測定技術と位置付け、材料・物質の原子構造解析と電子状態・電子構造解析および評価を通して、研究成果の最大化を目指すという戦略は評価できる。また、機構外利用者、即ち、産、学、国立研究開発法人などによる共用利用の促進も目標としており、SPring-8全体にとっても有益なものとして歓迎されるべきである。特に、情報統合型物質・材料研究の基礎データや新物質・新材料の成果物の標準化データに関する基盤データベースの構築は同機構が積極的に取り組むべきテーマである。今後も、SPring-8においてユニークな広エネルギー帯域型ビームラインとして、計画されている測定装置の高度化を行うとともに、人材育成や測定手法の普及啓発にも積極的に取り組むことを期待する。

以 上

 

 

レーザー電子光IIビームライン(BL31LEP)中間評価報告書

 

 レーザー電子光IIビームライン(BL31LEP)は、国立大学法人大阪大学核物理研究センター(RCNP)が、SPring-8に設置した2本目の専用ビームラインであり、その研究の目的は、物質の基本粒子であるバリオンおよびメソンの構造とそれらの間に働く力を、その構成要素であるクォークのレベルで理解することである。第2ビームラインを建設するLEPS2プロジェクトは、2006年度より検討が開始され、2010年度の補正予算による文部科学省のサポートと高輝度光科学研究センターの協力を得て2010年から建設に入り、2013年にはビームラインと大立体角の電磁カロリメーター(BGOegg)が完成して、コミッショニング・ランを開始し、2014年度から物理実験を行っている。並行して、大型ソレノイド・スペクトロメーターの建設が進められている。現在の第一期設置契約期間(2011年2月~2021年2月)を開始するにあたり承認された実施計画に基づいてビームラインの建設・整備と大型検出装置の開発・建設がほぼ順調に進められていること、ビーム利用の実験もやや遅れはあるものの新しい実験が順次立ち上がりつつあること等を鑑み、専用施設審査委員会(以下、本委員会)は第一期後半も当該ビームラインの設置と運用を、安全体制や今後の計画についての提言をつけた上で、「継続」することを勧告することが妥当であると判断した。

 以下、国立大学法人大阪大学核物理研究センターから本委員会に提出された「レーザー電子光IIビームライン(BL31LEP)中間評価報告書」と平成28年3月4日に開催された委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 紫外と深紫外の2種類の波長のレーザーを各々最大4台までを利用することにより、2.9 GeVまでの高エネルギーガンマ線と2.3 GeVまでの大強度ガンマ線を利用できる施設である。これまでのところ、当初目標の1/4程度のビーム強度で実験が行われている。今後、学内の協力を得てレーザーの508 MHz同期化による強度改善も期待できる。
 測定装置として、上流側にBGOeggと呼ばれる大立体角高分解能電磁カロリメーターが完成し、前方のドリフトチェンバーや高抵抗板チェンバーとともに、2014年度より物理実験を開始している。高抵抗板チェンバーでは、約70 psという時間分解能が達成されている。中性π中間子、η中間子、η'中間子などの生成が観測され、十分なエネルギー分解能が達成されている。今後、ソレノイド・スペクトロメーターの検出器系の建設に入るところである。シリコン飛跡検出器、粒子識別用の高抵抗板チェンバー、エアロジェル検出器等を建設し、2017年度からの稼働が予定されている。全体としてスケジュールに若干の遅れはあるものの、施設を立ち上げて物理実験の実施にこぎつけたことは高く評価できる。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 全般的な安全面でのSPring-8からの要求には、組織として従来よりも真剣に対応している様子が感じられるものの、液体水素を標的にしているので、十分な安全管理・保守点検を怠らない運用は必須である。インターロックトラブルなどがあったことは遺憾であり、安全教育、システムの見直しなどを含め、十分留意願いたい。
 本専用施設は大阪大学核物理研究センターのみならず、東北大学電子光理学研究センターなど複数の組織が共同で実験がなされているようなので、BL33LEPも併せ、その管理、責任体制を明確にし、組織図を含む運用・管理責任体制をSPring-8側に提出するとともに、常に施設者側と連携し運用に努めてほしい。
 また、実験ホールやユーザー談話室など共用スペースの使用に関しても整理整頓を心掛け、他の共用ユーザーも利用する施設であることを十分認識するよう教育もしっかりしてほしい。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 BGOeggを用いた原子核標的によるη'中間子原子核の探索の研究は、2014A、2015A期に既に実験データの取得を終えており、データ解析が行われているところである。また、BGOegg内に設置する液体水素標的も開発され、γp反応による核子共鳴の励起状態の研究も進められている。このような高励起状態は二中間子生成チャンネルとの強い結合が期待され、これまでに見つかっていない共鳴の検出が期待される。特に、LEPS2ビームラインの特徴である高いビーム偏極を利用して、終状態粒子の偏極非対称度の測定に興味が持たれている。このデータも2015B期に既に取得済みであり、データ解析が進んでいる。これらのデータ解析が順調に進められ、早期に物理成果がまとまることを期待する。

4. 「今後の計画」に対する評価
 2016年度は、液体水素標的に替えて液体重水素標的を用いて、核子共鳴に関するデータ取得が予定されている。両者の比較により中性子標的成分を引き出すことができる。2017年度には、ソレノイド・スペクトロメーターの検出器のインストールが予定されている。検出器系の調整運転の後に、2018年度より、ペンタクォークΘ+の生成実験やΛ(1405)ハイペロン共鳴生成実験等のデータ取得が計画されている。
 しかし、本ビームライン設置の大きな目的であるΘ+探索に関する明確なロードマップが示されていない。LEPS2でのΘ+の検証実験への詳細な研究計画を提出すべきである。実験の実施にあたっては、最大5年を目途に年限を切って結果をきちんと整理すべきである。Θ+のピークが観測できた場合にも、他の実験で見えない原因の究明をも併せて行う必要がある。また、ピークが見えない場合には、実験の打ち切りを含めて、専門家からなる外部委員会で判断することが必要である。
 なお将来的には、リソースの有効利用という観点から、本ビームラインと同様の設置目的を持つレーザー電子光ビームライン(BL33LEP)との整理・統合も視野に入れて、研究計画を検討すべきと考えられる。

以 上

 

 

Contract Beamline NSRRC BM and ID (BL12B2, BL12XU) Interim Review Results Report

 

General statement
 National Synchrotron Radiation Research Center (NSRRC) in Taiwan constructed BL12B2 and BL12XU at SPring-8, which were launched in June 2000 and March 2001, respectively. In 2011, the contract with SPring-8 was renewed for another 10 years. This is an interim review of the 10-year contract.

Comments on the specified issues
1. Facility Status and Developments
 The Taiwan Contract Beamlines have been well maintained without making major alterations of its light source and optics from the beginning. The two beamlines are widely used and achieving their original purposes. Planned performance is realized. Maintenance and development of the equipment is satisfactory.
 Improvements of the end stations are continuing actively. For instance, the fast CCD detector Quantum 210r at BL12B2 was replaced by the high-end CCD detector MX225-HE in this interim period. The new detector is used not only for protein crystallography, but also for powder diffraction experiments. Relocation of the end station for the high-pressure X-ray diffraction was conducted in 2014, which enables the use of the better-focused beam together with the new detector. High-pressure experiments can be made with a diamond anvil cell (DAC). The conventional Huber 6-circle diffractometer for X-ray scattering experiments was also upgraded to (6+1)-circle. EXAFS measurement is also possible. These experiments can be made at high or low temperatures.
 At BL12XU, the use of multiple stations contributes to enhancing the outputs. The mainline includes high-resolution monochromator (4-bounce channel-cut Si crystals with 20 meV resolution) to provide various bandwidths. A K-B mirror system is installed to achieve a beam size smaller than 20 μm which is required for high-pressure experiment with a DAC. The end station is equipped with two Inelastic X-ray Scattering (IXS) spectrometers. The first IXS spectrometer that has capabilities of both non-resonant and resonant IXS is a unique apparatus in SPring-8. A Si array detector with 32 channels was developed to be used with the spectrometer. A new spectrometer with a bent Laue analyzer for non-resonant IXS optimized around 20 keV has been also developed. BL12XU sideline employs a diamond beam splitter. It has a high-resolution channel-cut crystal and K-B mirrors. This design enables simultaneous operation of two experimental stations. The HAXPES end station of the sideline branch has two electron analyzers at right angles to each other, which enable photoemission measurements in two geometries. Overall, the design of BL12XU is unique and it is internationally competitive. The upgrades from the initial plan is well justified.

2. Operation and Management
 The number of the staff members, including a few Japanese, is not so large, but the efforts for the user support are well organized. The budget for maintenance and management of the two beamlines is ensured, and the experiences from Taiwan Light Source (TLS) are harnessed for the operation of the two beamlines.
 The Radiation & Operation Safety Division and Experimental Safety Review Committee of NSRRC are examining proposals for the safety at the beamlines. Users are further requested to follow the safety regulations of SPring-8. The safety examination at the beamlines is regularly conducted. Thus, the beamlines have a proper system to ensure safety in user experiments.
 The selection of the research proposals by the NSRRC Proposal Evaluation Committee (PEC) is fair and successfully functioning. The beamlines are open for both domestic and international users. During the first half of the contract period, the number of the users remains at a constant level, but we understand these are excellent users who produce high impact outcomes from the beamlines. Users at BL12B2 are mostly from Taiwan, but those at BL12XU are from many countries. Recently there are more Japanese users than Taiwanese, showing that this beamline attains high international interest and reputation.

3. Research Activities
 Taking the suggestions of the Review Committee in 2011, which pointed out a slight decrease in published papers, NSRRC urged users to publish more papers. There is still a fluctuation in the number of publications from year to year, but it is at the average level of the standard SPring-8 beamlines, and it should be noted that there are an adequate number of publications in the high-impact-factor journals.
 As for BL12B2, about 50% of the user beam time has been used for protein crystallography. There are some excellent publications with high biological and social significance. On the other hand, the proposal statistics shows no remarkable tendency of increase of users in the materials science field. In anticipation of the commencement of Taiwan Photon Source (TPS), it seems necessary to reconsider the strategic promotion of those sciences at BL12B2.
 At BL12XU, studies in basic physics is extensively carried out using the IXS setup. Publications are increasing and, even though the number is still around the average of SPring-8 contract beamlines, the IF is generally high. It is anticipated that there will be more application-oriented publications from the HAXPES station in the future.
 It is notable that these beamlines produced 45 master's and 36 doctor's degrees. Educational contribution is highly appreciated.

4. Future Plan for the Next Phase
 The future plan presented by NSRRC, which proposes complementary use of different characteristics of TPS and SPring-8, is reasonable as a valid way of efficient resource utilization. In particular, as long as TPS is under its commissioning phase, it will be necessary to keep using the two beamlines at SPring-8. Based upon this recognition, experiments that need longer beam time assignments, such as in-situ powder diffraction or in-situ charge-discharge experiments, are proposed at BL12B2. As mentioned in the previous section, however, the strategy of aggressive promotions of material sciences at BL12B2 seems necessary to attain a sufficient number of users there.
 Use of two spectrometers for various modes of IXS is expected to produce publications with high quality. The HAXPES station will attract users in materials science and produce application-related papers. Until TPS becomes fully operational, it is recommended to operate these beamlines as before.

Conclusion
 Taiwanese scientists have learned synchrotron radiation science and techniques at high-energy region that are not covered with TLS through construction and use of BL12B2 and BL12XU at SPring-8. The acquired knowledge and expertise are expected to be fully utilized in the construction of beamlines at TPS. From this point of view, these beamlines contributed enormously to the science in Taiwan.
 The plan presented by NSRRC is appropriate for the remaining contract period. The Review Committee suggests that the framework of operation and maintenance of the Taiwan Contract Beamlines be reconsidered when TPS becomes fully operational.
 To further secure the safe operation of the beamlines, the committee recommends NSRRC to take effective measures to promote the share of the experience and knowledge obtained in the safety management of the beamlines among the personnel involved in the beamline operation.

 

 

革新型蓄電池先端科学基礎研究ビームライン(BL28XU)中間評価報告書

 

 提出された京都大学革新型蓄電池先端科学基礎研究ビームラインBL28XU中間評価報告書と口頭による報告発表に基づき、「装置の構成と性能」、「施設運用および利用体制」、「研究課題、内容と成果」、および「今後の計画」の4項目について評価を行った結果、それぞれの項目について優れた水準にあると認められたため、引き続きビームライン設置を継続することを勧告する。以下、評価項目別に詳細を記す。

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 高輝度放射光を用いた電池動作下で起こる電気化学反応のその場観察測定の実現に向けて、京都大学革新型蓄電池先端科学基礎研究ビームラインBL28XUは回折測定と分光測定、さらには回折と分光を組み合わせた測定を目指して機器整備を行ってきた。光源は吸収分光計測に適したtaperedアンジュレータとし、時分割測定に対応するために2基の高速動作チャンネルカットモノクロメーター(コンパクトモノクロメーター)を採用している。
 計画当初、第一実験ハッチは回折・散乱実験用、第二実験ハッチはXAFS測定用として整備を進めてきたが、現在はXAFS測定も第一実験ハッチに集約されている。XAFS装置の第一実験ハッチへの集約はコンパクトモノクロメーターの特徴に対応したスリットの利用により定位置出射を実現したことによるもので、光学系の特徴を最大限に活用して高速なXAFS測定の技術・装置を短期間で立ち上げたことは高く評価できる。
 第一実験ハッチには小型XAFS定盤と多軸回折装置に加えて、グローブボックス付き回折装置が整備されている。嫌気性の蓄電池電極材料の回折実験を目的として開発されたグローブボックス付き回折装置は、本ビームラインの目的を象徴的に体現した他に類を見ない特徴的な装置であり、本装置を用いた成果が数多く創出されることが強く期待できる。
 第二実験ハッチには最下流にフリースペースが設けられ、実験者が独自に開発した装置を持ち込んだ実験に対応できるようになっている。専用施設の利点を生かして実験者の要望に柔軟な対応を目指していることは適切な機器整備といえる。HAXPES装置も、持ち込み装置の一つとして位置付けられているが、同装置は内部光源と放射光光源の両方が利用できる特徴的な装置であるため、積極的な活用を期待する。

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 京都大学を中心として国内の13大学、4研究機関、13企業が参画したNEDO事業の革新型蓄電池先端科学基礎研究の主要な研究施設の一つとして運用されている。多様な組織に所属する者から構成されているが、BL28XUの利用者は民間企業に所属する者も京都大学に出向して京都大学職員としての身分を有することを通じて、放射光実験のルール徹底への努力が行われている。さらに、定期的に利用規則や機器利用方法等の講習会を実施するなど、実験の安全確保への配慮も認められる。当該ビームラインにおいては取り扱いに注意が必要な化学薬品やガスを用いる実験が多数行われるため、実験の円滑な遂行と安全の確保に向けて今後も一層の努力が払われることを期待する。さらに、施設側からの高圧ガスボンベの削減要請についても、これまでと同様に積極的にご協力いただきたい。

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 蓄電池を対象としたX線回折その場測定技術として、グローブボックス回折装置に加えて二次元検出器を用いた最速100ミリ秒分解能の時分割X線回折測定技術、位置分解能ミリメートル単位のX線回折マッピング技術、X線回折-XAFS同時測定技術、高速なDAFS測定技術、X線全散乱技術など複数の測定技術開発が実施され、充電によるLi正極材料の相変化や格子定数変化の観察、正極材料の構造変化に先んじて発生する含有遷移金属(Fe)イオンの価数変化の発見など、複数の成果が得られている。中でも、吸収補正を考慮した複雑な解析を必要とするDAFSにより、充放電に応じた遷移金属(Ni)価数変化の占有サイトによる違いを発見したことは特筆に値する。
 時分割XAFS測定技術においても、最速10ミリ秒オーダーの時分割測定を始め、ミクロンレベルの空間分解能を有する秒から分オーダーでの時分割測定、数ナノメートルの深さ分解能を有する時分割XAFS測定などの技術が開発され、急速充電された電極の断面観察により深部になるほど電極表面よりも反応の進行が遅くなることが見出されている。
 以上のように、蓄電池材料の先端的分析に向けて開発された特徴的な測定技術は、当該分野で高い競争力を有するものと認められる。これらの装置、技術を用いて正極材料に関する重要な成果が得られているが、SPring-8に登録された論文数は20編程度にとどまり期待する水準以上とは言い難い。BL28XUで実施された実験の成果が十分に捕捉できていない可能性も懸念されるため、利用成果の確実な捕捉への努力とともに、論文発表に代表される利用成果の公開促進に向けた更なる努力を強く期待する。

4. 「今後の計画」に対する評価
 2015年度まで実施された革新型蓄電池先端科学基礎研究事業に引き続き、2016年度より革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発事業をBL28XUで5年間実施することは、前事業で開発された技術や知見を本格的な活用により傑出した多数の成果が期待できるもので、その計画の妥当性は論ずるまでもない。今後は大型の機器開発は行わず高機能な検出器の導入等による空間分解能や時間分解能の向上が技術開発の中心に置かれた、当を得た計画が提案されている。今後も各利用者への放射光実験ルールの徹底や実験安全への配慮を継続して行いつつ、論文掲載等による利用成果の公開を積極的に進めていただきたい。
 さらに、今年度始まった事業においても、従来と同様にSPring-8に加えてJ-PARCも利用されることから、放射光と中性子の相補的利用による優れた成果が多数得られることを期待している。

以 上

 

 

日本原子力研究開発機構(JAEA)専用ビームライン(BL22XU、BL23SU)次期計画審査結果報告書

 

 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構:JAEA)より提出された「原子力機構専用ビームライン次期計画書」について、専用施設審査委員会において計画の可否を審査した結果、次期計画期間を10年間として、再契約を認めることとした。
 原子力機構は、従来、SPring-8において4本のビームラインを専用施設として所有してきたが、平成28年4月1日よりその業務の一部が、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、量研機構:QST)に移管統合され、RI実験棟に延びる2本のビームラインBL22XUおよびBL23SUを原子力機構に残し、他の2本のビームラインBL11XUおよびBL14B1を量研機構に移管することとなった。これに伴い、原子力機構 原子力科学研究部門 物質科学研究センター 放射光エネルギー材料研究ディビジョン(以下、放射光研究ディビジョン)が、SPring-8におけるビームラインの管理運営にあたることとなった。さらに、ビームラインの名称を、「原子力機構重元素科学Iビームライン BL22XU」および「原子力機構重元素科学IIビームライン BL23SU」に変更し、同機構のミッションである、(1)原子力材料の高度化・開発に資する先端物質材料科学研究、(2)アクチノイド基礎科学研究、(3)SPring-8とJRR-3、J-PARCとの相補的な利用を通じた物質科学研究、を推進することになった。放射光研究ディビジョンは、これらの研究から得られる知見を、原子力機構の使命である福島第一原発事故への対応、原子力施設の安全技術や省エネ技術の開発に反映させ、原子力分野における先端的材料科学研究を担う人材育成を目指している。これらの目標設定は明確であり、評価できる。
 以下に、上記2本のビームラインについて、評価事項別に詳細を述べる。

1. 次期計画の研究概要に対する評価
 原子力機構の2本のアンジュレータ光源ビームラインの最も重要な特徴は、硬X線および軟X線領域の広いエネルギー範囲の研究をカバーできること、およびラジオアイソトープ(RI)実験施設を有し、国際規制物質(ウラン、トリウムなど)や密封放射性核物質(Np-237、Am-243など)の取り扱いが可能であることである。
 次期計画に示された研究方針と原子力科学関連研究の拠点化の方針は、福島原発事故の環境回復や廃炉等の問題解決と原子炉施設の安全性向上に貢献するものであり、緊急性・重要性は極めて高い。したがって、今後も、専用ビームラインとして運用されることが適切かつ必須である。

(1)JAEA重元素科学Iビームライン BL22XU
 BL22XUにおいては、(1)福島原発事故により発生した放射性廃棄物の減容化技術開発および燃料デブリ処理技術開発に向けた物質化学状態解析、(2)アクチノイド(Am-241など)の分離・核変換技術開発に向けた重元素錯体の構造および化学状態解析、(3)次世代再処理技術開発のためのガラス固化体の構造解析、(4)原子炉構造材の疲労・破壊メカニズムの解明、等が計画されている。これらの研究は、本機構の最優先課題である福島原発事故後の環境回復と廃炉処理等の国家的な課題の解決に貢献するものである。
 本計画の実施のために、挿入光源・同期クイックスキャンXAFS、µXAFS、高感度XAFS、さらに硬X線光電子分光装置(HAXPES)等の放射光分析システムを整備・高度化することが計画されている。これらの手法は、緊急課題である放射性汚染物質や核燃料デブリ処理に不可欠な総合的な化学状態解析手段であり適切な判断であると考えられる。ウランなどの国際規制物質等が扱えるラジオアイソトープ(RI)実験施設を積極的に活用し、わが国の原子力関連業界の先端分析の一翼を担う研究拠点として機能することが期待される。

(2)JAEA重元素科学IIビームライン BL23SU
 BL23SUは、SPring-8でも数少ないツインヘリカルアンジュレータを光源とする軟X線ビームラインであり、その特徴を活かした原子力材料の基礎および実用化研究施設と位置付けられている。次期計画では、(1)原子力材料の高度化・開発に資する先端物質材料科学研究、(2)アクチノイド基礎科学研究、(3)SPring-8とJRR-3、J-PARCの相補的な利用を通じた物質科学研究を推進することが目標とされている。このため、RI実験施設に、アクチノイドの電子状態解析のための角度分解光電子分光(ARPES)装置と磁性解析のためのX線吸収磁気円二色性(XMCD)装置を設置し、アクチノイド基礎物性科学を継続して推進する計画である。さらに、新規に走査型X線吸収顕微鏡(STXM)を設置し、放射性微粒子や燃料デブリの模擬試料の高空間分解化学状態解析を可能にすることで、福島における環境回復研究や廃炉研究に貢献することが計画されている。これらの研究は、本ビームラインの特徴を活かすと同時に、J-PARCなどとの研究協力を合わせ、わが国のアクチノイド基礎研究の研究拠点として極めて重要であり、原子力機構のミッション達成に貢献するものと判断される。よって、今後も、専用ビームラインとして運用されることが適切である。
 なお、表面物理科学実験ステーションに関わる研究や水素再結合触媒の研究等については、各ビームラインの設定目標には距離があり、リソースの集中化の観点から再検討されることを勧める。

2. 施設及び設備に関する計画に対する評価
 平成28年度より、従来原子力機構が所有していた4本のビームラインのうち2本が量研機構に移管されるのに伴い、当面、原子力機構が所有するビームライン上に量研機構の実験ステーションが配置される状況が生じる(同時に、逆のケースも生じる)。即ち、BL22XUには、量研機構の高温高圧X線回折装置などが、またBL23SUには生物物理分光ステーションが設置された状態になる。今回のような大規模な組織替えでは、過渡的な状況として、このような「入れ子状態」が生じることは止むを得ないことであるが、原子力機構の所有するビームラインに関する管理運営責任は、量研機構所属の実験ステーションを含めすべて、原子力機構にあることを、確認されたものと理解する。しかし、これらの入れ子状態の実験ステーションは、各機関の研究戦略の効率的遂行を考慮すれば、将来的には、それぞれ所有機関のビームラインへ移設するよう計画されることが望ましい。

(1)JAEA重元素科学Iビームライン BL22XU
 本ビームラインには、主としてXAFSによる化学状態解析装置群、および構造材の残留応力測定装置の整備・高度化が計画されている。XAFS装置群については、挿入光源による高感度XAFSを始め、KBミラー集光系によるµXAFS、さらに、時間分解XAFS装置では高速計測のため分光器の更新が計画されている(一部のXAFS分析装置は、BL11XUから移設するものである)。さらに、HAXPES等を含めると、本ビームラインでは総合的な化学状態解析システムが実現されることになる。本ビームラインの使命である、多様な放射性廃棄物および燃料デブリの化学状態解析、およびアクチノイドの分離・核変換技術開発に向けた重元素錯体の構造および電子状態解析等の研究に大きく貢献をするものと期待される。この他、従来から開発してきた大型構造材料の応力・歪み計測装置が設置されており、原子炉等構造材の疲労・破壊メカニズムの解明研究が行われる。

(2)JAEA重元素科学IIビームライン BL23SU
 本ビームラインでは、従来からRI実験施設に設置されたARPESおよびXMCD装置の他に、新たに軟X線領域でのSTXM装置を導入し、放射性微粒子や燃料デブリの模擬試料の化学状態解析をより高空間分解能化することが計画されている。本装置は、STXMの計測技術を有する他機関との開発協力の下で行い、40 nmの空間分解能での元素・価数・化学状態等の解析を可能にするものである。この装置の導入・開発は、次期計画の要であり、確実に進められることを期待する。

3. 運用体制及び利用計画に対する評価
 この度の組織替えによって、原子力機構原子力科学研究所の放射光研究グループ(関西研播磨地区)が、従来から所有してきた4本のビームラインのうち2本を量研機構に移管すると同時に、その研究組織を2分割することとなった状況は、研究機関として極めて重大なことであり、この施策が同機構のより高度な研究活動を発展させる方策として再設定されたものと理解したい。各ビームラインの管理・運営および成果達成は、あくまで所有機関の責務であるが、研究者の研究活動には、従来通り、できる限り4本のビームラインおよび実験施設を相互利用できる便宜を確保することが肝要である。原子力機構および量研機構が、このことに深慮し、2機構間で連携協力に関する包括協定および2つの覚書を交わし、研究開発成果の最大化のための連携協力関係を構築すべく、協議会の設置、専用BL運営と相互支援、施設等研究資源の相互利用、施設共用運営等々の協定を締結したことは、大いに歓迎すべきことと考える。
 これに関連して、原子力機構所有のビームライン上に設置されている量研機構所有の実験装置については、関係する量研機構職員を原子力機構連携協力員に任命し、ビームライン責任者代理や実験装置責任者として、原子力機構の安全管理体制の下に一元的に安全管理をするという体制がとられていることは、評価できる。安全管理体制については、SPring-8内の原子力機構播磨事務所に放射線管理部および保安管理部を設置し、JASRIの安全管理および防災協定等に従うことが明示されており、安全運用が確保され得るものと考える。なお、RI実験棟に設置されたARPESやXMCD等の施設では、国際規制物質を含む試料の測定が行われるが、実験実施にあたっては、試料の計量管理・保管等についてJASRI安全管理室と連携をしながら、安全な利用を行っていただきたい。
 機構内外の研究者の利用に関しては、その利用研究課題の選定に、外部委員を含む課題審査委員会を立ち上げることが検討されている。このことは、課題間の公平な競争的環境の中で施設のより有効・効率的な利用につながると期待されるため、是非とも実現していただきたい。また、原子力機構の内部ユーザーを広く取り込むことも、本ビームラインの有効利用の点において重要であり、その方策を検討されたい。

4. スケジュール及び予算計画に対する評価
 本ビームラインの次期計画は、国家的課題を背負った原子力機構のミッションの下で行われる計画であるため、設置期間を10年間とすることが妥当である。中間評価については、大幅な組織変更直後という事情もあり、研究テーマや事業について、今後、原子力機構のミッションに照らし精査されていく可能性を考慮し、3年後を目処に実施することが望ましい。
 予算計画に関しては、原子力機構が責任を持って運用される。外部資金に関しては、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、資源エネルギー庁のプロジェクトなどにより、原子力、エネルギー、放射性廃棄物処理などへの研究資金が投入されている。一方、基礎的研究には科研費以外に大型の資金供給等がなく、予算計画の面で多少の懸念がある。原子力機構のミッションに沿っているとはいえ、外部資金の獲得が必要であり、今後の外部資金獲得努力に期待したい。

結語
 以上のように、原子力機構が本計画書の2本のビームラインを継続的に設置し、次期計画に基づく研究活動を実施することは、福島原発事故後の環境回復と廃炉等の問題解決など重大な社会貢献に資するものと判断する。安全管理体制も確保され、外部資金に支えられた計画も適切であると判断されることにより、再契約を承認し、次期計画期間を10年として継続することが適切である。中間評価については、大幅な組織変更直後という事情もあり、3年後を目処に実施することが望ましい。

以 上

 

 

量子科学技術研究開発機構(QST)専用ビームライン(BL11XU、BL14B1)実行計画審査結果報告書

 

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、量研機構:QST)より提出された「量研機構専用ビームライン実行計画書」について、専用施設審査委員会において計画の可否を審査した結果、実行計画期間を10年間として、契約を認めることとした。
 量研機構:QSTは、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構:JAEA)の業務の一部を国立研究開発法人放射線医学総合研究所に移管統合することで平成28年4月1日に発足した。これまでJAEAがSPring-8に所有していた4本の専用ビームラインのうち2本(BL11XU、BL14B1)がQSTに移管された。これらビームラインは、荷電粒子、放射性同位元素(RI)、中性子、放射光など様々な量子ビームの発生・制御やこれらを用いた高精度な加工や観察などに関わる最先端の技術開発を行う量子ビーム科学研究部門の下に位置する放射光科学研究センターが管理・運営を行うこととなった。放射光科学研究センターは、量研機構のミッションの下、これまでに培った固体素励起の高度計測技術と量子状態制御技術を融合し、量子科学分野における革新的成果およびシードの創出を狙い、また世界に類を見ないワンストップ微細構造解析拠点を形成し、量研機構が目指す先端基礎研究主導による物質科学の問題解決に取り組むことを目的としている。
 以下、上記2本のビームラインについて、評価項目別に詳細を記す。

1. 実行計画の研究概要に対する評価
 放射光科学研究センターは、本目的を達成するためにBL11XU(QST極限量子ダイナミクスIビームライン)を先端的放射光利用技術の開発拠点として、またBL14B1(QST極限量子ダイナミクスIIビームライン)を物質研究・開発ビームラインとして位置付けている。
 BL11XUでは世界最先端の超単色X線発生技術を切り拓いた放射光メスバウアー分光装置に微小領域観察や動的構造観察などの新たな機能を加え、他に類を見ない「観る」技術の確立や共鳴非弾性X線散乱分光装置における分解能向上を図ることで、電子励起状態の観察をより精緻に行い、強相関電子デバイスなど次世代量子デバイスを考える上で重要な量子物性研究への一層の貢献を目指している。また、BL14B1では組織内外との連携を積極的に図り、同ビームラインで整備した各種測定手段を総合的・組織的に取り組むことで、社会的なニーズの高い課題解決を行うことを目指している。
 これらの研究計画と世界に類を見ないワンストップ微細構造解析拠点の形成を目指す方針は、物質科学における基盤技術の高度化に貢献するものであり、重要性は極めて高く、物質科学への貢献のための利用研究には具体性に欠けるものの、引き続き専用ビームラインとして運用されることが適切であると考えられる。

2. 施設及び設備に関する計画に対する評価
(1)QST極限量子ダイナミクスIビームライン(BL11XU)
 本ビームラインは、標準型アンジュレータを光源とするビームラインであり、実行計画においてX線単色器を始めとするビームライン機器の更新は予定されていない。本ビームラインには先進的放射光メスバウアー装置、共鳴非弾性X線散乱分光装置、表面X線回折計、そしてXAFS分析装置が設置されている。先進的放射光メスバウアー装置や共鳴非弾性X線散乱分光装置は、世界的に見ても高水準の装置である。前者の装置におけるマイクロビーム化顕微分光計画は先端性が高いと評価できる。また、後者の装置における高分解能化計画は意義が高く、これらの計画は同ビームラインの運用方針である先端的放射光利用技術の開発に沿ったものである。表面X線回折計は、MBEチャンバーと一体化させたものであり、砒素系半導体や窒化物半導体の成膜に対応できるようになっているが、産業基盤技術への貢献を意識するのであれば、CVD成長も視野に入れ、広く産業界との共同研究を展開することを期待する。
 本ビームラインに設置されているXAFS分析装置については、平成29年度を目処に原子力機構のビームラインであるBL22XUに移動・統合することを計画している。このことは、本ビームラインでの研究を、選択と集中によって効率的に実施するために必要な対応である。

(2)QST極限量子ダイナミクスIIビームライン(BL14B1)
 本ビームラインは、量研機構内において物質研究・材料開発ビームラインとして位置付けられ、社会的なニーズの高い課題に対し組織内外との連携を積極的に図り、当該ビームラインがこれまでに整備した各計測手段を総合的・組織的に利用して取り組むことを目的としている。SPring-8内では唯一、白色光と単色光の両方のX線を利用できるビームラインである。実行計画において光源、基幹部、輸送部に関する更新・改造・新規機器導入の計画はない。本ビームラインには、高温高圧プレス装置、分散型XAFS装置、κ(カッパ)型多軸回折計が設置されている。高温高圧プレス装置で計画されている放射光と高温高圧合成の組み合わせによる新規水素貯蔵材料合成のための研究は、基盤研究として評価できるが、実用材料を目指した研究であれば、実用圧力下での剛性も検討すべきである。同時複眼観察システムの整備として計画されている分散型XAFS装置と赤外吸収分光装置を組み合わせた同時測定技術の開発は、意欲的な取り組みであり、成果を期待したい。

3. 運用体制及び利用計画に対する評価
 運用体制に関して懸念事項はない。本ビームラインに設置されている原子力機構所有の実験装置については、同実験装置に関係する原子力機構職員を量研機構連携協力員に任命し、ビームライン責任者代理や実験装置責任者として、量研機構の安全管理体制の下に一元的に管理をする体制がとられている。また、量研機構は播磨事務所内の安全管理体制の他、SPring-8における量研機構の安全管理体制が整っており、安全面での運用が確保されている。
 利用計画・体制に関しては、内部利用の利用研究課題の選定に、外部委員を含む課題審査委員会を立ち上げることを検討している。このことは、ビームタイムの効率的な利用につながると期待されるため、是非とも実現していただきたい。また、量研機構の内部ユーザーを広く取り込むことは、本ビームラインの有効利用の点において重要であり、その方策を検討する必要がある。

4. スケジュール及び予算計画に対する評価
 本ビームラインにおいて、量研機構が設定したミッションを確実に実施し、量研機構が目指す先端基礎研究主導による物質科学の課題解決に取り組むためには、設置期間を10年間とするのが妥当である。中間評価については、組織変更直後ということもあり、同ビームラインの使用目的に必ずしも合っていない研究テーマや事業があり、今後、量研機構のミッションに照らし合わせて、精査されていくものと思われる。これらの点の見極めを行うために、3年後を目処に中間評価を行うことが望ましい。
 予算計画に関しては、文部科学省委託事業「ナノテクノロジープラットフォーム」(平成24~33年度)の再委託を受けることを予定しているため、当面のビームラインの運転費についての問題はないと思える。しかし、大型の研究設備等の導入に関しては外部資金頼みのところも多く、研究設備や手法の陳腐化も懸念され、示された研究計画が予定通り実施できるか懸念がある。両ビームラインでの研究を継続的に行っていくためには、外部資金獲得の努力に期待したい。

結語
 以上のように、BL11XUとBL14B1の2本のビームラインを継続的に設置し、計画した研究を実施することは、物質科学の問題解決に貢献するものと判断する。しかし、その内容には具体性に欠ける点があり、早急に同機構のミッションに沿った内容の研究計画を精査することが必要である。ただし、量研機構が定めたミッションを実施するためには、中長期的な視野に立った計画の立案が重要であることから、3年を目処に以後の中長期計画の審査を含んだ形で中間評価を実施することで、実行計画期間を10年として継続することが適切である。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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