Volume 21, No.3 Pages 189 - 192
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第7回国際粒子加速器会議(IPAC’16)会議報告
Report on IPAC’16 (The 7th International Particle Accelerator Conference)
第7回国際粒子加速器会議(International Particle Accelerator Conference)が2016年5月8日から13日までの6日間、韓国の釜山にて開催された。この会議は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアそれぞれで開催されていた国際会議PAC、EPAC、APACが、2010年よりIPACとして統一されたものである。今回は、統一以来7回目となるIPACであり、アジア開催としては、IPAC2010(京都)、IPAC2013(中国、上海)に続く3回目の開催となり、3 GeVの蓄積リングPLS-IIがあるPohang Accelerator Laboratory(PAL)が学会をホストした。会場となったのは、釜山広域市海雲台区にある国際コンベンションセンター「BEXCO」で、世界各国から1,270名の参加者が集い、98件の口頭発表と1,313件のポスター発表が行われた(図1~3参照)。本学会は、放射光源としての加速器のみでなく、様々な用途の加速器、更にはまだ用途を想定していない新規コンセプトなど幅広いテーマが対象となっているが、筆者らは主に放射光源関連のセッションに参加したため、放射光関連の発表を中心に報告する。
図1 会場となったコンベンションセンターBEXCO
図2 口頭発表が行われた会場
図3 ポスター発表の様子
現在、PALが10 GeVのPAL-XFELを建設中であり、Plenary SessionはこのPAL-XFELのコミッショニング進捗報告から始まった。発表者のJ. H. Han氏によると、PAL-XFELの線型加速器は、コミッショニング開始から12日目にして定格電子エネルギーの10 GeVまで到達したとのことであった。現在、レーザー励起光陰極電子銃(電子バンチを発生させ、6 MeV程度まで加速させる電子銃)、および下流の加速システムの調整が進み、今後、5~6月にアンジュレータの調整、6月以降に硬X線領域でのSASE発振、その後、軟X線領域でのSASE発振を計画しているとのことであった。
Plenary Sessionでは、スウェーデンのMAX labに所属するM. Eriksson氏より、MAX-IVのコミッショニング状況が報告された。現在コミッショニング中のMAX-IVと、建設中のSIRIUS(ブラジル)は、共に3 GeVの放射光リングであり、マルチベンドラティスによる次世代放射光源の先駆け的な存在である。特にMAX-IVは、主にハードウェアに新規コンセプトを多く盛り込んでいるため、コミッショニングの動向が注目されている。発表では、コミッショニングを開始してから、まずは少量(0.1 mA程度)のビーム蓄積に成功し、その2ヶ月後には初めて周回電子が発する放射光を観測、現在は120 mAまで蓄積電流を上げ、電子寿命や入射効率といった様々な性能を評価しながらコミッショニングを進めている旨が報告された。概ねコミッショニングは順調に進んでいるという発表ではあったが、会場からはその真意を探る質問も出された。彼らの新規コンセプトがどのような結果をもたらすかについては、もうしばらく動向を見守る必要があり、今後も彼らの進捗には世界中が注目するであろう。
その他、ブラジルLNLSのL. Liu氏によってSIRIUS計画の進捗が発表されたのを始め、ESRFのP. Raimondi氏によるESRFのアップグレード計画、理研の田中均氏によるSPring-8-II計画など、次世代放射光源開発に関する口頭、ポスター発表が多数行われ、昨今、次世代放射光源開発が世界各地で盛んに進められている状況を反映する発表内容となっていた。
なお、SIRIUS計画は現在建設中、ESRFのアップグレードは既に各加速器コンポーネントの量産段階に入っており、今後、2020年代に向け、世界各所で進められる次世代放射光源の建設ラッシュから当分目が離せない状況が続きそうである。
次世代放射光源の計画全体に関する発表以外にも様々な発表が行われた。ラティス(ダイナミクス)、磁石、真空、モニタ、RFなど、それぞれのコンポーネントについて様々な新規提案、開発進捗報告などがなされた。本稿でその詳細を報告することは控えるが、以下にそのいくつかを紹介する。
上述の蓄積リング型次世代放射光源では、高輝度高コヒーレンス光を目指して、極低エミッタンスを追求したラティス設計となっている。このようなリングでは強い収束磁石が用いられることから電子ビームが安定に周回できる領域が狭くなり、ビーム入射が格段に難しくなる。入射器からビームを受けるリング側の非線形ダイナミクスの最適化が重要なのはもちろんであるが、今回の会議では、入射スキームを工夫するという観点からの発表も何件か見られた。P. Kuske氏(BESSY-II)は、入射器にパルス的な歪4極磁石を用いることでトランスポートラインでのビーム形状を制御する複数の案を提示した。また、G. Xu氏(IHEP)は、RF加速システムに3次高調波を加え、位相と電圧を制御して長手方向に入射ビームを捕捉する案を発表したが、これはM. Aiba氏(PSI)が提案しているスキームの発展版である。この他、S. White氏(ESRF)からは、現在のESRFのトランスポートラインに6極磁石を設置してビーム形状を制御するスキームの提案と実験結果などの発表(ポスター)があった。ESRFでは入射器の改造でアップグレード計画に対応しようとしているが、他の入射スキームとの併用も検討しているのであろう。SPring-8-IIではSACLAからの高品質ビームを入射する計画だが、いずれにせよ高効率でのビーム入射は次世代放射光源において重要なテーマの一つである。
磁石については、SPring-8-IIのための磁石開発に関する報告が口頭発表に選ばれ、主に永久磁石による偏向磁石の開発について発表を行った。我が国にとって省エネは重要なキーワードであり、SPring-8-IIでは、加速器を一新することで放射光の輝度を1桁以上高めるだけでなく、これを現在のSPring-8よりも少ない消費電力で実現しようとしている。このため、SPring-8-IIでは比較的消費電力の大きい偏向磁石を永久磁石化することで消費電力を下げ、かつ、電源トラブルによる運転停止を避ける狙いがある。一方、放射光源のような非常に高い安定性を求められる加速器に永久磁石を導入する場合、永久磁石の温度依存性や減磁など、様々な克服すべき課題がある。SPring-8では、これまでの数年間、これらの克服すべき課題を1つ1つ解決する方法を提案し、その実証試験を行ってきた。今回のIPACではこれらの成果をまとめて発表し、聴衆からは「SPring-8での業績により、将来加速器に永久磁石を導入することが可能であるという印象を得た」という旨のコメントを始め、概ね好意的な反応を得た。
真空に関する話題では、ESRFアップグレード計画の放射光吸収体のアブソーバ構造が示され、散乱X線を周辺に撒き散らさないように工夫された構造であった。散乱X線を撒き散らすことは、放射線損傷はもちろん真空の圧力を上昇させることから望ましくない。SPring-8-IIでも同様の検討を行っているところであり大いに参考になった。また、MAX-IVのビーム運転による圧力上昇をビーム電流で規格化したΔP/I mbar/mAが発表されていた。ΔP/Iはリングの圧力を他施設と比較する場合によく使われる指標である。MAX-IVは全真空チェンバがNEGコーティングされ、非常に低い圧力が期待されている。発表された値は、積分電流10 Ah時点で約2 × 10−11 mbar/mAであり、従来のリング(10−11~10−10 mbar/mA)よりは低い値を示していたが、オーダーが変わるほど低くはなかった。今後も注視したい。
RF加速システムにおいても注目すべき研究報告があった。RFとは、電子バンチを加速するため、銅製の加速空洞(共振空洞)の中に充填させる数百~数千MHz領域の電磁波(Radio Frequency)で、高周波にするほど加速器の小型化が可能である。近年、加速RFとして高周波となるXバンド(11 GHz帯)を用いた加速装置が実用化へ前進している。スタンフォード大学(SLAC)のJ. W. Wang氏らは球状の共振空洞を用いた非常にコンパクトな高周波パルス圧縮器(SLED)の開発を行った。これにより50 MW高周波増幅器のクライストロンからの出力を圧縮して4倍の200 MW大電力パルス高周波を得ることができる。また、従来型Sバンド(3 GHz帯)RF電子銃の約2倍の高電界(~200 MV/m)で電子をカソードから引き出し、加速して輝度10倍の高速電子ビームを生成するRF電子銃に関する発表がSLACのC. Limborg氏によって行われた。これらにより、銅製Xバンド加速管で100 MV/m以上の加速電界を発生できる。これはSACLAで用いられているCバンド加速管の3倍以上の電界であり、X線自由電子レーザーの更なるコンパクト化などを推し進める可能性を持つ。また、SLACや高エネルギー加速器研究機構(KEK)などでは銅製加速管を20~40 K程度まで冷却することによって数百MV/mの加速電界を発生させる研究を行っている。ニオブ製空洞の超伝導化に必要な温度(2~4 K)と異なり、この温度領域では高圧Heガスの回収と液化を必要としない低コストで簡易な冷凍機が使用できる可能性があるため、更なる高電界加速装置となることが期待される。
冒頭で述べたとおり、IPACは加速器全般を広くカバーする国際学会であり、次世代放射光源に特化したワークショップとは趣の異なる発表を聞くことができる。今回もPlenary SessionにてアメリカLawrence Berkley National LaboratoryのW. Leemans氏から発表された“Limits and Possibilities of Laser Wakefield Accelerators”は、発表のうまさもあり聴衆の興味を惹いた。通常の加速器の場合、加速空洞の中に充填するRFの周波数を高周波にすることで、加速システムの小型化を行うことができることは上述のとおりだが、1979年、T. Tajima & J. M. Dawson氏らは、加速周波数を一気にプラズマの振動の領域までもっていくことで加速システムを非常にコンパクトにする斬新なアイデアを提案した。この研究は、テクノロジーの進歩と共にいくつかのブレークスルーを経ながら少しずつ前へ進み、近年は、テラワットからペタワットにおよぶ高ピークパワーを持つレーザーシステムを用いてプラズマ振動を誘起し、その中で加速位相にトラップされる電子群を所望のスペックで取り出す研究が盛んに行われている。W. Leemans氏からは、この研究の最新状況、今後の課題、および長期展望が紹介された。具体的な応用案としては、Linear colliderやコンパクト放射光源が世界的に検討されていることに言及し、2030年代におよぶ長期的な計画と、その進捗が示された。プラズマから出てくる電子バンチは、空間的、エネルギー的な安定性の確保が難しく、Linear colliderや放射光源への応用にはまだまだ課題が多いが、この分野における日本の貢献は高く、今後の進展に期待したい。
(公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
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