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Volume 21, No.2 Pages 127 - 129

4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

平成28年度に指定期間が延長されたパートナーユーザーの紹介
The Duration of the Designation Period of Partner Users Extended in FY2016

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 平成25年度まで運用していた「パワーユーザー」制度について、平成26年度より名称および一部運用を変更し、「パートナーユーザー」(以下「PU」という)として運用を開始しました。平成28年度は、平成26年度に指定(指定期間:平成26~27年度)されたPU3名のうち、3名の指定期間延長申請があり、PU審査委員会による審査の結果、当該3名が指定期間延長されました。延長されたPUおよびPU審査委員会からの審査結果を以下に示します。

 

 

PUの概要

・PUは、平成25年度までの「パワーユーザー」の名称および一部運用を変更したもの。

・平成26年度以降のPUは、共用ビームラインおよび測定技術を熟知し、放射光科学・技術の学術分野の開拓が期待できる研究者で、
1)ビームライン実験設備の開発および高度化への協力
2)上記高度化等に関連した、先導的な放射光利用の実施および当該利用分野の拡大・推進
3)上記高度化等に関連した利用者支援
のいずれも満たすユーザーを指す。

・PUの指定期間は原則2年間(PU審査委員会が必要と認めた場合には延長可。最長5年間)。

 

[延長後の指定期間]
平成26年4月1日から平成30年3月31日まで(4年間)

 

[指定されたPU]
1. Bo Iversen(University of Aarhus)

(1)実施内容
 研究テーマ:Application of synchrotron radiation in materials crystallography
 高度化:構造ダイナミクス分析基盤整備と先導的活用
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL02B1

(3)審査コメント
 In this Partner User program, they proposed the following three goals: 1) establishment of accurate data collection system and its application to novel materials, 2) development of time-resolved data collection system for precise structural analysis at charge density level, 3) improvement of the usability of the system for users. The Partner User Review Committee recognized that they have successfully completed 1) and 3) because they presented the electron density distribution in rubrene obtained using a combination of high-resolution X-ray and neutron diffraction data as a typical example of success. The committee appreciates they have achieved the basic purpose: the data collecting system with world leading quality and the usability of the system. However, the achievement of 3) is not sufficient: they are using Imaging Plate as a detector, but a faster pixel detector with msec time-resolution are needed to increase in performance of time-resolved X-ray diffraction. The committee also appreciates the strong collaboration between and Danish and Japanese scientists as well as the collaboration in Europe.
 The Partner User Review committee will accept their proposal of two years extension as a partner user on the following conditions.
(A) To make another plan in the case of difficulties in accessing a faster detector
 It is very important to develop the time-resolve X-ray diffraction method in this proposal. But it seems to be difficult to access a faster detector in these two years. The committee strongly recommends the partner users to make an alternative proposal without a faster detector in a worst-case scenario.
(B) To strengthen outreach activities
 The committee demands an improvement of the communication in the international partner user team to make best use of the beamtime. We hope that the international collaboration become visibly active through this program and the foreign users of BL02B1 increase as the result of this successful proposal.


2. 白土 優(大阪大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:スピントロニクスデバイスを基盤としたナノ計測技術の開発と物質・材料研究への展開
 高度化:軟X線ナノビームラインの整備と先導的活用
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL25SU

(3)審査コメント
 本研究課題は、現PU課題を継続してBL25SUにおいて、ナノビームアプリケーションが可能なビームラインへの高度化を実現して、スピントロニクスデバイスの開発に応用することが目的である。現PU課題において、当初の目標であった100 nm以下の集光を実現し、更に205 Kの低温下あるいは8 Tの強磁場下でのイメージング技術を開発したことは高く評価できる。集光度については、世界基準の25 nmにはまだ遠いが、現在の装置においても、強磁場下におけるネオジウム永久磁石のXMCDイメージング及び、低温におけるPt/Co/Cr2O3/Pt垂直交換バイアス薄膜における強磁性ドメインと反強磁性ドメインの直接観察に成功し、世界に例を見ない成果をあげている。更に集光度を上げることにより、未解決であるドメインの内部構造を解明しようという延長課題の目標は、成功すればインパクトの高い成果につながるものと期待される。
 本研究課題では、フレネルゾーンプレートの更新により、まず50 nmの集光を実現することを目標としている。元素戦略プロジェクトのサポートもあり、予算的にも技術的にも十分達成される妥当な目標と考えられる。この目標を達成した上で、これまで同様の強磁場・低温環境でも測定が可能となれば、スピントロニクスデバイス開発や永久磁石のメカニズム解明において、非常に有用なツールとなるであろう。現PU課題では、どちらかというと装置開発と高度化に費やした感があるが、これを継続して50 nmまで高度化することにより、次のステージでは、将来の応用につながるブレークスルーやインパクトの高い成果に結び付けて欲しい。
 早急の目標である高分解能イメージングのほかに、元素選択スピンダイナミクスの直接測定なども手広く計画しているが、まずは第一の目標である50 nm以下のナノビームを実現することを最優先としていただきたい。面接時の質疑応答でも、白土氏自身が発言したように、希望シフトより少ないシフト数でも、テーマに優先順位をつけて遂行することにより、十分な成果が期待できると考えられる。そこで、本申請課題は採択するものの、BL25SUの混雑状況を考慮して、書類審査による推奨シフトを妥当と考え、希望する39シフトから減らして30シフトを承認する。


3. 廣瀬 敬(東京工業大学)
(1)実施内容
 研究テーマ:極細X線ビームを使った超高圧高温下の物性測定
 高度化:安定高温高圧実験ステーション整備と先導的活用
 利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援

(2)ビームライン:BL10XU

(3)審査コメント
 申請者は、長年にわたり超高圧高温環境下での物質構造解析技術の高度化開発に取り組み、地球科学の分野で目覚ましい成果を挙げてきた。本課題は、申請者がBL10XUに構築した超高圧高温環境下実験の技術の一層の高度化と、利用者への技術支援を目的とした課題であり、2014年より実施されている。技術の高度化開発、利用支援ともにビームライン担当者との緊密な連携の上に当初の計画通りに進捗し、今後の高度化開発計画もBL10XUの高度化開発の方針と完全に合致していることから、本課題を2年間の延長とする。
 本課題は、1)入射X線ビームのサブミクロン化、2)老朽化した現有のCCDカメラの置き換えを高度化開発の主要なテーマとしている。入射光X線ビームの微細化は測定領域の温度誤差範囲を従来の約1/10に低減するもので、超高圧高温環境での物質の状態図精度の著しい向上が見込まれ、地球科学ばかりでなく物質科学研究への大きな波及効果が期待される。これまでに、ビームライン担当者と協力して分光器や集光光学素子の最適化調整を行い、既に1 µm程度の集光を実現して計画通り、あるいはそれ以上の成果が得られている。更に、15 keVで0.25 µm、30 keVで0.50 µmへの集光といった当初の計画を凌ぐより高度な目標が提案されている。また、老朽化したCCDカメラの置き換えはフラットパネルセンサーが導入されて一般の利用者にも広く共用されていることから、計画が順調に進捗していると認められる。更に、申請者らが整備した装置・機器の立上げ調整の支援を行った一般課題は10件に及ぶなど、積極的に利用者支援を行う姿勢は高く評価できる。
 2016A期以降は、X線集光の更なる高度化に加えて、1)レーザー加熱光学系の改良、2)試料厚み決定のためのX線吸収測定法開発、3)ソーラースリット式回折計導入によるバックグラウンド低減の高度化開発が新たに提案され、いずれも超高圧高温環境での物性研究に大きく貢献するものと期待される。このように意欲的に高度化開発を推進する姿勢は敬服に値するが、複数ある開発テーマの優先順位を明らかにした上で、優先順位に基づいて計画的に進めることで、より効率的に高度化開発を推進できるものと考える。延長期間においては、利用期ごとに細部まで検討した具体的な高度化計画の立案を通じて高度化開発を推進されることを期待する。

 

 

以 上

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794