Volume 21, No.2 Pages 125 - 126
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
平成28年度に指定されたパートナーユーザーの紹介
A Newly Designated Partner User FY2016
平成25年度まで運用していた「パワーユーザー」制度について、平成26年度より名称および一部運用を変更し、「パートナーユーザー」(以下「PU」という)として運用を開始しました。平成28年度は、1名の応募があり、PU審査委員会による審査の結果、1名が指定されました。指定されたPUおよびPU審査委員会からの審査結果を以下に示します。
PUの概要
・PUは、平成25年度までの「パワーユーザー」の名称および一部運用を変更したもの。
・平成26年度以降のPUは、共用ビームラインおよび測定技術を熟知し、放射光科学・技術の学術分野の開拓が期待できる研究者で、
1)ビームライン実験設備の開発および高度化への協力
2)上記高度化等に関連した、先導的な放射光利用の実施および当該利用分野の拡大・推進
3)上記高度化等に関連した利用者支援
のいずれも満たすユーザーを指す。
・PUの指定期間は原則2年間(PU審査委員会が必要と認めた場合には延長可。最長5年間)。
[指定期間]
平成28年4月1日から平成30年3月31日まで(2年間)
[指定されたPU]
佐々木 孝彦(東北大学)
(1)実施内容
研究テーマ:強相関電子系分子性物質の赤外顕微イメージング分光による電荷ダイナミクスの研究
高度化:赤外ビームラインの整備と先導的活用
利用研究支援:当該装置を用いた利用実験の支援
(2)ビームライン:BL43IR
(3)審査コメント
BL43IRの高度化計画と協調して、1)微小領域赤外分光とその二次元走査による電子状態の空間イメージング測定における高位置分解能化、高精度化、2)磁気光学ステーションの優位性を活かすために、利用波長域を低エネルギー領域へ拡大し、安定利用を行うために実験装置の再整備と使い勝手の改善を通して新しい研究領域と利用研究者の拡大を目指している。1)については光学素子等の振動やステージの剛性不足等のために十分な位置分解能、安定性を得られない装置の更新等を通して高度化を進めるものであり、ビームライン・実験装置の基本性能に係わる高度化であり、達成目標やスケジュール等をビームライン担当者と具体的に詰め、密接な連携を持って進めるべきことである。2)については2008年以降活用されていなかった磁気光学ステーションについて、低温かつ14 Tの磁場印加条件で微小領域の赤外分光スペクトルを測定出来るという世界的にも優位な環境をフルに活かした研究活動を行えるように、測定波長域を遠赤外領域へ拡張し、更に使い勝手の改善を進めることで、多くの利用者が研究成果を容易に上げられるようにするものである。
これらの高度化を通して、強相関分子性物質における電子秩序拮抗による電子相分離、ガラス化機構の解明を、顕微赤外光を用いた高速な二次元マッピング測定の時間変化追跡から明らかにしようとしている。また、分子性物質に限定しない強相関電子系における非自明な電子状態の時間・空間ダイナミクス解明を目指している。
申請者は十分なBL43IR利用経験を有し、これらの高度化、高度化を活かした研究成果創出を行える十分な力量を有している。
磁気光学ステーションの整備を梃子に、強相関電子系研究分野を中心に新たに複数の研究者を拡大し、支援をする計画を持っており、BL43IRの研究成果拡大も期待される。
ビームラインの整備、利用者の拡大はビームライン担当者の資質、意欲、関心とも密接に関係する。パートナーユーザーとして、ビームライン担当者が当該ステーションの限界性能に挑戦する研究活動を推進し、当該ステーションの性能向上に強い意欲を持てるよう、高度化を協働して進めるとともに、利用研究についても共同研究を進めることを期待する。
以 上