Volume 21, No.1 Pages 29 - 31
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第8回SPring-8萌芽的研究アワード/萌芽的研究支援ワークショップ報告
The 8th Workshop on the SPring-8 Budding Researchers Support Program / Winners of Budding Researchers Award
1. はじめに
SPring-8では、将来、放射光科学の担い手となる若手研究者の育成を目的として、平成17年度から、「萌芽的研究支援プログラム」を実施しています。本プログラムは、一般課題と同じ基準による課題審査に基づいていますが、大学院生が実験責任者として、主体的に無理なくSPring-8を利用する研究を遂行できるよう、旅費などの経費を支援する内容となっています。更に、課題申請にあたり、研究テーマにおける放射光の有効活用法や測定手法などの相談も受けています。開始以来、10年にわたり約500課題が実施され、質・量ともにレベルの高い成果発表が行われています。
萌芽的研究支援プログラムは、これまで3度にわたり外部有識者による評価*1が行われましたが、“大学院生が研究者になるための主体的な能力開発に取り組む姿勢を積極的にサポートする意義深いプログラム”との高い評価を受けています。また、平成26年10月10日付で報告された第3回目の外部評価では、本プログラムは、“若手研究者の育成にとって今後も必要不可欠な制度”との総合評価を受けました。
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*1 http://www.spring8.or.jp/ja/about_us/committees/reports/bud_res_sup_report/
2. 萌芽的研究支援ワークショップ
平成20年度から実施している「SPring-8萌芽的研究アワード」は、萌芽的研究支援プログラムの一環として実施しており、本プログラムを活用して優秀な成果を上げた実験責任者を表彰し、その研究活動を奨励してきました。また、アワード審査にあわせて開催している「萌芽的研究支援ワークショップ」では、様々な研究分野にわたる萌芽的研究支援課題の成果をポスターセッションで発表することにより、発表者とJASRIスタッフとの交流を図っています。
2.1 萌芽的研究アワード審査
SPring-8萌芽的研究アワードは、過去2年間に実施された萌芽的研究支援課題を対象に、以下の3つの項目に基づき、応募書類による第一次審査と、ワークショップにおける口頭発表(発表時間20分、質疑応答10分)による第二次審査を行い、受賞者を決定します。
① 研究テーマの新規性・独創性・発展性
② 研究成果におけるSPring-8の有効性
③ 実施体制における主体性
第8回目となる今回のワークショップは、11月9日にキャンパス・イノベーション東京で開催され*2、10名の応募者のうち、第一次審査を通過した6名による第二次審査が行われました。生命科学、医学、物質科学・材料科学、地球・惑星科学、超分子化学、産業利用など幅広い研究分野で、イメージング、回折・散乱、分光など多彩な研究手法を用いた内容の研究成果が発表されました。質疑応答では、専門分野の異なる審査委員からの多角的な質問が発せられ、活発な議論が展開されました。
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*2 http://www.spring8.or.jp/ja/science/meetings/2015/bud_res_ws-8/
審査では、前述の3つの項目に人材育成という観点を加えて、着想、発想の自主性を重視し、7名の審査委員による採点を基に議論しました。その結果、以下に掲げる方々2名の受賞を決定しました。歴代の受賞者数をあわせると、本ワークショップは、これまでに計15名の受賞者を輩出したことになります。
第8回SPring-8萌芽的研究アワード 受賞者*3
櫻木 俊輔
慶應義塾大学大学院 理工学研究科
「Pd(100)超薄膜中に量子井戸状態に起因して生じた自発歪みと強磁性」
津久井 秀
京都大学大学院 農学研究科
「三次元磁場配向による生体高分子微結晶の結晶構造解析」
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*3 http://www.spring8.or.jp/ja/students/budding/award_ws
2.2 ポスターセッション
アワード審査にあわせて11月9日に開催されたワークショップには、発表者やビームラインでの支援を担当するJASRI利用研究促進部門のスタッフなど約30名が参加し、ポスターセッションでは活発な議論が行われました。
2012A期からの萌芽的研究支援課題の応募資格の拡大により、発表者数とともに発表者の年齢層も広がりました。今回は、アワード審査の口頭発表を行った6名の他4名の発表希望者があり、計10名がポスター発表を行いました。発表者層は、修士課程2年の学生の方から助教の先生までに広がり、JASRIスタッフや専門分野の異なる他の参加者と積極的に議論する姿が随所に見られました。
3. おわりに
萌芽的研究支援アワードも8回を数え、年々、研究内容・発表スキル共に向上しているように見受けられます。今回の審査委員長の講評でも、全て発表が受賞者と優劣つけ難い内容であったと報告されました。残念ながら今回受賞できなかった方々も更に研究を深化・発展させ、優れた研究成果を目指していただきたいと思います。
なお、今回のアワード受賞者は、来年度7月に開催のSPring-8夏の学校で講演する予定です。
一方、「萌芽的研究支援課題」は、大学院生の支援・育成という制度本来の趣旨をより一層明確に表現するため2016A期から「大学院生提案型課題」と名称が変更されます。
〇アワード受賞候補者研究タイトル一覧
1. 「Pd(100)超薄膜中に量子井戸状態に起因して生じた自発歪みと強磁性」
櫻木 俊輔(慶應義塾大学大学院 理工学研究科)
2. 「重い電子系α-YbAl1-xFexB4の強磁場X線吸収分光」
寺島 拓(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
3. 「超臨界水熱法により生成する複合酸化物ナノ粒子のその場X線回折測定」
横 哲(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
4. 「2回らせん超分子のキラル解析法の確立と有機結晶設計への展開」
佐々木 俊之(愛媛大学大学院 理工学研究科)
5. 「ポリイオンコンプレックスミセルの形態変化」
高橋 倫太郎(大阪大学大学院 工学研究科)
6. 「三次元磁場配向による生体高分子微結晶の結晶構造解析」
津久井 秀(京都大学大学院 農学研究科)
〇ポスター発表研究タイトル一覧(アワード受賞候補者 重複分を除く)
1. 「Alに富む含水ブリッジマナイトの圧縮特性」
柿澤 翔(愛媛大学大学院 理工学研究科)
2. 「SPring-8放射光高解像度微小血管造影法を用いたマウス乳がん細小血管の血管構築と血流動態の定量的解析」
鳥井 雅恵(京都大学医学部附属病院 乳腺外科)
3. 「硬X線光電子分光法による超ナノ微結晶ダイヤモンド/水素化アモルファスカーボン混相膜の化学結合構造および電子状態の評価」
片宗 優貴(九州工業大学 工学部)
4. 「X線小角散乱による単一鎖長ポリオキシプロピレンポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤の会合体と金ナノ粒子の構造解析」
矢田 詩歩(奈良女子大学大学院 人間文化研究科)
〇萌芽的研究アワード審査委員会(平成27年11月9日現在)
委員長 栗原 和枝 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構および多元物質科学研究所 教授
委 員 上村みどり 帝人ファーマ株式会社 生物医学総合研究所 上席研究員
委 員 櫻井 吉晴 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門長
委 員 杉原 保則 日東電工株式会社 茨木事業所 技術統括企画部 部長
委 員 鈴木 謙爾 公益財団法人特殊無機材料研究所 代表理事
委 員 鈴木 昌世 公益財団法人高輝度光科学研究センター 研究調整部長
委 員 八木 直人 公益財団法人高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室長
(公財)高輝度光科学研究センター 研究調整部
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