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Volume 21, No.1 Pages 23 - 25

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第7回XFEL5極ワークショップの会議報告
“7th Hard X-Ray FEL Collaboration Meeting” Report

澤田 桂 SAWADA Kei

国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center

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SACLA

 

1. はじめに
 X線自由電子レーザー(XFEL)の5極ワークショップが、スイスのチューリッヒで開催された。日程は、2015年10月26~28日の3日間。このワークショップは、日本とアメリカとヨーロッパの3極として2007年に始まって以来、ほぼ毎年開催されており、現在はスイスと韓国が加わって5極となっている。会場は、スイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校の2つあるキャンパスのうち、チューリッヒ市街地から北西に少し離れたヘンガーベルクにあるキャンパス。住所の道の名前がヴォルフガング・パウリ通りだった(図1)。パウリといえば、理論物理学者としての様々な業績はもちろんのこと、パウリ先生が近くにいると実験が失敗してしまうという「パウリ効果」も有名である。道がその名を冠するとなると、理論研究には縁起が良さそうだが実験に影響はないものか、という無意味で失礼な雑感が頭をよぎった。

 

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図1 ヴォルフガング・パウリ通り。会場近くの売店の前で撮影。

 

 

 会場へ着いてレジストレーションの後に、上の階でコーヒーなどが用意されているとのことで、エレベーターに乗ると、ボタンの表示が何階といった数字ではなくDEFGなどと示してあり、どれを押してよいものか戸惑った。1階が地上なのか日本でいう2階に対応するのか、という問題はよくあるが、アルファベットになっていたのは初めてであった。

 

 

2. 会議の内容
 10時になり、ホストであるPSIのRafael Abela氏の挨拶で会議が開始。夕食の会場について注意があり、バスや電車を乗り継いで行く必要があるので、辿り着くことがみなさんにとってのチャレンジです、と言って笑いを誘っていた。続いて各施設からの報告。韓国のPAL-FELからはIn Soo Ko氏、ドイツにあるEU-FELはMassimo Altarelli氏、スイスのSwissFELはHans Braun氏、アメリカのLCLSはMike Dunne氏、日本のSACLAからは石川哲也氏がそれぞれ講演した。韓国とヨーロッパとスイスは現在建設中で、2016年から2017年にかけての完成を期待しているものの、施設ごとに事情があって(風が強い、雪が降って工事が滞った、検出器がまだ、など様々)、遅れ気味とのことだった。一方で、すでにXFELを利用しているアメリカと日本は、現状だけでなくアップグレードの話題も多かった。アメリカのLCLSは、成果がたくさん出ているだけでなく、さらなるアップグレード中。加速器の性能を向上させて硬X線領域の12.8 keVでパルスエネルギー5 mJの実現や、LCLS-II計画に伴って軟X線領域の新たなサイエンスを切り拓くという将来像を語っていた。日本のSACLAは、BL2ができたことで世界で3本目のXFELのビームラインとなったことや、ペタワットのレーザーへ向けたHERMES計画、SCSS+による軟X線FELの状況や、ミニ京(FX10)などを紹介。また、有料での成果専有課題についても触れられた。午前の部の最後に、前回からの共同研究の状況報告があって、特に現在もXFELを建設中の韓国・ヨーロッパ・スイスの施設の間では、食事の機会を設けたりしつつ問題点を議論し合っているとのことだった。
 ランチは、キャンパス内の食堂に案内された。例えばチャーハンが2,000円程度で、日本の感覚からするととても高額だった。これは料理人などの人件費によるもののようで、同じキャンパス内にあるスーパーに入ってみると、素材だけであれば日本と同じような値段だった。ランチをはさんで、午後の部からは、加速器セッションとフォトンセッションとに分かれて、それぞれで議論が進められた(ここでは、筆者が参加したフォトンセッションについて述べる)。
 1日目午後の最初のセッションは、光のビーム診断について、SACLAの片山哲夫氏と、SLACのDiling Zhu氏からそれぞれタイミングと集光についての報告があった。タイミング計測では、回折格子を用いた手法が紹介され、実際の化学反応での吸収スペクトル測定などへの応用例も示された。また、LCLSでは集光によってGeでの非線形過程として2光子吸収が見えるようになるなどの進捗状況が報告され、データは綺麗なものが多かった。どちらの講演もたくさんの聴衆の興味を誘い、その後のディスカッションの時間を通じても質問が止まなかった。続いてのセッションでは、SLACのLin Zhang氏から、LCLS-IIへ向けたKBミラーの開発として、ミラーを動的に曲げることや、冷却方法のアイデアがいくつか述べられた。また、SACLAの登野健介氏からは、光学機器の高度化やダメージに関して、KBミラーを断熱箱で囲うという工夫や、振動を抑えるためにチャンバーをマニピュレータから離すなどの改良点、また、集光しなければダメージはさほどでもない、などの報告があった。こうした内容は、当然ながら実際にやってみないと出てこない問題であることもあり、XFELを建設中の3施設からは事前調査のように多くの質問があった。
 夕方になり、ディナーのためのレストランへ移動した。チューリッヒ郊外のユトリベルク山の山頂にあるUto Kulmというレストランで、最寄りの駅から少しだけ山を登ると着いた。食事が始まるまでの時間は、外でチューリッヒの夜景を見ながらドリンクとスナックを楽しんだ。鉄塔のような展望台があったので登ってみたものの、真ん中あたりに2ユーロの有料ゲートがあったためそこで断念して、山頂より少しだけ高いところからの景色を眺めた(図2はその鉄塔からの写真)。メインディッシュとして肉を頼むと、チューリッヒ風の料理として、仔牛肉が出てきた。小麦粉とバターで調理してあり、見た目よりもかなり塩気が強かった。帰りの際には、駅に着いて間もなく電車が到着したため、切符を買う時間があまりなく、みんなで焦り気味になったというプチハプニングがあった。

 

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図2 レストランの外から見えたチューリッヒの夜景。

 

 

 2日目の朝は早く、8時半からセッションが始まった。この日は一日中、加速器セッションとフォトンセッションに分かれて進められた。まず初めに、実験ステーションの状況について、5施設それぞれからの簡単な報告があった。LCLSについてはDavid Fritz氏の講演で、装置も実験ステーションも次々と新しく作られていて、それぞれの状況と共に、特に今はMFX(Macromolecular Femtosecond Crystallography)が旬で、放射ダメージを受ける前の姿をとる“diffraction-before-destruction”が強化されるとの報告。SACLAは矢橋牧名氏が、この5極ワークショップの歴史に沿って現在までの進展を述べた。韓国とヨーロッパとスイスの3施設については、進捗状況と共に、各施設の思い描いている絵やアイデアが示された。休憩をはさんで、可視光レーザーとそのタイミング測定の状況などについて各施設からの報告があった。
 午前のセッションが終わってから、バスに1時間ほど乗って、Paul Scherrer Institute(PSI)へ移動した。バスの中では、PSIのAbela氏が一人一人のシートベルトの様子をチェックしており、飛行機のCAのようだったのが印象的であった。スイスではシートベルトの着用が義務付けられているようで、罰則も厳しいらしい。PSIへ到着して、まずは食堂でランチ。レバーを食べてみたところ味が単調だったが、添えてあったポテトはおいしかった。値段がやはり2,000円程度で、とても高い印象であった。
 午後からは、検出器のセッションが始まった。ヨーロッパではLPD、スイスではJungfrau、SLACではePix、SACLAではMPCCDなど、名前の付け方もいろいろ。今回はスイスでの開催だったので特にSwissFELの検出器の名前が印象的で、本題とは関係ないのだが、JUNGFRAUやEIGERなど、山の名前をつけていくには事欠かないのだろう、と山に囲まれた景色からも実感できた。休憩の後に、データ処理に関する議論があった。どの施設でも、データの遠隔操作と、リアルタイムでの解析を目指していた。
 夕方からはSwissFELの見学。セッション会場から山を少し登って、FEL施設へ。道の途中の右側にパネルがあって、森の動物の写真があった。実際、動物は多いとのことで、蛇もたくさんいるらしい。建物は新築なはずなのだが、日本の建築と比べて見た目で行き届いてないところがあるのか、さほど新しい印象を受けなかった。ビームライン建設は、Phase Iとして硬X線のARAMISが2016年末まで、Phase IIとして軟X線のATHOSが2018年以降を目処に予定されており、今回の見学では前者の硬X線ARAMISのビームライン予定地を案内された(図3)。ARAMISは、波長0.1~0.7 nmのX線ビームを、実験の用途ごとの各エンドステーションへと分枝させていく形になっている。光学ハッチの部屋に入って床を見てみると、装置を置く目印が手書きで書いてあり、どういう精度なのか心配になった。また、スイスでは森林保護のために木を切ってはいけないのが原則であって、この施設ではFELのために例外的に認められるとはいえ、部屋をあまり大きくはできないとのことだった。

 

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図3 SwissFELの内部。まだ何もなかった。

 

 

 SwissFELの見学の後は、バンケットがランチと同じ場所で催された。メインは肉か魚を選んで自分で取りに行く形式になっていて、お皿には肉などと共にペンネパスタが大量に盛られた。
 最終日の3日目も朝早く8時半から始まった。加速器とビームラインとの共通セッションとして、施設側から見たユーザー対応などの進め方を議論した。現在XFELとして動いているLCLSとSACLAとの違いでいうと、SACLAでは毎週ミーティングを開いて加速器とビームラインとエンジニアリングのメンバーが集まっているが、LCLSでは何か題材があったときに集まるだけとのこと。また、SACLAでは、例えば実験中にユーザーが波長を変えて欲しいという要望があったときに、加速器側では電話で対応しており実際にはさほど言われないが、一方でLCLSだと電話では対応しきれないほどだそうで、その違いは日本人がシャイだからだろう、というのが印象的であった。セッションの最後はシーディング。LCLSでもSACLAでも、シーディングは加速器の状態に依存して、思うようにいくわけではない。シミュレーションでも、様々なパラメータで試行錯誤している状態であったので、解析的あるいは物理的に見通しがつくようになると良さそうである。

 

 

3. おわりに
 5極ミーティングは今後も3日間の日程で続けて、できれば加速器と光学との共通セッションを増やす方向で進められれば、という認識で今回は閉じられた。次回は2016年10月頃を目安に、韓国の浦項にあるPAL-FELで開催される。

 

 

 

澤田 桂 SAWADA Kei
国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2800
e-mail : sawada@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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