Volume 21, No.1 Pages 19 - 22
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
The 15th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems(ICALEPCS2015)会議報告
Report on the 15th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems (ICALEPCS2015)
2015年10月19~23日にかけて開催された15th International Conference on Accelerator and Large Experimental Physics Control Systems(ICALEPCS2015)および、ワークショップについて報告します。ICALEPCSは隔年開催の国際会議で、今回の2015年はオーストラリアのメルボルンコンベンションセンター(写真1)においてAustralian Synchrotron主催で開催されました。前回2013年は米国サンフランシスコにおいてローレンスリバモア研究所のNational Ignition Facility主催、前々回2011年はフランスのグルノーブルにおいてEuropean Synchrotron Radiation Facility(ESRF)主催で開催されました。
写真1 会場となったメルボルンコンファレンスセンター。南半球のため北風は暖かく、南風は寒く、寒暖の差が激しい季節でした。
ICALEPCSは加速器制御と大規模物理実験制御システムに関わる国際会議であり、素粒子物理学実験施設を始め、放射光、中性子源、大強度レーザー、プラズマ・核融合、電波天文台、重力波などの施設から参加がありました。SPring-8/SACLAからは田中、山下、石井、細田、松本、佐治、杉本の7名が参加しました。その他の国内施設では高エネルギー加速器研究機構(KEK)、J-PARC、理研RIBF、京都大学原子炉実験所、SAGA Light Sourceの参加がありました。北米・欧州から地理的に遠いことに加え、一部の国にビザが下りなかったこともあり、参加者数は30ヵ国387名と、前回ICALEPCS2013の610名に比べ減少となりました。
会期前ワークショップ
ICALEPCSの会期前に、特定の話題について集中して議論するためのワークショップが開催されました。ICALEPCS参加者のうち、松本がHDF5 Tutorial/WorkshopおよびTANGO、杉本がCyber Security、佐治がFree software for hardwareに参加しました。
・HDF5 Tutorial/Workshop
HDF5はNASAなどの観測データのアーカイブに採用されている自己記述型データフォーマットで、ESRF、LCLS、SACLAなど放射光施設でも活用が始まっています。HDF5についての基本、性能チューニング、および将来に向けた開発について議論されました。特に性能向上については利用者からの要望も多く、今後実装が予定されている並列化対応や読み書き同時処理などが報告されました。
・TANGO
TANGOは欧州の加速器施設を中心に採用されている制御フレームワークです。ESRF、ELETTRAを中心とした複数の施設が協力して開発しており、およそ2年おきに新版がリリースされています。最新版のTANGOv9では、制御システムにおける構成要素の抽象化を進め、制御対象機器、OS、開発言語、データベース、周辺アプリケーションなどの採用自由度を高めたとの報告がありました。
・Cyber Security
2008年のCERN LHC Run 1運転開始直後に受けたハッキングを契機に、研究施設における情報セキュリティ保護の重要性が強く認識されています。米国DOEラボではNIST 800-82規格(産業制御システムに関するセキュリティ)への準拠が要求され、各施設より多要素認証の導入やセキュリティアセスメントの結果について報告されました。また、SACLAのビームラインネットワークのセキュリティについて、SPring-8との比較を交えながら、杉本が発表しました。
・Free software for hardware
電気回路などハードウェア開発には、従来は専用の有償ソフトウェアが必要でした。近年オープンソフトウェアでも開発に耐えうるようになってきており、CERNの後援で開発されているKiCadについてのチュートリアルが行われました。
会議
会議は以下のセッションで構成されました。
・Project Status Reports
・Control System Upgrades
・Integrating Complex or Diverse Systems
・System Engineering, Project Management
・Hardware Technology
・Feedback Systems, Tuning
・Timing and Sync
・Personnel Safety and Machine Protection
・Control System Infrastructure
・Experiment Control
・Software Technology Evolution
・User Interfaces and Tools
・Data Management, Analytics and Visualisation
“Project Status Reports”では、運転開始直後・間近であるSquare Kilometre Array(電波天文台)、European XFEL、LIGO(重力波)、Extreme Light Infrastructure(レーザー)、NSLS-II、MAX IV、SuperKEKB(素粒子物理)、Laser Megajoule(レーザー)、SwissFEL、Taiwan Photon Source、European Spallation Source(中性子源)、LCLS-IIの現状が報告されました。これらの施設名を見てお気づきのように、現状報告は放射光と自由電子レーザーが多数を占めます。放射光は数少ない施設が提供する特別な光・実験手法ではなく、世界中で一般的に用いられる手法となりつつあります。
口頭発表の大部分のセッションはプレナリーで、一部がパラレルで行われました。SPring-8からは山下がSPring-8制御システムのデータベースシステムのアップグレードについて発表しました。
ポスター発表は、初日と3日目の2セッションに分かれて開催されました。掲示は交代制ではなく、2セッションの全ポスターを同時に掲示できるスペースが確保されており(写真2)、会期に渡ってポスターを見ることができるようになっていました。また、両セッションから特に注目される発表10件ずつ、合計20件について、1人3分間のミニオーラルが割り当てられ、細田と松本が発表しました。
写真2 コンベンションセンターロビーのポスター発表会場。全ポスターのスペースが確保されていたため、会議の休憩時間などにもポスターを見ることができました。
・制御ハードウェア関連
新規建設される施設の大半では、タイミング・フィードバックなどの高速制御にMicroTCA.4(物理実験向け制御プラットフォーム)とFPGA処理回路の組み合わせ、真空・温度・電磁石などの低速制御にPLC(産業用制御プラットフォーム)を採用し、高速用途・低速用途に応じた棲み分けが一般的となってきています。ICALEPCS2013では、MicroTCA系と報告件数で肩を並べていたAdvancedTCA(電気通信向け制御プラットフォーム)はLCLS-II用プロトタイプ制御システムなどに限られ、報告数が減少していました。また、旧施設からのアップグレードでは、予算上の制約からかVMEを使い続けるところが見受けられました。
実験制御について、特に放射光施設では、モノクロメーターやサンプルステージなどの駆動機構が必要となります。BESSY II、ELETTRA、Diamond Light Source、Brazilian Synchrotron Light Sourceなどでそれぞれ製作したモーターコントロールシステムの発表がありました。一方、このように各施設でばらばらにモーターコントロールシステムを製作している状況を受け、セッション終了時に座長より「実験制御はスキャン、シーケンス、オートメーションが鍵となる。個別に作ると時間と予算が必要になる。皆で議論し、共通して利用できるコンセプトとシステムをまとめることが重要である」とのコメントがありました。
・制御ソフトウェア関連
制御システムはハードウェアを組み合わせれば動くものではなく、ソフトウェアによるハードウェア間の“橋渡し”が必要となります。特に大規模制御システムにおいては「制御フレームワーク」と呼ばれるソフトウェアによって、ネットワーク通信を介してハードウェアを制御する構成が一般的となっています。SPring-8/SACLAで開発・運用しているMADOCAも制御フレームワークの一つです。大規模施設において採用例が多い制御フレームワークは、米国Argonne National Laboratoryを中心に開発されたEPICSと、ワークショップの項でも触れた欧州のTANGOです。
EPICSを採用している施設は米国DOEラボの実験施設を始め、KEK、J-PARC、理研RIBFなどの国内加速器施設、Pohang Light Source(韓国)、Taiwan Photon Source(台湾)などのアジア圏、さらに欧州においてもITER、European XFELなど多岐に渡ります。現行バージョンはEPICS Version 3(EPICSv3)で、次期バージョンのEPICSv4の採用予定施設はまだないようです。EPICSv3は設計が古いため、各施設で不足機能を独自に開発・実装しており、フレームワークとしての統一感にやや欠ける印象を受けました。
TANGOはESRF、ELETTRA、SOLEIL、ALBA Synchrotron、DESY、MAX IVなど、欧州の放射光施設を中心に多く採用されています。最新版のTANGOv9では、構成要素の抽象化とAPIによるレイヤー分離によって自由度を高め、データベース、GUIなどのミドルウェアを各施設で選択できるようになりつつあります。たとえば、データベースシステムとしてESRFはCassandra、ELETTRAはMySQLを採用していますが、TANGOの統一データベースAPIでアクセス可能となっています。また、ハードウェア側担当者の開発コンピューター言語としてC++、Java、Pythonが選択でき、担当者の技能・経験や言語の向き不向きに応じた開発が可能となっています。
ソフトウェア全体の技術傾向としては、C/C++からJava、Pythonなどの現代的コンピューター言語への移行、REST、Hadoop/MapReduce、Apache Spark、ZeroMQといったビッグデータ関連技術などがキーワードとして多く見受けられました。加速器科学や宇宙科学における必要性から計算機・制御システムが発展してきた20世紀とは異なり、21世紀は最新IT技術が逆に制御システムへ取り込まれるようになってきています。
・会議全体を通して
制御システムは多数のハードウェアとソフトウェアから構成され、そこには様々な技術が含まれています。新規建設される施設の発表では、最新の技術を意欲的に取り入れた制御システムの構築が多数報告されました。一方、旧施設からのアップグレードに関する発表では、旧システムとの互換性、既存機器・設備の流用などの制約条件の中で、大きなジャンプを狙えない事情が見え隠れしていました。SPring-8においても次期計画を検討中であり、入射器として予定されているSACLAとの互換性など、制御システムとして今後検討すべき項目が多数あることを思い知らされました。
次回ICALEPCS2017は、スペインのバルセロナにおいてALBA Synchrotron主催で開催予定です。また次々回ICALEPCS2019は、米国ニューヨークにおいてBrookhaven National Laboratory主催で開催されると発表がありました。
施設見学
会議閉会後、Australian Synchrotronの施設見学が行われました。各ビームラインの目的・実験設備と加速器制御室(写真3)・制御システムの説明を受けました。加速器については運転中のため加速器トンネル内の見学ができず、電磁石電源・真空設備などの説明に留まったのが残念でした。研究系職員の居室は実験ホールが見渡せる2階にあり、実験ユーザーとの意思疎通が取りやすくなっていました(写真4)。
写真3 Australian Synchrotronの制御室。蓄積電流を表示する正面ディスプレイの前に置かれたコルクは、運転のマイルストーン達成ごとにスパークリングワインでお祝いした記念とのことです。
写真4 Australian Synchrotronの実験ホール。研究員の居室は2階にあり(写真右側から奥にむかった部分)、実験ホールの状況を確認できるようになっている。
施設見学の帰路、乗車したバスが動物と衝突し、代替バスの到着までハイウェイの退避帯に1時間以上停車するトラブルがありました。自然と都市が隣り合わせのオーストラリアならではの一幕といえるでしょう。
最後に、ICALEPCS会議の運営・サポートに尽力された方々、ICALEPCSへの参加をサポートしていただいたみなさまに感謝いたします。
(本文中敬称略)
(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門
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