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Volume 20, No.2 Pages 230 - 233

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

「専用ビームラインの再契約」について
Renewal of Contract Beamline Agreement

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8の専用ビームラインとして、兵庫県が設置している兵庫県BMビームライン(BL08B2)については、平成27年4月で設置期限が満了することから、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき、再契約の申し出があった。
 これについて、専用施設審査委員会を平成26年12月に開催し、利用状況の評価および次期計画の審査を実施した。またその結果を平成27年2月6日に開催した第20回SPring-8選定委員会で審議した結果、申請通り、次期計画期間10年で再契約が認められました。
 詳細は以下、「兵庫県BMビームラインBL08B2」契約期間満了に伴う利用状況評価報告および「兵庫県BMビームラインBL08B2」次期計画審査結果の通り報告する。

 

 

「兵庫県BMビームラインBL08B2」契約期間満了に伴う利用状況評価報告

1. 「BLステーションの構成と性能」に対する評価
 BL08B2は、偏向電磁石を光源とするビームラインであり、前置ミラー、二結晶分光器、後置ミラーを収納した光学ハッチと、XAFS、X線トポグラフィー、X線イメージングを行う実験ハッチ1と粉末X線回折、小角散乱を行う実験ハッチ2から成る。設置された装置群は偏向電磁石光源の特徴を適切に利用した構成であり、幅広い分野のユーザーの要求に対応するように常に高度化、最適化が続けられてきている。XAFS、X線イメージングともにSPring-8の偏向電磁石光源の共用ビームラインと同等の性能が達成され、産業界の利用に適した機能が提供できている。小角散乱は、500 mmから60,000 mmの広い範囲でカメラ長を迅速に変更できる上、XAFSとの同時測定を可能にするなど特徴ある機器・技術が整備されている。以上のように、マイクロビームの利用に重点をおいた既設の兵庫県ビームラインBL24XUと相補的な産業利用を目指して、産業界の利用が見込まれる複数の利用技術をひとつのビームラインで実施できるように機器整備が行われていることを高く評価する。

2. 「施設運用および利用体制」に対する評価
 施設設置者は、兵庫県のままであるが、施設の運営は、SPring-8敷地内に設置された兵庫県放射光ナノテク研究所によってなされてきたものが、平成25年4月以降は兵庫県立大学に移管され産学連携・研究推進機構の放射光ナノテクセンターとして業務を継続し、ビームラインの運営を行っている。運営機関の変更後も、ユーザーの多様なニーズに即応する運営体制、利用体制が継承されている。本ビームラインの利用方針は、兵庫県の科学技術振興政策に基づき地域の産業利用に供することとされており、地域企業の利用およびその技術的支援が主要な目的とされている。このため、ビームライン設置以来のユーザーは、産業界が76%、官界が16%を占めている。また、利用にあたっては、専用ビームラインの特徴を活かしたフレキシブルなユーザービームタイム割当てを実施し、迅速なユーザー対応によって産業界の利用促進に効果を発揮している。課題採択に関しては、独自の課題選定システムを採用し、“ヘビーユーザー主義”を採用して、産業界ユーザーそれぞれに対してナノテクセンター職員によるきめ細かい対応が行われている。これらの取り組みにより共用ビームラインではカバーすることが難しい産業界の利用者の受け入れが実現され、SPring-8における産業利用の多様性確保に大きく貢献している。最近では、分析サービス(受託研究)の開始、NewSUBARUとの連携など、産業界ユーザーの利便性向上に向けた新しい取り組みもなされている。特に、NewSUBARUとの連携はその成果が期待できるが、円滑な連携・運用ができるように体制と制度を整備することが望まれる。
 以上のように、独特の運用体制・制度はナノテクセンター職員の献身的な努力もあり、良好に機能しているが、今後も安定的な運営と職員の高いモチベーションを維持していくには、財政上の基盤が十分とは言えない点を指摘したい。ビームラインの管理運営には、兵庫県からの予算とユーザー企業の負担金が充てられているが、施設の維持管理、支援研究スタッフの人件費、共同利用管理業務費等の経費は十分とは言えず、放射光ナノテクセンターの健全な継続的運営が困難な状況にあるとみられる。本ビームラインは、地域の産業界研究者のために設置され、実際、殆どのユーザータイムが提供されているのであり、ナノテクセンターはこれらユーザーに対するサービス機関として任務を果たしており、職員には極力財政的負担をかけるべきではない。
 なお、一般利用研究では、ユーザーから、研究支援業務経費を徴収し、受託研究では計測受託の利用料金が徴収されている。BL等SPring-8施設利用にあたって、第3者から利用経費等を徴する場合には、登録施設利用促進機関の了解等を得る必要があろう。

3. 「利用成果」に対する評価
 設置早々にBL08B2を中心に実施されたJSTの地域結集事業を通じて、兵庫県内企業が新規ユーザーとしてBL08B2を利用し、ナノコンポジット材料の新たな知見を得るなどの大きな成果をあげることができた。事業終了後も、継続的に産業界の利用があることからそれ自身が大きな成果とも言える。最近ではXAFSと小角散乱の同時測定など、ビームライン構成を活かした特徴ある利用技術を開発し、自動車タイヤ用ゴムの品質向上のために加硫反応過程を追跡するなど産業分野での有用な成果があげられている。活発な技術開発が行われている二次電池材料評価に向けて二次元空間分解能XAFS測定技術を開発するなど、新しいユーザーや手法の開拓が常に継続して行われていること、データ解析へのスパコン利用の取り組みも高く評価できる。しかしながら、産業利用主体のビームラインとは言え、産学および一部は大学単独による利用も行われているが、論文等による成果が十分に創出されているとは言い難い。兵庫県ビームライン年報・成果集の刊行を通じた利用成果の発信は大いに評価できるものの、論文誌掲載による成果発表とともに、産業利用としての成果の発信をより一層積極的に行われることを強く期待する。

以 上

 

 

「兵庫県BMビームラインBL08B2」次期計画審査結果報告

 兵庫県より提出のあった「兵庫県BMビームラインBL08B2専用施設次期計画書」について、専用施設審査委員会において計画の可否を審査した結果、第一期での充実した成果も踏まえて、再契約を承認し、次期計画期間は10年として認める。SPring-8の次期計画が明らかになった時点で中間評価を行い、継続の是非について審議するという結論に達したので報告します。各項目別の詳細は以下のとおり。

1. 「次期計画の研究概要」に対する評価
 兵庫県BMビームライン(BL08B2)は、兵庫県IDビームライン(BL24XU)と相補的な機能を担っており、SPring-8の高輝度性を活かしながら、主にXAFS、粉末X線回折、単色X線トポグラフィー、イメージング、小角・広角X線散乱といった産業界において必要とされる物質解析のための基盤的な研究施設として位置づけられ、産業利用の分野で特色ある成果をあげている。
 次期計画では、光学系の調整や試料交換等の自動化を進め、また従来は当該ビームラインで実施できなかった研究手法を利用可能とすることで、基盤的な研究施設としての可用性を高めようとするものである。また、NewSUBARUにおける放射光利用や産業界向けスパコンFOCUS等との相補的利用を含め、兵庫県の施策の下、兵庫県立大学が中心となって、クリーンエネルギー分野などの重点産業分野が抱える課題に対して、各機関が保有するシーズを融合させて解決に取り組む方向を目指すものである。
 シミュレーション計算との相補的利用等、今後の産業利用にとって重要であり、兵庫県立大学および兵庫県がこれらをリードして行くことができれば、放射光利用に止まらない新しい産業利用を開拓することが期待できる。兵庫県の特徴を活かした計画が円滑に機能するような運営体制が構築されることが望まれる。

2. 「施設および設備に関する計画」に対する評価
 産業界でのニーズが高いXAFS、粉末X線回折、単色X線トポグラフィー、イメージング、小角・広角X線散乱等の複数の利用技術を効率良く利用できるように良く工夫されている。また、XAFS/SAXSの同時測定など、ビームラインの特徴を活かした新しい利用技術開発も行われていることは高い評価に値する。
 次期計画では、利用者の要望実現を目指した機器整備が提案され、“ヘビーユーザー重点主義”による運営方針に合致した適切な計画となっている。従来は人手で行ってきた光学系等の調整や試料交換を自動化して、測定効率を向上することは直ちに実施すべき事項である。また他の専用・共用ビームラインでは実施が少なく兵庫県ビームライン独自の取り組みと言えるトポグラフィー技術の改良や、三次元空間分解XAFSの整備等の計画を高く評価する。なお、自動化を進めるときに、ビームラインの違いが利用者にとって大きな障害とならないような工夫も盛り込むことが望まれる。
 一方で、SPring-8の高度化により、マイクロビーム利用の場合は光源輝度の向上が試料上の光子束の向上につながるが、数十mm程度以上の大きさのビームを利用する場合は必ずしも光子束の向上にはならないであろうことに留意する必要がある。また、偏向電磁石光源のスペクトルは、より低エネルギー側へシフトするので、「高エネルギーXAFS」もどの程度のエネルギーまでを対象とするか慎重に検討し、具体的な改造に移すことが望まれる。限られたリソースの中での作業となるので、提案された改良が産業界においてどのような可能性を拓くのか、具体的にどのような仕様が求められるかという点について十分に検討し、計画を立て、SPring-8を始めとする国内外の技術動向等も慎重に検討して、具体的な計画としていただきたい。

3. 「運用体制および利用体制に関する計画」に対する評価
 SPring-8の他のビームラインと異なり、産業界のヘビーユーザーを念頭に置いて課題選定、ビームタイム配分等において特色ある運用がなされている。適時の利用や計画的な利用は産業界にとって極めて重要な事項であり、共用ビームラインでは実現困難な融通性の高いビームタイム配分を可能にしている。この運用により共用ビームラインではカバーすることが難しい産業界の利用者の受け入れが実現され、SPring-8における産業利用の多様性確保に大きく貢献している。
 次期計画では共用ビームラインにおける産業利用との違いを鮮明にすることで、当該ビームラインの特徴を明確にし、またそのような運用をすることによって得られた効果を整理した上で、より一層産業界の利用に適した運用がなされることが望まれる。更に、この特徴を活かして、SPring-8の共用ビームラインなど他のビームラインとの相補的な利用についても検討することを提案する。他機関ビームラインとの連携は相互の利用技術向上に資するのみならず、例えば国家プロジェクトに関係した課題の実施を通じて学術的利用のニーズ発掘と論文発表等による利用成果の一層の可視化も期待されることから、前向きな検討を期待する。
 従来はパワーユーザーに対する施設提供型の利用が中心であったが、「今後は、兵庫県立大学がコアとなり、他の研究機関と連携しながら、クリーンエネルギー分野などの重点産業分野が抱える課題に対して、各機関が保有するシーズを融合させて解決に取り組む方向を目指す。」、「放射光施設(SPring-8兵庫県ビームライン[BL08B2、BL24XU]、New SUBARU)、FOCUSスパコン等の最先端の施設を総合的に活用し、燃料電池や触媒などのエネルギーデバイスの開発を多方面から支援」とされており、兵庫県の施策の基に戦略的にビームラインを運用する姿勢が伺える。ビームラインの運営主体が公益財団法人ひょうご科学技術協会から公立大学法人兵庫県立大学産学連携・研究推進機構となったことは、NewSUBARUとの相補的利用も含め、研究推進の上で総合的な効果が期待でき、この連携が早期に軌道に乗り、多くの成果が出ることを期待している。

4. 「スケジュールおよび予算計画」に対する評価
 このような戦略性を持って兵庫県ビームラインを運営することは望ましいが、学問・技術面の力だけでなく地域政策的な力も重要となり、また放射光利用技術面での支援だけでなく、それぞれの手法を効果的に相補利用するための支援も必要となるであろう。このような力は産業界のみならず求められるものであり、県立大学が運営するという特徴をぜひ活かして欲しい。以前より兵庫県立大学が運営しているBL24XUでは、充実した放射光利用教育を受けた学生が知識と経験を買われて民間企業に就職するなど、放射光分野での人材育成に優れた実績をあげている。BL08B2においても、特徴のある人材育成に積極的に取り組んでいただきたい。ただ、このようなことを兵庫県立大学のみで実施することは容易で無く、大学と兵庫県がそれぞれの得意領域を活かしながら手を携えて、具体的にどのような対象を重点として、どのようにこのような連携を進めて、産業利用成果を生み出すか十分に検討して、示す必要がある。
 上記のような高度なユーザー支援を行うためには、支援に当たるスタッフが高い能力とモチベーションを持ち、物事を中長期的に考えられることが重要であり、その面でも大学と兵庫県の間の強い連携と同時に、ビームラインの運営財政基盤を確立する必要がある。一方で、当該ビームラインが兵庫県民によって支えられていることを強く意識し、研究の効果について県民と、public relationを持つ工夫をすることが望まれる。本ビームラインは、兵庫県の科学技術振興政策に基づき設置されたものであり、その実績は十分に評価できるが、支援スタッフの確保や施設維持について設置者が財政基盤を確立する責任がある。同時に、ユーザーには、財政状況を説明した上で、適切な負担金を要請することが必要であろう。これらの今後の運営経費を確保するため、兵庫県および兵庫県立大学は、ビームラインの財政基盤に関する経営方針を早急に検討されることを期待したい。

以 上

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794