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Volume 15, No.4 Pages 260 - 263

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第2回Diamond−SPring-8放射光産業利用ワークショップ
2nd Diamond-SPring-8 Joint Workshop for Industrial Applications of Synchrotron Radiation

山川 晃 YAMAKAWA Akira[1]、廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro[2]、鈴木 昌世 SUZUKI Masayo[3]

[1](財)高輝度光科学研究センター 常務理事 Managing Executive Director, JASRI、[2](財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI、[3](財)高輝度光科学研究センター 研究調整部  Research Coordination Division, JASRI

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 第2回Diamond−SPring-8放射光産業利用ワークショップ(2nd Diamond-SPring-8 Joint Workshop for Industrial Applications of Synchrotron Radiation)が英国Oxford(Diamond Light Source、および St. Catherine's College)で開催された。昨年8月の第1回(於:神戸St. Catherine's College Kobe Institute、およびSPring-8キャンパス)に引き続き、日本側は(独)理化学研究所、並びに(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)が、また英国側はDiamond Light Source(DLS)が主催者の任に当たった。[1][1] 第1回ワークショップは、日英友好通商条約締結150周年の記念行事「UK-JAPAN2008」の一環として、昨年8月24日〜27日の期間、神戸およびSPring-8に於いて開催された。SPring-8、DLS双方は放射光産業利用の重要性を共有するに至り、第2回は、英国側に会場を移してSRMS2010のサテライト会議として開催し、引き続き同二施設間に於いて放射光産業利用に関する報告と協議の場を持つこととなっていた。

 

 

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[1] 第1回ワークショップは、日英友好通商条約締結150周年の記念行事「UK-JAPAN2008」の一環として、昨年8月24日〜27日の期間、神戸およびSPring-8に於いて開催された。SPring-8、DLS双方は放射光産業利用の重要性を共有するに至り、第2回は、英国側に会場を移してSRMS2010のサテライト会議として開催し、引き続き同二施設間に於いて放射光産業利用に関する報告と協議の場を持つこととなっていた。

 

 

 全体の参加登録者は40名で、日本側がSPring-8 11名、企業6名、兵庫県1名の合計18名。英国側がDLS 8名、企業11名、NNL 1名、STFC 1名、CLS 1名の合計22名と、ほぼ昨年と同規模の会議となった。SPring-8側からは白川理事長(JASRI)、大野専務理事(JASRI)、山川常務理事(JASRI)、高田利用研究促進部門長(JASRI)、鈴木研究調整部長(JASRI)、廣沢産業利用推進室長(JASRI)、熊坂グループリーダー(JASRI)、藤原グループリーダー(JASRI)、本間チームリーダー(JASRI)、佐藤チームリーダー(JASRI)、永田研究顧問(JASRI)の11名が参加した。SPring-8利用推進協議会は、2010年度海外放射光施設調査団を派遣する形で本ワークショップに参加し、参加全企業6社および兵庫県放射光ナノテク研究所松井所長から各専用ビームラインの特長・利用成果・運転状況、或いは各社の産業利用成果を報告した。

 

 Workshop開催に先立ち、7月7日にDLSの施設見学が行われた。施設見学ではDLSのIndustrial Liaison Group職員の案内により実験ホールを見学することができた。まだまだ建設途上で空間に余裕があるためか、実験ホールの一番外側に移動用通路が手すりで隔てられて確保されている。また、どのビームラインも実験ハッチが広い上に、天井が高い。更に、多くのビームラインではユーザーが機器制御やデータの収集・解析を行うための小部屋が実験ハッチに接して設けられていた。このため、実験ホール内にむき出しで設置されている機器が少なく、各ビームラインが整然と配置されている印象だった。また、光学ハッチや硬X線の実験ハッチの外壁面は黄色に塗装されるなど、放射線防護のレベルに応じて塗り分けられていることが印象的であった。新しい施設であるためか実験ハッチ内の測定機器は最新の機器と巧妙な工夫が凝らされているものが数多く設置されていた(特に、PILATUSが多数導入されていることが印象的であった)。たとえば重厚な石定盤 の架台に設置されているID07の大型のHuber多軸回折装置は、標準的な検出器に100 KのPILATUSを採用し、測定対象に応じて最適な受光域を確保するための検出器の受光面回転機構(あたかも小型のchi-circleのような)を備えていた。この回折装置導入にあっては、製作業者のHuber社と密接に連絡をとりながら長い時間をかけて仕様を決定し、製作中も絶えず連絡をとりあっていたとのことである。SPring-8と比較すればDLSは圧倒的にHuber社に近く、密接な連携の上で装置を導入することができる“地の利”を大変うらやましく思った。

 

 Workshopの初日(7/8)はDiamond House内で行われ、まずG. Materlik所長と白川理事長から開催挨拶があり、引き続いてDLSとSPring-8双方のOverviewがT. Rayment氏に代わりA. Dent氏、大野専務理事から行われた。DLSのOverviewでは、“政権交代など、日英は政治情勢が似ている。企業からの参加は放射光の技術的進歩ばかりでなく、企業からのメッセージが政治を動かすので重要である。”といった冒頭での軽妙な発言に引き続き、ビームラインの整備状況などが紹介された。ビームラインはMX、Soft Condensed Matter、Surface and Interfaceなどの研究分野ごとにまとまって配置されている。さらに、Engineering、Environment and Processingに分類される3本のビームラインがあり産業利用の促進を目指すDLSの意気込みを感じることができた。

 

 双方の放射光産業利用の現状についてはDLSからE. Shotton氏、SPring-8から山川常務理事と廣沢室長が分担して報告があった。DLSの産業利用はIndustrial Liaison Groupが担当し、担当者はManagerのE. Shotton氏の他に、A. Kroner-niziolek氏(担当は主としてXAFS)、M. Engel氏(担当は蛋白質結晶構造解析)、C. Pizzey氏(担当は化学、主として小角散乱)の3名によって運営されている。産業利用はESRFとほぼ同じ(1)ビームタイムのみの提供(2)データ収集(測定代行に対応か?)(3)解析も含めたfull service(4)遠隔操作測定の4種の利用形態で受け入れているとのことであった。これまでの利用企業数は25社程度であり、約70%が蛋白質結晶構造解析であることを紹介していたが、上記の利用制度も蛋白質結晶構造解析を意識してデザインされているように思えた。

 7月8日午後は産業利用の成果や放射光利用方針等が各社から5件報告された。午後前半の2件は原子力利用関連の発表で、東芝の佐野技監とNNL(National Nuclear Laboratory)のH. Thompson氏からそれぞれSPring-8、DLSの利用成果報告があった。NNLのH. Thompson氏の講演は、本ワークショップで唯一のDLSにおける蛋白質結晶構造解析以外の利用成果紹介で、GIXDやXAFSを用いて原子炉各部の材料を測定していた。しかしながら、原子炉用材料技術開発に直接寄与できた事例紹介はなく、この分野の放射光利用は緒に就いたばかりとの印象を受けた。なお、質疑において、“放射光利用技術をもたないNNLがDLSを利用するためにはIndustrial Liaison Groupの全面的な協力が不可欠である”との趣旨の発言があって、DLSのIndustrial Liaison Groupが産業利用の分野拡大に積極的に取り組んでいることを感じた。なお前半の最後に住友電工の上村氏から超伝導材料のプロセス開発への放射光利用が報告された。

 午後の後半はDLSの創薬関連利用者としてEvotecのJ. Barker氏とPfizerのD. Brown氏から創薬プロセスにおける放射光利用の考え方の説明があり、この分野で先行する欧米の企業が古くからStructure Based Drug Designに取り組んでいたことを再認識させられた。

 

 2日目(7/9)はSt. Catherine's CollegeのThe Mary Sunley Buildingに会場を移し、朝から講演がが行われた。午前前半では川崎重工の尾角氏からNi基超合金のクリープ評価、Rolls-RoyceのD. Rugg氏からエンジン材料への放射光利用への期待、神戸製鋼所の宍戸氏からSAXSによるアルミ合金の析出粒子の解析が報告された。中でもD. Rugg氏は航空エンジンの実機テストの様子(駆動中のエンジンが破壊する様子)を大変印象的な動画で示し、“この実験には1回で約10億円が必要である。エンジンの開発には材料で律則することが多く、タービンのNi基合金の残留応力や外部からの異物の影響、局所的な結晶配向が原因とされる空隙の発生などを高温環境下でDiffraction Contrast Tomography等の方法で明らかにしたい”と放射光利用への期待を具体的に述べていた。前々日の施設見学でDLSのビームラインI12 : JEEPに耐荷重5000 kgの多軸試料ステージを導入中であることを知り“一体、何を載せて測定するのだろう”と不思議に思ったが、D. Rugg氏の講演でこの耐荷重ステージ導入の目的を理解することができた。

 午前後半はVernalis R&DのP. Dokurno氏とJASRI熊坂グループリーダーによる創薬分野での講演と、高田部門長によるフロンティアソフトマタービームライン(FSBL)に関する講演とC. Pizzey氏による高分子材料等を対象にしたDLSでの成果事例の講演があった。DLS側はフロンティアソフトマタービームライン(FSBL)の運営に大変興味をもった様子で、“建設金額とその分担方法は?”、“契約期間は?”、“ビームタイムの配分方法は?”といった質問が数多く出された。午後はSPring-8の産業用専用ビームラインの説明がサンビームの川村氏、兵庫県ナノテク研究所の松井所長、豊田中央研究所の野中氏から行われ、DLS側からの質問は小角散乱装置のカメラ長やin situ XAFS測定で用いるガス分析器の時間分解能といった機器に関する事項が中心であった。

 

 最後にT. Rayment氏の司会でまとめの議論があり、産業利用の仕組みばかりでなく、試料準備室の整備状況や放射化した試料の取り扱い、XFELの現状等、多岐にわたり議論が行われた。Concluding Remarkでは、大野専務から次回は日本で開催する旨表明され、時期については両施設間で、今後、継続的に協議することとなった。

 

 

2nd DIAMOND-SPring-8 JOINT WORKSHOP

INDUSTRIAL APPLICATIONS OF SYNCHROTRON RADIATION

 

Diamond Light Source and St Catherine's College

Oxford 7-9 July 2010

 

Wednesday 7th July
14:00 Visit to Diamond Light Source for Japanese delegation
16:00 Return to Milton Hill House Hotel
19:00 Welcome dinner for Japanese delegation
 
Thursday 8th July
Chair: Gerd Materlik, Diamond
10:00 Opening Ceremony
  ・Welcome addresses by Gerd Materlik and Tetsuhisa Shirakawa
10:20 Diamond Light Source Overview
  Trevor Rayment, Diamond
10:50 SPring-8 Today
  Hideo Ohno, JASRI / SPring-8
11:20 Industrial Applications at Diamond
  Elizabeth Shotton, Diamond
11:40 Current Status of Industrial Applications at SPring-8
  Akira Yamakawa, Ichiro Hirosawa, JASRI / SPring-8
12:00 Lunch & tours of Diamond
 
Chair: Dave Stuart, Diamond
13:30 Evaluation of Laser-peened Materials by X-ray Diffraction and Imaging in SPring-8
  Yuji Sano, Toshiba Corporation
14:00 From Ideas to Reality: X-ray Synchrotron Experiments in the Nuclear Industry
  Helen Thompson, National Nuclear Laboratory
14:30 Synchrotron Radiation Analyses in Industrial Material Developments at SEI
  Shigeaki Uemura, Sumitomo Electric Industries, Ltd
15:00 coffee
15:30 Evolution: Evotec’s Implementation of Fragment Drug Discovery
  John Barker, Evotec
16:00 Pharmaceutical Synchrotron Usage: Past, Present and Future
  David Brown, Pfizer
16:30 Discussion session led by Dave Stuart
17:00 Transport to St Catherine’s College, University of Oxford
19:30 Drinks reception & banquet
 
Friday 9th July
Chair: Elizabeth Shotton, Diamond
09:00 Creep Damage Evaluation of Ni-base Superalloys for Gas-Turbine by X-ray Diffraction Method
  Hideki Okado, Kawasaki Heavy Industries, Ltd
09:30 Synchrotrons and Physically Informed Material Models-The Next Decade
  Dave Rugg, Rolls-Royce
10:00 Determination of Mean Radius of Precipitates in an Al-Zn-Mg Alloy by Small Angle X-ray Scattering
  Hisao Shishido, Kobe Steel, Ltd
10:30 Tea
 
Chair: Hideo Ohno, JASRI / SPring-8
11:00 Role of Synchrotron X-ray Radiation in Structure-Based Drug Discovery at Vernalis
  Pawel Dokurno, Vernalis R&D Ltd
11:30 Macromolecular Crystallography at SPring-8
  Takashi Kumasaka, JASRI / SPring-8
12:00 Advanced Soft-material Beamline- New Scheme of Industry-Academy Alliance for SR Application
  Masaki Takata, JASRI / RIKEN / SPring-8
12:30 Shining a Light on Soft Condensed Matter
  Claire Pizzey, Diamond
13:00 Lunch
 
Chair: Akira Yamakawa, JASRI / SPring-8
14:00 Current status of SUNBEAM Consortium beamlines at SPring-8
  Tomoaki Kawamura, Nichia Corporation
14:30 X-ray Microbeam Application for Industries at Hyogo Beamline
  Junji Matsui, Hyogo Prefecture
15:00 Design and Construction of the TOYOTA Beamline (BL33XU) at the SPring-8
  Takamasa Nonaka, TOYOTA Central R&D Labs, Inc.
15:30 Coffee
16:00 Discussion session led by Trevor Rayment
16:45 Concluding remarks
  Trevor Rayment, Diamond & Hideo Ohno, JASRI / SPring-8
17:30 Close-transportation available to Diamond House

 

 

 

山川 晃 YAMAKAWA Akira

(財)高輝度光科学研究センター

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0954 FAX:0791-58-0955

e-mail:yamakawa@spring8.or.jp

 

廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro

(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-2804 FAX:0791-58-0988

e-mail:hirosawa@spring8.or.jp

 

鈴木 昌世 SUZUKI Masayo

(財)高輝度光科学研究センター 研究調整部

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0925 FAX:0791-58-0878

e-mail:msyszk@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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