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Volume 15, No.3 Page 201

4. SPring-8 通信/SPring-8 COMMUNICATIONS

2010A採択長期利用課題の紹介
Brief Description of Long-term Proposals Approved for 2010A

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRI

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 2010A期は2件の長期利用課題の応募があり、うち1件が採択されました。採択された課題の審査結果および実験責任者による研究概要を以下に示します。

 

課題名:次世代光ストレージ開発のための相変化微粒子材料のピンポイント構造計測

実験責任者名 山田 昇(パナソニック株式会社)
採択時の課題番号 2010A0030
ビームライン BL40XU
審査結果 採択する

 

〔審査コメント〕

 将来の高密度光ディスクの実現につながる目標(長期的なビジョン)は明確であり、長期課題としてぜひ採択すべきである。なお、プラズモニック近接場による励起と、本研究での励起方法が異なる点がおよぼす副次的な効果には常に注意を払いながら研究を進めていただきたい。

 

〔実験責任者による研究概要〕

 デジタルネットワーク社会の進展は膨大なデータを日々拡大再生産し、ストレージシステム破綻の危機が現実のものとなっている。現状、大容量ストレージの主流となっているハードディスクドライブは長期保存性に課題があることからバックアップやメンテナンスの負担が極めて大きく、消費電力増大による環境への影響が懸念されている。光誘起による物質の可逆的構造変化現象を利用した光ストレージ(相変化光記録)は、データ保持に電力が不要であり、100年にもおよぶ保存寿命と高いデータ堅牢性を有する等、エコ時代、グリーン時代に適する理想的ストレージとしての期待が大きい。しかしながら、従来技術の単なる延長では、光の回折限界がネックとなって、さらなる大容量化は難しいと考えられていた。

 本長期課題では、プラズモニック近接場光とナノ相変化微粒子の相互作用を応用することで、従来よりもスケールジャンプした大容量光ストレージの開発を前提とし、SPring-8のナノ構造ダイナミクス計測(ピンポイント構造計測)を利用して開発を加速させることを目的としている。たとえば、一辺が100 nm程度の三角形へと微細加工した金属片に、1つの頂点と重心を通る直線方向に偏光させたレーザ光を照射すると、上記金属片の頂点部に数10 nm以下の微小な局在プラズモニック光が発生する。この局在プラズモニック光は相変化微粒子との間で共鳴を生じて増幅されるが、その増幅度が相変化微粒子の状態(結晶相かアモルファス相か)に応じて変化することを利用すれば超高密度光ストレージへの応用が期待される。

 すでに、我々の研究グループは、2004-2009年度の間、CREST研究プロジェクト「反応現象のX線ピンポイント構造計測」のメインテーマとして、「DVD-RAM光ディスク材料のアモルファス-結晶相変化過程の直接観測」を掲げ取り組んできた。開発した装置は、X線マイクロビーム測定技術、極短時間構造計測技術、極限環境構造計測技術、微小空間構造計測技術を融合したもので、空間分解能サブ100 nmの精度で、試料上の同一箇所に、40 psの放射光パルスとフェムト秒レーザ光を任意の時間遅延で照射することを可能とし、照射部に生じる結晶核生成-結晶成長過程(XRD)の時分割観測、反射率変化との時間づけに成功している。ここでは、これまでの研究を更に発展させ、より小さな領域、すなわち5-20 nm径に孤立化させた相変化微粒子に放射光パルスとレーザ光を照射し、そこから得られる回折線スペクトラム、反射光強度変化を解析することにより、ナノ相変化粒子の相変化過程を調べ、新規光ストレージ開発の促進を目指す。

 本長期課題が目指す光ストレージでは、局在プラズモニック光のサイズを10 nmくらいに絞ることができるので、もし5-20 nm程度の相変化微粒子と期待どおりの共鳴現象が得られるとすれば、ブルーレイディスク(BD)と同じサイズで、最大容量25TB(BDの1000倍)の長期保存性・低コスト・高堅牢性・低消費電力を兼ね備えた光ストレージができる。近い将来、ストレージの世界にパラダイムシフトを実現することが期待される。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794