Volume 15, No.3 Pages 169 - 175
2. ビームライン/BEAMLINES
サンビーム10年と設備更新
History for Ten Years of Sunbeam and its Equipment Replacements
パナソニック(株) マテリアルサイエンス解析センター Materials Science and Analysis Technology Center, Panasonic Corporation
1.はじめに
BL16XU、BL16B2は13企業グループ[脚注1]からなる産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム共同体)が管理・運営する専用ビームラインである。
2008年8月にサンビーム共同体はJASRIとの施設利用契約期間を終了し、引き続き10年間の契約を締結し、次の10年へ向け、新たな一歩を踏み出した。翌年9月に、BL16XU、BL16B2は利用開始後[1][1] 泉弘一 他:SPring-8利用者情報 4 (1999) 20;久保佳実:ibid. 6 (2001) 103. 10周年を迎えた。
この報告は、サンビーム共同体の10年を振り返り、2007年から2008年にかけて実施した設備更新の概要について述べる。
サンビーム共同体は、2010年3月、「サンビーム10年史」[2][2] 産業用専用ビームライン建設利用共同体編集・発行 「サンビーム10年史」を発行した。詳細は同冊子を参照されたい。また、同冊子はサンビーム共同体のホームページ[3][3] サンビームWEBサイトURL http://sunbeam.spring8.or.jp/に公開の予定である。
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[脚注1]川崎重工業、神戸製鋼所、住友電気工業、ソニー、電力グループ(関西電力、電力中央研究所)、東芝、豊田中央研究所、日亜化学工業、日産自動車、パナソニック、日立製作所、富士通研究所、三菱電機(2010年4月現在、50音順)
2.サンビーム共同体の10年
2-1 共同体発足とビームライン建設
サンビーム共同体の源は、今を去る20年近く前の1991年9月にJASRIとSPring-8利用推進協議会の共同事業として発足した「SPring-8産業利用共同研究会」に遡ることができる。同研究会での利用技術毎の小委員会活動の後、1993年に21社が参加する「パイロットビームライン検討会」が設けられ、各利用技術を統合し1本ないし2本のビームラインで実現するためのビームラインの概念設計が行われた。
1994年に16社が参加する「パイロットビームラインの建設および運用に関する検討会」が設けられ、「専用施設設置計画趣意書」を作成するとともに、産業界による専用ビームライン建設への募集が行われた。趣意書では、測定技術としてBMにXAFSとトポグラフィが、IDにX線回折、蛍光X線分析、マイクロビーム形成と利用技術開発が謳われ、世界最先端ではあるが適用範囲の狭いものではなく、広い範囲での産業技術への貢献を目指すものとした。この考え方は現在までサンビーム共同体に受け継がれてきた重要な概念と考えている。
1996年4月、応募した企業11社およびJASRIにより「準備委員会」が設けられ、サンビーム共同体設立に向けた準備を開始した。サンビーム共同体を継続して運営するための組織体制を定める必要があり、協定書として明文化された。協定書に明記された「各社の義務、権利は平等」という平等性の原則は、サンビーム共同体の大きな特徴であり、運営面で現在にまで生かされている。
以上のような取り組みを経て、1996年12月、13社とJASRIで発足したのがサンビーム共同体である。エレクトロニクス、金属、電力、自動車と複数の業界にまたがる企業が任意団体を結成し、資金を出し合って、高額の実験設備を所有し運用することは、ほとんど前例のないことであった。特に、ビームライン建設当時の立ち上げ時は、実に様々な業務があり、前例の無い事業のため多くの障害に突き当たった。それがなんとか解決できたのは、全社から技術と業務の両方で委員が派遣され、一緒に取り組んだことが大きかった。特に、業務部会は、研究企画(国家プロジェクト経験者)、経理、契約、工場安全管理など、様々な分野の専門知識と経験を有する人材が集まり、業務や障害にうまく対応した。また、産業界への利用促進策の一環として、JASRIがサンビーム共同体に参画した経緯と認識は、必ずしもJASRI、SPring-8全体では認められておらず、このことは長く尾を引いた。同様に、当時は、先端の学術施設を企業が使うことへの戸惑いや否定的な文化も少なからず感じられた。現在、企業により、旺盛に産業利用が行われていることを思えば、隔世の感がある。
1997年3月、「専用施設設置実行計画書」が受理され本格的なビームライン設計を開始した。1998年5月に基幹設備建設が始まり、9月からサンビーム共同体メンバーによる輸送部立ち上げ作業を開始した。10月に光学ハッチ内で放射光を確認でき、装置据付、立ち上げ調整、検査など、膨大な現場作業が始まった。最先端の技術分野であり、参加者の経験の開きが大きく、作業の均等化などほぼ不可能な中での作業であった。しかしながら、この期間に13社の現場での協力と基本情報共有の基礎が築かれたことは明らかで、サンビーム共同体にとって極めて重要なプロセスであったと考えられる。
1991年、「SPring-8産業利用共同研究会」の開始以来、8年の歳月を要し、多数の関係者の尽力の賜物として、BL16XU、BL16B2の両ビームラインが完成したわけである。
1999年9月、三洋電機、住友電工、電力グループ、豊田中研、松下電器の5社グループによるBMビームラインでの実験がサンビームの利用開始である。
2-2 社会へのアピールと成果の公開
1998年3月25日の日本工業新聞への掲載がサンビーム共同体初の本格的な外部発信である。1999年6月、利用推進協議会研究開発部会でサンビーム共同体活動報告が行われ、以後この報告は恒例となった。「SPring-8利用者情報」1999年7月号、8月に日本工業技術振興協会主催研究会、10月のSPring-8シンポジウム、兵庫県主催国際先端技術メッセ、2000年1月に第8回放射線プロセスシンポジウム等でサンビーム共同体の現状についての報告が行われた。これらの外部発信は、現在もサンビーム共同体が抱える大きな課題の一つである「社会へのアピール、成果の公開」に対する取り組みの具体的な第一歩と捉えられ、サンビーム共同体初期の段階から情報公開の重要性が意識されていた事がうかがえる。
利用の進行と共に、特色ある実験結果が出始めた。IDビームラインに設置された蛍光X線分析装置は、世界的にも放射光用としては稀な全反射試料ステージと波長分散型分光器を備えていることから、同装置をSPring-8内で最も高いフラックスが得られるBL40XUに一時移設し、住電/東芝/富士通/松下の4社とJASRI研究者の合同実験として、2001年5月および2002年5月にシリコンウェハ上の微量不純物元素分析が行われ、蛍光X線分析のチャンピオンデータ取得に成功した[4][4] N. Awaji et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) L1644.。
2001年8月、第一回サンビーム研究発表会は、サンビーム共同体主催、JASRI協賛の下、SPring-8普及棟大講堂で137名もの参加者を得て開催された。2年後に控えたビームライン中間評価を視野に、これまでの成果をJASRI幹部、関係者にアピールし、サンビーム共同体が抱える諸課題を討議することが目的であった。第四回サンビーム研究発表会(2004年度)からは、JASRI主催のトライアルユース報告会、ひょうご科学技術協会主催の兵庫県ビームライン成果発表会とジョイントして第一回SPring-8産業利用報告会として実施された。その後、2009年9月には、サンビーム共同体、JASRI、ひょうご科学技術協会の三機関主催の第六回SPring-8産業利用報告会が、より一層の産学官の連携を図るため、SPring-8シンポジウムと東京で合同開催され、現在に至っている。
対外的成果発信として、特筆されるのは2004年3月春の年会で実現した応用物理学会でのシンポジウム主催である。当日は、サンビーム共同体メンバーを始め兵庫県やJASRIビームラインユーザおよび研究者からの多岐に渡る応用例の報告を行い、主要学会の場で活動状況を公にできた意義は大きい。
2002年9月、積極的な成果発信の一環で、海外に向けた情報発信を目的とした海外交流が行われた。5社・7名が参加し、共催の利用推進協議会からの参加を含め総勢12名の訪問団となり、ESRF(フランス)とAPS(アメリカ)でのワークショップの開催、そしてALSの見学を組み込んだ結果、西回りで世界一周を行う行程となった。この交流を通じ、複数の企業が専用ビームラインをつくり、自ら実験するというサンビーム共同体の活動自身が世界的に見て極めてユニークであることが認識できた。サンビーム共同体主催の海外交流はこの1回のみであるが、その後も利用推進協議会主催の海外調査はこれまで5回実施されており、そのいずれにもサンビーム共同体メンバーが参加している。
2-3 中間評価から設備更新・再契約へ
2003年、JASRIによるサンビームの中間評価が行われた。中間評価報告書を5月末にJASRIに提出、6月24日には評価委員に対するプレゼンテーションを行った。ビームライン設備と運用、これまでの成果と今後の計画についての説明に対し、評価委員からの質問に答える形で実施された。評価の結果は、「積極的な成果の公表、キーパーソンの育成、より高度な実験技術の開発」を条件に「継続」の判断が下された。これら三つの条件は、サンビーム共同体にとって永遠の課題であり、これからも引き続き留意し注力していく必要があろう。
2004年のSPring-8利用に対する課金の問題に付随する形で、JASRI幹部よりサンビーム共同体に対する辛口の評価が寄せられた。役職が持ち回りのためBL16を代表する人の顔が明らかでない。活動が外から良く見えない。サンビーム共同体は過度に平等にこだわるあまり十分な成果が挙げられていないのではないか、と。さらにサンビーム共同体の期間延長の議論に際しても、現在の枠組みから脱皮して新しい体制の構築を、といったことが要望された。
2008年8月以降の設置延長の申し出は、その1年前、2007年8月までに行う必要があった。この課題への対処のため、2004年度、中長期計画検討委員会が設置された。今までのBL16の活動の再検証や技術的なバージョンアップの可能性の検討などを行い、2008年8月以降の次の10年の活動に対する指針を得ようとした。2005年度の中長期WGは、各社がサンビーム共同体への参加の可否を判断できるような2008年度以降の「実験環境としての体制案」を示すことを目的とし、再契約に伴う具体案の作成を行なった。2006年度の設備更新プロジェクトでは、各装置担当のグループを作り、仕様の決定、見積書の取得などの作業を分担した。
2007年度に設備更新に着手するために、2006年9月にJASRIに再契約の正式な申し入れを行い、「専用施設成果報告および次期研究計画書」を2006年12月、JASRIに提出した。これを受けて2007年1月にJASRIにて審査委員会が開催された。質疑では、13社でビームラインを所有することの意義、産業利用における成果の定義、放射光利用の広がり、人材の育成、共同開発のあり方等についての質問があった。再契約の方向で概ね合意をいただいたが、ビームラインの運営、サンビーム共同体内での共同研究、活動アピールの活性化に関する追加資料を2007年3月、審査委員会に提出した。上記を受け、審査委員会からは第一期の成果について高く評価いただき、次期計画を承認いただいた。2007年度に再契約書の検討を開始し、2008年度はそれを基にJASRIと交渉を重ね、2008年8月に契約を締結した。2004年度に取り組みを始めて以来、5年の年月を要し、サンビーム共同体はさらなる10年間、ビームラインの利用を継続できることとなった。
2008年9月には、再契約締結、設備更新が完了する節目に当たり、更なる10年間の決意を表明する意味で、サンビーム契約更新記念式典を開催した。これに先立ち、サンビーム共同体として初めてのプレス発表をSPring-8普及棟大講堂で実施した。プレス発表には日経新聞、朝日新聞、産経新聞、神戸新聞、日刊工業新聞、時事通信社、NHKが参加し、日経新聞、産経新聞、神戸新聞、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイに6件の記事が掲載された。大型設備更新をアピールするため、2008年9月の研究発表会で、例年の各社の成果発表に加え、大型設備更新につき口頭1件、ポスター8件の発表を行った。2009年1月の放射光学会では設備更新の成果8件についてポスター発表を行った。「社会へのアピール」の重視は脈々と現在に受け継がれている。
最後に、安全衛生とサンビーム共同体メンバーの変遷について触れたい。
安全衛生は企業活動の中で常日頃から極めて重要視されており、第三者の視点で現場を点検してもらおうという意識の高まりを受け、社内安全衛生を担当する部署の方に参加いただき、第1回の「安全総点検」を2001年7月に実施した。このような取り組みは、JASRI内ではなされておらず、SPring-8全体としての安全パトロールの先駆けとなった。同取り組みは、現在まで引き継がれて、恒例行事となり、現場の整理整頓励行の良い機会となっている。
2006年度末にサンビーム共同体からの脱退を宣言していた三洋電機が2007年3月に正式に脱退した。その際、三洋電機が有する権利と義務を継承すべき後継社を三洋電機に選定してもらう必要があり、JASRIにご協力いただき、後継を希望する社が複数社現れ、その中から日亜化学工業株式会社が後継社として選定され、2007年3月、交代が承認された。この後継問題がほぼ収まりかけていた頃、富士電機が脱退の意向を表明し、後継社に川崎重工業株式会社を指名し、2007年6月脱退が承認された。同様に、2010年3月を持って、日本電気が日産自動車に交代した。電機系の会社が材料系、機械系の会社へ交代し、バブル崩壊後の日本の産業構造の変化を反映しているのかもしれない。2006年7月に「特定放射光施設の共用の促進に関する法律」が「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」に改正され、JASRIの法的位置づけが変化した。このためJASRIはサンビーム共同体メンバーの一員として活動を続けることが困難と判断し、発足時よりサンビーム共同体の中核的な役割を担ってきたJASRIは,2008年3月をもってサンビーム共同体から脱退することとなった。
3.設備更新の概要
設備更新は2007年4月の設備更新の発注に始まり、2008年5月の更新完了まで、ビームライン建設以来の、長期、かつ大規模な立ち上げ・調整作業となった。これらの作業は、ビームライン建設を契機に、営々と築き上げられてきた、サンビーム共同体各社の緊密な協力のもとに行われた。設備更新を機会に、サンビーム共同体各社メンバーの結束力の強化、再確認が図られたという意味で、設備更新は重要な出来事であった。また、機器の立ち上げ作業を自らの手で行うことにより、サンビーム共同体の重要な役割の一つである人材教育に大きく寄与した。
立ち上げ・調整作業は2007年8月の夏休みのハッチ改造工事を皮切りに、9月に始まった2007年後期利用期間の各社による利用実験をはさみながら、2月末まで行われた。更新対象である全11設備のうち、ID分光器改造など2007年度導入分である8設備は予定通り2007年度内に更新が終了した。
設備更新を2年に分けたのは、2007年1月に納入された19素子SSD、3月納入の回折装置2台の発注先として国外メーカーを選定した結果、その納期を考慮したためである。2007年度から引き続く形で指定した仕様が満足されているかの試験、調整作業を行った。19素子SSD検出器を除き、2008年4月でほぼ更新作業を終了し5月より通常利用を開始した。
BL16XUでは単色器を水冷から液体窒素冷却に改造しビームの高輝度化を図った。X線回折装置を4軸回折計から8軸回折計に更新し、蛍光X線分析装置は主として試料まわりの改造を行った。これらにより、より自由度の高い測定を実用サイズの大型試料に適用可能となった。マイクロビーム形成評価装置では回折・蛍光といった利用面での機能を充実させるとともにFZPの導入を行い、サブミクロンビームの汎用利用を目指した。その場計測用ガス設備を拡充し、BL16XU実験ハッチに反応ガスを供給することでアンジュレーター光を用いたin situ分析を可能とした。
BL16B2ではXAFSに対するppmレベルの微量元素測定へのニーズの高まりを踏まえ、新規に19素子SSDを導入した。また、大型定盤をコンパクト化し、空いたスペースに4軸回折計を新設し、高エネルギーX線による材料深部の歪み解析などが可能となった。
このように、ほとんどの装置が新たな導入、あるいは更新、改造を行うという大規模な設備更新であった。
設備更新前後のビームラインの全体構成と設備更新により新たに導入された装置や、更新、改造された装置の代表例を写真に示した。
図1 BL16B2/BL16XU全体構成図
図2 挿入光源(ID)ビームラインの研究設備
図3 偏向電磁石(BM)ビームラインの研究設備
4.研究事例・成果の紹介
サンビーム共同体で得られた研究事例・成果を以下に紹介する。なお、ここで紹介しきれない研究事例・成果も数多くあり、それらについてはサンビーム共同体WEBサイト[3][3] サンビームWEBサイトURL http://sunbeam.spring8.or.jp/やサンビーム研究発表会報告書等で紹介しているので、参照していただきたい。
BL16B2を利用した研究事例・成果について、以下に紹介する。
(1)19素子SSDを用いたAsドーパントの高感度XAFS測定[5][5] 高石理一郎、吉木昌彦:第9回サンビーム研究発表会(第6回産業利用報告会)講演番号S-14 2009年9月
半導体中のキャリア濃度を左右するドーパントの制御は、MOSFETを作製する上で必要不可欠な技術である。Si中でドーパントが活性化しているか否か、また不活性化のメカニズム解明は重要な課題として挙げられ、代表的なドーパントであるAsのSi中における振舞いを分析することはその解決への糸口を探ることに繋がる。そこで今回、Si中に注入されたAs原子が濃度に対してどのように振舞うか、19素子SSDを用いたXAFS測定により調査を行った。用いた試料はAs濃度が3 × 1015/cm2、2 × 1014/cm2、5 × 1013/cm2、5 × 1012/cm2であり、注入加速電圧10 keVのas-impla試料である。測定の際には試料配置の最適化と、19素子SSDを用いたX線取り込み角増大によって従来よりも高感度な測定を行った。
図4に各試料に対してAs-K XAFS測定を行った結果を示す。また、図5に抽出されたEXAFS関数を示す。5 × 1012/cm2という極めて低濃度の試料でも広い波数範囲にわたって明瞭なEXAFS振動を確認できる。振動構造はAs濃度の減少に伴って変化しており、As原子周辺の局所構造が変化することを見出した。
BL16XUを利用した研究事例・成果について、以下に紹介する。
(2)XMCDによるネオジム磁石の磁気評価[6][6] 上田和浩:第9回サンビーム研究発表会(第6回産業利用報告会)講演番号S-04 2009年9月
高い保磁力と経済性を有するネオジム焼結磁石は、エレクトロニクス/情報通信/医療/工作機械/産業用・自動車用モーター等広範な分野で利用されている。環境問題への関心が高まる中、ハイブリッド電気自動車・産業分野での省エネ・発電効率の向上等で、更なる高性能永久磁石開発への期待が高まっている。また、SPring-8の高輝度放射光とX線磁気円2色性(XMCD)を利用した元素別の磁性計測技術の開発が進められている。そこでBL16XUに設置された、ダイヤモンド位相子を利用したXMCD計測システムと微小ビーム形成装置を利用し、ネオジム磁石中のNdの濃度分布と磁化状態を計測した。
結果を図で示す。図6と図7は、Nd-Lα蛍光X線の強度分布像とNd-L2 XMCD変化である。Nd蛍光強度の小さい、Nd濃度の低い領域(a)では、Nd-L2 XMCD強度が大きく、ネオジム元素が磁性を持っていることから、Nd2Fe14B結晶であることが分かった。また、Nd濃度の高い領域(b)は、Nd-L2 XMCD強度が小さく、常磁性的であることから、Nd析出物と考えられる。以上のように、マイクロ円偏光ビームを利用することで、ネオジム磁石中のネオジムの濃度と磁化に相関があることが分かった。
図4 As-K XAFS測定結果
図5 抽出されたAs-K吸収端EXAFS関数
図6 Nd-Lα蛍光X線の強度分布像
図7 入射エネルギーによるNd-L2 XMCD強度変化
5.おわりに
本報告で取り上げた「サンビーム10年史」の発端はJASRIの永田常務理事(現研究顧問)のお勧めによります。「2008年に設備更新を完了し、定常的な利用に移行した。この機会を捉えないと、10年以上前の共同体初期の記憶も薄れていくのではないか」との示唆がありました。10年史の資料中にあります「歴代委員の変遷」を見ると、技術専門委員中、1996年度より現在まで交代無く続けているのは、10年史の編纂に携わった、私ともう一人の方、合わせて2名を数えるのみとなっています。
サンビーム共同体は、世界でも例を見ない、各企業がイコールパートナーとして放射光産業利用を行っている組織として評価されていると聞いています。設備更新を経て、次の新たな10年を歩んでいるサンビーム共同体ですが、この報告を見ていただいて、サンビーム10年の歴史の中に、放射光産業利用に代表される先端分析技術産業利用への示唆となりうるヒントが多少なりとも含まれていれば幸いです。
[1] 泉弘一 他:SPring-8利用者情報 4 (1999) 20;久保佳実:ibid. 6 (2001) 103.
[2] 産業用専用ビームライン建設利用共同体編集・発行 「サンビーム10年史」
[3] サンビームWEBサイトURL http://sunbeam.spring8.or.jp/
[4] N. Awaji et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) L1644.
[5] 高石理一郎、吉木昌彦:第9回サンビーム研究発表会(第6回産業利用報告会)講演番号S-14 2009年9月
[6] 上田和浩:第9回サンビーム研究発表会(第6回産業利用報告会)講演番号S-04 2009年9月
尾﨑 伸司 OZAKI Shinji
パナソニック株式会社 マテリアルサイエンス解析センター
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