ページトップへ戻る

Volume 15, No.3 Page 149

理事長室から SPring-8の運営体制 −世界標準か?−
Message from President - SPring-8 Management Structure – World Standard? –

白川 哲久 SHIRAKAWA Tetsuhisa

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

Download PDF (13.91 KB)

 

 7月5日から18日にかけて、韓国・ポハン(第5回アジア・オセアニア放射光研究フォーラム出席)、英国・オックスフォード(第2回日英放射光産業利用ワークショップ出席)、ドイツ・ハンブルグ(DESY/PETRAIII訪問)、スイス・チューリッヒ(PSI/SLS訪問)及び仏国・グルノーブル(ESRF訪問)を駆け足で回ってきました。今回の海外出張は、フォーラムやワークショップへの出席(これらの結果は、いずれ本誌や放射光学会誌で報告されることと思います)に加えて、各国の放射光施設を訪問し、特にその運営体制について実情を把握するとともに各施設の運営担当者との意見交換を行うことが主な目的でした。

 

 ご存知の方も多いと思いますが、政府内では昨年度の事業仕分けに引き続き、今年度に入ってからも行政刷新会議の独立行政法人事業仕分けや文部科学省の行政事業レビューの場でSPring-8の運営体制のあり方が議論されています。詳述は避けますが、そこでは各種契約業務の一層の効率化や透明化と並んで、SPring-8の運営体制の見直しが提起されています(例えば、文部科学省の行政事業レビューでは、「理研・JASRI・スプリングエイトサービスの3社で運用している現段階の体制は複雑」と指摘され、「運営体制の見直しを含め、要改善」と結論付けられました)。

 

 SPring-8の運営体制が複雑なものとなっている所以は、長い歴史的な経緯があり、ここで詳述する余裕はありませんが、①施設設置者である理化学研究所と日本原子力研究所(当時)とは別の機関(全国を通じて一に限り指定された指定機構)が、利用業務や共用施設の運営業務を実施することが共用促進法において定められたこと、②供用開始後はJASRIが指定機構としてこれらの業務を実施していたところ、平成18年の共用促進法改正により指定機構制度から登録機関制度に改められたことによって、登録機関としてのJASRIの業務が法的には利用業務のみに限定されたこと、③平成21年に公益法人予算が一律に3割カットされたこと、などが複雑に絡み合ってJASRIの業務範囲が(実態面はともかく形の上では)当初より狭められてきたことが大きな要因であると考えられます。実際、昨年ほぼ14年ぶりにSPring-8に帰って来て、SPring-8全体の業務運営が従前よりもはるかに複雑かつ制約的な条件下で進められており、ややもすると業務の一体性の確保に困難を感じさせるような局面もあって、現場の責任者としては常々懸念を抱いているところです。

 

 SPring-8の運営体制の見直しについては、今後行政レベルや理化学研究所などを含む関係機関の広範な議論が行われるものと思いますが、どのような見直しが行われるにせよ最も重要なことは、SPring-8の利用研究者が将来にわたって安心して利用研究に打ち込める環境(より高度な利用環境の実現を含む)を整えることであると考えます。同時にそれは、世界的な標準から見て大きくかけ離れたものであってはなりません。今回は、後者の観点から海外の放射光施設の状況を実地に見分することがポイントでしたが、やはり現在のSPring-8の運営体制は複雑すぎ、世界標準からはかなりかけ離れていると結論付けざるを得ませんでした。とりわけ、SPring-8と並んで第三世代の世界三大放射光施設の一つであるESRFの運営体制は、今後の議論の範とすべきものとの認識を新たにしました。その基本は、独立した、権限と責任を有する単一の組織が全ての運営業務を一体的に実施すること。現場を預かるJASRIの責任者として、SPring-8の将来のためにも、このことは繰り返し訴えていく必要があると感じた次第です。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794