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Volume 15, No.2 Pages 82 -84

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第6回三極X線光学ワークショップ
3-way X-ray Optics Workshop VI

後藤 俊治 GOTO Shunji

(財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI

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 表題のワークショップは2010年4月12日にSPring-8において行なわれた。このワークショップは三極ワークショップ本体のサテライトとして行なわれているもので、2001年11月にESRFにおいて第1回が開催されてから2周目最後の第6回を数える。前回は2年前2008年3月であり、その後の放射光X線光学に関連する進展を議論するばかりでなく、初回からの8年半を振り返るのにも良い機会となった。プログラムは最後に示す通りである。講演者は14名であり、ESRF、APS/ANL、SPring-8からの参加とともに、PETRAIII/DESY、NSLSII/BNL、および大阪大学からゲストを迎えプログラムが組まれた。参加者は約40名で(写真参照)、会場の上坪講堂はほぼいっぱいとなった。以下は必ずしもプログラム順とはなっていないが、簡単にワークショップの概要について報告する。

 

 

三極X線光学ワークショップVI参加者

 

 

 石川(理研)の開会の挨拶に続いてHärtwig(ESRF)、Macrander(APS)、Schulte-Schrepping(PETRAIII)、大橋(SPring-8)からそれぞれの施設の光学系の概要とホットトピックスが報告された。Härtwigからは今回光学素子に放射光が照射された際の表面汚染やダメージについての問題提起があった。データの蓄積はそれほど多くはないが、光源および光学素子のおかれた環境により系統的に分類が進められており、他の施設においても有益な情報になっていくと思われる。いままで三極ワークショップではあまり取り上げなかったテーマであるが、後で述べる分光器の安定化(山崎)などとともに、このようなワークショップでなければ議論しにくい話題であり、今後も情報交換を続けていくべきもののひとつと考える。Macranderからは光学系と検出器の評価のための新しいビームライン6-BMの計画が紹介された。偏向電磁石ビームラインであっても、光学系の評価用に専用のビームラインを有することの重要性を感じさせられる。今回オブザーバとして参加したSchulte-Schreppingからは、立ち上がりつつあるPETRAIIIのビームラインについて、フロントエンド機器と分光器を中心に概要が述べられた。光軸がわずかに折り曲げられた二台のアンジュレータからのビームを利用する際に、下流において十分に空間的に分離する目的で1 m以上のオフセットを有するLOM(Large Offset Monochromator)が導入されている。大型の放射光施設において隣接ビームライン間での干渉をクリアし、スペースを有効活用する際の問題であるが、さすがにこれは苦肉の策と思えてしまう。大橋からはSPring-8およびXFELにて最近建設が完了した、もしくは建設中の新規ビームラインの紹介があり、QXAFS用揺動型チャンネルカットモノクロメータ、高安定型XFEL用二結晶分光器などが紹介された。

 山内(大阪大学)からはミラーによるサブ10 nm集光に至る道が、いくつかの技術的なブレークスルーとともに紹介された。EEM(Elastic Emission Machining)による精密研磨、Graded multilayer、波面補正アダプティブミラーなどを用いて、昨年にはついに7 nmの一次元集光の偉業に至った。約7年の間にビームサイズは約1/30になっている。SPring-8では、この大阪大学のミラー技術を用い、サブミクロン集光を必要とするいくつかの実験ステーションにおいて、それぞれの利用目的に最適設計した集光ミラーシステムを導入しており、湯本(SPring-8)からその一例が報告された。このように先端技術から着実に裾野への展開を見せている。

 Morawe(ESRF)からはESRFにおける多層膜形成のラボラトリの現状と、そこで製造されESRFのビームラインに配られている多層膜ミラー、多層膜モノクロメータに関する最近の状況が報告された。ミラー面形状を台形形状などに加工し、高精度曲げ機構と組み合わせることにより楕円形状を形成し数十nmの集光を実現している。 Conley(NSLSII)は元々APSにおいてMLL(Multilayer Laue Lens)の製作に関わっていた研究者であるが、今回ゲストでNSLSIIから参加する格好となった。APSのときから継続しているMLLの製造技術や光学素子の評価・計測関連技術をNSLSIIにてそのまま展開し、ナノビーム利用の一翼を担おうとしている。今回、NSLSIIでの光学系ラボラトリの整備状況を報告するとともに、APSと共同でAPSにおいて実現した二次元MLLにおける21 nm × 39 nm(19.5 keV)の集光結果の報告があり、それを用いた蛍光X線顕微鏡への適用例があわせて示された。

 光学素子の評価・計測技術に関しても、各施設でLTP(Long Trace Profiler)、干渉計ベースのスチッチング法、位相回復法などによる形状計測を展開しており、それぞれの手法において多くの進展が見られている。Barrett(ESRF)、Assoufid(APS)、大橋(SPring-8)、山内(大阪大学)から報告があり、それぞれの施設において測定精度の向上や対象とする光学素子の大型化、新たな計測手法・装置開発などで進展していることが報告された。特にRound-robin計測において同じミラーを各施設の計測装置で計測しデータを比較するプログラムが、これまで複数回実施され、その結果、互いの計測器で同程度のデータが得られることと、同程度に計測精度の向上が見られることが確認できており、非常に有益な情報交換ができていることは特筆すべきである。スロープエラーおよび表面の高さの計測制度はこの10年でほぼ一桁以上改善され、0.1 µrad以下、0.1 nmのオーダに入っている。

 CVDダイヤモンドや高温高圧合成IIaダイヤモンドの評価と利用も本ワークショップの話題のひとつである。今回、Härtwig、Macrander、Schulte-Schreppingからダイヤモンドに関する話題が提供された。HärtwigはIIaダイヤモンドの結晶性に関することと、結晶冷却のためのマウント時の歪みの低減や熱接触改善に関するスタディ結果の報告があった。この点についてはSPring-8とも技術的な情報交換が積極的に行なわれている。Schulte-SchreppingからはCVDダイヤモンドを用いたX線透過窓および発光を利用したダイヤモンドビームモニタがビームラインコミッショニングにおいて有効に機能していることが報告された。

 結晶分光器に関するものとして、先のHärtwigの光学素子の汚染やダメージの話題や、ダイヤモンドの話題の他、山崎(SPring-8)により分光器の安定化に関する発表があった。水冷ピンポスト結晶の冷却水循環系とステージ周りの改良により出射ビームの安定化を実現したこと、今後液体窒素循環系についても安定化対策を進めていくことなどが報告された。ナノビームを安定供給するためにも、これらのことは重要になってくるだろう。

 屈折レンズに関しては、今回Snigirev(ESRF)による一件の発表があり、In-vacuum transfocatorやそれを応用したIn-lineのwide band monochromator、Bilens干渉計の光源サイズ評価への応用など多くの例が紹介された。

 その他の話題として、Huang(APS)は対称Bragg case以外の非対称Bragg反射の条件でおきる波長分散効果(プリズム効果)が見かけの光源サイズを大きくしてしまう点について、いくつかの高分解能モノクロメータの例を引き合いに出して問題提起した。空間コヒーレンスを問題にする場合やナノ集光などのケースにおいて考慮すべき点となるものと考えられる。また、Suvorov(SPring-8)により、背面Bragg反射型のベント結晶において大きな開口数が確保できることを利用した数nm〜数十nmオーダの集光の可能性が示された。まだ、理論的な検討の途上ではあるが、いくつか予想されるテクニカルな問題がクリアされていけば、あらたな集光技術として展開していくかも知れない。

 今回のワークショップはその後にXFELおよびSPring-8のサイトツアーをひかえ、一人当たりの講演時間をかなり短く制限せざるを得なかったため、ずいぶん窮屈な進行となってしまった。オーガナイザーとしては反省しきりである。14日の午後に三極ミーティング本体において後藤によりワークショップの概要・ハイライトが報告された。12日には議論の時間が全くとれなかったので、多少主観を含みながら、これが実質ワークショップのまとめになった。

 さて、このままの流れだと次回は2011年秋〜2012年始めにESRFにおいて行なわれることになる。ヨーロッパの新しい3.5世代放射光施設からのゲスト参加が議論されるかも知れない。伝統的なやり方と新たな試みをオーガナイザーの間で議論しつつ、光学ワークショップは10年を迎えることになるだろう。

 

 

 

三極X線光学ワークショップVIプログラム

09:00〜09:10 Opening Address and General Information
(T. Ishikawa, S. Goto)
Session 1 (Chair: S. Goto)
09:10〜09:30 Topics of X-ray Optics at ESRF
(J. Härtwig)
09:30〜09:50 New Metrology Beamline for Optics and Detector Testing at 6-BM at APS
(A. Macrander)
09:50〜10:10 Photon Beam Frontends and Optics for PETRAIII
(H. S.-Schrepping)
10:10〜10:30 Overview of Optics at SPring-8
(H. Ohashi)
10:30〜10:45 Coffee Break
 
Session 2 (Chair: A. Macrander)
10:45〜11:05 Recent Achievements for Nanofocusing of Hard X-Rays
(K. Yamauchi)
11:05〜11:25 News from the ESRF Multilayer Facility
(Ch. Morawe)
11:25〜11:45 Sputter Deposition of MLLs at NSLSII
(R. Conley)
11:45〜13:00 Lunch at Cafeteria
 
Session 3 (Chair: H. Ohashi)
13:00〜13:15 Current Developments in the ESRF Mirrors and Metrology Laboratory
(R. Barrett)
13:15〜13:30 Overview of Optics and Metrology Activities at the APS
(L. Assoufid)
13:30〜13:45 K-B Mirror Development at SPring-8
(H. Yumoto)
13:45〜14:00 Photograph〜Coffee Break
 
Session 4 (Chair: J. Härtwig)
14:00〜14:15 Status of the Refractive Optics Development at the ESRF
(A. Snigirev)
14:15〜14:30 Theory of X-ray Nanofocusing by Bent Crystal in Back Diffraction Geometry
(A. Suvorov)
14:30〜14:45 Dispersive Spread of Virtual Sources by X-ray Monochromators
(X. Huang)
14:45〜15:00 Stabilization of SPring-8 Double-Crystal Monochromators
(H. Yamazaki)
15:00〜15:20 Discussion〜Adjourn

 

 

 

後藤 俊治 GOTO Shunji

(財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0877 FAX:0791-58-0878

e-mail : sgoto@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794