Volume 15, No.1 Page 37
3. SPring-8 通信/SPring-8 COMMUNICATIONS
平成22年度に指定されたパワーユーザーの紹介
A Newly Designated Power User FY 2010
平成15年度より導入したパワーユーザー制度について、従来のパワーユーザー指定制(非公募)から、平成20年度より全てのユーザーに対しパワーユーザーになり得る機会を設ける公募制に変更しました。今回の応募に対して、パワーユーザー審査委員会で審査の結果、次の方がパワーユーザーに指定されましたので、紹介いたします。
利用者指定型に指定するパワーユーザー(平成22年度)
1. 氏名(所属)
入舩 徹男(国立大学法人愛媛大学)
2. 期間
平成22年4月1日から平成27年度末まで
3. 主題
研究テーマ:マルチアンビル実験技術の高度化と下部マントル条件下でのレオロジー・弾性波速度・相関係の精密決定:地球深部のダイナミクスと進化過程の解明に向けて
装置整備:大型D-DIA型ガイドブロックシステムの導入・開発と周辺装置の高度化
利用者支援:当該装置を用いた共同利用研究の支援
4. ビームライン:BL04B1
5. パワーユーザー審査委員会での評価コメント
本研究は、地球の体積の8割以上を占めるマントルのうち深さ660〜2900 kmと大部分を占める「下部マントル」に焦点を置き、その物性・化学組成の詳細や粘性などのレオロジーを明らかにし、地球深部の動的挙動(ダイナミクス)および進化過程について新たな知見を得ることを目的とした研究である。
具体的には、下部マントルに対応する温度圧力条件下での、(1)6-6加圧方式を用いた変形実験によるレオロジーの解明、(2)超音波測定技術を応用した弾性波速度精密決定、(3)焼結ダイヤモンドアンビルを用いた精密相転移・融点・状態方程式の決定、(4)ナノ多結晶ダイヤモンド(ヒメダイヤ)を利用したマントル全域への精密相転移観察実験領域への拡張、の4項目を重点目標にしている。それぞれの項目は十分吟味されており、科学的妥当性に関しては極めて高いものと判断できる。挑戦的な研究であり、地球科学の分野を先導することは明白であるばかりでなく、本課題の技術を材料分野に適用することにより、材料分野においても大きな貢献をすることが期待できる。
実績に関しては、申請者は、これまでSPring-8の利用開始以来、ほぼ全期間にわたり課題が採択されているだけでなく、焼結ダイヤモンドアンビルを用いた70 GPa領域までの高温高圧発生技術開発、およびこれを用いたパイロライトやMgSiO3ペロブスカイト等の相転移・密度変化の観察など多大な成果を上げている。これまでの成果は、Natureなどの国際的に評価の高い学術誌にも数多く掲載しており、実績は十分である。また、PUとして長期に利用する研究目標および研究計画も明確に定められている。ユーザー支援に関しても、申請者らはこれまでにもSPring-8おいて、企業や大学の研究グループに対して実験指導を行ってきた実績がある。以上見るように大変具体的、意欲的な提案であり、申請者は十分な実績を持っているので、パワーユーザーとして指定することとした。