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Volume 14, No.4 Pages 347 -349

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第2回SPring-8萌芽的研究アワード/萌芽的研究支援ワークショップ報告
The 2nd Workshop on the SPring-8 Budding Researchers Support Program / Winners of Budding Researchers Award

高田 昌樹 TAKATA Masaki

SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会 委員長

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1. はじめに

 萌芽的研究支援は、将来の放射光科学研究の発展を担う若手人材の育成と、萌芽的・独創的な放射光科学研究の創出を目的としています。大学院博士後期課程の学生を実験責任者とする実験課題を広く公募し、放射光科学研究を主体的に遂行する学生を支援することにより、学生が自立した研究者としてSPring-8を主体的に利用し、研究活動を遂行できる環境の整備を進めています。

 平成17年度に始まった本支援プログラムにおいては、平成20年度までに約160課題が実施され、利用成果を基にした学生主体の論文が多数発表されるなど、活発な研究活動が展開されてきました。利用制度においては、複数回の実験実施が可能となる1年課題の導入や旅費支援の充実等の改善にも努めてきました。

 さらに、平成20年度からは、とくに優秀な成果を上げた学生を表彰する「SPring-8萌芽的研究アワード」を設置し、若手研究者としての新しい利用分野の開拓や独創的研究課題への挑戦を奨励しています。併せて「SPring-8萌芽的研究支援ワークショップ」を開催し、アワード受賞候補者による研究成果の口頭発表やポスターセッションにおける活発な議論を通じた異分野交流を推進しています。

 このたびの第2回SPring-8萌芽的研究アワードでは、平成20年度に実施された39課題の実験責任者の中から多数の応募があり、第一次審査として応募書類をもとに書類審査を行いました。書類審査は、昨年に増して応募者各自の研究に対する意欲や独創的な取り組みが認められ、優劣付け難いものとなりましたが、審査委員7名による採点審査により6名の受賞候補者を選定し、ワークショップでの口頭発表審査(第二次審査)に臨みました。

 

 

2. ワークショップでの口頭・ポスター発表会

 9月1日、キャンパス・イノベーションセンター(東京都港区)で開催されたワークショップには、約30名の方が参加されました。

 初めに、アワード審査委員会委員長として、ワークショップの開催趣旨およびアワードの審査基準等について説明を行い、続いてアワード受賞候補者6名の研究成果発表が行われました。

 いずれの発表も、非常に質の高いプレゼンテーションの内容で、研究にあたってのモチベーションと今後の方向性、独自の工夫を要した事項に関する質疑応答においても、内容の深い部分にまで踏み込んだ的確な回答がなされ、学生が自立して研究を遂行していることが明確であり、本支援プログラムの目的が根付いていることを確信できました。審査委員からも「非常にクリアなプレゼンテーションで楽しく聞かせていただいた」「緻密な測定の積み重ねによる見事なデータである」等、高い評価を受ける発表ばかりでした。

 また、「物性だけでなく、構造の面からもアプローチが欲しい。表面散乱、XAFS測定にも取り組んでみてはどうか」「d電子を偏向させてスペクトルを取ってみたり、電子状態の温度依存性にも着目すべき」「脱塩素化反応の分析にあたってはカーバイトの影響も考慮する必要がある」等、測定結果の分析にあたっての着眼点、更なるアプローチの手法といった、今後の研究展開に関する審査員からの助言が数多くなされるなど、参加者にとっても意義のある発表会にすることが出来ました。人材育成という観点からディスカッションを重視し、発表20分、質疑応答10分と質疑応答の時間は長めに設定していましたが、すべての発表において時間いっぱいまで意見交換は続きました。

 別室でのポスターセッションでは7件の発表があり、セッション終了間際まで活発な議論が交わされました。日頃接する機会の少ない施設側スタッフや異分野の研究者との交流を通じて、新しい知識や経験に触れる機会を提供でき、本支援プログラムの目的である人材育成の観点から、微力ながら貢献できたと思っております

 

 

3. アワード審査結果

 ワークショップにおける口頭発表終了後、アワード最優秀賞1名、優秀賞1名を選考する審査委員会が行われました。審査基準は

①研究テーマの新規性・独創性および発展性

②SPring-8利用結果の当該研究テーマにおける有効性

③実施体制における研究実施者の主体性

の3項目で、7名の審査委員がそれぞれ5段階評価を行った結果を集計し、集計結果をもとに合議審査が行われました。

 6名の受賞候補者は、プレゼンテーション能力、成果内容ともに優劣付け難く、選定は困難を極めましたが、最終的に次の最優秀賞1名、優秀賞1名を選定しました。

 

第2回SPring-8萌芽的研究アワード 受賞者

 最優秀賞  星野 学 氏

(東京工業大学フロンティア研究センター)

「多形結晶形成により発光色制御された[AuCl(PPh3)2]の光励起構造の直接観察」

 

 優 秀 賞  藤森 崇 氏

(京都大学大学院工学研究科)

「ダイオキシン類生成時における飛灰中金属の相互作用」

 

 

4. おわりに

 全体を通じて、発表内容のレベルは高く、学生の研究遂行における責任感と主体性が質疑応答からも確認され、研究者として主体的に研究活動を実施し、研究者としての能力を如何に獲得するかという事を学ぶ機会を、本支援プログラムが提供できたと確信することができました。

 受賞者2名には、9月3日のSPring-8シンポジウムにおいて表彰式を行うとともに、受賞講演を行っていただきました。これにより、学生が研究者として成し得た研究の完成度の高さとともに、科学の力で社会に貢献することを思考する多角的な研究展開の好例を多くの皆様に紹介することができ、本支援プログラムの普及や学生の放射光活用研究のエンカレッジをより効果的に行うことができるようになったと思っております。

 SPring-8萌芽的研究アワードおよびワークショップは、今後も継続して実施いたします。本支援プログラムを通じて、放射光の先端活用を開拓し、その基盤を支える優秀な若い世代を育成するためにも、大学・大学院の指導教官の先生方には、所属する学生の萌芽的研究支援課題への積極的な応募を奨励くださるよう、ご協力をお願い致します。

 

 

 

アワード候補者課題一覧

1. 「多形結晶形成により発光色制御された[AuCl(PPh3)2]の光励起構造の直接観察」

星野 学(東京工業大学フロンティア研究センター)

 

2. 「n型ドープZnOのキャリアダイナミクス」

酒巻 真粧子(千葉大学大学院融合科学研究科)

 

3. 「動的共有結合の結合組み換え反応により調製した多成分系高分子ナノゲルの小角X線散乱測定による分子鎖形態解析」

天本 義史(九州大学大学院工学府)

 

4. 「軟X線共鳴光電子分光によるカルシウムインターカレーショングラファイト超伝導体CaC6の電子構造の研究」

岡崎 宏之(岡山大学大学院自然科学研究科)

 

5. 「新規Fe系超伝導体AeFe1-xCoxAsF(Ae=Ca, Sr)の低温結晶構造解析」

野村 尚利(東京工業大学大学院総合理工学研究科)

 

6. 「ダイオキシン類生成時における飛灰中金属の相互作用」

藤森 崇(京都大学大学院工学研究科)

 

 

ポスター発表一覧(アワード候補者  重複分を除く)

1. 「間接交換結合したCo/Ru多層膜におけるCo層の界面磁性」

山岸 隆一郎(奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科)

 

2. 「ブリルアン分光・放射光粉末回折によるリラクサー強誘電体0.93Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-0.07PbTiO3における動的・静的物性の解明」

塚田 真也(筑波大学大学院数理物質科学研究科)

 

 

SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会委員一覧

 

 委員長  高田 昌樹  財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門長

 委員   栗原 和枝  東北大学多元物質科学研究所 教授

 委員   坂井 信彦  兵庫県立大学大学院物質理学研究科 名誉教授

 委員   鈴木 謙爾  財団法人特殊無機材料研究所 理事長

 委員   鈴木 昌世  財団法人高輝度光科学研究センター 研究調整部長

 委員   八木 直人  財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 副部門長

 委員   渡辺 義夫  財団法人高輝度光科学研究センター 産業利用推進室長

 

 

 

高田 昌樹 TAKATA Masaki

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-0830

e-mail:takatama@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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