Volume 14, No.4 Pages 300 - 301
2. ビームライン/BEAMLINES
大面積型ピクセル検出器 PILATUS-2Mの整備状況
Status of the Large Area Pixel Detector PILATUS-2M
1.はじめに
従来のシンチレーションカウンター等の点検出器を用いた逐次空間スキャン法に代わり、2次元検出器による迅速測定へと放射光実験の手法が進展してきている。一方で、CCDやIPなどの積分型検出器による現在主流の測定法では、読み出し速度で測定時間が律速してしまう、加えて実効的なダイナミックレンジに制限があるなどの点で改善が求められており、SPring-8の光源性能を限界まで引き出すには、より高性能な画像検出器の開発が必須である。
新しいタイプの画像検出器の方向性として、半導体検出器などのパルス計数型検出器をアレイ状に並べる方法が考えられる。画像検出器として利用可能な規模に拡大するには数万を超える読み出し系を制御する大規模な集積回路及び実装技術が必要となるが、今世紀に入りCERNでの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)実験稼働に向けて急速に要素技術が成熟してきている。このタイプの検出器は、ピクセルアレイ検出器、或いは、単にピクセル検出器と呼ばれ、放射光などの応用分野でも近年目覚ましい進展をみせている。特に、スイスのパウル・シューラー研究所(PSI)にあるSwiss Light Source(SLS)で開発されたPILATUS(pixel apparatus for the SLS)[1-3][1] B. Henrich, A. Bergamaschi, C. Broennimann, R. Dinapoli, E. F. Eikenberry, I. Johnson, M. Kobas, P. Kraft, A. Mozzanica and B. Schmitt: “PILATUS : A single photon counting pixel detector for X-ray applications”, Nucl. Instr. and Meth. A607 (2009) 247-249.
[2] P. Kraft, A. Bergamaschi, Ch. Broennimann, R. Dinapoli, E. F. Eikenberry, B. Henrich, I. Johnson, A. Mozzanica, C. M. Schlepüz, P. R. Willmott and B. Schmitt: “Performance of single-photon-counting PILATUS detector modules”, J. Synchrotron Rad. 16 (2009) 368-375.
[3] 豊川秀訓、兵藤一行:“特別企画検出器シリーズ(10)イメージを写すIII(最新の2次元検出器)”、放射光 Vol.22 No.5 (2009) 256-263.は、独自の実装技術により大面積化を実現したことを特徴とし、現在最も完成度の高いパルス計数型のX線画像検出器である。
SPring-8では、PSIとの覚書(1999年〜現在)による放射光研究の協力の下、25.4 cm × 28.9 cmと広い受光面積を有するPILATUS-2M検出器の開発を順次スケールアップする計画で実行してきた。2 Mは概ねのピクセル規模を意味し、従来のPILATUS-100 Kに内蔵されているPILATUSセンサーモジュールが24台組み込まれている。第一段階として、6モジュールを搭載した1/4規模のシステムで稼働させ、2007Bより試行的に利用実験にも提供してきており、最終的に2009年9月に全24モジュールを搭載した実機が完成した。以下、PILATUS-2 M検出器の基本仕様と今後の利用計画について述べる。
2.PILATUS検出器
PILATUS検出器のセンサーモジュールの受光部は1枚のシリコンセンサー(厚さ320 µm)で、放射光実験で標準的に用いられる10〜30 keVに対し吸収効率が約90〜10%と高い検出効率が得られる。片面は高電圧側のベタ電極で、もう一方の面に172 µm間隔で電荷収集電極がアレイ化されている。各ピクセル電極は、独立した電荷有感型前置増幅アンプ、波形整形アンプ、シングルレベルコンパレータ、及びカウンターに接続されており、一定エネルギー以上のX線のみの情報をX線光子数としてカウンターに積算し、1光子から約106(20ビット)までの強度データを画像として記録できる。モジュール毎の有感面積は83.8 mm × 33.5 mmで487 × 195ピクセルの画像が得られる。
パルス計数型の利点である、
①暗電流や読み出しノイズによるバックグラウンドが生じない
②6桁以上のX線光子数のダイナミックレンジが得られる
③ピクセル毎にX線光子数がデジタル化される為に読み出し時間が3ミリ秒程度で行える
などの従来の積分型検出器にない特性を活用し、SPring-8では、先ずシングルモジュール型のPILATUS-100 Kを用いて、時分割X線回折実験の高精度化・高速化や深さ分解XAFSなどの新しい分析手法の開拓をしてきた。
PILATUSモジュールは、図1に示すように受光面の裏面に読み出しボードを搭載することにより、タイル状に敷き詰めてより広い面積を覆うことができるように設計されている。この度完成したPILATUS-2 M(図2)では、水平方向に3台、垂直方向に8台の合計24台のモジュールを敷き詰めることにより、受光面を25.4 cm × 28.9 cm、ピクセル数で1475 × 1679に拡大した。全面積読み出し時フレーム率は最速30 fpsである。また、幾つかのモジュールを選択的に読み出すことも可能で、例えば中央の2モジュール読み出し時では200 fpsが得られる。ただし、垂直方向のモジュール間には7ピクセル、水平方向のモジュール間には17ピクセル、トータルで全面積に対し約8%の不感領域を含むことに留意する必要がある。
図1 PILATUSモジュール(ピクセルサイズ172 μm、受光面積83.8 mm × 33.5 mm、ピクセル数487 × 195)
図2 PILATUS-2 M検出器(ピクセルサイズ172 μm、受光面積25.4 cm × 28.9 cm、ピクセル数1475 × 1679)
3.まとめと今後の利用計画
SLSでは、PILATUS-100 K、PILATUS-2 M(cSAXSビームライン)、加えてより大面積のPILATUS-6 M(PXビームライン)がユーザー実験に用いられている。特に、PILATUS-6 MはPILATUSプロジェクトの象徴であり、現在稼働しているのはこの一台のみである。今回完成したPILATUS-2 Mは、PSIとの友好的な国際協力の下、旧ビームライン・技術部門が計画し、制御・情報部門がそれを引き継ぎ完成させたSLSに次ぐ世界で2台目となる実稼働機である。
PILATUS検出器は、開発メンバーが独立し創業したDECTRIS社から一般にも販売されるようになり、特にPILATUS-100 Kは他の放射光施設でも導入が急速に拡大している。したがって、国際的な競争力を維持する上で、PILATUS-2 Mを速やかにユーザー実験に提供することは非常に重要である。より広角の回折視野による時分割測定が可能になることに加え、サンプルからの距離を伸ばしての高角度分解能でも十分な視野が確保できるようになる。SPring-8では、2009Bの10月に実施する校正実験を経て、BL19B2、BL46XUでの産業利用課題などを主に利用実験に順次提供する予定である。
参考文献
[1] B. Henrich, A. Bergamaschi, C. Broennimann, R. Dinapoli, E. F. Eikenberry, I. Johnson, M. Kobas, P. Kraft, A. Mozzanica and B. Schmitt: “PILATUS : A single photon counting pixel detector for X-ray applications”, Nucl. Instr. and Meth. A607 (2009) 247-249.
[2] P. Kraft, A. Bergamaschi, Ch. Broennimann, R. Dinapoli, E. F. Eikenberry, B. Henrich, I. Johnson, A. Mozzanica, C. M. Schlepüz, P. R. Willmott and B. Schmitt: “Performance of single-photon-counting PILATUS detector modules”, J. Synchrotron Rad. 16 (2009) 368-375.
[3] 豊川秀訓、兵藤一行:“特別企画検出器シリーズ(10)イメージを写すIII(最新の2次元検出器)”、放射光 Vol.22 No.5 (2009) 256-263.
豊川 秀訓 TOYOKAWA Hidenori
(財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門
ビームライン制御グループ
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