Volume 14, No.3 Pages 242 - 243
6. 告知板/ANNOUNCEMENTS
最近のSPring-8関係功績の受賞
SPring-8 Related Achievements
「日本植物分類学会賞」を新潟大学 高橋正道教授が受賞
受賞者:高橋 正道 新潟大学 自然科学研究科 環境共生系列 教授
功績名:白亜紀の被子植物の小型化石に関する研究および花粉形態学的研究
学会及び賞:日本植物分類学会・日本植物分類学会賞
高橋教授はタイやモンゴルの白亜紀の地層から「地上最初の花」を探し、それをSPring-8のBL20B2を用いてマイクロCTイメージング法による非破壊的に内部を明らかにする研究を進めている。その成果として、炭素が主成分の花化石を高コントラスト・高分解能で3次構造を解明した。
白亜紀の1億年以上も前の地層から発見される花化石は、驚くほど内部の3次元的な構造が保存されている。ところが、その内部の構造を明らかにするためには、連続切片法か、凍結割断で、花化石を破壊しなければならなかった。白亜紀の花化石は炭化しているので、花化石の連続切片法は、現生植物でのようにはうまくいかない。そのためには、マイクロCTイメージング法を用いて、花化石を破壊しないで内部構造を解明することが求められるが、市販されている一般的なX線マイクロCT装置ではこの解明は不可能であり、そのためにはSPring-8の高輝度X線マイクロCTが必要不可欠となる。
高橋教授は白亜紀の地層から柔らかい堆積層を発見し、その岩石を溶解させて小型植物化石を洗い出すという新しい方法で、被子植物の起源や初期進化に関する研究を行ってきた。この研究法は、高橋教授の共同研究者であるスウェーデン自然史博物館のFriis博士やシカゴ大学のCrane教授らによって、欧米を中心に行われてきたが、高橋教授はアジアで初めて、白亜紀の地層から被子植物の花化石を発見するなどの研究成果をあげた。なお、これらの研究成果は、高橋教授の著書である「被子植物の起源と初期進化」にも掲載されている。
上記をはじめとして、これまでの「白亜紀の被子植物の小型化石に関する研究および花粉形態学的研究」に関して顕著な研究成果をあげてきた功績が高く評価され、今回の受賞となった。
「第3回(2009年)日本物理学会若手奨励賞」を奈良先端科学技術大学院大学 松井文彦助教が受賞
受賞者:松井 文彦 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 助教
功績名:「二次元光電子分光法による表面の原子軌道解析」
学会及び賞:日本物理学会・第3回(2009年)日本物理学会若手奨励賞
固体表面にX線や真空紫外光を照射すると光電子が放出される。こうした電子の強度から、エネルギーと運動量をパラメータとして固体の状態密度やバンド分散、組成や原子配列といった情報を読み解く手法が光電子分光・回折法である。運動エネルギーが10〜1000 eV程度の電子は、脱出深度が浅く、表面の電子物性や反応過程を支配する電子状態を解明する上での優れたプローブとなる。近年、技術革新により高エネルギー分解能測定が可能になり、精密な電子状態計測が続けられている。しかし一方で、広い立体角に渡り放出角度分布を測定することで、「光電子の角運動量」という、初めて見えてくる物理量もある。奈良先端科学技術大学院大学大門研究室のグループはSPring-8の光電子分光チーム・立命館大学難波秀利研究室と共同でSPring-8 BL25SUおよび立命館SRセンターBL-7にて表示型電子分析器の開発を行い、二次元光電子分光法という新しい分析手法を考案してきた。同大学の松井助教はその中で光電子の角運動量を通して原子軌道に関する情報を引き出す種々の方法を発表してきた。その研究成果の独自性が高く評価され、今回の受賞となった。
原子軌道の配列を波数空間で可視化する新手法は、表面のあらゆる触媒反応や電子物性に通じるだけでなく、電荷・軌道密度波などといった新しい物理を理解するうえでも重要である。また原子層ごとに原子軌道と電子スピンを決定する方法を開発し、高密度記録デバイスで重要となる垂直磁化の起源解明につながる研究を行った。特に原子層ごとの磁気構造を可視化する方法は多数の新聞に取り上げられた。