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Volume 14, No.2 Pages 175 - 178

4. 告知板/ANNOUNCEMENTS

最近のSPring-8関係功績の受賞
SPring-8 Related Achievements

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「平成20年度高分子学会三菱科学賞」を北九州市立大学 櫻井和朗教授が受賞

 

 高分子学会は、三菱科学賞を設置し、高分子科学に基礎をおき、技術、産業に寄与する独創的かつ優れた研究成果を挙げた研究者を表彰している。

 

受賞者紹介

櫻井 和朗 北九州市立大学 国際環境工学部 教授

 

功績名:多糖と核酸からなる新規な高分子複合体の発見と医療への応用

 

 DDS(薬物送達システム)とは、薬物を生体内の標的部位へ効果的に送達する技術である。この技術により、薬物投与量や投与回数の軽減が可能となり、副作用が大幅に軽減される。櫻井氏の研究は、天然多糖の一種であるβ1→3グルカンと核酸が複合化をするということを発見したに留まらず、この複合体を利用して今までにないDDS技術を提案したことに特徴がある。特に、抗原提示細胞が持っているDectin-1という受容体に注目して、核酸医薬を抗原提示細胞に特異的に送達する技術は注目するに値する。また、この複合体のCharacterizationの過程でSPring-8の放射光を用いて、溶液中での複合体の詳細な形態を決定している。

 カードランやシゾフィラン(以下SPG)などが属するβ1→3グルカンはセルロースについで自然界に豊富に存在する中性の多糖であり、天然では3重螺旋を形成している。この3重螺旋はジメチルスルホキシド(DMSO)やpHが13以上のアルカリ水溶液に溶解すると1本鎖に解離する。受賞者はシゾフィラン(以後SPG)の螺旋の再生過程に核酸が存在すると新規の複合体ができる事を発見した。複合体の存在は円偏光2色性スペクトルなどのほかに、ゲル電気泳動や蛍光偏光解消法など用いて証明している。さらに、放射光を用いた溶液からの小角散乱により、複合体はもとの3重螺旋と同様な形態を有していることを明らかにした。

 農芸化学や多糖化学の分野においては、β1→3グルカンの研究は長い歴史があるが、核酸と複合化することがこの多糖の普遍的な性質であることは知られていなかった。さらに、核酸と複合体を形成する高分子はほとんど例外なくポリカチオンであり、ポリアニオンとのイオン対形成が駆動力である。従って、中性の多糖と核酸が複合体を形成するとの事実も驚きである。この過程では、20年以上定説となっていたβ1→3グルカンの水素結合様式の誤りを正し、新しい水素結合様式を見出した。このモデルは水素結合の連結性という新しい概念を用いて多糖の構造を見直すきっかけとなっている。

 この研究のなかでは、DDSの希薄溶液からの散乱を観察するために、溶液セルを真空系に入れる装置を開発した。この装置を用いると、従来のセットアップに比べて、SN比が10倍以上、ビームストッパー周りの寄生散乱が2ケタ下がり、精密な測定が可能となっている。同賞の受賞式は、平成20年9月24日〜26日に大阪市立大学で行われた高分子学会討論会の期間に行われた。

 

 

「日本化学会第57回化学技術賞」を(株)豊田中央研究所:新庄室長、長井研究員、田辺主任研究員、トヨタ自動車(株):三宅グループマネージャー、(株)キャタラー:坂神室長らのグループが受賞

 

 日本化学会化学技術賞は、わが国の化学工業の技術に関して特に顕著な業績のあったものに対して贈られる賞である。

 

受賞者紹介

新庄 博文 株式会社豊田中央研究所 環境材料研究部 触媒研究室 室長

長井 康貴 株式会社豊田中央研究所 環境材料研究部 触媒研究室 研究員

田辺 稔貴 株式会社豊田中央研究所 環境材料研究部 触媒研究室 主任研究員

三宅 慶治 トヨタ自動車株式会社 パワートレーン材料技術部グループマネージャー

坂神 新吾 株式会社キャタラー 第1研究開発部 第11開発室 室長

 

功績名:担体アンカー効果により貴金属凝集を抑制する自動車ガソリン用三元触媒技術の開発

 

 地球環境保全、資源有効活用の観点から、自動車用排気浄化触媒のさらなる性能向上及び活性種である貴金属の使用量の大幅な低減が求められている。自動車触媒において特に重要なことは、自動車の生涯にわたって高い性能を発揮すること、すなわち触媒の高い耐久性であるが、触媒劣化の主要因である貴金属の凝集抑制を防ぐ技術はこれまで確立されていなかった。

 新庄氏らのグループは、凝集抑制機構や触媒開発にあたって、セリアなど重元素を含む材料にも有効なSPring-8のBL01B1(XAFSビームライン)、BL14B2(産業利用IIIビームライン)、BL16B2(サンビームBM)他を用いてX線吸収微細構造(XAFS)測定を行い、貴金属と担体(貴金属粒子を分散させるセラミックス)との結合情報を原子レベルで解析した。さらに、貴金属凝集抑制における貴金属-担体相互作用に関する法則を見出し、これらの結果を触媒設計の尺度として世界で初めて活用した。これにより、自動車ガソリン用三元触媒の課題であった劣化を抑制し、貴金属使用量の低減と高い浄化性能の両立を実現した新規な触媒の開発が可能となった。開発された高性能触媒は2005年8月以降発売のトヨタ製ガソリンエンジン自動車に搭載されている。この技術は、環境や資源問題への解決につながるキーテクノロジーの一つであり、この分野での大きな発展が期待される。同時に、この技術開発の成果は、工業的にも、学術的にも極めて大きな意義を有している。これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。表彰式は3月28日、第62回通常総会の後で行われた。

 

 

「第30回本多記念研究奨励賞」を東京大学物性研究所 松田康弘准教授が受賞

 

 本多記念研究奨励賞は、わが国の若い研究者で、理工学特に金属及びその周辺材料に関する研究を行い、優れた研究成果または発明を行ったものに対して贈るもので、これにより受賞者の今後の発展を奨励することを目的とするものである。1980年の創設以来毎年3名程度が選ばれている。

 

受賞者紹介

松田 康弘 東京大学物性研究所 准教授

 

功績名:強磁場X線分光法の開発と磁性研究への応用

 

 松田氏はパルス強磁場発生に関する豊富な経験を活かし、新たに放射光実験に適したコンパクトなパルス磁場発生装置を開発することで、様々な磁性体の強磁場中における性質をX線分光法によって明らかにした。具体的には、6〜10 keV程度の硬X線を利用し、BL22XU(JAEA量子構造物性)及びBL39XU(磁性材料)において、40万ガウス(40テスラ)以上の強磁場中でのX線吸収スペクトル及びX線磁気円二色性スペクトルの実験を世界に先駆けて実現させた。また、その技術を化合物磁性体に応用し、希土類イオンの価数揺動現象など磁場中の特異な電子状態を初めて明らかにすることに成功した。従来の技術ではX線分光は10テスラ以下の磁場でしか行うことができず、相関の強い磁性体を磁場により制御することは困難であったため、磁場中の電子状態は未解明の問題として残されていた。今回開発された強磁場X線分光法により、磁性体の電子状態研究が飛躍的に発展する事が期待される。これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。授賞式は平成21年5月8日、東京都千代田区の学士会館にて行われた。

 

 

「第63回(平成20年度)日本セラミックス協会技術奨励賞」を(株)豊田中央研究所:野中敬正研究員が受賞

 

 日本セラミックス協会技術奨励賞は、セラミックスの産業及び科学・技術の進歩発達に資し、セラミックスの科学・技術又は工業技術上優秀な業績を発表したものに対して贈られる賞である。

 

受賞者紹介

野中 敬正 株式会社豊田中央研究所 分析・計測部 ナノ解析研究室 研究員

 

功績名:放射光を利用したXAFS法の材料研究への適用

 

 XAFS法は、材料中の元素の化学状態及びその周辺の短範囲構造を、元素選択性を有して観測できる手法であるが、効率的な測定には放射光の利用が不可欠であり、材料研究への応用は未だに十分とはいいがたい。

 野中氏は本手法に早くから注目し、SPring-8のBL16B2(サンビームBM)を利用して本手法の材料への適用を図り、さまざまな材料の構造・状態解析にその有用性を明らかにしてきた。まず、LiNiCoO2系のLiイオン電池正極材料にXAFS法の適用を試み、本材料の電池材料としての化学状態がNiの価数変化を追跡して明らかにできることを示し、透過XAFS法に加え、マイクロXAFS法及び転換電子収量XAFS法などを駆使し、材料劣化の機構を明らかにした。

 また、排気浄化触媒の貴金属担体として実用化されているCeO2-ZrO2系複合酸化物において、酸素の吸放出能と原子レベルでの構造との関係を明らかにした。さらに、ゴムメタルやAu/γ-MnO2触媒の解析にも貢献している。いずれの業績も高輝度な放射光の利用なくしては成し得なかったものである。これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。

 表彰式は来る6月5日、第84回通常総会の席上で行われる。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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