Volume 14, No.2 Pages 105 - 106
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
利用研究課題選定委員会を終えて、分科会主査報告4 −分光分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – Spectroscopy –
平成17年度から2年間のSPring-8利用研究課題選定委員と分光分科会主査に引き続き、平成19年度から2年間、利用研究課題審査委員と分光分科会主査を務め、平成17年後期(2005B期)から平成21年前期(2009A期)の計2期4年にわたって計8回の課題審査に携わってきました。ここで、平成17年度からと平成19年度からで委員会の名称が異なりますが、これは前任期間中にSPring-8の運営体制の変更を受けて委員会の名称が変更されたためで、課題選定委員任期の終りに近い平成18年年末に第1回課題審査委員会が開かれました。このように、任期中に委員会名称が変更されたことや、前任時の任期はじめから利用シフト数の配分が変わったことなどを含め、課題選定についていくつかの変化を体験した者として、所感を述べさせていただきます。
平成19年度からの課題審査委員と分光分科会主査を終えるにあたっての感想を述べる前に、SPring-8利用研究課題のうち、私が主査を務めた分光分科会での審査対象となる一般課題の審査について、再度紹介しておきます。一般課題の審査は、まず課題選定委員会の全体会が開かれ、各ビームラインの一般課題への配分可能シフト数がJASRIから提示されます。この一般課題のシフト数は、平成17年度までは当該期の供給可能シフト数から施設留保分と成果専有、長期、優先利用、重点などの課題分を差し引いて決まっていました。しかし、私の1期目の任期が始まった平成17年度には文部科学省研究環境・産業連携課の「先端大型研究施設戦略活用プログラム」による利用課題として「産連課」枠が新たに配分されることになりました。このSPring-8の産業利用促進を目指したシフト枠は、2期目となる平成19年度前期(2007A期)以降も重点産業利用課題として割り当てられることになりました。これらの産業利用課題のシフト数が割り当てられた後に一般課題のシフト数が決まるため、平成17年度以前と比べると一般課題への割当シフト数が減少しました。特に、産業利用課題はビームラインごとに需要が異なっているため、需要の高いビームラインでは一般課題の配分可能シフト数はかなり減少しました。
このようにして決まったビームラインごとの一般課題への配分可能シフト数を上限として、一般課題の申請に対する採否の審査が行われます。分光分科会で審査する申請課題の研究分野は、固体の光電子分光、磁気円2色性分光(MCD)、光電子回折、赤外分光、気相のイオン・電子分光、軟X線発光分光など広い範囲にわたっており、これらを分科I、分科II、分科IIIの小分科で分担して審査する仕組みになっています。研究分野だけでなく、この分科会での審査に関連するビームラインもBL25SU、BL27SU、BL17SUの軟X線ビームライン、BL43IRの赤外ビームライン、BL39XU、BL15XU、BL19LXU、BL46XU、BL47XUの硬X線ビームラインと、エネルギー領域も実験内容の範囲も多岐にわたっています。これだけ広い分野の研究課題審査を小分科2名ずつ計6名で審査するわけですが、実際の審査で分科会委員の裁量が効く部分はそれほど大きくありません。それは以前から採用されているレフェリー制のためです。分科会での審査段階では複数のレフェリーが付けた審査結果点数の平均値に論文発表状況を反映した値を加減した最終点数が資料として用意されます。この最終点数とあわせて、各ビームラインの一般課題への配分可能シフト数も資料として配布されますので、各小分科での課題審査は基本的に希望ビームラインごとにレフェリー審査点数の高いものから採用することになります。各レフェリーの審査点数は、多少のバラつきはあるものの、平均点数の高い課題はおおむね全レフェリーの点数が高いものでした。また、レフェリーの点数の付け方にも、担当した全課題中で4点満点の3点以上を付ける課題数は60%以下とするという規制があります。この規制はレフェリーの方々に良く守られており、特定の小分科だけが平均点が高いというような不公平は見られませんでした。したがって、分科会の審査段階ではレフェリー審査を尊重し、以下に述べるいくつかの例外を除き、点数の高い課題から採用することになります。
採用された課題のシフト数も分科会で決定しますが、審査段階での配分シフト数は申請者の希望シフト数ではなく、ビームライン担当者が課題遂行に必要と判断した推奨シフト数となります。希望シフト数より少ない配分シフト数で採用された課題のほとんどはこの理由によるものです。また、利用希望ビームラインが複数ある場合、申請者の第1希望ビームラインでの実験実施可能性に関するビームライン担当者の評価が不可能あるいは他のビームラインの方が適しているとなっている場合は、第2希望以下のビームラインでの審査対象になります。
以上のように、審査方法を説明してきましたが、これだけでは、レフェリーの点数とビームライン担当者だけで機械的に決めることが可能で、分科会の存在意義がないように見えるかもしれません。しかし、実際には分科会での審査段階で、ビームラインの割当やシフト数について、ビームライン担当者と協議のうえで、第1希望ビームラインへの復活や、シフト数の変更を行います。
また、同一研究グループからの申請をレフェリー審査点数に基づいてすべて採用すると、そのビームラインの一般課題配分可能シフト数のほとんどを占有してしまうことになる場合が何度かありました。そのような場合には、他の研究グループとのバランスやそのビームラインの利用研究の発展を考慮した分科会での議論を経て、同一研究グループからの複数申請のいくつかを不採用とせざるをえませんでした。
さらに、産業利用枠確保による一般課題への配分シフト数の減少は、産業利用課題にも適したビームラインでは課題審査の点でも深刻な問題を引き起こしました。特にSPring-8では数が少ない軟X線ビームラインでは、ビームラインの立ち上げに中心的役割を果たし、利用研究でも世界的な成果をあげてきた研究グループからの課題申請の採択率が極端に下がりました。このような事態は、基本的には関係するビームライン利用研究の幅が広がり、産業利用も含む新しい研究内容での課題申請数が増えたことに起因するもので、課題審査という観点からは如何ともし難い面があります。しかし、長い目で見た利用研究の発展という観点からは憂慮すべきことであり、小分科の中にいくつかの分野を設け分野間のバランスを考慮した審査を行うという平成17年度から導入された方法を踏襲しました。
審査の結果不採用となった課題、特にほぼ全てのレフェリーの点数が低かった課題には、いくつかの共通するコメントが見受けられました。その第1は、実験によって何を明らかにするのかが不明瞭。このコメントが付くと、SPrin-8の必要性も不明となりますので、点数が2重に低くなります。第2は、放射光以外の方法や他施設で実施可能。これには放射光を使う意味が不明のものや、SPring-8の必要性が具体的に記載されていないものが含まれていました。第3は、試料を変えただけで、期待される結果に新しいものがない。例としては、前回の申請の物質名だけを変えたと思われるものもありました。申請書作成では、これらの点についての工夫が必要と思われます。
今回の任期が終了した後も一般課題への配分シフト数は減ることはあっても、増加する見通しはありません。より質の高い利用申請を目指すことはもとより、利用者間の協力体制も含めて、SPring-8での分光分野での研究がよりいっそう発展することを望みます。
平谷 篤也 HIRAYA Atsunari
広島大学大学院 理学研究科 物理科学専攻
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