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Volume 14, No.2 Pages 102 - 104

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

利用研究課題選定委員会を終えて、分科会主査報告3 −XAFS・蛍光分析分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – XAFS and Fluorescence Analysis –

田中 庸裕 TANAKA Tsunehiro

京都大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Kyoto University

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1. はじめに

 X分科会は、標記にもありますように、XAFS・蛍光分析分科会、それぞれ、Xa、Xbのことであり、それぞれを専門とする審査委員が協議しつつ課題の選定に当たっています。

 私は、2007B期より、北大の朝倉先生からX分科会主査をバトンタッチ致しました。2003B〜2005Aにも主査を担当させていただきましたので、これで2回目となりました。私自身は、野村昌治先生、渡辺巌先生がそれぞれ主査をされていたときに分科会委員を仰せつかっていましたので、通算では9年間課題選定に関与させていただいたことになります。

 20世紀から21世紀当初にかけての分科会は、予め申請書の担当が主査から各分科会委員(現在のX分科Xaに相当するXAFS分科委員会でおよそ6人)に割り当てられ、それをよく勉強して、一日目午後から深夜、二日目午前中いっぱい、という長い時間をかけて議論を行い採否を決定したものでした。体力勝負であったわけです。一日目が終了した時は、比較的申請課題の少ない他の分科会の先生方が、仕事をやり遂げた実に清々しい顔で当時の食堂棟喫茶室でワインやビールを酌んでおられるのを恨めしく横目で見ながら宿舎に戻ったのを思い出します。

 その後レフリー制度が導入され、現在の形になることに伴い、X分科でも、分科内選定が終わったな、という気持ちで一日を終えることができるようになりました。前任の朝倉先生や、ビームライン担当者のご努力、あるいは、利用者懇談会などでの提言により、X分科のルーチンワーク的研究のためのビームタイムは、一定量確保されるようになり、ある意味、安定期に入っているのかもしれません。私が担当させていただいた2年間は、X分科においては、大きな危機というのはなかったと思います。従いまして、ご報告するというほどの大きなことはないと思いますが、紙面を借りて、2、3書かせていただきます。

 

 

2. 重点課題と一般課題

 2006年には、JASRIの利用研究促進部門の体制が変わり、9グループのもと17チームが編成されました。たとえば、X分科会の研究課題に深く関連したグループとしては、分光物性IグループのXAFS・分析チームがあります。またこの組織変更をうけて、利用者懇談会では、従来の研究会が解消され、新研究会を立ち上げそれぞれのグループあるいはチームに対応する研究会となりました。この頃は、朝倉先生がX分科会の主査をされていた時期に相当します。また、この頃は、SPring-8で大きなプロジェクトがいくつも立ち上がり、重点課題など多くの優先される課題が存在し、一般課題に充てられるビームタイムが著しく枯渇した時期に当たります。一時はX分科の一般申請課題の採択率が30パーセントを切るのではないか、ということまで問題は深刻化したようです。先述のとおり、朝倉先生や懇談会、ビームライン担当グループなどが「窮状」を強く訴えられました。結果として、ビームラインの新設や課題の絞り込み等により、2007B期の募集からこのビームタイム枯渇問題はX分科に関しては大きな問題にはならないようになっています。

 一方、厄介なことが起こってきました。それは、同じ課題申請書を提出して、重点課題に該当するものであれば、その審査を受けることができ、結果が不採択であったとしても、次の重点課題へ、さらには、一般課題で審査する、という問題です。分科会が研究手法を中心としてカテゴライズされた経線、いわば‘たていと’であるのに対し、重点課題は研究分野でカテゴライズした緯線、‘よこいと’の関係にあります。緯線の課題は他の緯線や経線とも絡み合っています。一つの申請書がこれらの複数の課題に関係している場合、それぞれのプロジェクト、あるいは、分科会で多重に審査を受けることです。研究は多様化していますので、広い視野で優秀な研究課題を採用できるという利点はあるものの、なにか、釈然としない、無駄な作業に思えてなりません。というのは、往々にして、ある分野で高い評価を受ける申請書は、他分野においても高い評価を受けます。裏返してもこれは同じことになるからです。重点課題審査分科会と一般課題審査分科会の開催時期はかなり接近しているので、複雑なものとなっています。分科会としては、ある課題が重点課題として採択されているかどうかを確認したりすることに時間を費やすよりも、申請書のサイエンスを読み取ることの方が重要なように思えます。かといって、応募先を一つに限定すると、タイトルや中身をほんの少し変えただけのコピー&ペーストの申請課題が増えることは間違いありません。この問題をどうして解決して行くのかが、重要となるものと思われます。

 

 

3. 申請書の評価

 評価がより客観性を必要とされればされるほど、評価方式はポイント化されます。申請課題は、大体にして総合評価の順に採用が決定します。この総合評価は、4名のレフリーの総合評価を参照して決定されます。

 決定に際し、2つの問題点があるように思います。ひとつは、レフリーが提出する申請課題の総合評価においてサイエンス/テクノロジー以外に影響を与えるかもしれないものとして「SPring-8の必要性」という項目があります。さらにいまひとつは、X分科として最終評点を定める上で適用される申請課題の「DV値」というものです。

 「SPring-8の必要性」:この項目は、X分科に提出される課題においては、あまり意味がないのではないかと思います。いわば、梅田から三ノ宮に行くのに阪急電車を使う理由を問うているのと同じではないでしょうか。品川から浜松町に向かう時、山手線を利用する必要性を問うているのと同じことです。多くの研究が要求するビームラインのスペックは、現在SPring-8やPF/PF-ARが持っているものを下回ります。各レフリーの皆様は、この項目が現れると、「他の施設でもこの実験が可能や否や」を自問し、他の施設でも容易にできる実験であれば、高い評価を入れないでしょう。先に申しましたように、X分科の課題は、今や、SPring-8でなければできない、というものはごくわずかなわけですから、この項目の評点はいつも辛くなります。この辛い評点が総合評価に負の影響を与えているように思えてなりません。極言すれば、測定対象になる原子のK殻、L殻エネルギーの大小が、この項目の点数を決める指標になっているのではないか、と勘ぐるわけです。ですから、この項目は廃止すべきか、あるいは、「SPring-8の必要性」ではなく、「SPring-8での実施可能性」とすべきではないかと思われます。こうすれば、総合評価の際に、当該の評価は正の評価となってくると思われます。

 「DV値」:ある期間に、申請代表者が遂行したビームタイムの総和に対して、出版された(登録された)論文の数が、分科ごとに決められているある数値を下回れば、評点がDV値だけマイナスされ、上回れば評点にDV値がプラスされます。論文の質は問わないことになっています。しかしながら、論文は大量に出ていても必ずしもそれがSPring-8に対して正当にpositiveな評価材料となっているかどうかは分からないものもあるでしょう。それでも数だけを問うのでしょうか。また、長時間の実験を行ったにもかかわらず、論文が出ていない場合、マイナスのDV値が出るわけですから、それを回避するためなのか、あるいは、純粋に必要性からなのか、同じ研究グループの代表者を代えて課題申請している例があります。この場合はDV値は0になります。もちろん、これらを精査するために分科会委員がいるわけなのですが、あとの方の例に関しては追跡調査が困難な場合が多く、論文登録制度や代表者のビームタイム合計時間の算出に一工夫必要となるかもしれません。

 

 

4. おわりに

 以上、駄文を書いて参りましたが、現在一番問われているのは、SPring-8から出てくるアウトカムズが他の同様な施設から出てくるより優秀か劣っているかではなく、如何に高い絶対的評価が得られるかというポイントです。そのためには、先にも書きましたが、研究に対する「SPring-8の必要性」項目は変えるべきで、分科会としては、申請課題のサイエンス/テクノロジーを良く読むために、「SPring-8で是非実施してほしい課題」「SPring-8でなければできない課題」を採択するよう努めなければならないと思います。一般課題は一部を除いて半期毎の募集ということですから、結果が見えているルーチンワーク的な研究がより重要視されます。それだけに、選ぶ目をしっかり持って、絶対的に質の高い研究課題や長期課題につなげてそれを推薦できるような体制を持つ必要があると思います。トライアルユース的なカテゴリーを分科会に導入してはどうか。さらに、単に点数をつけて課題採択するのではなく、長期課題への推薦という事項も眼中に入れる審査をできる体制になる必要性があると思うわけです。

 随分、勝手なことを長々と書いてきましたが、この貧しい見識に対して、皆様方のご叱責を仰ぎたい次第であります。

 2年間の主査の期間、宇留賀様(JASRI)、鈴木様(科学警察研究所)にはひとかたならぬご協力を賜りました。他分科会との折衝も含め、本来私がすべきことまで代行していただき感謝に堪えません。また、レフリーの皆様方も限られた時間内で評価を出してくださりました。さらに、利用業務部の皆様も円滑な審査を行うために最大限の努力を払ってくださりました。茲に深謝いたします。

 

 

 

田中 庸裕 TANAKA Tsunehiro

京都大学大学院 工学研究科 分子工学専攻

〒615-8510 京都市西京区京都大学桂

TEL : 075-383-2558 FAX : 075-383-2561

e-mail : tanakat@moleng.kyoto-u.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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